StudyMed医師国家試験

「増殖期にも」と「増殖期だけ」は違う―新生血管から読み解く糖尿病網膜症の病期

第107回医師国家試験 D問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第107回 D問題 第19問

糖尿病網膜症のうち増殖糖尿病網膜症のみでみられるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.新生血管
  2. b.硝子体出血
  3. c.毛細血管瘤
  4. d.網膜しみ状出血
  5. e.牽引性網膜剝離

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は糖尿病網膜症の病期ごとの眼底所見を整理する問題だ。選択肢はどれも糖尿病網膜症で見られうる所見だから、カギは設問の「のみ」という一語。増殖網膜症を増殖網膜症たらしめているものは何か、を軸に考えていこう。
医学生医学生
増殖網膜症の段階なら、毛細血管瘤もしみ状出血も全部見えている気がします。全部当てはまりそうで迷いました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。進行した眼底には初期からの所見も残っているから「増殖期にも見られる」ものはたくさんある。でも問われているのは「増殖期にだけ見られる」もの。まずは病期分類の流れを確認しよう。日本でよく使われる改変Davis分類では、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症の順に進む。
医学生医学生
内分泌代謝の講義で、高血糖で周皮細胞が脱落して血管がもろくなる、と習いました。
ドクタードクター
そう、それが出発点だ。周皮細胞の脱落や基底膜の肥厚で毛細血管壁が弱くなり、透過性も上がる。その結果として出てくるのが単純網膜症の所見で、毛細血管瘤、点状・しみ状出血、硬性白斑、網膜浮腫などだ。
医学生医学生
毛細血管瘤は、眼底で小さな赤い点として見えるもので、糖尿病網膜症で最初に出てくる所見でしたよね。
ドクタードクター
その通り。壁が弱くなった毛細血管が嚢状に膨らんだもので、病初期から現れて増殖期になっても残っていることが多い。しみ状出血も同じで、網膜の深い層に起こる境界不明瞭な丸い出血だ。どちらも単純網膜症の代表的所見だから、「増殖期のみ」には当てはまらない。
医学生医学生
しみ状出血と火炎状出血の違いがいつもあいまいになります。
ドクタードクター
出血の深さで形が変わると考えるとわかりやすい。神経線維層のような表層の出血は線維の走行に沿って炎のような形になり、深い層の出血は縦に並ぶ細胞の間に閉じ込められて丸いしみになるんだ。さて、血管障害が進むと毛細血管が詰まり始める。ここからが増殖前網膜症だ。
医学生医学生
軟性白斑や静脈の数珠状拡張、IRMAが出てくる段階ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。これらは網膜虚血のサインで、蛍光眼底造影では無灌流域として見える。そして虚血に陥った網膜が血管内皮増殖因子、つまりVEGFを放出すると、網膜表面や視神経乳頭から硝子体側へ新生血管が伸びてくる。新生血管が出現した時点で増殖網膜症と判定されるんだ。
医学生医学生
ということは、新生血管は増殖期の定義そのものだから、それより前の段階には存在しない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。そして新生血管から派生する合併症も、当然増殖期にしか起こらない。新生血管は壁がもろく、しかも硝子体と癒着しているから、硝子体が収縮したり引っ張られたりすると簡単に破れる。その血液が硝子体腔に広がったのが硝子体出血だ。
医学生医学生
単純網膜症の出血とはどう違うんでしょうか。どちらも出血なので同じに思えてしまいます。
ドクタードクター
単純網膜症の出血は網膜の中にとどまっていて、硝子体腔までは及ばない。硝子体出血は新生血管があって初めて起こるから、増殖期特有なんだ。患者さんは急な視力低下や飛蚊症を訴えて来ることが多い。さらに新生血管の周りには線維組織が増えて線維血管性増殖膜ができる。この膜が縮むと網膜が硝子体側に引っ張られて剝がれてしまう。
医学生医学生
それが牽引性網膜剝離ですね。臨床実習で眼科を回ったとき、硝子体手術で増殖膜を剝がしているのを見学しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。黄斑に及べば高度の視力障害になり、硝子体手術の適応になる。まとめると、新生血管、硝子体出血、牽引性網膜剝離の3つが増殖網膜症のみで見られる所見だ。毛細血管瘤としみ状出血は病初期から見られるので外れる。
医学生医学生
「新生血管があるか」と「新生血管がなければ起こり得ない合併症か」で判断すれば、迷わずに済みそうです。
ドクタードクター
まさにその考え方だ。新生血管の延長線上には、隅角に新生血管ができて眼圧が上がる血管新生緑内障や網膜前出血もあるから、一緒に覚えておこう。発展知識として、黄斑浮腫は病期に関係なくどの段階でも起こりうる点も大切だ。視力低下の重要な原因で、OCTで評価し、抗VEGF薬の硝子体内注射などで治療する。
医学生医学生
治療は病期でどう変わるんですか。
ドクタードクター
血糖・血圧・脂質の管理はすべての病期に共通だ。増殖前から増殖期では、無灌流域に汎網膜光凝固を行って虚血網膜からのVEGF産生を抑える。吸収されない硝子体出血や牽引性網膜剝離には硝子体手術を行う。それから内科側の注意点として、進行した網膜症がある人で血糖を急に下げると一時的に網膜症が悪化することがあるから、血糖は緩やかに是正したい。
医学生医学生
糖尿病内科と眼科の連携が欠かせないということですね。
ドクタードクター
その通り。網膜症はかなり進むまで自覚症状に乏しいから、定期的な眼底検査を勧めることが失明を防ぐ一番の近道なんだ。

