2日で850 gの体重減少―Na値が教える「ぐったりする脱水」の正体
第107回医師国家試験 E問題 第56問
国試問題にチャレンジ
6か月の乳児。嘔吐と下痢とを主訴に来院した。2日前の健康診査で身長67 cm,体重7,520 gであった。昨日から嘔吐が出現し,本日になり白っぽい下痢が頻回となったため受診した。受診時,体重6,670 g,体温37.2℃。心拍数136/分,整。血圧64/40 mmHg。血液生化学所見:尿素窒素42 mg/dL,クレアチニン0.6 mg/dL,Na 128 mEq/L,K 3.2 mEq/L,Cl 88 mEq/L。 この児で考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.腱反射亢進
- b.不穏興奮状態
- c.大泉門の膨隆
- d.皮膚緊張度の低下
- e.意識レベルの低下
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
乳児の嘔吐に続く白色水様便はロタウイルス胃腸炎を示唆し、脱水の評価では「程度」と「型」の2軸で考えます。程度は急性の体重減少率で評価し、乳児では10%以上が高度で、血圧低下や腎前性高窒素血症を伴うことがあります。型は血清Naで判定し、低張性脱水では水が細胞内へ移動して細胞外液の減少が強調されるため、ツルゴール低下・大泉門陥凹・循環不全・活気低下や意識障害が目立ち、腱反射はむしろ減弱します。不穏・興奮、口渇、腱反射亢進は高張性脱水の特徴であり、大泉門膨隆は頭蓋内圧亢進のサインなので脱水とは逆の所見です。水の移動方向から症状を導く考え方を身につければ、輸液の選択や補正速度への注意といった実際の診療にも直結します。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・6か月の乳児が、昨日からの嘔吐に続いて本日から白っぽい水様下痢を頻回に繰り返している。発熱は軽度(37.2℃)。 ・体重は2日前の7,520 gから6,670 gへ850 g減少している。減少率は850÷7,520≒11.3%であり、急性の体重減少はほぼ失われた水分量に相当するため、体重の10%を超える脱水と評価できる。 ・血圧64/40 mmHg:1歳未満では収縮期血圧が70 mmHg未満であれば低血圧とされ、循環血液量の減少が示唆される。 ・尿素窒素42 mg/dL(乳児の基準はおおむね20 mg/dL以下)、クレアチニン0.6 mg/dL(6か月児ではおおむね0.2〜0.3 mg/dL程度が正常)と上昇し、尿素窒素/クレアチニン比は約70と高い。腎血流の低下による腎前性の腎機能障害を示している。 ・Na 128 mEq/L(基準135〜145)と低ナトリウム血症、K 3.2 mEq/Lと低カリウム血症、Cl 88 mEq/Lと低クロール血症がある。下痢・嘔吐による電解質喪失を反映している。
診断のプロセス
乳幼児の急性の嘔吐で始まり、白色〜淡黄色の水様便を頻回に繰り返す経過は、ロタウイルス胃腸炎に典型的である(胆汁色素が腸管で十分に処理されないまま排出されるため便が白っぽくなると考えられている)。ロタウイルス胃腸炎は脱水が強くなりやすい。 脱水の程度は体重減少率から高度(重度)と評価され、血圧低下や腎前性高窒素血症もこれを裏づける。 脱水の型は血清Na濃度で分類し、130 mEq/L未満は低張性脱水である。本例はNa 128 mEq/Lであり、低張性脱水と判断する。
設問の考え方
低張性脱水では、細胞外液の浸透圧が細胞内より低くなるため、水が細胞外から細胞内へ移動する。その結果、もともと失われている細胞外液(血管内・間質)がさらに減り、循環不全の徴候や皮膚ツルゴールの低下といった細胞外液減少の症状が目立つ。また、脳細胞にも水が入り込むため、元気がなく傾眠傾向となり、進行すれば意識障害やけいれんをきたす。一方、口渇・興奮・腱反射亢進などは細胞内脱水が主体となる高張性脱水の特徴である。この違いを押さえれば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. 腱反射亢進
腱反射亢進は、血清Naが高い高張性脱水で神経細胞から水が引き抜かれ(細胞内脱水)、神経・筋の被刺激性が高まることで生じやすい所見である。本例のような低張性脱水では、細胞外液の減少による循環不全と脳の細胞内浮腫に伴う活動性低下が主体で、腱反射はむしろ減弱する傾向にある。
