網膜の酸欠が虹彩を赤く染める―虹彩ルベオーシスとVEGFのつながり
第108回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
虹彩ルベオーシスの原因となるのはどれか。
- a.黄斑円孔
- b.加齢黄斑変性
- c.網膜色素変性
- d.網膜中心静脈閉塞症
- e.中心性漿液性脈絡網膜症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
虹彩ルベオーシスは、網膜の広範な虚血によって産生されたVEGFが前眼部へ拡散し、虹彩や隅角に異常な新生血管を生じた状態です。原因の代表は増殖糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症(特に虚血型)、網膜中心動脈閉塞症、眼虚血症候群といった虚血性網膜疾患で、網膜中心静脈閉塞症では発症3か月前後に血管新生緑内障へ移行しやすいことから「100日緑内障」と呼ばれます。加齢黄斑変性もVEGFが関わりますが新生血管は脈絡膜由来で黄斑に限局し、黄斑円孔、網膜色素変性、中心性漿液性脈絡網膜症は広範な網膜虚血をきたさないため原因となりません。治療は汎網膜光凝固と抗VEGF薬で虚血とVEGFを抑え、高眼圧には緑内障手術も組み合わせます。「網膜虚血→VEGF→新生血管」という一本の流れを押さえることが、糖尿病網膜症の管理を含め多くの眼科疾患の理解につながります。
解答・解説
正解はdです
テーマの要点
虹彩ルベオーシス(虹彩新生血管)とは、虹彩の表面や瞳孔縁、さらに隅角(角膜と虹彩の境目で房水が流れ出る部位)に、本来存在しない異常な新生血管が生じた状態である。 最大の原因は網膜の広範な虚血である。網膜の血流が途絶えて酸素不足になると、虚血網膜から血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)が大量に産生される。VEGFは硝子体や房水を介して前眼部へ拡散し、虹彩や隅角にも新生血管を誘導する。隅角の新生血管が線維血管膜をつくって房水の流出路を塞ぐと、眼圧が著しく上昇し、難治性の血管新生緑内障に至る。
正解を導く考え方
選択肢のうち、網膜に広範な虚血をもたらす疾患はどれかを考える。虚血網膜をつくる代表疾患は、糖尿病網膜症(増殖期)、網膜中心静脈閉塞症(特に虚血型)、網膜中心動脈閉塞症、眼虚血症候群(内頸動脈の高度狭窄・閉塞)の4つである。選択肢中では網膜中心静脈閉塞症が該当する。 他の選択肢は、黄斑の構造的異常(黄斑円孔)、脈絡膜由来の新生血管が黄斑に限局する疾患(加齢黄斑変性)、視細胞の遺伝性変性(網膜色素変性)、網膜下の液貯留(中心性漿液性脈絡網膜症)であり、網膜の広範な虚血は生じない。
選択肢考察
- ×a. 黄斑円孔
黄斑円孔は、加齢に伴う後部硝子体剝離の際などに硝子体が黄斑を前後・接線方向に牽引し、網膜が最も薄い中心窩に全層の孔があく疾患である。中高年の女性に多く、視力低下や変視症(ゆがんで見える)を生じ、硝子体手術で治療する。網膜の血流障害は伴わず、虚血によるVEGF産生も起こらないため、虹彩ルベオーシスの原因とはならない。
- ×b. 加齢黄斑変性
加齢黄斑変性(滲出型)では、網膜色素上皮の下に老廃物(ドルーゼン)が蓄積し、慢性炎症などを背景に脈絡膜から新生血管が伸びて、網膜色素上皮の下や網膜下に出血・滲出を起こす。治療には抗VEGF薬の硝子体内注射が用いられるように、VEGFが関与する疾患ではあるが、新生血管は黄斑部の網膜外層〜脈絡膜に限局し、網膜の広範な虚血はないため虹彩ルベオーシスは生じない。
- ×c. 網膜色素変性
