StudyMed医師国家試験

光に透ける陰嚢の腫れ―7歳の陰嚢水腫、「待つ」から「治す」へ

第107回医師国家試験 I問題 第61問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第61問

7歳の男児。右陰嚢の腫れを主訴に来院した。ペンライトを用いての診察所見の写真を別に示す。  保護者に対する説明で適切なのはどれか。

第107回 I問題 第61問の問題画像
  1. a.「陰嚢の中に腸が入り込んでいます」
  2. b.「自然に治るので心配はありません」
  3. c.「バンドで鼠径部を圧迫しましょう」
  4. d.「精巣から戻る血液がうっ滞しています」
  5. e.「学校の休みに合わせて手術をしましょう」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小児の無痛性の陰嚢腫大を、ペンライト一本で見分ける問題だ。ポイントは「光が透けるかどうか」と「年齢」の2つ。まず、透光試験で何がわかるか説明できるかな。
医学生医学生
陰嚢の後ろから光を当てて、中身が光を通すかを見る検査ですよね。OSCEの練習で一度だけやったことがあります。
ドクタードクター
そう。中身が澄んだ液体なら光が透けて陰嚢全体が赤く明るく見える。腸管や大網、充実性の腫瘍、血液なら光を通さない。写真では右陰嚢全体が明るく透けているから、透光性陽性だ。
医学生医学生
液体がたまっているので、陰嚢水腫ですね。
ドクタードクター
正解。陰嚢水腫、つまり精巣水瘤だ。痛みや発熱、急な発症もないから、精巣捻転や精巣上体炎のような急性陰嚢症も考えにくい。では、子どもの陰嚢水腫はなぜ起こるのかな。
医学生医学生
発生学で、精巣が陰嚢に下りるときに腹膜の袋を一緒に引っ張ってくると習いました。腹膜鞘状突起でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。その鞘状突起が閉じきらずに腹腔とつながったままだと、腹水が精巣の周りにたまる。乳児期には自然に閉じて消えることが多いから、1〜2歳ころまでは経過観察が基本だ。
医学生医学生
それなら「自然に治るので心配はありません」でもよさそうに思えますが……。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴。7歳の学童期まで残っている水腫は、自然に消える見込みが低い。放置すると水腫が残るうえ、開いた鞘状突起を通って将来鼠径ヘルニアになるおそれもある。年齢で方針が変わるんだ。だから正解は「学校の休みに合わせて手術をしましょう」。
医学生医学生
手術が必要なのに、急がなくていいんですか。
ドクタードクター
腸が嵌頓するような緊急性はないからね。開存した鞘状突起を鼠径部で高位結紮・切離する方法や、腹腔鏡で内鼠径輪を閉じるLPEC法などがあり、長期休暇に合わせた予定手術で十分。本人の学校生活に配慮した説明として適切なんだ。
医学生医学生
「陰嚢の中に腸が入り込んでいます」は鼠径ヘルニアの説明ですね。腸なら光は通らないはずです。
ドクタードクター
その通り。鼠径ヘルニアは透光性陰性で、泣いたりいきんだりすると膨らみ、安静で戻るという大きさの変化が特徴だ。嵌頓すれば痛みと嘔吐を伴い、緊急処置が必要になる。
医学生医学生
バンドで圧迫するのは、外科の実習で高齢の患者さんが脱腸帯をつけているのを見たことがあります。
ドクタードクター
それは手術リスクの高い高齢者の鼠径ヘルニアで、一時的な対症療法として使われることがあるもの。陰嚢水腫を圧迫しても鞘状突起は閉じないし、小児では皮膚障害や嵌頓の見逃しにもつながるから勧められない。
医学生医学生
精巣からの血液がうっ滞する、というのは精索静脈瘤ですね。左に多いと習いました。
ドクタードクター
正解。左精巣静脈が左腎静脈に直角に流入するため、左側に多い。思春期以降に目立ち、立位で「袋に入ったミミズ」のような柔らかい腫瘤として触れ、臥位で縮む。透光性はないから、右側で光が透ける今回とは合わないね。
医学生医学生
透光性が陽性か陰性かで、鑑別がかなり絞れるんですね。
ドクタードクター
そう、まずは簡便な診察で大きく分けるのが基本だ。ただ注意点もある。精巣腫瘍が水腫に隠れていることがあるから、実際には超音波で精巣周囲の液体貯留と精巣実質に異常がないことを確認するのが一般的だ。小児の精巣腫瘍では卵黄嚢腫瘍や奇形腫が多い。また、小児の水腫を穿刺で抜くのは再発しやすく感染の危険もあるので、治療としては行わない。鼠径部から陰嚢上部に透光性の腫瘤があれば、鞘状突起の途中だけ閉じ残った精索水腫も考えよう。
医学生医学生
乳児なら待つ、学童期まで続くなら予定手術、と年齢で考えるわけですね。
ドクタードクター
その通り。病態を発生学から理解しておけば、保護者への説明も自信を持ってできるよ。

