「内側から届くか、内側だけで治るか」―経尿道的内視鏡手術の適応を2つの条件で読み解く
第108回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
経尿道的内視鏡手術の適応はどれか。2つ選べ。
- a.腎細胞癌
- b.筋層非浸潤性膀胱癌
- c.局所限局性前立腺癌
- d.尿道狭窄
- e.尿道カルンクル
対話形式の解説
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ドクターまとめ
経尿道的内視鏡手術は、外尿道口から内視鏡を挿入して尿路の内腔側から病変を処置する手術で、病変が内腔に面して到達可能であり、かつ内腔側の処置だけで治療が完結することが適応の条件です。筋層非浸潤性膀胱癌はTURBTが診断と治療を兼ねた第一選択で、深達度評価やsecond TUR、BCGなどの膀胱内注入療法と組み合わせて管理します。短い尿道狭窄には内視鏡的尿道切開術が行われますが、長い狭窄や再発例では尿道形成術が選ばれます。腎実質に主座がある腎細胞癌は腎摘除術・腎部分切除術、辺縁域に多い局所限局性前立腺癌は前立腺全摘除術や放射線療法、外尿道口にある尿道カルンクルは直視下切除が原則です。「病変の部位」と「治療が内腔側で完結するか」という視点は、泌尿器科の術式選択を理解する土台になります。
解答・解説
正解はb, dです
経尿道的内視鏡手術とは、外尿道口から尿道に内視鏡(膀胱尿道鏡や切除鏡)を挿入し、体表に切開を加えずに尿路の内腔側から病変を処置する手術の総称である。代表的なものに、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT:transurethral resection of bladder tumor)、経尿道的前立腺切除術(TURP:transurethral resection of the prostate)、内視鏡的尿道切開術(内尿道切開術)、経尿道的尿管砕石術(TUL:transurethral ureterolithotripsy)などがある。 この手術が成り立つ条件は大きく二つある。第一に、病変が内視鏡の届く尿路の内腔(尿道・膀胱・尿管・腎盂)に面していること。第二に、内腔側から処置するだけで治療目的を達成できること(例えば、癌なら深部に浸潤しておらず内腔側からの切除で取り切れること)である。 本問では各疾患について、①病変の部位が経尿道的に到達可能か、②その疾患の標準治療として経尿道的手術が選ばれるか、の二点で判断する。「内視鏡手術」一般ではなく、腹腔鏡手術やロボット支援手術のような経腹的な低侵襲手術は含まれない点に注意する。膀胱内腔の表層に限局した癌(筋層非浸潤性膀胱癌)と、尿道内腔の短い狭窄(尿道狭窄)がこの条件を満たす。
選択肢考察
- ×a. 腎細胞癌
腎細胞癌は腎実質の近位尿細管上皮から発生する腫瘍であり、病変の主座は尿路の内腔ではなく腎実質にある。尿管鏡を腎盂まで進めることは技術的に可能だが、腎盂の内側から実質内の腫瘍を根治的に切除することはできない。標準的な手術は根治的腎摘除術または腎部分切除術であり、開腹・腹腔鏡下・ロボット支援下(腎部分切除術は保険収載されている)で行われる。小径腫瘍に対して経皮的な凍結療法やラジオ波焼灼術が選ばれることもあるが、経尿道的手術の適応ではない。なお、尿路上皮から発生する腎盂癌であれば尿管鏡下のレーザー治療が選択肢となる場合があり、腎細胞癌とは区別して理解しておく。
- ○b. 筋層非浸潤性膀胱癌
筋層非浸潤性膀胱癌(Ta、T1、上皮内癌Tis)は、腫瘍が粘膜または粘膜下層(粘膜固有層)までにとどまり、排尿筋である固有筋層に達していない膀胱癌である。膀胱内腔から切除鏡で腫瘍を切除するTURBTが、診断(組織型・異型度・深達度の確定)と治療を兼ねた第一選択となる。切除片に固有筋層を含めて深達度を評価することが重要で、T1や高異型度の腫瘍では初回切除から数週間以内に再度TURBTを行う(second TUR)ことが推奨される。再発・進展リスクに応じて、術後にBCG(カルメット・ゲラン桿菌)や抗癌剤の膀胱内注入療法を追加する。一方、筋層浸潤性(T2以上)になると、原則として根治的膀胱全摘除術や集学的治療が必要になる。
