硬くて境界不明瞭なしこり―乳癌を疑ったら「超音波」と「針生検」へ
第108回医師国家試験 A問題 第59問
国試問題にチャレンジ
64歳の女性。乳がん検診のマンモグラフィで異常を指摘され来院した。左乳房に長径約2 cmの腫瘤を触知する。腫瘤は境界不明瞭で硬く圧痛を認めない。乳頭からの分泌物を認めない。マンモグラムを別に示す。 次に行うべき検査として適切なのはどれか。2つ選べ。

- a.血管造影
- b.乳管造影
- c.経皮的針生検
- d.乳房超音波検査
- e.骨シンチグラフィ
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
中高年女性の硬く境界不明瞭な無痛性腫瘤で、マンモグラフィでスピキュラを伴う場合は、癌の浸潤と間質の線維化を反映した所見として浸潤性乳癌を強く疑います。次に行うべきは、良悪性の鑑別や腋窩リンパ節の評価に優れる乳房超音波検査と、病理学的確定診断のための経皮的針生検であり、針生検ではホルモン受容体やHER2などのサブタイプも評価できて治療方針の決定に欠かせません。乳管造影は乳頭分泌がある場合の検査、骨シンチグラフィは確定診断後の病期診断に用いる検査で、血管造影は乳癌の診療では用いられません。「確定診断のための検査」と「確定後の広がり・転移検索のための検査」を区別して順序立てて考えることが、乳癌の診断手順を理解し、適切な検査を選ぶうえでの基本となります。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・64歳女性。乳がん検診のマンモグラフィ(乳房X線撮影)で異常を指摘された。 ・左乳房に長径約2 cmの腫瘤を触れる。境界が不明瞭で硬く、圧痛はない。 ・乳頭からの分泌物はない。 ・マンモグラムでは左乳房に腫瘤影を認め、辺縁から放射状に伸びる棘状の突起(スピキュラ)を伴う。
診断へのプロセス
閉経後の年代に発見された、硬く、境界不明瞭で、痛みのない腫瘤は乳癌を強く疑う典型像である。癌細胞が周囲の組織へ浸潤し、間質の線維化(desmoplastic reaction)を引き起こすため、触診では硬く周囲との境目がはっきりしない腫瘤として触れ、マンモグラフィではスピキュラとして描出される。スピキュラを伴う腫瘤はマンモグラフィのカテゴリー分類で悪性の可能性が高い所見(カテゴリー5相当)とされる。 一方、線維腺腫は若年者に多く、弾性硬で表面平滑・可動性良好であり、本例とは合わない。また乳頭分泌がないことから、乳頭分泌を契機に見つかることの多い乳管内乳頭腫や乳管内に限局した非浸潤癌を積極的に疑う状況ではない。 以上から、浸潤性乳癌を最も疑う。
設問の考え方
乳癌が疑われた場合の標準的な診断手順は、①視診・触診、②画像診断(マンモグラフィと乳房超音波検査の組み合わせ)、③経皮的針生検による病理学的確定診断、である。確定診断が得られた後に、手術術式や薬物療法を決めるための広がり診断(造影MRIによる乳房内進展範囲の評価)や、病期に応じた遠隔転移検索(CT、骨シンチグラフィなど)へと進む。 本例はマンモグラフィで異常が見つかり触診で腫瘤を確認した段階であるから、次に行うべきは超音波検査による腫瘤の詳細な評価と、針生検による組織学的確定診断である。
選択肢考察
- ×a. 血管造影
カテーテルを動脈に挿入して造影剤を注入する侵襲的な検査であり、乳癌の診断や進展範囲の評価に用いることはない。乳房病変の血流評価が必要な場合も、超音波のカラードプラ法や造影MRIで非侵襲的に行える。
- ×b. 乳管造影
分泌物が出ている乳管の開口部から造影剤を注入し、乳管内の病変(乳管内乳頭腫や乳管内に進展した癌)を描出する検査である。適応は乳頭分泌、とくに血性分泌がある場合に限られる。本例は乳頭分泌を認めず、そもそも造影する乳管を同定できないため適応とならない。なお近年は乳管内病変の評価にも超音波やMRIが用いられることが多く、乳管造影の施行頻度は減っている。
- ○c. 経皮的針生検
