「青いのに酸素は足りている」?―還元ヘモグロビンの絶対量で読み解くチアノーゼ
第107回医師国家試験 F問題 第5問
国試問題にチャレンジ
チアノーゼについて正しいのはどれか。
- a.健常人にはみられない。
- b.貧血になると起こりやすい。
- c.酸化ヘモグロビンが5 g/dL以上で起こる。
- d.末梢性では動脈血酸素飽和度は正常である。
- e.Fallot四徴症では下半身に限局してみられる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
チアノーゼは毛細血管血中の還元ヘモグロビンがおおむね5 g/dL以上になると出現し、割合ではなく絶対量で決まるため、多血症では出やすく貧血では出にくいのが特徴です。中心性チアノーゼは呼吸不全や右左シャントにより動脈血酸素飽和度が低下して生じ、舌や口腔粘膜にもみられます。一方、末梢性チアノーゼは寒冷曝露や心拍出量低下などによる末梢循環不全が原因で、動脈血酸素飽和度は正常であり、健常人にも起こりえます。Fallot四徴症は全身性の中心性チアノーゼを呈し、下半身に限局する分離性チアノーゼはEisenmenger化した動脈管開存症や動脈管開存を伴う大動脈縮窄などでみられます。チアノーゼの有無だけで酸素化を判断せず、SpO2や血液ガスで客観的に評価する姿勢は、日常診療で低酸素血症を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はdです
チアノーゼとは、皮膚や粘膜が青紫色に見える状態をいう。口唇、爪床、耳朶、頬、舌などの皮膚が薄く毛細血管が透けて見える部位で気づかれやすい。色調を決めているのは、毛細血管内の血液に含まれる還元ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン)の「絶対量」であり、その量がおおむね5 g/dL以上になると肉眼的にチアノーゼとして認識される。酸素飽和度(割合)ではなく絶対量で決まるという点が、本問を解く鍵である。 チアノーゼは発生機序から大きく2つに分けて考える。 ・中心性チアノーゼ:肺での酸素化障害(呼吸不全など)や右左シャント(チアノーゼ性先天性心疾患など)により、動脈血そのものの酸素飽和度(SaO2)が低下して生じる。全身の皮膚だけでなく、舌や口腔粘膜など温かい部位にもみられるのが特徴である。 ・末梢性チアノーゼ:動脈血の酸素化は正常だが、末梢の血流が遅くなって組織での酸素の抜き取り(酸素摂取)が増え、毛細血管から静脈側の血液で還元ヘモグロビンが増えて生じる。寒冷曝露、心拍出量低下(心不全・ショック)、動脈閉塞や静脈うっ滞などが原因で、四肢末端や口唇にみられ、温めたりマッサージしたりすると改善しやすい。 この「還元ヘモグロビンの絶対量」と「中心性か末梢性か」の2点を整理しておけば、各選択肢の正誤は判断できる。
選択肢考察
- ×a. 健常人にはみられない。
誤り。健常人でも、冷水での水泳後や寒冷環境にさらされたときなどには、皮膚の血管が収縮して末梢の血流が遅くなり、口唇や指先が紫色になることがある。これは末梢性チアノーゼであり、病的な低酸素血症がなくても起こりうる。また、高地のように吸入気の酸素分圧が低い環境では、健常人でも動脈血の酸素飽和度が低下して中心性チアノーゼを呈しうる。
- ×b. 貧血になると起こりやすい。
誤り。チアノーゼは還元ヘモグロビンの絶対量で決まるため、ヘモグロビン総量が少ない貧血ではむしろ起こりにくい。例えばHb 6 g/dLの高度貧血では、仮に酸素飽和度がかなり低くても還元ヘモグロビンが5 g/dLに達しにくく、重い低酸素血症があってもチアノーゼが目立たないことがある(チアノーゼがないことを酸素化良好の根拠にしてはならない)。逆に、多血症(赤血球増加症)のようにヘモグロビンが多い状態では、軽度の酸素飽和度低下でも還元ヘモグロビンが5 g/dLを超えやすく、チアノーゼが出現しやすい。
- ×c. 酸化ヘモグロビンが5 g/dL以上で起こる。
