StudyMed医師国家試験

子ウシと赤ちゃんは育ち方が違う―母乳と牛乳の成分比較を「目的」から読み解く

第107回医師国家試験 E問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第36問

母乳より牛乳に多く含まれるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.鉄
  2. b.乳糖
  3. c.カゼイン
  4. d.カルシウム
  5. e.ビタミンK

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、母乳と牛乳の成分の違いを問う問題だ。数値を丸暗記するより、「それぞれの乳は誰を育てるためのものか」という視点で考えると、ぐっと覚えやすくなるよ。まず、ウシの子とヒトの赤ちゃんの成長の違いを思い浮かべてみよう。
医学生医学生
子ウシは生まれてすぐ立ち上がって、短期間で体がどんどん大きくなりますよね。
ドクタードクター
そう。急速に体と骨格をつくるために、牛乳は蛋白質とカルシウムなどのミネラルが豊富なんだ。一方、ヒトの赤ちゃんは体よりも脳の発達に多くのエネルギーを使う。だから母乳は乳糖が多く、蛋白質とミネラルは控えめになっている。
医学生医学生
小児科の講義で「牛乳の蛋白質は母乳の約3倍」と習った気がします。
ドクタードクター
その通り。100 gあたりで母乳が約1.1 g、牛乳が約3.3 gだ。そして中身も違う。牛乳の蛋白質の約8割はカゼインで、母乳は乳清蛋白が主体だよ。
医学生医学生
カゼインって、胃の中で固まるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。カゼインは胃酸で凝固して大きく硬いカードをつくるので消化されにくく、乳児の未熟な消化管には負担になる。母乳の乳清蛋白にはα-ラクトアルブミンのほか、ラクトフェリン、リゾチーム、分泌型IgAといった感染防御に働く成分が含まれているんだ。だから、カゼインは牛乳に多いもので正しい。
医学生医学生
カルシウムも子ウシの骨のために牛乳に多い、ということですね。
ドクタードクター
そう、およそ4倍だ。100 gあたり母乳が約27 mg、牛乳が約110 mg。牛乳はリンやナトリウム、カリウムも多いので、蛋白質と合わせて腎臓で処理すべき溶質の量、つまり腎溶質負荷が大きい。腎臓の濃縮力が未熟な乳児には負担になるんだ。母乳のカルシウムは量こそ少ないけれど、カルシウムとリンの比が約2対1で吸収に適していて、乳糖の働きもあって吸収率が高い。
医学生医学生
乳糖は逆に母乳のほうが多いんですよね。脳の発達のため、という話につながりますか。
ドクタードクター
まさにそこ。乳糖は100 gあたり母乳で約7 g、牛乳で約5 g。乳糖は大事なエネルギー源で、分解されてできるガラクトースは脳の糖脂質の材料になる。さらに一部は大腸まで届いてビフィズス菌の増殖を助け、腸内を酸性に保ってくれる。母乳にはヒトミルクオリゴ糖も豊富だよ。
医学生医学生
鉄はどうでしょう。牛乳を早くから飲ませると貧血になると聞いたので、牛乳のほうが少ないのかなと思いました。
ドクタードクター
いいところに目をつけたね。実は鉄はどちらもごく微量で、含有量はほぼ同等と考えてよく、「牛乳に多い」とはいえない。ポイントは吸収率で、母乳の鉄はラクトフェリンと結合しているなどの理由で約50%吸収されるのに対し、牛乳では約10%程度。しかも乳児に牛乳を早期から多量に与えると、腸管からの微量出血やカルシウムによる鉄の吸収阻害で鉄欠乏性貧血を起こしうる。だから牛乳を飲料として与えるのは1歳以降が望ましいとされているんだ。
医学生医学生
残るビタミンKは……母乳は良いことずくめのイメージなので、牛乳のほうが多いとしたら意外です。
ドクタードクター
ここが母乳の数少ない弱点だね。どちらも少量しか含まないけれど、100 gあたり母乳が約1 μg、牛乳が約2 μgで、牛乳のほうがやや多い。差は小さいものの、臨床的にはとても重要なんだ。新生児はビタミンKが胎盤を通りにくいので蓄えが少なく、腸内細菌叢も未熟でビタミンK2を十分につくれない。
医学生医学生
だから新生児ビタミンK欠乏性出血症が起こるんですね。産婦人科の実習で、生まれた赤ちゃんにシロップを飲ませているのを見ました。
ドクタードクター
それがビタミンK2シロップの予防投与だ。ビタミンK依存性凝固因子であるII、VII、IX、Xが不足すると、新生児メレナや、生後1〜2か月頃の乳児ビタミンK欠乏性出血症を起こす。後者は頭蓋内出血をきたしやすく重篤になりうる。従来は出生時、産科退院時、1か月健診時の3回投与が行われてきたけれど、近年は生後3か月まで週1回投与を続ける方法も推奨されている。
医学生医学生
整理すると、牛乳に多いのはカゼイン、カルシウム、ビタミンKの3つで、乳糖は母乳に多く、鉄はほぼ同じ、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床の注意点も押さえよう。母乳は感染防御因子を含み、消化吸収がよく腎溶質負荷も小さいという利点がある一方、ビタミンK欠乏のほか、日光曝露が少ないとビタミンD欠乏によるくる病が起こりうる。また母乳性黄疸は遷延性黄疸の原因になるけれど、通常は授乳を続けてよい。それから、HTLV-1は母乳を介して感染するので、母親が陽性なら人工栄養などを検討することになる。
医学生医学生
母乳が基本でも、何を補い、どんなときに注意するかまで知っておくことが大切なんですね。
ドクタードクター
その通り。初乳は成乳に比べて分泌型IgAやラクトフェリンなどの蛋白質とミネラルが多く、脂肪と乳糖が少ない、というのもセットで覚えておくといい。乳汁の組成は、そのまま乳児栄養の指導につながる知識なんだ。

