乳児のけいれん、まず測るのは血糖とカルシウム―「エネルギー不足」と「膜の興奮性」で読み解く電解質異常
第108回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
乳児期のけいれんの原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.低血糖症
- b.高尿酸血症
- c.低カリウム血症
- d.低カルシウム血症
- e.高マグネシウム血症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳児は脳が未熟で興奮しやすく、エネルギーやミネラルの蓄えも少ないため、代謝・電解質異常がけいれんの原因になりやすい時期です。整理の軸は「神経細胞のエネルギー不足」と「膜の興奮性の上昇」で、前者の代表が低血糖、後者の代表が低カルシウム血症や低マグネシウム血症であり、ナトリウムの急激な変化もけいれんを起こします。一方、低カリウム血症は筋力低下や不整脈が中心で、高マグネシウム血症はむしろ神経筋の興奮を抑え、硫酸マグネシウムは子癇の治療薬として使われます。高尿酸血症もけいれんの直接の原因にはなりません。けいれんする乳児を診たら、まず血糖と電解質を測り、治療可能な原因を素早く補正する姿勢が、救急外来でも病棟でも子どもの脳を守る基本になります。
解答・解説
正解はa, dです
けいれんは、大脳皮質の神経細胞が過剰かつ同期的に興奮することで起こる。原因は、脳そのものの異常(てんかん、脳奇形、頭蓋内出血、髄膜炎・脳炎、低酸素性虚血性脳症など)と、脳以外の全身的な異常(代謝・電解質異常、発熱など)に大きく分けられる。乳児は脳が未熟で興奮しやすいうえ、体内のエネルギーやミネラルの蓄えが少なく、代謝・電解質異常が直接けいれんの原因となりやすい。 けいれんを起こす代謝・電解質異常を考えるときは、「神経細胞のエネルギー不足」と「神経細胞膜の興奮性の上昇」の二つの観点で整理するとよい。 ・エネルギー不足:脳はブドウ糖を主なエネルギー源としており、低血糖では神経細胞の機能が維持できずけいれんや意識障害を起こす。 ・興奮性の上昇:細胞外のカルシウムイオンやマグネシウムイオンは神経・筋の細胞膜を安定化させている。これらが低下すると膜が興奮しやすくなり、テタニーやけいれんが生じる。また、ナトリウム濃度の急激な変化(低ナトリウム血症・高ナトリウム血症)は脳細胞の浮腫や脱水を通じてけいれんを起こす。 逆に、カリウムの異常は主に骨格筋・心筋に影響し(筋力低下、不整脈)、マグネシウムの過剰は神経・筋の興奮を抑える方向に働く。この整理から、選択肢の中でけいれんの原因となるのは低血糖症と低カルシウム血症である。
選択肢考察
- ○a. 低血糖症
脳はブドウ糖をほぼ唯一のエネルギー源とし、自らはほとんど糖を蓄えられないため、低血糖では速やかに神経機能が障害され、けいれんや意識障害をきたす。新生児・乳児はグリコーゲンの蓄えが少なく糖新生も未熟なうえ、体重あたりのブドウ糖消費量が大きいので低血糖を起こしやすい。低血糖の基準値は日齢や文献によって異なるが、生後数日以降の小児ではおおむね血糖40〜50 mg/dL未満が目安とされる。乳児期の原因として、高インスリン血性低血糖症、糖原病(特にⅠ型)、脂肪酸代謝異常症、副腎不全、成長ホルモン欠乏症、母体糖尿病(新生児期)などがある。乳児では冷汗・振戦といった典型的な交感神経症状がはっきりせず、哺乳不良、無呼吸、筋緊張低下、けいれんとして現れることが多い。けいれんの小児では必ず迅速に血糖を測定し、低血糖であればブドウ糖を静注する。低血糖が遷延・反復すると永続的な脳障害を残すため、見逃してはならない。
- ×b. 高尿酸血症
高尿酸血症は尿酸の産生過剰または排泄低下によって起こり、痛風関節炎、尿路結石、腎障害(尿酸腎症)の原因となるが、尿酸そのものが神経細胞の興奮性を高めることはなく、けいれんの原因とはならない。小児で高尿酸血症をきたす代表的疾患にLesch-Nyhan症候群(ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ〔HGPRT〕欠損、X連鎖劣性遺伝)がある。この疾患では発達遅滞、不随意運動(ジストニア、舞踏アテトーゼ)、口唇や指をかむ自傷行為が特徴的であるが、これらは大脳基底核のドパミン系の障害によると考えられており、高尿酸血症によるものではない。