網膜色素変性は、視細胞(主に杆体、進行すると錐体も)が遺伝子異常によって徐々に変性・脱落する遺伝性疾患である。夜盲で始まり、輪状暗点・求心性視野狭窄が進行し、眼底には骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様萎縮がみられる。血管は細くなるが、代謝需要の低下に伴う変化であり、VEGFを大量に誘導するような網膜虚血はきたさないため、虹彩ルベオーシスの原因とはならない。
- ○d. 網膜中心静脈閉塞症
網膜中心静脈閉塞症(CRVO:central retinal vein occlusion)は、視神経内の篩状板付近で網膜中心静脈が血栓により閉塞する疾患で、高血圧、動脈硬化、糖尿病、緑内障などが危険因子である。眼底には網膜全体にわたる火炎状出血、静脈の拡張・蛇行、軟性白斑、黄斑浮腫がみられる。網膜の毛細血管が広く閉塞する虚血型では、虚血網膜からVEGFが大量に放出されて虹彩や隅角に新生血管が生じ、発症からおよそ3か月前後で血管新生緑内障に移行しやすい(いわゆる「100日緑内障」)。このため、蛍光眼底造影で無灌流領域を評価し、虹彩ルベオーシスや隅角新生血管が出現したら速やかに汎網膜光凝固や抗VEGF薬の硝子体内注射を行う。
- ×e. 中心性漿液性脈絡網膜症
中心性漿液性脈絡網膜症は、30〜50歳代の男性に好発し、ストレスや副腎皮質ステロイドの使用が誘因となる。脈絡膜血管の透過性亢進と網膜色素上皮の障害により、脈絡膜側から網膜下へ液が漏れ出し、黄斑部に限局した漿液性網膜剝離を生じる。症状は中心暗点、変視症、小視症で、多くは数か月で自然軽快する。網膜虚血は伴わないため虹彩ルベオーシスの原因とはならない。
虹彩ルベオーシス・血管新生緑内障の原因
主な原因は網膜虚血をきたす疾患である。 ・糖尿病網膜症(増殖網膜症):最も頻度が高い ・網膜中心静脈閉塞症(虚血型) ・眼虚血症候群(内頸動脈の高度狭窄・閉塞による眼全体の血流低下) ・網膜中心動脈閉塞症 このほか、長期にわたる網膜剝離、慢性ぶどう膜炎(遷延する眼内炎症)、眼内腫瘍なども原因となりうる。
血管新生緑内障の病態と治療
初期には瞳孔縁や隅角に細かな新生血管がみられるのみで、隅角は開放している(開放隅角期)。進行すると線維血管膜が収縮して周辺虹彩前癒着が生じ、隅角が閉塞する(閉塞隅角期)。眼圧は著しく上昇し、痛みや充血を伴い、失明に至ることもある。 治療は、原因となる網膜虚血に対する汎網膜光凝固術、抗VEGF薬の硝子体内注射、眼圧下降薬、そして必要に応じて線維柱帯切除術やチューブシャント手術などの緑内障手術を組み合わせる。
網膜静脈閉塞症の整理
・網膜静脈分枝閉塞症(BRVO):動静脈交叉部で動脈硬化した動脈が静脈を圧迫して起こる。頻度が高く、閉塞部位より末梢の扇状の出血。硝子体出血や黄斑浮腫が問題になる。 ・網膜中心静脈閉塞症(CRVO):篩状板付近の閉塞。網膜全体の出血。非虚血型と虚血型があり、虚血型は虹彩ルベオーシス・血管新生緑内障のリスクが高い。 ・いずれも黄斑浮腫に対して抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択となっている。
POINT
・虹彩ルベオーシス=網膜虚血によるVEGF産生で、虹彩・隅角に新生血管が生じた状態。 ・原因の代表は「糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症、眼虚血症候群、網膜中心動脈閉塞症」の虚血性網膜疾患。 ・進行すると血管新生緑内障(難治性、高眼圧)となる。CRVOでは発症約3か月後が要注意(100日緑内障)。 ・予防・治療は汎網膜光凝固と抗VEGF薬。 ・加齢黄斑変性の新生血管は脈絡膜由来で黄斑に限局し、虹彩ルベオーシスは生じない。