まとめ

小児の無痛性の陰嚢腫大では透光試験が簡便かつ有用で、透光性陽性なら陰嚢水腫や精索水腫、陰性なら鼠径ヘルニアや精巣腫瘍、精索静脈瘤などを考えます。小児の陰嚢水腫は腹膜鞘状突起の開存によるもので、1〜2歳ころまでは自然消失を期待して経過観察しますが、学童期まで持続するものは自然治癒が期待しにくく、鞘状突起の高位結紮やLPEC法による手術の適応となります。嵌頓の危険がある鼠径ヘルニアと異なり緊急性はないため、学校の長期休暇などに合わせた予定手術が適切で、圧迫バンドや穿刺は治療になりません。超音波で精巣実質の異常がないことを確認することも含め、年齢に応じた治療方針の違いを理解することは、保護者への適切な説明に直結します。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・7歳男児、右陰嚢の腫れで受診。痛みや発熱、急な発症の記載はなく、急性陰嚢症(精巣捻転、精巣上体炎など)を思わせる情報はない。 ・写真では、腫大した右陰嚢にペンライトの光を当てると、陰嚢全体が赤く明るく透けて見える(透光性陽性)。

診断へのプロセス

小児の無痛性の陰嚢腫大では、鼠径ヘルニア、陰嚢水腫(精巣水瘤)、精索水腫、精索静脈瘤、精巣腫瘍などを鑑別する。透光試験(透光性検査)は、陰嚢の背側からペンライトを当てて内容物が光を通すかどうかを見る簡便な診察法である。 ・透光性陽性:内容が澄んだ液体 → 陰嚢水腫、精索水腫 ・透光性陰性:内容が腸管などの組織や充実性腫瘤、血液 → 鼠径ヘルニア(嵌入した腸管・大網)、精巣腫瘍、血腫 本例は透光性陽性であり、陰嚢水腫(精巣水瘤)と診断できる。なお、近年は超音波検査で、精巣の周囲に無エコーの液体貯留があり精巣自体に異常がないことを確認するのが一般的である。

設問への考え方

小児の陰嚢水腫は、胎生期に精巣が陰嚢へ下降する際に伸びてきた腹膜の突出(腹膜鞘状突起)が閉じきらず、腹腔内の液体が精巣周囲にたまるものである。乳児期には鞘状突起が自然に閉じて水腫が消えることが多いため、およそ1〜2歳までは経過観察が基本となる。一方、7歳の学童期まで残っているものは自然消失が期待しにくく、手術(鞘状突起の閉鎖)の適応となる。ただし腸管が嵌頓するような緊急性はないため、本人の学校生活に配慮し、長期休暇などに合わせて予定手術を組めばよい。年齢による治療方針の違いが問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  「陰嚢の中に腸が入り込んでいます」

    腸管が鼠径管を通って陰嚢内に脱出しているのは鼠径ヘルニア(外鼠径ヘルニア)である。鼠径ヘルニアでは内容が腸管や大網であり光を通さないため、透光性は陰性となる。また、泣いたりいきんだりすると膨らみ、安静時に還納されるという大きさの変化が特徴である。本例は透光性陽性であり、内容は液体(陰嚢水腫)と考えられる。

  2. ×b.  「自然に治るので心配はありません」

    乳児の陰嚢水腫は、腹膜鞘状突起が自然に閉じることによって1〜2歳ころまでに消失することが多く、その年齢までなら経過観察でよい。しかし7歳まで持続している本例では自然治癒の見込みは低く、放置すれば水腫が残るうえ、開存した鞘状突起を通じて将来鼠径ヘルニアを生じるおそれもある。「自然に治る」という説明は不適切である。