誤り。チアノーゼの原因となるのは酸素と結合していない還元ヘモグロビン(脱酸素化ヘモグロビン)であり、毛細血管血中でこれが約5 g/dL以上になると出現する。酸素と結合した酸化ヘモグロビン(酸素化ヘモグロビン)は鮮紅色であり、青紫色の原因にはならない。健常人の血液の大部分は酸化ヘモグロビンなので、「酸化ヘモグロビンが5 g/dL以上」という条件は正常状態でも満たされてしまう。なお、メトヘモグロビン血症(メトヘモグロビン約1.5 g/dL以上)や硫化ヘモグロビン血症でもチアノーゼ様の色調を呈することがあるが、これも酸化ヘモグロビンによるものではない。
- ○d. 末梢性では動脈血酸素飽和度は正常である。
正しい。末梢性チアノーゼは、肺でのガス交換や心内シャントには異常がなく、動脈血は十分に酸素化されている。原因は末梢の循環不全(寒冷による血管収縮、心拍出量低下、末梢動脈閉塞、静脈うっ滞など)で、血液が毛細血管をゆっくり流れる間に組織が多くの酸素を取り込むため、毛細血管から静脈側で還元ヘモグロビンが増える。したがって動脈血酸素飽和度(SaO2)や動脈血酸素分圧(PaO2)は正常である。一方、中心性チアノーゼではSaO2が低下している(一般にSaO2がおよそ85%以下になると明らかになるとされる)。この違いは両者を鑑別するうえで重要である。
- ×e. Fallot四徴症では下半身に限局してみられる。
誤り。Fallot四徴症(心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大)では、肺動脈狭窄のために右室の静脈血が心室中隔欠損を通って騎乗した大動脈へ流れ込む(右左シャント)。静脈血が大動脈の起始部で混ざるため、上半身・下半身を問わず全身性の中心性チアノーゼとなる。下半身に限局するチアノーゼ(分離性チアノーゼ、differential cyanosis)は、肺高血圧により動脈管を通る血流が肺動脈から下行大動脈への右左短絡となった場合にみられる所見で、Eisenmenger化した動脈管開存症や、動脈管開存を伴う大動脈縮窄(大動脈縮窄複合)・大動脈弓離断などが代表である。
チアノーゼの分類と原因
・中心性チアノーゼ(SaO2低下) 呼吸器疾患による肺胞低換気・換気血流比不均等・拡散障害(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、重症肺炎など) 右左シャント(Fallot四徴症、完全大血管転位症、Eisenmenger症候群、肺動静脈瘻など) 高地など吸入酸素分圧の低下 ・末梢性チアノーゼ(SaO2正常) 寒冷曝露、心拍出量低下(心不全、ショック)、末梢動脈閉塞、静脈閉塞・うっ滞、Raynaud現象 ・異常ヘモグロビンによるもの メトヘモグロビン血症(亜硝酸塩、局所麻酔薬、サルファ剤などによる)、硫化ヘモグロビン血症。パルスオキシメータの値と血液ガス分析のPaO2が乖離するのが特徴である。
中心性と末梢性の見分け方
・中心性:舌・口腔粘膜にもみられる。皮膚は温かいことが多い。酸素投与で改善することがある(肺疾患の場合。右左シャントでは改善しにくい)。慢性の場合は、ばち指や多血症を伴うことがある。 ・末梢性:四肢末端や口唇に限られ、舌・口腔粘膜にはみられない。皮膚は冷たい。加温やマッサージで改善する。
還元ヘモグロビンの「絶対量」が重要な理由
肉眼で見える青みは、血液中にどれだけ多くの還元ヘモグロビンが存在するかで決まる。そのため同じ酸素飽和度でも、多血症ではチアノーゼが出やすく、貧血では出にくい。チアノーゼの有無だけで低酸素血症の程度を判断してはならず、パルスオキシメータや動脈血ガス分析で客観的に評価する必要がある。
分離性チアノーゼ(differential cyanosis)
上半身と下半身でチアノーゼの程度が異なる状態である。動脈管を介して肺動脈から下行大動脈へ静脈血が流れる病態(Eisenmenger化した動脈管開存症、動脈管開存を伴う大動脈縮窄・大動脈弓離断など)では下半身優位にチアノーゼが出る。上下肢のSpO2の差として確認できる。
POINT
・チアノーゼは毛細血管血中の還元ヘモグロビンが約5 g/dL以上で出現する(酸化ヘモグロビンではない)。 ・絶対量で決まるため、多血症では出やすく、貧血では出にくい。 ・中心性チアノーゼはSaO2低下(呼吸不全、右左シャント)、末梢性チアノーゼはSaO2正常(末梢循環不全)。 ・末梢性チアノーゼは寒冷曝露などで健常人にも起こる。 ・Fallot四徴症は全身性の中心性チアノーゼ。下半身に限局するのはEisenmenger化した動脈管開存症や動脈管開存を伴う大動脈縮窄など。