まとめ

糖尿病網膜症は、毛細血管瘤・点状/しみ状出血・硬性白斑を示す単純網膜症、軟性白斑・静脈の数珠状拡張・IRMA・無灌流域といった虚血所見を示す増殖前網膜症、そして新生血管が出現する増殖網膜症へと進行します。増殖網膜症は新生血管の出現で定義され、新生血管の破綻による硝子体出血や、線維血管性増殖膜の収縮による牽引性網膜剝離、血管新生緑内障は増殖期に特有の所見です。一方、毛細血管瘤やしみ状出血は病初期から見られ、増殖期にも残るため「増殖期のみ」の所見ではありません。治療は全身管理を基本に、汎網膜光凝固や硝子体手術、黄斑浮腫への抗VEGF薬を病態に応じて使い分け、急激な血糖是正による一時的な悪化にも注意します。VEGFを介した「虚血→新生血管→合併症」の流れを理解することは、所見の病期判定だけでなく、内科と眼科が連携して失明を防ぐうえでの土台になります。

解答・解説

正解はa, b, eです

糖尿病網膜症の病期ごとに現れる眼底所見を区別できるかを問う問題である。 選択肢に挙がっている所見は、いずれも糖尿病網膜症で観察されうるものである。したがって鍵となるのは設問の「のみ」という語であり、単純網膜症や増殖前網膜症の段階でもすでに見られる所見は除外しなければならない。 糖尿病網膜症は、高血糖が長く続くことで網膜の細小血管が傷つき進行する病態である。病期は大きく次の順に進む。 (1) 単純網膜症: 毛細血管壁がもろくなって生じる変化(毛細血管瘤、点状・しみ状出血、硬性白斑、網膜浮腫) (2) 増殖前網膜症: 毛細血管の閉塞による網膜虚血を示す変化(軟性白斑、静脈の数珠状拡張、網膜内細小血管異常、無灌流域) (3) 増殖網膜症: 虚血網膜から血管内皮増殖因子(VEGF)が放出され、新生血管が生じた段階 増殖網膜症を特徴づけるのは「新生血管の出現」である。新生血管が生じたこと、そして新生血管から派生して起こる合併症(新生血管の破綻による硝子体出血・網膜前出血、線維血管性増殖膜の収縮による牽引性網膜剝離、隅角の新生血管による血管新生緑内障)は、増殖網膜症に特有の所見となる。一方、毛細血管瘤やしみ状出血は病初期から見られ、進行後も残っていることが多い。「増殖期にも見られる」ことと「増殖期にだけ見られる」ことを混同しないのがポイントである。

選択肢考察

  1. ○a.  新生血管

    網膜の毛細血管が閉塞して虚血が広がると、虚血網膜からVEGFが産生され、網膜表面や視神経乳頭から硝子体側へ伸びる新生血管が生じる。新生血管が一つでも確認されれば増殖糖尿病網膜症と判定されるため、増殖期を定義する所見そのものであり、それより前の病期には存在しない。フルオレセイン蛍光眼底造影では、新生血管からの著明な色素の漏出として描出される。