  3. ×c.  「バンドで鼠径部を圧迫しましょう」

    ヘルニアバンド(脱腸帯)による鼠径部の圧迫は、手術リスクの高い高齢者の鼠径ヘルニアなどで一時的な対症療法として用いられることがあるにすぎない。陰嚢水腫に対して圧迫しても鞘状突起は閉じず治療効果はない。小児の鼠径ヘルニアに対しても、皮膚障害や嵌頓の見逃しのおそれがあり推奨されない。

  4. ×d.  「精巣から戻る血液がうっ滞しています」

    精巣からの静脈血が滞り、蔓状静脈叢が拡張する病態は精索静脈瘤である。左側に多く(左精巣静脈が左腎静脈に直角に流入するため)、思春期以降に目立ち、立位で「袋に入ったミミズ」のような柔らかい腫瘤として触れ、臥位で縮小する。透光性はなく、本例の所見とは合わない。

  5. ○e.  「学校の休みに合わせて手術をしましょう」

    学童期まで持続する陰嚢水腫は自然消失が期待しにくいため、手術の適応である。手術では、開存している腹膜鞘状突起を鼠径部で高位結紮・切離する(Potts法など)か、腹腔鏡下に内鼠径輪で閉鎖する(腹腔鏡下経皮的腹膜外ヘルニア閉鎖術、LPEC法)。腸管の嵌頓のような緊急性はないので、学校生活への影響が少ない長期休暇などに合わせた待機的な予定手術でよく、保護者への説明として適切である。

陰嚢水腫(精巣水瘤)とは

精巣を包む精巣鞘膜(固有鞘膜)の腔内に漿液が貯留した状態である。胎生期、精巣は腹膜の袋(腹膜鞘状突起)を伴って陰嚢へ下降し、通常は出生前後に鞘状突起の上部が閉じて精巣周囲の鞘膜腔だけが残る。 ・小児の陰嚢水腫:鞘状突起が開存して腹腔と交通しているもの(交通性)が多い。日中の活動で大きくなり、朝は小さいなど大きさが変化することがある。 ・精索水腫:鞘状突起の途中(精索部分)だけが閉じ残って液体がたまったもの。鼠径部から陰嚢上部に透光性のある腫瘤を触れる。 ・成人の陰嚢水腫:多くは非交通性で、鞘膜での液体の産生と吸収の不均衡による。炎症、外傷、腫瘍に続発することもあり、穿刺吸引では再発しやすいため、根治には陰嚢側からの鞘膜切除・反転(Winkelmann法など)が行われる。

小児の治療方針

・1〜2歳ころまでは自然消失が多く、経過観察とする。 ・それ以降も残るもの、増大するもの、鼠径ヘルニアを合併するものは手術(鞘状突起の閉鎖)を行う。小児では穿刺は再発しやすく感染の危険もあるため、治療としては行わない。

陰嚢腫大の鑑別のポイント

・鼠径ヘルニア:透光性陰性、腹圧で膨隆し還納可能。嵌頓すると痛みと嘔吐を伴い緊急処置が必要。 ・陰嚢水腫・精索水腫:透光性陽性、無痛性。 ・精索静脈瘤:左側に多い、立位で増大、透光性陰性。思春期以降に多く、男性不妊の原因となりうる。 ・精巣腫瘍:無痛性の硬い腫大、透光性陰性。小児では卵黄嚢腫瘍(AFP上昇)や奇形腫が多い。水腫に隠れていることがあるため、超音波で精巣実質を確認することが重要である。 ・精巣捻転:急激な陰嚢痛、挙睾筋反射消失。発症から6時間程度以内の緊急手術が必要。

POINT

・陰嚢腫大で透光性陽性なら陰嚢水腫(または精索水腫)、透光性陰性なら鼠径ヘルニアや精巣腫瘍などを考える。 ・小児の陰嚢水腫は腹膜鞘状突起の開存が原因で、1〜2歳までは自然消失を期待して経過観察する。 ・学童期まで持続するものは自然治癒が期待しにくく、待機的に手術(鞘状突起の高位結紮・閉鎖)を行う。緊急性はない。 ・精索静脈瘤は静脈血のうっ滞によるもので左側に多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。