乳癌の確定診断は病理診断による。画像で悪性が強く疑われても、手術や薬物療法の前には組織(または細胞)を採取して癌であることを証明しなければならない。経皮的に針を刺して採取する方法には、細い針で細胞を吸引する穿刺吸引細胞診と、太い針で組織片を採取する針生検(コア針生検、吸引式組織生検)がある。現在は組織型、浸潤の有無、ホルモン受容体(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体)やHER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)の発現、Ki-67などを評価でき、術前化学療法を含む治療方針の決定に直結する組織診が推奨されている。通常は超音波ガイド下に正確に腫瘤を穿刺して行う。
- ○d. 乳房超音波検査
マンモグラフィと相補的に用いる基本の画像検査であり、次に行うべきである。腫瘤の大きさ、形状、境界(不整・分葉状など)、内部エコー、後方エコーの減弱、縦横比(縦に長い腫瘤は悪性を示唆)、前方境界線の断裂、周囲への浸潤、血流の有無などを評価し、良悪性の鑑別と局在診断を行う。腋窩リンパ節腫大の有無も同時に観察できる。さらに針生検の際のガイドとしても用いられる。被曝がなく、乳腺の多い高濃度乳房でもマンモグラフィで見えにくい腫瘤を描出できる利点がある。
- ×e. 骨シンチグラフィ
テクネチウム(99mTc)標識リン酸化合物を用いて骨代謝が亢進した部位を描出する核医学検査で、乳癌では骨転移の検索に用いる。乳癌は骨に転移しやすい癌の代表であるが、骨シンチグラフィは病理学的に乳癌と確定した後、腫瘍径の大きい症例や腋窩リンパ節転移を伴う進行例、骨痛・ALP(アルカリホスファターゼ)上昇などで骨転移が疑われる症例に行う病期診断の検査である。確定診断前の段階で、まず行う検査ではない。
乳癌の疫学と危険因子
乳癌は日本人女性で罹患数が最も多い癌であり、罹患率は40歳代後半と60歳代にピークがある。危険因子には、初経年齢が早い・閉経年齢が遅い・未産・初産年齢が高い・授乳歴がないといったエストロゲン曝露期間の長さに関わる因子、閉経後の肥満、飲酒、乳癌の家族歴、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントなどがある。好発部位は乳房の外側上部(C領域)である。
乳房腫瘤の鑑別の目安
・乳癌:中高年、硬い、境界不明瞭、可動性不良、皮膚のえくぼ症状(dimpling)や乳頭陥凹を伴うことがある。 ・線維腺腫:10〜30歳代、弾性硬、境界明瞭で表面平滑、可動性良好。 ・乳腺症:30〜40歳代、両側性・多発性の硬結、月経周期に伴う痛みや大きさの変化。 ・乳管内乳頭腫:乳頭分泌(しばしば血性)で気付かれる。 ・葉状腫瘍:急速に増大する大きな腫瘤。
マンモグラフィの悪性所見
腫瘤では、スピキュラを伴うもの、辺縁が微細分葉状・不明瞭なもの。石灰化では、微細線状・分枝状、区域性・線状に分布する多形性石灰化。そのほか、構築の乱れ(乳腺の正常構造のゆがみ)も悪性を疑う所見である。所見はカテゴリー1(異常なし)〜5(悪性)に分類され、カテゴリー3以上が精密検査の対象となる。
乳癌の診断から治療までの流れ
①問診・視触診 → ②マンモグラフィ+超音波検査 → ③針生検(組織診)による確定診断とサブタイプ(ホルモン受容体、HER2、Ki-67)の評価 → ④造影MRIによる乳房内の広がり診断 → ⑤病期に応じてCT、骨シンチグラフィ、PET-CTなどで遠隔転移検索 → ⑥手術・薬物療法・放射線療法の組み合わせを決定。
乳管造影・乳管内視鏡の位置付け
乳頭分泌がある症例で乳管内病変を評価する検査である。分泌物の細胞診や潜血反応、CEA(癌胎児性抗原)測定と組み合わせて用いられる。
POINT
・中高年女性の硬く境界不明瞭な無痛性腫瘤+マンモグラフィでスピキュラ → 乳癌を疑う。 ・乳癌の診断手順:視触診 → マンモグラフィ+超音波検査 → 経皮的針生検による病理学的確定診断。 ・確定診断はあくまで病理診断。針生検(組織診)ではホルモン受容体・HER2なども評価でき治療方針決定に必須。 ・乳管造影は乳頭分泌がある場合に行う検査。 ・骨シンチグラフィなどの遠隔転移検索は確定診断後の病期診断で行う。 ・乳癌の診療で血管造影を用いることはない。
