ドパミンは脳に届かない―「補う・守る」で解くParkinson病治療薬
第108回医師国家試験 A問題 第19問
国試問題にチャレンジ
Parkinson病の治療に用いられるのはどれか。2つ選べ。
- a.ドパミン
- b.ドパミン受容体遮断薬
- c.ドパ脱炭酸酵素阻害薬
- d.アセチルコリン分解酵素阻害薬
- e.モノアミンオキシダーゼB阻害薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
Parkinson病は黒質のドパミンニューロン変性によって線条体のドパミンが不足する疾患で、治療はドパミン作用を補う方向の薬を用います。ドパミン自体は血液脳関門を通過しないため前駆物質のL-ドパを投与し、血液脳関門を通過しないドパ脱炭酸酵素阻害薬(カルビドパ、ベンセラジド)を配合して末梢での変換を抑え、脳への移行を高めるとともに副作用を減らします。MAO-B阻害薬は脳内のドパミン分解を抑え、早期治療やウェアリングオフの改善に使われます。一方、ドパミン受容体遮断薬は薬剤性パーキンソニズムの原因となり、コリンエステラーゼ阻害薬は認知症治療薬で運動症状にはむしろ逆方向の作用をもちます。各薬剤の作用点を「ドパミンを補う・分解から守る」という軸で整理しておくと、治療薬の選択だけでなく、薬剤性パーキンソニズムや悪性症候群といった臨床上の注意点の理解にもつながります。
解答・解説
正解はc, eです
Parkinson病は、中脳黒質の緻密部にあるドパミン作動性ニューロンが変性・脱落し、その投射先である線条体でドパミンが不足する疾患である。線条体ではドパミンとアセチルコリンが拮抗的にはたらいて運動を調節しているため、ドパミンが減るとアセチルコリン系が相対的に優位になり、静止時振戦・筋強剛(固縮)・無動・姿勢保持障害といった運動症状が現れる。 したがって治療の基本方針は「脳内のドパミン作用を補う」ことであり、次のいずれかを狙う薬が用いられる。 1. ドパミンの材料を脳に届ける(L-ドパ、およびその効率を上げる併用薬) 2. ドパミン受容体を直接刺激する(ドパミン受容体作動薬) 3. ドパミンの分解を抑える(MAO-B阻害薬、COMT阻害薬) 4. ドパミンの放出を促す(アマンタジン) 5. 相対的に過剰なアセチルコリン作用を抑える(抗コリン薬) 本問では、各選択肢の薬理作用が上の方針に合うか、逆にドパミン作用を弱めたりアセチルコリン作用を強めたりして症状を悪化させないかを考える。なお、ドパミンそのものは血液脳関門(BBB:血液から脳への物質移行を制限する仕組み)を通過できない点も判断のポイントになる。
選択肢考察
- ×a. ドパミン
ドパミンはカテコールアミンの一種で極性が高く、血液脳関門を通過できない。そのため経口投与しても静脈内投与しても脳内にはほとんど届かず、Parkinson病の治療薬にはならない。代わりに、BBBをアミノ酸トランスポーターによって通過できる前駆物質のL-ドパ(レボドパ)を投与し、脳内でドパミンに変換させる。なお、ドパミン製剤は臨床では主にショックや心不全での昇圧・強心目的(末梢作用)に点滴で使われる薬である。
- ×b. ドパミン受容体遮断薬
ドパミン受容体(主にD2受容体)を遮断する薬は、ハロペリドールなどの抗精神病薬や、メトクロプラミド・スルピリドなどの制吐薬・消化管運動改善薬が該当する。これらは線条体のドパミン作用をさらに弱めるため、薬剤性パーキンソニズムの原因となり、Parkinson病の症状を悪化させる。治療薬とは正反対の作用であり、Parkinson病患者には可能な限り使用を避ける。ハロペリドールでは添付文書上、Parkinson病患者への投与が禁忌とされている。
- ○c. ドパ脱炭酸酵素阻害薬
L-ドパは芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(ドパ脱炭酸酵素:DDC)によってドパミンに変換される。L-ドパを単独で内服すると、大部分が脳に入る前に末梢(消化管・肝臓・血中など)でドパミンに変わってしまい、①脳に届く量が少なくなるうえ、②末梢で生じたドパミンにより悪心・嘔吐、起立性低血圧、不整脈などの副作用が起こりやすい。ドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI:カルビドパ、ベンセラジド)は自身が血液脳関門を通過しないため、末梢での変換だけを抑え、脳内での変換は妨げない。これによりL-ドパの必要量を減らし、末梢性の副作用を軽減できる。単独では効果を示さないが、L-ドパとの配合剤(レボドパ・カルビドパ、レボドパ・ベンセラジド)として用いるのが現在の標準であり、Parkinson病の治療に用いられる薬として正しい。