- ×b. 不穏興奮状態
不穏・興奮(易刺激性)や強い口渇は、高張性脱水における脳細胞の脱水(細胞内脱水)によって生じる特徴的な症状である。低張性脱水では逆に、元気がなくぐったりし、傾眠傾向となるのが典型である。
- ×c. 大泉門の膨隆
脱水では循環血液量と頭蓋内の液体量が減少するため、大泉門は陥凹(へこむ)する。大泉門の陥凹は乳児の脱水を評価する重要な身体所見の一つである。大泉門の膨隆は、髄膜炎、脳炎、水頭症、頭蓋内出血など頭蓋内圧が亢進する病態でみられる所見であり、本例とは合わない。
- ○d. 皮膚緊張度の低下
皮膚緊張度(ツルゴール)は、腹部などの皮膚をつまんで離したとき元に戻る速さで評価し、間質の水分量を反映する。低張性脱水では、細胞外液が失われるうえに、細胞外から細胞内へ水が移動して間質液がさらに減少するため、ツルゴールの低下が目立つ(つまんだ皮膚がゆっくりしか戻らない)。本例は体重の10%を超える高度の脱水でもあり、皮膚緊張度の低下が考えられる。
- ○e. 意識レベルの低下
本例は体重減少率が10%を超える高度の脱水で、血圧低下と腎前性高窒素血症を伴っており、循環不全による脳血流の低下が起こりうる。加えて低ナトリウム血症では、水が脳細胞内に移動して脳浮腫傾向となる。これらにより、活気の低下、傾眠、さらに進めば昏睡やけいれんといった意識レベルの低下がみられる。
脱水の型と特徴
脱水は、失われた水とNaの比率によって血清Na濃度で3つの型に分けられる。 ・等張性脱水(Na 130〜150 mEq/L):水とNaがほぼ同じ割合で失われる。小児の脱水で最も多い。 ・低張性脱水(Na 130 mEq/L未満):Naの喪失が相対的に多い。下痢で失ったNaを含む体液に対し、水やお茶など電解質の乏しい水分だけを補った場合などに起こりやすい。細胞外液が細胞内へ移動し、細胞外液の減少が強調される。皮膚ツルゴール低下、大泉門陥凹、頻脈、血圧低下などの循環不全の徴候が早期から目立ち、活気低下・傾眠・腱反射減弱がみられる。口渇は比較的軽い。 ・高張性脱水(Na 150 mEq/L超):水の喪失が相対的に多い。細胞内から細胞外へ水が移動するため循環血液量は比較的保たれ、脱水の程度が見かけより過小評価されやすい。強い口渇、不穏・興奮、易刺激性、腱反射亢進、けいれんがみられ、皮膚は捏粉様(ドウ状)の手触りになる。 ※分類の境界値は文献により若干異なる(例:高張性を145 mEq/L超とするものもある)。
小児の脱水の重症度(体重減少率による目安)
・軽度:乳児で5%未満(年長児3%未満)。症状は乏しい。 ・中等度:乳児で5〜10%(年長児3〜6%)。口腔粘膜乾燥、尿量減少、ツルゴール低下、大泉門陥凹、頻脈などが出現する。 ・高度(重度):乳児で10%以上(年長児6〜9%以上)。末梢冷感、毛細血管再充満時間の延長、血圧低下、意識障害など循環不全・ショックの徴候を伴う。 本例は乳児で約11%の減少であり、高度に相当する。
ロタウイルス胃腸炎
・主に生後6か月〜2歳の乳幼児に多く、冬〜春に流行する。 ・嘔吐で始まり、続いて白色〜淡黄色の水様下痢が頻回に出現する。発熱を伴うこともある。 ・脱水をきたしやすく、合併症として無熱性けいれん(胃腸炎関連けいれん)、脳症、腎前性腎不全などがある。 ・治療は対症療法で、軽度〜中等度の脱水には経口補水療法、高度の脱水やショック・意識障害を伴う場合は経静脈輸液(まず生理食塩液などの等張液による初期輸液)を行う。低Na血症を急速に補正すると浸透圧性脱髄症候群の危険があるため、補正速度に注意する。 ・予防として経口弱毒生ワクチンがあり、わが国では2020年10月から定期接種となっている。初回接種は生後14週6日までに行うことが推奨される(腸重積症のリスクを考慮)。
POINT
・脱水の型は血清Na濃度で判定する(低張性:130 mEq/L未満、高張性:150 mEq/L超が目安)。 ・低張性脱水:細胞外液の減少が強い → ツルゴール低下、大泉門陥凹、頻脈・血圧低下、活気低下・傾眠・意識障害、腱反射減弱。 ・高張性脱水:細胞内脱水 → 強い口渇、不穏・興奮、腱反射亢進、けいれん。循環症状は比較的軽く、重症度を過小評価しやすい。 ・急性の体重減少率は脱水の程度の指標であり、乳児では10%以上で高度である。 ・脱水では大泉門は陥凹する。膨隆は頭蓋内圧亢進のサインである。 ・乳児の嘔吐に続く白色水様便はロタウイルス胃腸炎を考える。