  2. ○b.  硝子体出血

    新生血管は壁が脆弱なうえ、硝子体と癒着しているため、硝子体の収縮や牽引で容易に破れる。その出血が硝子体腔に広がったものが硝子体出血であり、急激な視力低下や飛蚊症の原因となる。新生血管を前提とする合併症なので、増殖網膜症でのみ生じる。単純網膜症の出血は網膜内にとどまり、硝子体腔へは及ばない。

  3. ×c.  毛細血管瘤

    毛細血管瘤は、周皮細胞の脱落などで毛細血管壁が弱くなり、嚢状に膨らんだものである。眼底では小さな赤い点として見え、糖尿病網膜症で最初に現れる所見とされる。単純網膜症の段階から見られ、増殖網膜症に進んでも残っていることが多い。増殖期に限られた所見ではないため誤りである。

  4. ×d.  網膜しみ状出血

    しみ状出血は、網膜の深い層(内顆粒層〜外網状層付近)に起こる境界のはっきりしない丸い出血で、点状出血とともに単純網膜症の代表的な所見である。増殖網膜症でも見られるが、増殖期に限られないため誤りである。なお、網膜表層の神経線維層に起こる出血は神経線維の走行に沿って炎のような形(火炎状出血)となり、しみ状出血とは区別される。

  5. ○e.  牽引性網膜剝離

    新生血管の周りには線維性の組織が増えて線維血管性増殖膜がつくられ、網膜表面から硝子体側に広がる。この膜が収縮すると網膜が硝子体側へ引っ張られ、網膜が剝がれる。これが牽引性網膜剝離である。新生血管と増殖膜を前提とする変化なので、増殖網膜症にのみ見られる。黄斑部に及べば高度の視力障害をきたし、硝子体手術の適応となる。

糖尿病網膜症の病期分類(改変Davis分類)と主な所見

・単純網膜症: 毛細血管瘤、点状出血・しみ状出血、硬性白斑(血管から漏れた脂質やタンパク質が沈着したもの)、網膜浮腫 ・増殖前網膜症: 軟性白斑(綿花様白斑。毛細血管の閉塞による神経線維層の虚血・浮腫)、静脈異常(数珠状拡張、ループ形成など)、網膜内細小血管異常(IRMA: intraretinal microvascular abnormalities)、蛍光眼底造影で見られる無灌流域 ・増殖網膜症: 新生血管(網膜・乳頭)、網膜前出血、硝子体出血、線維血管性増殖膜、牽引性網膜剝離、血管新生緑内障

進行の機序

高血糖 → 周皮細胞の脱落・基底膜の肥厚 → 血管がもろくなり透過性が上がる(毛細血管瘤・出血・硬性白斑)→ 毛細血管の閉塞(軟性白斑・無灌流域)→ 網膜虚血 → VEGFの産生 → 新生血管 → 硝子体出血・増殖膜・牽引性網膜剝離、隅角の新生血管による血管新生緑内障。

糖尿病黄斑浮腫

黄斑部に浮腫が起こる糖尿病黄斑浮腫は、病期に関係なくどの段階でも起こりうる。視力低下の重要な原因であり、光干渉断層計(OCT)で評価し、抗VEGF薬の硝子体内注射などで治療する。

治療の概略

・血糖・血圧・脂質の管理はすべての病期に共通する。 ・増殖前網膜症〜増殖網膜症: 無灌流域への汎網膜光凝固を行い、虚血網膜からのVEGF産生を抑える。 ・吸収されない硝子体出血や牽引性網膜剝離: 硝子体手術を行う。 ・急速な血糖改善で網膜症が一時的に悪化すること(early worsening)があるため、進行した網膜症がある患者では血糖を緩徐に是正する。

POINT

・増殖糖尿病網膜症の定義は「新生血管の出現」である。 ・新生血管に由来する硝子体出血・網膜前出血・線維血管性増殖膜・牽引性網膜剝離・血管新生緑内障は増殖期に特有の所見である。 ・毛細血管瘤、点状・しみ状出血、硬性白斑は単純網膜症から見られ、増殖期にも残るので「増殖期のみ」ではない。 ・軟性白斑、静脈の数珠状拡張、IRMA、無灌流域は増殖前網膜症の指標である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。