- ×d. アセチルコリン分解酵素阻害薬
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなど)は、シナプス間隙のアセチルコリン濃度を高めて認知機能を補う薬で、Alzheimer型認知症に用いられる(ドネペジルはLewy小体型認知症にも適応がある)。Parkinson病の運動症状に対しては、むしろ相対的に優位になっているコリン作動性の作用をさらに強める方向にはたらき、振戦などを悪化させうるため、運動症状の治療薬ではない。Parkinson病で用いられるのは逆の作用をもつ抗コリン薬(トリヘキシフェニジルなど)であるが、認知機能低下やせん妄、口渇、便秘、尿閉などの副作用があるため、高齢者や認知機能障害のある患者では現在はあまり使われない。
- ○e. モノアミンオキシダーゼB阻害薬
モノアミンオキシダーゼ(MAO)はモノアミンを酸化して分解する酵素で、A型とB型がある。脳内、特に線条体でドパミンの分解に主にかかわるのはMAO-Bである(セロトニンやノルアドレナリンの分解には主にMAO-Aがかかわる)。MAO-B阻害薬(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド)はドパミンの分解を抑えて脳内のドパミン濃度を保ち、ドパミン作用を増強する。早期例での単剤使用や、L-ドパ使用中に薬効時間が短くなるウェアリングオフ現象の改善目的で用いられ、Parkinson病の治療薬として正しい。なお、セレギリンは三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などとの併用でセロトニン症候群を起こしうるため、併用禁忌の薬剤がある点に注意する。
Parkinson病治療薬の整理
1. L-ドパ製剤:最も効果の高い治療薬。通常はドパ脱炭酸酵素阻害薬(カルビドパ、ベンセラジド)との配合剤として用いる。長期使用で、薬効時間が短くなるウェアリングオフ現象や、不随意運動であるジスキネジアなどの運動合併症が出やすくなる。 2. ドパミン受容体作動薬(アゴニスト):非麦角系(プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン貼付剤など)と麦角系(ブロモクリプチン、カベルゴリンなど)がある。麦角系は心臓弁膜症や線維症の副作用があるため、現在は非麦角系が優先される。非麦角系では突発的睡眠や衝動制御障害(病的賭博・買いあさりなど)に注意する。 3. MAO-B阻害薬:セレギリン、ラサギリン、サフィナミド。ドパミン分解を抑える。 4. COMT阻害薬:エンタカポン、オピカポン。末梢でのL-ドパ分解(カテコール-O-メチル基転移酵素による)を抑え、L-ドパの作用時間を延長する。ウェアリングオフの改善に用いる。 5. ドパミン放出促進薬:アマンタジン。ジスキネジアの軽減にも用いられる。 6. 抗コリン薬:トリヘキシフェニジル、ビペリデン。振戦に効果があるが、認知機能低下などのため高齢者では避ける。 7. その他:ノルアドレナリン前駆物質のドロキシドパ(すくみ足、起立性低血圧)、ゾニサミド、アデノシンA2A受容体拮抗薬のイストラデフィリンなど。 8. 進行期の治療:レボドパ・カルビドパ配合経腸用液による持続経腸療法や脳深部刺激療法(DBS)などの機器補助療法。
薬剤性パーキンソニズム
ドパミンD2受容体遮断作用をもつ薬(抗精神病薬、メトクロプラミド、スルピリドなど)で生じる。症状の左右差が乏しく、進行が比較的速いことが多い。原因薬の中止が治療の基本である。
Parkinson病患者で注意すべき事態
L-ドパなどの抗Parkinson病薬を急に中止すると、高熱・筋強剛・意識障害・CK上昇をきたす悪性症候群を起こしうるため、薬は急に中断しない。
POINT
・Parkinson病は線条体のドパミン不足によって起こり、治療はドパミン作用を補う方向の薬を用いる。 ・ドパミン自体は血液脳関門を通過しないため、前駆物質のL-ドパを投与する。 ・ドパ脱炭酸酵素阻害薬(カルビドパ、ベンセラジド)はBBBを通過せず、末梢でのL-ドパ→ドパミン変換を抑える。L-ドパとの配合剤で用いる。 ・MAO-B阻害薬(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド)は脳内のドパミン分解を抑える。 ・ドパミン受容体遮断薬はパーキンソニズムを起こす・悪化させる側の薬である。 ・コリンエステラーゼ阻害薬は認知症治療薬であり、Parkinson病の運動症状には逆に抗コリン薬が使われる。
