「また来るかも」が人生を縛る―パニック発作のその先に待つ予期不安
第108回医師国家試験 A問題 第22問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。呼吸困難を主訴に搬入された。約20分前,勤務中に突然息苦しさが出現した。半年前から,1か月に数回程度,突然息苦しさが出現し,同時に動悸,めまい感,悪心および意識を失いそうな恐怖を感じたという。いずれも10~30分で症状は完全に消えた。内科で精査したが発作時の心電図検査を含めて異常はみられていない。 今後みられる可能性が高い症状はどれか。
- a.解離
- b.強迫
- c.失神
- d.過覚醒
- e.予期不安
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然始まり短時間でピークに達する動悸・呼吸困難・めまいと強い恐怖の発作を繰り返し、身体疾患が除外されればパニック障害を考えます。発作を経験するうちに「また起きるのでは」という予期不安が生じ、さらに逃げにくい場所を避ける広場恐怖へ進展しうるため、今後みられる可能性が高い症状は予期不安です。パニック発作では気を失いそうに感じても実際の失神はまれであり、解離は解離性障害、強迫は強迫性障害、過覚醒はPTSDに特徴的な症状です。治療はSSRIと認知行動療法が中心で、発作が命に関わらないことを伝える心理教育も重要です。症状と代表疾患を対応づけて整理しておくことは、精神科領域の鑑別と患者の経過予測の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・40歳女性。勤務中に突然の呼吸困難が出現し搬入された。 ・半年前から月に数回、前触れなく息苦しさが出現し、同時に動悸、めまい感、悪心、そして「意識を失いそうな」強い恐怖を伴う。 ・発作は10〜30分で完全に消失し、発作と発作の間は無症状である。 ・内科で精査され、発作時の心電図を含めて異常がない。
診断へのプロセス
突然始まり短時間でピークに達し、動悸・呼吸困難・めまい・悪心などの自律神経症状と、死ぬのではないか・気を失うのではないか・自分をコントロールできなくなるのではないかという強い恐怖を伴う発作を、パニック発作という。パニック発作は甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などの内分泌疾患、不整脈や虚血性心疾患、気管支喘息、低血糖、カフェインや覚醒剤などの薬物・物質によっても類似の症状を示しうるため、まず身体疾患を除外する必要がある。本例では発作時の心電図を含む内科的精査で異常がなく、身体疾患は否定的である。特定の状況に限らず予期せずに発作が繰り返し起きていることから、パニック障害(パニック症)と考えられる。
設問の考え方
問われているのは「今後みられる可能性が高い症状」である。パニック障害は、発作を繰り返すうちに発作そのもの以外の症状が加わっていく経過をとる。典型的には、「また発作が起きたらどうしよう」という持続的な恐れ(予期不安)が生じ、さらに発作が起きたときに逃げられない・助けが得られない場所を避けるようになる(広場恐怖)。各選択肢がどの精神疾患に特徴的な症状かを整理し、パニック障害の経過で出現するものを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 解離
解離とは、通常は一つにまとまっている意識、記憶、自己同一性、知覚、身体運動などの機能が分断される現象である。解離性健忘(ある期間の記憶の欠落)、解離性同一性障害(複数の人格状態)、離人感・現実感消失障害などの解離性障害でみられ、強い心理的ストレスや心的外傷が背景にあることが多い。パニック発作の最中に一時的に現実感がなくなる感覚(現実感消失)や自分が自分でない感覚(離人感)が生じることはあるが、それは発作に付随する一過性の症状にとどまる。今後の経過で出現しやすい症状として解離を挙げるのは適切でない。
- ×b. 強迫
強迫には、不合理だとわかっていても繰り返し頭に浮かんで振り払えない考え(強迫観念:例「手が汚れている」「鍵をかけ忘れたかもしれない」)と、その不安を打ち消すために繰り返しせずにはいられない行為(強迫行為:例 何度も手を洗う、何度も確認する)とがある。強迫性障害(強迫症)の中核症状であり、パニック障害の経過で典型的に生じる症状ではない。
