StudyMed医師国家試験

温泉・インコ・子ネコ―病歴が教えてくれる肺炎の犯人

第107回医師国家試験 D問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第107回 D問題 第18問

病歴と疾患の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.同性愛 ―― ニューモシスチス肺炎
  2. b.温泉旅行 ―― クラミジア肺炎
  3. c.鳥類の飼育 ―― マイコプラズマ肺炎
  4. d.アルコール依存 ―― レジオネラ肺炎
  5. e.産褥期のネコとの接触 ―― Q 熱

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病歴から肺炎の原因微生物を推定する問題だ。生活歴、旅行歴、動物との接触歴、基礎疾患といった情報は、胸部画像だけでは分からない病原体を絞り込む強力な手がかりになる。どの組合せが「定番」で、どれが病原体を入れ替えたひっかけかを見抜こう。
医学生医学生
この手の問題は語呂合わせで丸暗記していたので、入れ替えられると混乱しそうです。
ドクタードクター
だからこそ、なぜその曝露で感染するのか、感染経路とセットで理解しておくと強いよ。まず温泉旅行から考えてみよう。温泉と聞いて思い浮かぶ肺炎は何かな。
医学生医学生
レジオネラです。でもクラミジアも非定型肺炎の仲間なので、一瞬迷いました。
ドクタードクター
レジオネラで正解。レジオネラ属菌は温水環境でアメーバなどに寄生して増え、汚染された水のエアロゾルを吸い込んで感染する。温泉や循環式浴槽、加湿器、冷却塔が典型的な感染源だ。一方、クラミジア肺炎はChlamydia pneumoniaeによるヒトからヒトへの飛沫感染で、温泉とは結びつかない。
医学生医学生
鳥類の飼育も、同じクラミジアの仲間のオウム病ですよね。マイコプラズマではなく。
ドクタードクター
その通り。鳥と関係するのはChlamydia psittaciによるオウム病だ。インコやオウム、ハトの乾燥した排泄物が舞い上がったものを吸入して感染し、高熱、頭痛、比較的徐脈を伴う重症肺炎になりうる。マイコプラズマはヒトからヒトへうつり、学童から若年成人に多く、長引く乾性咳嗽が特徴。鳥とは関係ないね。
医学生医学生
アルコール依存とレジオネラはどうでしょう。多量飲酒がレジオネラの危険因子だと何かで読んだ気がします。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。確かに多量飲酒をレジオネラ症の危険因子に挙げる資料もある。ただ、アルコール依存と古典的に結びつく肺炎は肺炎桿菌、つまりクレブシエラ肺炎だ。大葉性に広がって葉間裂が膨隆したり、カラントゼリー様の赤褐色の痰が出たりするのが特徴とされる。意識レベルの低下による誤嚥から、嫌気性菌の誤嚥性肺炎や肺膿瘍も起こりやすい。レジオネラを想起させる病歴の代表はあくまで水系への曝露だから、この組合せは不適切と考える。
医学生医学生
同性愛とニューモシスチス肺炎は、HIV感染を介した関係ですね。
ドクタードクター
そう。大事なのは、同性愛そのものが原因なのではなく、HIV感染のリスクとなる性的接触を介して関連するという理解だ。日本のHIV感染の報告では男性同性間の性的接触が最も多い。未治療でCD4陽性T細胞が200/μL未満に下がると、真菌のPneumocystis jiroveciiによるニューモシスチス肺炎を起こしやすくなる。AIDS指標疾患で、日本ではHIV感染が判明するきっかけとして最も多い疾患なんだ。この組合せは正しい。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、ステロイド内服中の方がすりガラス影とβ-Dグルカン高値でニューモシスチス肺炎と診断されたのを見ました。HIV以外でも起こるんですね。
ドクタードクター
その通り。ステロイドや免疫抑制薬の使用者、臓器移植後、血液悪性腫瘍などでも起こる。乾性咳嗽と労作時の息切れで始まり、CTで両側びまん性のすりガラス影、β-Dグルカンの上昇、低酸素血症がみられる。治療と予防の第一選択はST合剤だ。
医学生医学生
最後の産褥期のネコとQ熱は、正直なじみが薄いです。微生物学の講義で名前だけ聞いた記憶があります。
ドクタードクター
Q熱はCoxiella burnetiiによる人獣共通感染症だ。ウシ、ヒツジ、ヤギなどの家畜のほか、ネコにも感染していて、妊娠・出産期の動物の胎盤で大量に増える。出産時に胎盤や羊水と一緒に菌がまき散らされ、それを含む塵埃やエアロゾルを吸い込んでヒトが感染するんだ。だから出産直後のネコとの接触は重要な曝露歴になる。この組合せも正しい。
医学生医学生
つまり正解は、同性愛とニューモシスチス肺炎、産褥期のネコとの接触とQ熱の2つで、残りはそれぞれ温泉ならレジオネラ、鳥ならオウム病、アルコール依存なら肺炎桿菌、と入れ替えれば正しくなるわけですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。Q熱の急性期はインフルエンザ様症状や肺炎、肝炎を示し、慢性化すると心内膜炎を起こすことがある。日本では4類感染症で、治療はドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系を用いる。
医学生医学生
臨床で病歴聴取がそこまで大事なのは、治療薬が変わるからでしょうか。
ドクタードクター
まさにそこが核心だ。レジオネラ、オウム病、Q熱、ニューモシスチスはいずれも、市中肺炎の初期治療でよく使うβラクタム系が効かない。病歴を聞き漏らすと、効かない薬を続けて重症化させてしまう。レジオネラなら尿中抗原検査で迅速診断し、ニューキノロン系やマクロライド系を選ぶ。ほかにも、野ウサギの処理なら野兎病、インフルエンザ罹患後なら黄色ブドウ球菌や肺炎球菌の二次性肺炎、COPDならインフルエンザ菌やモラクセラといった組合せも押さえておこう。OSCEの医療面接で「ペットは飼っていますか」「最近温泉に行きましたか」と聞くのは、こういう理由があるからなんだ。

