Hbが高い=赤血球が多い?―脱水が「二次性」に入らない理由
第107回医師国家試験 I問題 第12問
国試問題にチャレンジ
二次性赤血球増加症の原因とならないのはどれか。
- a.喫煙
- b.脱水
- c.睡眠時無呼吸症候群
- d.蛋白同化ホルモン薬
- e.エリスロポエチン産生腫瘍
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
赤血球増加症は、血漿量の減少で見かけ上HbやHtが上がる相対的赤血球増加症と、循環赤血球量そのものが増える絶対的赤血球増加症に分けられ、後者はさらに一次性(真性赤血球増加症)と二次性に分かれます。二次性の中心はエリスロポエチンの増加で、喫煙(一酸化炭素ヘモグロビンによる組織低酸素)や睡眠時無呼吸症候群などの慢性低酸素、腎細胞癌などのエリスロポエチン産生腫瘍、蛋白同化ホルモン薬が原因になります。脱水は血液濃縮による相対的赤血球増加症であり、二次性赤血球増加症の原因にはなりません。鑑別ではまず相対的なものを除外し、血中エリスロポエチンが低値なら真性赤血球増加症、正常〜高値なら二次性を考えます。「濃度の上昇」と「総量の増加」を区別する視点は、血液検査を正しく解釈するための基本となります。
解答・解説
正解はbです
赤血球増加症(多血症)の分類と、二次性赤血球増加症の成因を問う問題である。 赤血球増加症は、ヘモグロビン(Hb)値やヘマトクリット(Ht)値が上昇した状態の総称で、次の2つに大別される。 ・相対的赤血球増加症:体内の赤血球の総量(循環赤血球量)は増えておらず、血漿量が減ることで見かけ上Hb・Htが高くなる状態。脱水やストレス多血症がこれにあたる。 ・絶対的赤血球増加症:循環赤血球量そのものが増加している状態。さらに、造血幹細胞の異常によりエリスロポエチン(EPO)に依存せず赤血球が増える一次性(真性赤血球増加症など)と、骨髄以外の要因で赤血球産生が刺激される二次性に分けられる。 二次性赤血球増加症の機序の中心はEPOの増加である。EPOはおもに腎臓の尿細管周囲の間質細胞で産生され、組織の酸素不足(低酸素)を感知すると産生が増える。したがって二次性の原因は、①慢性的な低酸素によるEPOの生理的な増加(高地居住、慢性閉塞性肺疾患、睡眠時無呼吸症候群、チアノーゼ性心疾患、喫煙など)、②腫瘍や腎病変による不適切なEPO産生、③アンドロゲンなど薬剤による造血刺激、に整理できる。 脱水は赤血球の総量を増やすのではなく血液を濃縮させるだけであり、相対的赤血球増加症に分類される。したがって二次性赤血球増加症の原因にはならない。
選択肢考察
- ×a. 喫煙
二次性赤血球増加症の原因となる。タバコ煙に含まれる一酸化炭素(CO)はヘモグロビンと強く結合して一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)を形成し、酸素を運べるHbを減らす。さらにCO-Hbの存在は酸素解離曲線を左方移動させ、組織でHbが酸素を放しにくくなる。その結果、組織は慢性的な低酸素状態となり、EPO産生が増加して赤血球が増える。なお、喫煙者では血漿量の減少による相対的な要素も加わることがある。
- ○b. 脱水
二次性赤血球増加症の原因とならず、これが正解である。脱水では血漿量が減るために血液が濃縮され、Hb値やHt値が上昇してみえるが、循環赤血球量そのものは増えていない。これは相対的赤血球増加症であり、骨髄での赤血球産生が亢進する二次性(絶対的)赤血球増加症とは区別される。補液などで体液量を補正すればHb・Htは元に戻る。
- ×c. 睡眠時無呼吸症候群
二次性赤血球増加症の原因となる。睡眠中に上気道閉塞などによる無呼吸・低呼吸が繰り返されると、そのたびに動脈血酸素飽和度が低下する。この夜間の反復する低酸素が腎臓でのEPO産生を刺激し、赤血球が増加する。赤血球増加症をみたら、いびきや日中の眠気など本症を疑う病歴を確認することが大切である。
- ×d. 蛋白同化ホルモン薬
二次性赤血球増加症の原因となる。蛋白同化ホルモン薬はテストステロン誘導体などのアンドロゲン作用をもつ薬物で、腎臓でのEPO産生を促すとともに、骨髄の赤血球系前駆細胞に直接働いて造血を促進する。この造血作用を利用して、かつては再生不良性貧血などの治療にも用いられてきた。テストステロン補充療法でもHt上昇が問題となる。
- ×e. エリスロポエチン産生腫瘍
二次性赤血球増加症の原因となる。腫瘍が体の酸素状態とは無関係にEPOを産生するため、血中EPO濃度が上昇して赤血球産生が亢進する。代表例は腎細胞癌、肝細胞癌、小脳血管芽腫、子宮筋腫などである。低酸素がないのに血中EPOが高い赤血球増加症では、これらの腫瘍を画像検査で検索する。
赤血球増加症の分類
1. 相対的赤血球増加症(循環赤血球量は正常、血漿量が減少) ・脱水(下痢、嘔吐、利尿薬、熱傷など) ・ストレス多血症(Gaisböck症候群):中年の肥満男性、喫煙者、高血圧に多い。 2. 絶対的赤血球増加症(循環赤血球量が増加) (1) 一次性:真性赤血球増加症(真性多血症)。骨髄増殖性腫瘍の一つで、多くの例でJAK2遺伝子変異(V617Fなど)を認める。EPOに依存しない増殖のため血中EPOは低値となる。 (2) 二次性:血中EPOは正常〜高値 ・低酸素に対する生理的なEPO増加:高地居住、慢性閉塞性肺疾患などの慢性肺疾患、肺胞低換気(肥満低換気症候群、睡眠時無呼吸症候群)、右左シャントを伴うチアノーゼ性先天性心疾患、喫煙(CO-Hb)、酸素親和性の高い異常ヘモグロビン症 ・不適切なEPO産生:腎細胞癌、肝細胞癌、小脳血管芽腫、子宮筋腫、褐色細胞腫、腎嚢胞・水腎症、腎移植後赤血球増加症 ・薬剤:アンドロゲン・蛋白同化ホルモン、EPO製剤の投与(ドーピングを含む)
鑑別の手順
Hb・Htの上昇をみたら、まず脱水などの相対的なものを除外する。次に血中EPO濃度を測定し、低値であれば真性赤血球増加症を疑ってJAK2変異などを調べる。正常〜高値であれば動脈血酸素飽和度の測定、睡眠時の評価、喫煙歴・薬剤歴の聴取、腹部画像検査などで二次性の原因を探す。
POINT
・赤血球増加症は相対的(血漿量減少)と絶対的(赤血球量増加)に分けられ、絶対的はさらに一次性(真性赤血球増加症)と二次性に分かれる。 ・二次性赤血球増加症の主な機序はEPOの増加で、慢性低酸素(喫煙、睡眠時無呼吸症候群、慢性肺疾患、高地など)、EPO産生腫瘍(腎細胞癌、肝細胞癌、小脳血管芽腫、子宮筋腫)、アンドロゲン製剤が原因となる。 ・脱水は血液濃縮による相対的赤血球増加症であり、二次性赤血球増加症ではない。 ・血中EPOは真性赤血球増加症で低値、二次性で正常〜高値となる。