- ×c. 局所限局性前立腺癌
前立腺癌の多くは前立腺の辺縁域(外腺)に発生し、尿道から離れた部位にある。そのため尿道側から前立腺組織を削る経尿道的切除では癌を取り残し、根治は得られない。局所限局性前立腺癌の根治療法は、根治的前立腺全摘除術(開腹・腹腔鏡下・ロボット支援下)または放射線療法(外照射、小線源療法)であり、低リスク例では監視療法(PSA監視療法)も選択肢となる。TURPは主に前立腺肥大症に対して行われる手術で、前立腺癌に対しては根治目的ではなく、局所進行による排尿障害を和らげる姑息的目的で行われることがあるにとどまる。
- ○d. 尿道狭窄
尿道狭窄は、外傷(騎乗型損傷による球部尿道損傷、骨盤骨折)、尿道カテーテル留置や経尿道的手術などの医原性損傷、尿道炎などを原因として、尿道の粘膜や海綿体が瘢痕化し内腔が狭くなる病態である。狭窄部が短い場合(おおむね1〜2 cm以下、特に球部尿道)は、内視鏡で狭窄部を直視しながら冷メスやレーザーで瘢痕を切開して内腔を広げる内視鏡的尿道切開術(内尿道切開術)が行われ、経尿道的内視鏡手術の代表例の一つである。ただし、狭窄が長い場合や切開後に再発を繰り返す場合は再発率が高いため、開放手術である尿道形成術(狭窄部切除・端々吻合術、口腔粘膜などを用いた代用尿道形成術)が選択される。
- ×e. 尿道カルンクル
尿道カルンクルは、閉経後の女性に多い、外尿道口の後唇(6時方向)から突出する赤色・軟らかい良性のポリープ状病変である。エストロゲン低下に伴う尿道粘膜の萎縮・脱出が関与すると考えられている。無症状であれば経過観察でよく、出血や疼痛があれば局所のエストロゲン製剤などで対応し、症状が続く場合や尿道癌との鑑別が必要な場合には切除する。病変は外尿道口にあって直接見えるため、切除は内視鏡を用いず、外尿道口から直視下に行う(観血的切除)。したがって経尿道的内視鏡手術の適応ではない。
主な経尿道的内視鏡手術と対象疾患
・経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT):膀胱癌の診断・治療。筋層非浸潤性膀胱癌では根治的治療となる。 ・経尿道的前立腺切除術(TURP)、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)など:前立腺肥大症。 ・内視鏡的尿道切開術:短い尿道狭窄。 ・経尿道的尿管砕石術(TUL):尿管結石・腎結石(軟性尿管鏡を用いると腎盂・腎杯の結石も対象となる)。 ・経尿道的膀胱砕石術:膀胱結石。 ・尿管鏡下の腫瘍切除・焼灼:一部の低リスク腎盂・尿管癌(腎温存を目指す場合)。
経尿道的手術の対象とならない例
・腎実質の腫瘍(腎細胞癌):腎摘除術・腎部分切除術。 ・前立腺癌の根治:前立腺全摘除術・放射線療法。 ・外尿道口の病変(尿道カルンクルなど):直視下の切除。
膀胱癌の深達度と治療
・Ta(乳頭状で粘膜内)、T1(粘膜下層まで)、Tis(上皮内癌):筋層非浸潤性。TURBT+必要に応じ膀胱内注入療法(BCG、抗癌剤)。上皮内癌にはBCG膀胱内注入療法が中心となる。 ・T2以上(固有筋層以深):筋層浸潤性。根治的膀胱全摘除術+尿路変向術、術前化学療法、膀胱温存療法など。
POINT
・経尿道的内視鏡手術は、尿路の内腔側から到達でき、内腔側の処置で治療が完結する病変が対象である。 ・筋層非浸潤性膀胱癌 → TURBT(診断と治療を兼ねる)。 ・短い尿道狭窄 → 内視鏡的尿道切開術。長い・再発性の狭窄 → 尿道形成術。 ・腎細胞癌 → 腎摘除術/腎部分切除術。局所限局性前立腺癌 → 前立腺全摘除術/放射線療法。 ・尿道カルンクルは外尿道口の病変であり、直視下に切除する。
