「漏れる」から考えるFanconi症候群―血中リンは上がるか下がるか
第107回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
Fanconi症候群にみられないのはどれか。
- a.糖尿
- b.アミノ酸尿
- c.高リン血症
- d.低尿酸血症
- e.代謝性アシドーシス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Fanconi症候群は近位尿細管の全般的な再吸収障害であり、本来再吸収されるブドウ糖、アミノ酸、リン酸、尿酸、重炭酸、低分子蛋白が尿中へ漏れ出します。その結果、血糖正常の腎性糖尿、汎アミノ酸尿、低リン血症、低尿酸血症、アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス(2型RTA)がみられ、高リン血症は生じません。持続する低リン血症とアシドーシスは、小児のくる病や成人の骨軟化症の原因となります。原因として小児のシスチン症、成人の多発性骨髄腫、テノホビルなどの薬剤、カドミウム中毒が重要です。「近位尿細管で何が再吸収されるか」から所見を導く考え方は、尿細管疾患や電解質異常全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
テーマ
Fanconi(ファンコニ)症候群は、近位尿細管の再吸収機能が広範に障害される病態である。近位尿細管は、糸球体で濾過された物質のうち、ブドウ糖・アミノ酸・リン酸・重炭酸イオン(HCO3−)・尿酸・低分子蛋白などの大部分を再吸収する場所である。ここが全体的に障害されると、本来体内に戻されるはずのこれらの物質が尿中に失われる。
正解を導く考え方
Fanconi症候群の所見は「近位尿細管で再吸収される物質が尿に漏れ、その結果として血中濃度が下がる」と考えれば整理できる。 ・ブドウ糖 → 尿糖(腎性糖尿、血糖は正常) ・アミノ酸 → 汎アミノ酸尿 ・リン酸 → リン酸尿 → 低リン血症 ・尿酸 → 尿酸排泄増加 → 低尿酸血症 ・HCO3− → 代謝性アシドーシス(近位尿細管性アシドーシス、2型RTA) ・低分子蛋白 → 尿細管性蛋白尿(β2ミクログロブリン尿など) この原則に従うと、血中のリンは低下するはずであり、上昇する(高リン血症)ことはない。したがって「みられないもの」は高リン血症である。
選択肢考察
- ×a. 糖尿
Fanconi症候群でみられる。ブドウ糖は近位尿細管のナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT2、SGLT1)によってほぼすべて再吸収される。近位尿細管が障害されると、血糖値が正常であっても尿にブドウ糖が出る(腎性糖尿)。糖尿病による尿糖とは異なり、高血糖を伴わない点が特徴である。
- ×b. アミノ酸尿
Fanconi症候群でみられる。アミノ酸は近位尿細管で種類ごとの輸送体によって再吸収されているが、近位尿細管全体の機能障害では特定のアミノ酸に限らず多くのアミノ酸が尿中に排泄される(汎アミノ酸尿)。シスチン尿症のように特定の輸送体の異常で一部のアミノ酸だけが出る病態とは区別される。
- ○c. 高リン血症
Fanconi症候群ではみられない。リン酸は近位尿細管のナトリウム・リン共輸送体(NaPi-IIa、NaPi-IIcなど)によって再吸収される。この再吸収が障害されるとリン酸が尿中に失われ(リン酸尿)、血清リンは低下する(低リン血症)。低リン血症が長く続くと骨の石灰化が障害され、小児ではくる病、成人では骨軟化症を生じる。高リン血症はむしろ腎不全(糸球体濾過量の低下によるリン排泄低下)や副甲状腺機能低下症でみられる所見である。
- ×d. 低尿酸血症
Fanconi症候群でみられる。尿酸は近位尿細管でURAT1などの輸送体を介して再吸収される。再吸収が障害されると尿酸の尿中排泄が増え、血清尿酸値が低下する(低尿酸血症)。
- ×e. 代謝性アシドーシス
Fanconi症候群でみられる。濾過されたHCO3−の約80〜90%は近位尿細管で再吸収される。この機能が障害されるとHCO3−が尿中に失われ、代謝性アシドーシスとなる。これは近位尿細管性アシドーシス(2型RTA)にあたり、HCO3−の喪失分をCl−が補うため、アニオンギャップが正常の高Cl性代謝性アシドーシスとなる。遠位尿細管の酸排泄能は保たれるため、血中HCO3−が一定以下に下がると尿を酸性化できる点が1型(遠位型)RTAとの違いである。
Fanconi症候群の主な所見
・腎性糖尿、汎アミノ酸尿、リン酸尿(低リン血症)、尿酸排泄増加(低尿酸血症) ・近位尿細管性アシドーシス(2型RTA、アニオンギャップ正常) ・低分子蛋白尿(β2ミクログロブリン、α1ミクログロブリンの尿中増加) ・低カリウム血症(遠位ネフロンへのNa・HCO3−負荷の増加などによりK排泄が増える) ・多尿(浸透圧利尿や濃縮力障害による) ・低リン血症やアシドーシスによる骨病変:小児ではくる病・成長障害、成人では骨軟化症
原因
・先天性:シスチン症(小児のFanconi症候群の代表的原因)、ガラクトース血症、遺伝性果糖不耐症、チロシン血症1型、Wilson病、Lowe症候群(眼脳腎症候群)、Dent病など ・後天性:多発性骨髄腫(軽鎖による近位尿細管障害)、重金属中毒(カドミウム、鉛、水銀)、薬剤(テノホビル ジソプロキシルなどの抗ウイルス薬、アデホビル、バルプロ酸、イホスファミド、シスプラチン、期限切れのテトラサイクリンなど)、Sjögren症候群などの間質性腎炎 ・慢性カドミウム中毒は、富山県神通川流域で発生したイタイイタイ病として知られ、近位尿細管障害と骨軟化症を特徴とする。
尿細管性アシドーシスの整理
・1型(遠位型):遠位尿細管のH+分泌障害。尿pHが5.5以下に下がらない。腎結石・腎石灰化を伴いやすい。 ・2型(近位型):近位尿細管のHCO3−再吸収障害。Fanconi症候群の一部としてみられることが多い。 ・4型:アルドステロンの作用不足による。高カリウム血症を伴うのが特徴。
名前の似た疾患に注意
Fanconi貧血は、DNA修復異常による常染色体劣性(一部X連鎖)の先天性再生不良性貧血で、骨格奇形や発癌傾向を伴う。Fanconi症候群とは全く別の疾患である。
POINT
・Fanconi症候群=近位尿細管の全般的な再吸収障害。 ・再吸収される物質が尿へ漏れる:糖尿(血糖正常)、汎アミノ酸尿、リン酸尿、尿酸尿、HCO3−喪失、低分子蛋白尿。 ・血液では低リン血症、低尿酸血症、低カリウム血症、アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス(2型RTA)。 ・高リン血症にはならない。低リン血症からくる病・骨軟化症をきたす。 ・原因:小児はシスチン症、成人は多発性骨髄腫・薬剤(テノホビル、イホスファミドなど)・カドミウム中毒が重要。