- ×c. 低カリウム血症
低カリウム血症(血清K 3.5 mEq/L未満)は、細胞膜の静止膜電位を過分極させて骨格筋・平滑筋・心筋の興奮性を低下させる。そのため症状は筋力低下、四肢麻痺、腸管の蠕動低下(便秘、麻痺性イレウス)、多尿、不整脈(心電図でT波の平低化、U波の出現)などが中心で、けいれんは起こさない。乳児では嘔吐・下痢などの消化管からの喪失、利尿薬、Bartter症候群などの尿細管疾患が原因となる。
- ○d. 低カルシウム血症
細胞外のカルシウムイオンは神経・筋細胞膜のナトリウムチャネルを安定させる働きをもつ。低カルシウム血症ではこの作用が失われて膜が興奮しやすくなり、テタニー(手足の筋の持続的な強直性収縮)、喉頭けいれん、全身けいれんをきたす。新生児では総Ca 7〜8 mg/dL未満、あるいはイオン化Ca 1.0 mmol/L(約4 mg/dL)未満が一つの目安とされる。新生児期には、生後数日以内に起こる早発型(早産児、低出生体重児、母体糖尿病、新生児仮死などが危険因子)と、生後1週前後に起こる遅発型(リンの多い人工乳、副甲状腺機能低下症など)がある。乳児期ではビタミンD欠乏(くる病)、副甲状腺機能低下症(22q11.2欠失症候群〔DiGeorge症候群〕など)、低マグネシウム血症に伴うものなどが原因となる。治療はグルコン酸カルシウムの緩徐な静注であり、心電図モニター下で徐脈に注意して行う。
- ×e. 高マグネシウム血症
マグネシウムは神経筋接合部でのアセチルコリン放出を抑制し、カルシウムの流入に拮抗して、神経・筋の興奮を抑える方向に働く。そのため高マグネシウム血症では筋緊張低下、深部腱反射の低下・消失、傾眠、呼吸抑制、低血圧、徐脈などがみられ、けいれんは起こさない。実際、硫酸マグネシウムは子癇(妊娠高血圧症候群に伴うけいれん)の予防・治療に用いられる抗けいれん作用をもつ薬剤である。新生児では、母体に硫酸マグネシウムが投与された場合に高マグネシウム血症となり、筋緊張低下や呼吸抑制を示すことがある。けいれんの原因となるのは逆の低マグネシウム血症であり、低マグネシウム血症は副甲状腺ホルモンの分泌・作用を障害して低カルシウム血症も合併しやすい。
新生児期のけいれんの主な原因
・低酸素性虚血性脳症(最も多い) ・頭蓋内出血(脳室内出血、くも膜下出血など)、脳梗塞 ・感染症(髄膜炎、脳炎、敗血症) ・代謝異常:低血糖、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、低・高ナトリウム血症、ピリドキシン依存性てんかん、先天代謝異常症(アミノ酸・有機酸代謝異常など) ・脳奇形、染色体異常 ・薬物離脱(母体の薬物使用)
乳児期のけいれんの主な原因
・てんかん(点頭てんかん〔West症候群〕、Dravet症候群など) ・熱性けいれん(生後6か月〜5歳ころに多い) ・中枢神経感染症(髄膜炎、脳炎・脳症) ・代謝・電解質異常:低血糖、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、低・高ナトリウム血症、先天代謝異常症 ・脳奇形、頭部外傷(虐待による頭部外傷を含む)
電解質異常と神経筋症状の整理
・低Ca、低Mg:神経筋の興奮性上昇 → テタニー、けいれん ・高Mg:神経筋の興奮性低下 → 筋力低下、反射低下、呼吸抑制 ・低Na・高Na(特に急激な変化):脳浮腫・脳細胞の脱水 → 意識障害、けいれん ・低K・高K:主に骨格筋・心筋の障害 → 筋力低下、不整脈(けいれんは起こさない)
けいれん時の初期対応
気道・呼吸・循環の確保とともに、血糖を迅速に測定する。あわせて電解質(Na、Ca、Mg)、血液ガス、感染症の評価を行い、治療可能な原因(低血糖、低カルシウム血症など)を速やかに補正する。
POINT
・乳児のけいれんでは、まず治療可能な代謝異常として低血糖と低カルシウム血症を考え、血糖と電解質を測定する。 ・けいれんを起こす電解質異常:低Ca、低Mg、低Na・高Na。 ・低K血症は筋力低下・不整脈、高Mg血症は筋緊張低下・呼吸抑制を起こし、いずれもけいれんの原因にはならない。 ・硫酸マグネシウムはむしろ抗けいれん作用をもち、子癇の治療に用いられる。 ・高尿酸血症(Lesch-Nyhan症候群など)はけいれんの原因とならない。
