鼻で吸って、お腹で息をする―元気な新生児の「当たり前の呼吸」を知る
第107回医師国家試験 E問題 第43問
国試問題にチャレンジ
生後2時間の新生児。在胎39週4日,出生時体重は3,056 gである。出生5分後のApgarスコアは10点。体動は良好,泣き声も大きく身体所見に異常を認めない。 この児に認められる呼吸はどれか。
- a.呻吟を伴う。
- b.鼻呼吸である。
- c.胸式呼吸である。
- d.陥没呼吸である。
- e.呼吸数は25/分である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
健康な正期産新生児の呼吸は、呼吸数がおよそ40〜60/分、横隔膜を中心とした腹式呼吸、そして鼻呼吸が中心という特徴があります。喉頭が高位にあり軟口蓋と喉頭蓋が近接しているため新生児は絶対的鼻呼吸者とされ、鼻閉や両側後鼻孔閉鎖症では強い呼吸障害をきたします。一方、呼気性呻吟、陥没呼吸、鼻翼呼吸、シーソー呼吸、多呼吸(60/分超)は呼吸障害の徴候であり、その重症度はSilvermanスコアで評価します。呼吸数が極端に少ない場合は、母体への薬物投与や中枢神経障害などによる呼吸抑制を疑います。正常像を正確に理解しておくことが、新生児の異常を早期に見抜く出発点になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
在胎39週4日で生まれた正期産児(在胎37週0日〜41週6日)で、出生体重は3,056 gと適正である。生後5分のApgarスコア(出生直後の新生児の状態を、心拍数・呼吸・筋緊張・反射・皮膚色の5項目で評価する点数。各0〜2点、10点満点)は満点の10点である。体動は活発で、泣き声も大きく、身体所見にも異常がない。したがって、この児は出生後の胎外環境にうまく適応している健康な成熟新生児と判断できる。
設問の考え方
本問は、正常な新生児の呼吸の特徴を問う知識問題である。新生児の呼吸は、成人とは次の点で異なる。 1. 呼吸数が多い。正常はおよそ40〜60/分で、60/分を超えると多呼吸である。 2. 主に鼻で呼吸している。上気道の構造上、口ではうまく呼吸できない。 3. 横隔膜の動きが中心の腹式呼吸である。胸郭が軟らかく肋骨が水平に近いため、胸郭を広げて換気する力が弱い。 さらに、呻吟・陥没呼吸・鼻翼呼吸・シーソー呼吸・多呼吸は呼吸障害の徴候であり、健康な新生児にはみられない。これらを区別できるかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 呻吟を伴う。
呻吟は、息を吐くときに「ウーン」とうめくような声が出る状態である(呼気性呻吟)。声門を狭めて吐く息に抵抗をかけ、気道内の圧を保つことで、つぶれやすい肺胞がしぼみきらないようにしている。自分で呼気終末陽圧(PEEP)をかけているのと同じ代償反応である。新生児呼吸窮迫症候群(RDS)や新生児一過性多呼吸など、肺に異常がある新生児にみられる呼吸障害の徴候であり、健康な新生児にはみられない。
- ○b. 鼻呼吸である。
新生児では、喉頭の位置が高く、軟口蓋と喉頭蓋が近接している。舌も口腔に比べて大きいため、空気は主に鼻から出入りする。このため新生児は「絶対的鼻呼吸者(obligate nasal breather)」と呼ばれ、生後数か月までは鼻呼吸に大きく依存する。鼻腔が分泌物で詰まるだけで強い呼吸困難になることがあり、分泌物を吸引すると速やかに改善する。両側の後鼻孔閉鎖症の児は、安静時にチアノーゼが出て、泣いて口が開くと改善する。これもこの特徴で説明できる。
- ×c. 胸式呼吸である。
新生児の呼吸は腹式呼吸が中心である。新生児の胸郭は軟らかく、肋骨が水平に近い走り方をしており、肋間筋も未発達である。そのため、肋骨を持ち上げて胸郭を広げる胸式呼吸はあまり働かない。主に横隔膜の上下運動で換気している。このため、腹部膨満などで腹圧が高くなると、横隔膜の動きが妨げられて呼吸障害を起こしやすい。胸式呼吸の割合は、幼児期から学童期にかけて増えていく。
- ×d. 陥没呼吸である。
陥没呼吸は、息を吸うときに肋間・胸骨の上や下・剣状突起の下などが内側にへこむ所見である。肺が硬い(コンプライアンスが低い)ときや気道が狭いときに、強い陰圧で息を吸い込もうとして、軟らかい胸壁が引き込まれて起こる。RDSなどの呼吸障害の徴候であり、健康な新生児にはみられない。
- ×e. 呼吸数は25/分である。
新生児の正常な呼吸数は、おおむね40〜60/分である。出生直後はやや多く、その後は40/分前後に落ち着いていく。25/分は新生児としては明らかに少なく、呼吸抑制(母体に投与された鎮静薬・麻酔薬の影響、中枢神経系の障害、低体温など)を疑う値である。なお、60/分を超える場合は多呼吸とし、呼吸障害の徴候とみなす。
新生児の呼吸の特徴
・呼吸数:およそ40〜60/分。1回換気量が小さいので、呼吸数を増やして分時換気量を保っている。 ・呼吸様式:腹式呼吸(横隔膜が中心)。 ・鼻呼吸が中心である。 ・呼吸のリズムが不規則になりやすく、特に早産児では、数秒から十数秒の呼吸停止をくり返す周期性呼吸がみられる。20秒以上続く呼吸停止や、徐脈・チアノーゼを伴う呼吸停止は「無呼吸発作」として病的に扱う。
新生児の呼吸障害の徴候
多呼吸(60/分超)、鼻翼呼吸(吸気時に鼻の穴が広がる)、陥没呼吸(肋間・胸骨下・剣状突起下)、シーソー呼吸(吸気時に胸がへこみ腹がふくらむ、胸と腹が逆向きに動く呼吸)、呼気性呻吟、チアノーゼ。
Silvermanスコア(Silverman-Andersenスコア)
新生児の呼吸障害の程度を評価する指標である。次の5項目をそれぞれ0〜2点で採点し、合計点が高いほど重症とする。 ・胸と腹の動き(シーソー呼吸) ・肋間の陥没 ・剣状突起下の陥没 ・鼻翼呼吸 ・呼気性呻吟
新生児の主な呼吸障害
・新生児呼吸窮迫症候群(RDS):肺サーファクタントが足りずに肺胞がつぶれる病気で、早産児に多い。胸部X線で網状顆粒状影、気管支透亮像(エアブロンコグラム)、すりガラス様陰影がみられる。治療はサーファクタント補充と呼吸管理である。 ・新生児一過性多呼吸(TTN):出生後に肺の中の液体が吸収されるのが遅れて起こる。帝王切開で生まれた児に多い。多くは数日で自然に治る。 ・胎便吸引症候群(MAS):胎便で汚れた羊水を吸い込んで起こる。正期産児や過期産児に多い。 ・両側後鼻孔閉鎖症:鼻呼吸に依存しているため、出生直後からチアノーゼが出る。泣くと口が開いて改善するのが特徴である。
POINT
・正常新生児の呼吸は、呼吸数およそ40〜60/分、腹式呼吸、鼻呼吸が中心である。 ・新生児は絶対的鼻呼吸者である。鼻閉や後鼻孔閉鎖症で強い呼吸障害になる。 ・呻吟(呼気性)、陥没呼吸、鼻翼呼吸、シーソー呼吸、多呼吸(60/分超)は呼吸障害の徴候である。 ・呼吸障害の重症度はSilvermanスコアで評価する。
