その失神、止めるのはペースメーカか除細動器か―ICDが守る「心室細動の家系」
第107回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
失神に対して植込み型除細動器が適応となるのはどれか。2つ選べ。
- a.洞不全症候群
- b.Brugada症候群
- c.大動脈弁狭窄症
- d.完全房室ブロック
- e.先天性QT延長症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
失神に対する治療を選ぶときは、まず原因が徐脈性不整脈、致死性心室性不整脈、器質的心疾患のどれかを見極めることが基本です。洞不全症候群や完全房室ブロックによる徐脈性失神はペースメーカ、大動脈弁狭窄症による労作時失神は弁置換やTAVIの適応となります。ICDは心室頻拍・心室細動を感知して停止させる装置であり、夜間・安静時に心室細動を起こすBrugada症候群と、torsades de pointesから心室細動に至る先天性QT延長症候群が適応となります。QT延長症候群ではβ遮断薬と誘因回避が基本で、心停止蘇生例やβ遮断薬下でも失神を繰り返す例でICDを考慮します。失神を「原因」で分類して治療を対応づける考え方は、若年者の突然死を防ぐための臨床判断に直結します。
解答・解説
正解はb, eです
失神(一過性の意識消失)は、脳全体の血流が一時的に途絶えることで起こる。心臓が原因となる失神(心原性失神)は、大きく次の3つに分けて考えると整理しやすい。 ①徐脈性不整脈:洞不全症候群、高度・完全房室ブロックなど。心拍が極端に遅くなったり止まったりして失神する(Adams-Stokes発作)。治療はペースメーカである。 ②頻脈性不整脈:心室頻拍〈VT〉、心室細動〈VF〉、torsades de pointes〈TdP〉など。有効な心拍出が失われて失神し、自然停止しなければ突然死に至る。突然死予防の中心は植込み型除細動器〈ICD〉である。 ③器質的心疾患による拍出障害:大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症(閉塞性)、肺塞栓など。原因となる構造異常そのものの治療(弁置換など)が中心となる。 ICDは、心室頻拍や心室細動を自動的に感知し、抗頻拍ペーシングや電気ショックで停止させる装置である。したがって「失神に対してICDが適応となる」のは、失神の原因が致死性心室性不整脈である疾患であり、選択肢の中ではVFを起こすBrugada症候群と、TdP・VFを起こす先天性QT延長症候群が該当する。いずれも器質的な心疾患を伴わない遺伝性の不整脈疾患(心筋イオンチャネル病)で、若年者の突然死の原因として重要である。
選択肢考察
- ×a. 洞不全症候群
洞不全症候群は洞結節の機能低下により、洞徐脈、洞停止・洞房ブロック、徐脈頻脈症候群などを呈する病態である。失神・めまいは徐脈や長い心停止(ポーズ)によって起こるため、症状と徐脈の関連が確認されればペースメーカ植込みの適応となる。原因は徐脈であり、致死性心室性不整脈に対する装置であるICDの適応ではない。
- ○b. Brugada症候群
Brugada症候群は、器質的心疾患がないにもかかわらず、右側胸部誘導(V1〜V2)で特徴的なST上昇(coved型〈タイプ1〉、saddleback型)を示し、心室細動による失神や突然死をきたす疾患である。心筋ナトリウムチャネル遺伝子SCN5Aの変異が一部で知られ、アジア人の中年男性に多く、夜間の睡眠中や安静時に発作を起こしやすい。VFを予防できる確実な薬物はなく、突然死予防の基本はICDである。心停止からの蘇生例やVFが記録された例ではICDが強く推奨され、タイプ1心電図があり不整脈によると考えられる失神を伴う例でもICDが推奨される。
- ×c. 大動脈弁狭窄症