まとめ

母乳と牛乳の成分の違いは、それぞれの子の成長の仕方を反映しています。体と骨格を急速に大きくする子ウシのための牛乳は、蛋白質(特に消化されにくいカゼイン)とカルシウム・リン・ナトリウムなどのミネラルが多く、ビタミンKもわずかに多く含みます。一方、脳の発達を重視するヒトの母乳は乳糖や乳清蛋白、分泌型IgA、ラクトフェリン、オリゴ糖が豊富で、腎溶質負荷が小さいのが特徴です。鉄はどちらも微量でほぼ同等ですが吸収率は母乳が高く、牛乳の早期多量摂取は鉄欠乏性貧血の原因となるため、飲料としての牛乳は1歳以降が望ましいとされます。母乳のビタミンK不足は新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症につながるためビタミンK2シロップで予防するなど、成分の違いを理解することは日常の乳児栄養指導に直結します。

解答・解説

正解はc, d, eです

母乳(人乳)と牛乳の成分の違いは、それぞれの動物の子の成長の仕方を反映していると考えると覚えやすい。ウシの子は生後短期間で体が大きくなり、骨格も急速に発達するため、牛乳は蛋白質とミネラル(カルシウム、リン、ナトリウムなど)が豊富である。一方、ヒトの乳児は体の成長よりも脳の発達にエネルギーを要するため、母乳は乳糖が多く、蛋白質とミネラルは少なめで、未熟な乳児の腎臓に負担をかけにくい組成になっている。 日本食品標準成分表(100 gあたり)の目安で比べると、次のようになる。 ・蛋白質:母乳 約1.1 g、牛乳 約3.3 g(牛乳が約3倍) ・炭水化物(主に乳糖):母乳 約7 g、牛乳 約5 g(母乳が多い) ・脂質:いずれも約3.5〜3.8 g(ほぼ同程度) ・カルシウム:母乳 約27 mg、牛乳 約110 mg(牛乳が約4倍) ・鉄:母乳 約0.04 mg、牛乳 約0.02 mg(いずれもごく微量) ・ビタミンK:母乳 約1 μg、牛乳 約2 μg(いずれも少ないが牛乳の方がやや多い) 蛋白質の中身も異なり、牛乳の蛋白質の約80%は消化されにくいカゼインであるのに対し、母乳は乳清蛋白(α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、分泌型IgAなど)が主体である。以上から、牛乳に多いのはカゼイン、カルシウム、ビタミンKの3つである。ビタミンKはいずれにもわずかしか含まれず、「牛乳に多い」といっても差は小さい点に注意が必要である。

選択肢考察

  1. ×a.  鉄

    鉄は母乳にも牛乳にもごく微量(100 gあたりおよそ0.02〜0.05 mg程度)しか含まれず、含有量はほぼ同等であり、「牛乳に多い」とはいえない。重要なのは吸収率の違いで、母乳の鉄はラクトフェリンと結合しているなどの理由で吸収率が約50%と高いのに対し、牛乳の鉄の吸収率は約10%と低い。さらに乳児に牛乳を早期から多量に与えると、腸管からの微量出血を起こしたり、カルシウムなどが鉄の吸収を妨げたりして、鉄欠乏性貧血の原因となる。このため牛乳を飲料として与えるのは1歳以降が望ましいとされる。なお、母乳栄養児でも生後6か月以降は胎内で蓄えた鉄が減るため、離乳食からの鉄の補給が大切になる。

  2. ×b.  乳糖

    乳糖(ラクトース)は母乳の方が多い(100 gあたり母乳 約7 g、牛乳 約4.5〜5 g)。乳糖は乳児の重要なエネルギー源であり、分解されて生じるガラクトースは脳の糖脂質(ガラクトセレブロシドなど)の材料となる。また、乳糖の一部は大腸に届いてビフィズス菌の増殖を助け、腸内を酸性に保つことでカルシウムの吸収促進や病原菌の増殖抑制に役立つ。母乳にはビフィズス菌の栄養源となるヒトミルクオリゴ糖も豊富に含まれる。

