大動脈から前へ伸びる一本―CT横断像で上腸間膜動脈を見つける手順
第107回医師国家試験 E問題 第7問
国試問題にチャレンジ
腹部造影CT(A)(B)を別に示す。 上腸間膜動脈はどれか。 ただし,(A)と(B)の①~⑤は,それぞれ同一の解剖学的構造である。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腹部造影CTの横断像は足側から見上げた向きで表示され、画像の左が患者の右になります。椎体の前で患者左側の太い動脈が腹部大動脈、右側の太い静脈が下大静脈で、大動脈の腹側から前方に分岐して下行する細い円形の動脈が上腸間膜動脈、その患者右側に並ぶやや太い血管が上腸間膜静脈です。左腎静脈は上腸間膜動脈と大動脈の間をくぐって下大静脈に注ぎ、ここでの圧迫はナットクラッカー現象の原因となり、同じすき間で十二指腸水平部が圧迫されれば上腸間膜動脈症候群を生じます。上腸間膜静脈が動脈の左側にあれば腸回転異常症を疑い、上腸間膜動脈閉塞症や膵癌の進展評価でもこれらの位置関係が判断の基礎になります。大きな目印から分岐と合流をたどる読影手順を身につけることが、腹部画像診断全般の出発点です。
解答・解説
正解はbです
腎門部から膵頭部付近の高さで撮影された腹部造影CTの横断像(A)と、それより少し尾側の横断像(B)から、上腹部の主要血管を同定する画像解剖の問題である。
CT横断像の見方の約束
CTの横断像は患者の足側から見上げた向きで表示されるため、画像の左側が患者の右側、画像の右側が患者の左側になる。画像の上が腹側(前)、下が背側(後ろ)である。
同定の手順
1. まず椎体を探し、その直前にある太い2本の管腔構造を確認する。患者の左側(画像では右寄り)にある円形の太い動脈が腹部大動脈、患者の右側(画像では左寄り)にある太い静脈が下大静脈(IVC)である。本問では③が大動脈、⑤が下大静脈にあたる。 2. 大動脈の腹側を見ると、大動脈から前方へ分岐して下行する細い円形の動脈がある。これが上腸間膜動脈(SMA)で、本問の②である。 3. SMAのすぐ右側(画像では左隣)に並んで走る、SMAより少し太い血管が上腸間膜静脈(SMV)で、本問の①である。SMVは膵頸部の背側で脾静脈と合流して門脈となる。SMAとSMVは膵頭部〜膵鉤部の近くで左右に並ぶため、「動脈が左、静脈が右」という位置関係で区別する。 4. 患者の左腎から出て、SMAと大動脈の間の狭い隙間をくぐり抜け、右側の下大静脈へ注ぐ横走の静脈が左腎静脈で、本問の④である。(A)では大動脈の前面をまたいで下大静脈へ向かう部分、(B)ではSMAの左側で大動脈の左前方を走る部分が示されている。 このように、大動脈・下大静脈という大きな目印から出発し、分岐と合流の関係をたどって順に同定していくと確実である。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。①は上腸間膜静脈(SMV)である。SMA(②)の患者右側に並走し、SMAよりやや太い。静脈はSMA側(動脈側)に対して右側に位置するという原則で区別できる。SMVは小腸や右側結腸からの血液を集め、膵頸部の背側で脾静脈と合流して門脈を形成する。
- ○b. ②
正しい。②は上腸間膜動脈(SMA)である。腹部大動脈(③)の腹側に位置し、大動脈から前方に分岐して下行する円形の動脈で、右隣にSMV(①)が並ぶ。SMAは第1腰椎の高さ付近で腹腔動脈のやや尾側から分岐し、膵頸部・脾静脈の背側を通って、十二指腸水平部の前を下行する。十二指腸の一部、空腸・回腸、盲腸、上行結腸、横行結腸の口側約3分の2を栄養する。
- ×c. ③
誤り。③は腹部大動脈である。椎体の直前、正中よりやや患者の左側にある最も太い円形の動脈で、造影剤により強く造影されている。SMA(②)はここから腹側へ分岐している。
- ×d. ④
誤り。④は左腎静脈である。左腎から横走して、SMAと腹部大動脈の間を通過し、患者の右側にある下大静脈(⑤)に流入する。(A)では大動脈の前面をまたぐ部分、(B)ではSMAの患者左側の部分が示されている。左腎静脈がSMAと大動脈の間で圧迫されると、血尿や左精索静脈瘤などを生じるナットクラッカー現象(症候群)の原因となる。
- ×e. ⑤
誤り。⑤は下大静脈(IVC)である。椎体の前方、正中より患者の右側(画像では左寄り)に位置する太い静脈で、左腎静脈(④)が流入している。肝臓の背側を上行して右心房に注ぐ。
腹部大動脈の主な分枝(上から順に)
・下横隔動脈 ・腹腔動脈(第12胸椎〜第1腰椎付近):総肝動脈・左胃動脈・脾動脈に分かれ、前腸由来臓器(胃、十二指腸の口側、肝・胆・膵、脾)を栄養する。 ・上腸間膜動脈(第1腰椎付近):中腸由来臓器(十二指腸の肛門側〜横行結腸の口側約3分の2)を栄養する。 ・腎動脈(第1〜2腰椎付近) ・下腸間膜動脈(第3腰椎付近):後腸由来臓器(横行結腸の肛門側約3分の1〜直腸上部)を栄養する。 ・第4腰椎付近で左右の総腸骨動脈に分岐する。
SMAと大動脈の間を通る構造
・左腎静脈:圧迫されるとナットクラッカー現象(左腎静脈うっ滞による血尿、左精索静脈瘤、骨盤内うっ血など)。 ・十二指腸水平部:急激なやせなどでSMAと大動脈のなす角度が狭くなると圧迫され、上腸間膜動脈症候群(十二指腸通過障害)を生じる。
SMAとSMVの位置関係の臨床的意義
・正常ではSMVはSMAの右側にある。この関係が逆転(SMVがSMAの左側)している場合、腸回転異常症を疑う所見となる。 ・膵癌では腫瘍とSMA・SMVとの接触の有無や範囲が切除可能性の判定に重要である。
関連する疾患
・上腸間膜動脈閉塞症(塞栓症・血栓症):心房細動などを背景に突然の激しい腹痛で発症し、身体所見に乏しいことが特徴。造影CTでSMA内の造影欠損を確認する。
POINT
・CT横断像は足側から見た像で、画像の左が患者の右。 ・椎体の前、患者左側に腹部大動脈、右側に下大静脈。 ・大動脈の腹側から分岐する細い動脈がSMA、その右隣のやや太い静脈がSMV。 ・左腎静脈はSMAと大動脈の間を通って下大静脈に注ぐ(ナットクラッカー現象)。 ・SMVがSMAの左側にあれば腸回転異常を疑う。