大動脈弁狭窄症では、狭窄した弁のために労作時に心拍出量を増やせず、脳血流が不足して失神が起こる(労作時失神)。狭心痛・失神・心不全は三大症状とされ、これらの症状が出現した重症例は予後が不良であるため、外科的大動脈弁置換術〈SAVR〉や経カテーテル大動脈弁留置術〈TAVI〉などの弁に対する治療が適応となる。失神の原因は弁の狭窄による拍出障害であり、ICDの適応ではない。
- ×d. 完全房室ブロック
完全房室ブロック(III度房室ブロック)では、心房からの興奮が心室へ全く伝わらず、心室は下位の補充調律で遅く拍動する。補充調律が途絶えたり極端に遅くなったりすると、脳虚血によって失神・痙攣を起こす(Adams-Stokes発作)。原因は徐脈であり、治療は恒久的ペースメーカ植込みである(緊急時は一時ペーシング)。ICDの適応ではない。
- ○e. 先天性QT延長症候群
先天性QT延長症候群は、心筋のカリウムチャネルやナトリウムチャネルの遺伝子変異により再分極が遅れ、心電図でQT時間が延長する疾患である。多形性心室頻拍の一種であるtorsades de pointes〈TdP〉を起こして失神し、心室細動へ移行すると突然死に至る。主な病型にLQT1(運動、特に水泳が誘因)、LQT2(目覚まし時計などの突然の音刺激、情動が誘因)、LQT3(睡眠中・安静時に発作)がある。治療の基本はβ遮断薬と誘因の回避であるが、心停止からの蘇生例ではICDが強く推奨され、β遮断薬を使用しても失神を繰り返す例などでもICDが適応となる。
ICDの主な適応(二次予防と一次予防)
・二次予防:心停止(VF・持続性VT)からの蘇生例、血行動態が破綻する持続性VTの既往。最も推奨度が高い。 ・一次予防:まだ致死性不整脈を起こしていないが突然死リスクが高い例。例として、心筋梗塞後や拡張型心筋症で左室駆出率が低下(おおむね35%以下)した心不全例、高リスクの肥大型心筋症、失神を伴うBrugada症候群など。 ・ICDは致死性不整脈を停止させる装置であり、不整脈の発生自体を予防するものではない。意識のある状態での電気ショック(不適切作動を含む)は苦痛が大きく生活の質を損なうため、抗不整脈薬やカテーテルアブレーションを併用して作動回数を減らす工夫がなされる。
心原性失神の原因と治療の対応
・徐脈性(洞不全症候群、高度・完全房室ブロック)→ ペースメーカ ・致死性心室性不整脈(Brugada症候群、QT延長症候群、器質的心疾患に伴うVT/VF など)→ ICD(+薬物療法) ・器質的拍出障害(大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症 など)→ 原疾患の治療(弁置換など)
Brugada症候群の心電図
・タイプ1(coved型):V1〜V2でJ点が2 mm以上上昇し、下に凸ではなく上に凸(弓状)に下降するST上昇に陰性T波が続く。診断的な所見である。 ・タイプ2(saddleback型):馬の鞍のような形のST上昇。1〜2肋間上の誘導記録やナトリウムチャネル遮断薬(ピルシカイニドなど)の負荷でタイプ1に変化すれば診断につながる。 ・発熱や副交感神経優位(夜間)で心電図変化や発作が誘発されやすい。
QT延長症候群
・後天性の原因:低カリウム血症、低マグネシウム血症、薬剤(Ia・III群抗不整脈薬、マクロライド系抗菌薬、抗精神病薬、三環系抗うつ薬など)、高度徐脈。 ・TdPの急性期治療:硫酸マグネシウムの静注、原因薬剤の中止・電解質補正、持続する場合は電気的除細動。
POINT
・ICDの対象は致死性心室性不整脈(VT・VF)による失神・突然死のリスクがある疾患。 ・Brugada症候群:右側胸部誘導のST上昇、夜間・安静時のVF、突然死予防はICD。 ・先天性QT延長症候群:TdP→VF。基本はβ遮断薬、心停止蘇生例やβ遮断薬下でも失神する例ではICD。 ・徐脈性失神(洞不全症候群、完全房室ブロック)はペースメーカ。 ・大動脈弁狭窄症の失神は弁置換(SAVR/TAVI)の適応。