  3. ○c.  カゼイン

    牛乳は蛋白質の総量が母乳の約3倍あり、その約80%がカゼインである。これに対し母乳では乳清(ホエイ)蛋白が主体(乳清蛋白:カゼイン比はおよそ60:40、授乳初期ほど乳清が多い)であり、カゼインの量は牛乳よりはるかに少ない。カゼインは胃酸で凝固して大きく硬い凝塊(カード)を作るため消化されにくく、乳児の未熟な消化管には負担となる。母乳の乳清蛋白にはα-ラクトアルブミンのほか、ラクトフェリン、リゾチーム、分泌型IgAなど感染防御に働く成分が含まれる。

  4. ○d.  カルシウム

    カルシウムは牛乳に約4倍多く含まれる(100 gあたり母乳 約27 mg、牛乳 約110 mg)。ウシの子の急速な骨格の成長に見合った組成である。牛乳はリン、ナトリウム、カリウムなど他のミネラルも多く、蛋白質も多いため、腎臓で排泄しなければならない溶質の量(腎溶質負荷)が大きく、腎臓の濃縮力が未熟な乳児には負担となる。母乳のカルシウムは量は少ないが、カルシウムとリンの比が約2:1と吸収に適しており、乳糖の作用もあって吸収率が高い。

  5. ○e.  ビタミンK

    ビタミンKは母乳にも牛乳にもわずかしか含まれないが、100 gあたり母乳 約1 μg、牛乳 約2 μgと、牛乳の方がやや多い。新生児はもともとビタミンKが胎盤を通過しにくいため体内の蓄えが少なく、腸内細菌叢も未熟でビタミンK2を十分に産生できない。そこに含有量の少ない母乳のみで栄養されると、ビタミンK依存性凝固因子(II、VII、IX、X)が不足し、新生児ビタミンK欠乏性出血症(新生児メレナなど)や、生後1〜2か月頃の乳児ビタミンK欠乏性出血症(頭蓋内出血を起こしやすく重篤)をきたすことがある。このため、わが国では出生後にビタミンK2シロップを予防的に経口投与している。

母乳(成乳)と牛乳の比較のまとめ

・母乳に多いもの:乳糖、乳清蛋白(α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、リゾチーム)、分泌型IgA、ヒトミルクオリゴ糖、多価不飽和脂肪酸(リノール酸、DHAなど)、シスチン・タウリン、ビタミンC ・牛乳に多いもの:蛋白質全体(特にカゼイン、β-ラクトグロブリン)、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、ビタミンK(わずかな差) ・ほぼ同程度:脂質の総量、鉄(いずれも微量。ただし吸収率は母乳が高い)

初乳と成乳

・初乳(分娩後数日間):成乳に比べて蛋白質(特に分泌型IgA、ラクトフェリン)とミネラルが多く、脂肪と乳糖が少ない。黄色みを帯びた粘稠な乳で、感染防御の役割が大きい。 ・成乳:初乳に比べて脂肪と乳糖が多く、エネルギー量が高い。

母乳栄養の利点

・感染防御因子(分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、白血球など)を含み、消化管・呼吸器感染症や中耳炎のリスクを下げる。 ・消化吸収がよく、腎溶質負荷が小さい。 ・母子相互作用の促進、母体の産後の子宮復古の促進(授乳時のオキシトシン分泌)など。

母乳栄養で注意すべき点

・ビタミンK欠乏性出血症:予防としてビタミンK2シロップを出生時、産科退院時(生後1週頃)、1か月健診時の3回投与する方法が行われてきた。近年は、生後3か月まで週1回投与を続ける方法も推奨されている。 ・ビタミンD欠乏(くる病):日光曝露が少ない母乳栄養児で起こりうる。 ・母乳性黄疸:遷延性黄疸の原因となるが、通常は授乳を続けてよい。 ・母子感染:HTLV-1(成人T細胞白血病ウイルス)は母乳を介して感染するため、母親が陽性の場合は人工栄養などが検討される。

POINT

・牛乳に多い:蛋白質(カゼイン)、カルシウム・リン・ナトリウムなどのミネラル、ビタミンK(わずかな差)。 ・母乳に多い:乳糖、乳清蛋白、分泌型IgA、ラクトフェリン、オリゴ糖。 ・鉄は両者ともに微量でほぼ同等だが、吸収率は母乳(約50%)が牛乳(約10%)より高い。 ・母乳はビタミンKが少ない→新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症(予防にビタミンK2シロップ)。 ・牛乳は腎溶質負荷が大きく、飲料としては1歳以降が望ましい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。