- ×c. 失神
パニック発作では「気を失いそう」「倒れてしまいそう」という恐怖やめまい感・ふらつきを強く感じるが、実際に意識を失うことはまれである。本例もこれまで意識消失には至っていない。失神(一過性の脳血流低下による短時間の意識消失)がみられた場合は、不整脈などの心原性失神、起立性低血圧、神経調節性(血管迷走神経性)失神など、別の原因を考えて検索すべきである。
- ×d. 過覚醒
過覚醒は、常に危険に備えて神経が張りつめた状態で、不眠、いらいら・怒りの爆発、集中困難、過度の警戒心、ささいな物音などへの過剰な驚愕反応として現れる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の主要症状群の一つであり、ほかに侵入症状(フラッシュバック・悪夢)、回避、認知と気分の否定的変化がある。PTSDでもパニック発作が起こりうるが、その場合は外傷を想起させる状況で誘発されることが多い。本例には心的外傷となる出来事の既往はなく、発作は予期せず起きており、過覚醒は今後の症状として考えにくい。
- ○e. 予期不安
予期不安とは、パニック発作を経験した患者が「また発作が起きるのではないか」「発作が起きたら死んでしまうのではないか、気が狂うのではないか」と、発作のない時期にも持続的に抱く恐れである。パニック障害の中核症状の一つで、DSM-5の診断基準でも、予期しないパニック発作の反復に加え、次の発作やその結果についての持続的な懸念、または発作を避けるための不適応的な行動の変化が1か月以上続くことが求められている。半年前から発作を反復している本例では、予期不安が今後出現する(あるいはすでに生じつつある)可能性が高い。予期不安が強まると、電車・バス、人混み、エレベーターなど逃げにくい場所を避ける広場恐怖へと進展し、社会生活が大きく制限されることがある。
パニック発作
突然に強い恐怖や不快感が生じ、数分以内にピークに達する発作。DSM-5では以下の13症状のうち4つ以上を伴うものとされる。 動悸・心拍数の増加、発汗、身震い・震え、息切れ感・息苦しさ、窒息感、胸痛・胸部不快感、嘔気・腹部不快感、めまい感・ふらつき・気が遠くなる感じ、寒気・熱感、異常感覚(しびれ・うずき)、現実感消失・離人感、抑制力を失う・気が狂うことへの恐怖、死ぬことへの恐怖。
パニック障害(パニック症)
・予期しないパニック発作が繰り返し起こる。 ・少なくとも1回の発作の後、1か月以上にわたり、次の発作やその結果への持続的な懸念(予期不安)、または発作を避けるための不適応的な行動変化がある。 ・物質や身体疾患、ほかの精神疾患では説明できない。 ・20〜30歳代での発症が多く、女性に多い。 ・合併しやすいものとして広場恐怖症、うつ病、ほかの不安症、アルコール使用障害がある。なお、DSM-5では広場恐怖症はパニック障害とは独立した診断として扱われる。
身体疾患との鑑別
甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、低血糖、不整脈(発作性上室頻拍など)、狭心症、気管支喘息、肺血栓塞栓症、カフェイン・覚醒剤などの物質の使用やアルコール・ベンゾジアゼピンの離脱など。
治療
・薬物療法:第一選択は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)。効果発現まで数週間かかるため、初期にベンゾジアゼピン系抗不安薬を短期間併用することがあるが、依存性に注意する。 ・精神療法:認知行動療法(発作時の身体感覚を「死ぬ前兆」と誤って解釈する思考の修正、恐れている状況への段階的な曝露など)が有効である。 ・病気の性質(発作は苦しいが命に関わるものではないこと)を説明する心理教育も重要である。
選択肢の症状と代表疾患の対応
解離→解離性障害、強迫→強迫性障害、過覚醒→PTSD、予期不安・広場恐怖→パニック障害。
POINT
・突然の動悸・呼吸困難・めまいと強い恐怖が数分でピークに達し、短時間で消える発作を反復し、身体的精査で異常がなければパニック障害を考える。 ・発作の反復により、次の発作を恐れる予期不安が生じ、さらに逃げにくい場所を避ける広場恐怖へ進展しうる。 ・パニック発作では「気を失いそう」と感じても、実際の失神はまれである。 ・解離は解離性障害、強迫は強迫性障害、過覚醒はPTSDの特徴的症状である。 ・治療の中心はSSRIと認知行動療法。