まとめ

肺炎の原因微生物の推定には、生活歴・旅行歴・動物との接触歴・基礎疾患といった病歴聴取が欠かせません。代表的な組合せは、HIV感染リスクのある性的接触歴とニューモシスチス肺炎(CD4<200/μLで好発)、出産前後のネコや家畜との接触とQ熱(Coxiella burnetii)であり、温泉・循環式浴槽はレジオネラ肺炎、鳥類の飼育はオウム病(Chlamydia psittaci)、アルコール依存は肺炎桿菌肺炎や誤嚥性肺炎と結びつきます。これらの病原体の多くは市中肺炎で頻用されるβラクタム系抗菌薬が無効なため、曝露歴を聞き出せるかどうかが適切な抗菌薬選択と予後に直結します。感染経路とセットで組合せを理解しておくことが、試験での入れ替え問題への対応だけでなく、実臨床での的確な医療面接にもつながります。

解答・解説

正解はa, eです

肺炎の原因微生物を推定するうえで、病歴(生活歴・職業歴・旅行歴・動物との接触歴・基礎疾患)は非常に重要な手がかりとなる。特に、特定の環境や動物への曝露によって感染する微生物は、病歴を聴取しなければ想起しにくく、通常の肺炎の初期治療で用いるβラクタム系抗菌薬が効かないものも多い。 本問は、代表的な「曝露歴・背景と病原体」の組合せを正しく覚えているかを問う問題である。押さえるべき組合せは次のとおりである。 ・HIV感染のリスクとなる性的接触歴(男性同性間の性的接触など)→ HIV感染症・AIDS → ニューモシスチス肺炎 ・温泉、循環式浴槽、加湿器、冷却塔(クーリングタワー)→ レジオネラ肺炎 ・鳥類(インコ、オウム、ハトなど)の飼育 → オウム病(Chlamydia psittaci) ・アルコール依存 → 肺炎桿菌(クレブシエラ)肺炎、誤嚥による嫌気性菌感染など ・出産前後の動物(ウシ・ヒツジ・ヤギ、ネコなど)との接触 → Q熱(Coxiella burnetii) これらを照らし合わせると、正しい組合せは同性愛とニューモシスチス肺炎、産褥期のネコとの接触とQ熱の2つである。他の3つは病原体の入れ替えによる誤りである。

選択肢考察

  1. ○a.  同性愛 ―― ニューモシスチス肺炎

    日本のHIV感染者の報告では、男性同性間の性的接触による感染が最も多くを占める。HIV感染が未治療のまま進行してCD4陽性Tリンパ球数が200/μL未満に低下すると、真菌であるPneumocystis jiroveciによるニューモシスチス肺炎を発症しやすくなる。ニューモシスチス肺炎はAIDS指標疾患の一つであり、日本ではHIV感染が判明するきっかけとなる疾患として最も多い。したがって、この病歴と疾患の組合せは正しい。なお、同性愛そのものが疾患の原因なのではなく、HIV感染のリスクとなる性行動を介して関連するという理解が重要である。

  2. ×b.  温泉旅行 ―― クラミジア肺炎

    温泉旅行や循環式浴槽の利用と関連する肺炎はレジオネラ肺炎である。レジオネラ属菌(主にLegionella pneumophila)は、温水環境でアメーバなどに寄生して増殖し、汚染された水のエアロゾル(細かい水しぶき)を吸入することで感染する。一方、クラミジア肺炎(Chlamydia pneumoniaeによる)はヒトからヒトへの飛沫感染で広がる非定型肺炎であり、温泉とは関連しない。

  3. ×c.  鳥類の飼育 ―― マイコプラズマ肺炎

    鳥類の飼育と関連するのは、Chlamydia psittaciによるオウム病である。インコやオウム、ハトなどの排泄物が乾燥して舞い上がったものを吸入して感染する人獣共通感染症であり、高熱、頭痛、比較的徐脈などを伴う重症肺炎をきたしうる。マイコプラズマ肺炎(Mycoplasma pneumoniae)はヒトからヒトへの飛沫感染で広がり、学童〜若年成人に多く、乾性咳嗽が長引くのが特徴であって、鳥類との接触は関係しない。

  4. ×d.  アルコール依存 ―― レジオネラ肺炎

    アルコール依存と古典的に結びつけられる肺炎は、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)による肺炎である。大葉性の広がりを示し、滲出物の重みで葉間裂が膨隆する所見や、粘稠な赤褐色(「カラントゼリー様」)の痰が特徴とされる。また、アルコール依存では意識レベル低下に伴う誤嚥から嫌気性菌による誤嚥性肺炎・肺膿瘍も起こりやすい。多量飲酒はレジオネラ症の危険因子の一つに挙げられることもあるが、レジオネラ肺炎と結びつける病歴としては温泉・循環式浴槽などの水系への曝露が代表的であり、本問の組合せとしては不適切である。

  5. ○e.  産褥期のネコとの接触 ―― Q 熱

    Q熱はCoxiella burnetiiによる人獣共通感染症である。この菌はウシ・ヒツジ・ヤギなどの家畜のほか、ネコなどのペットにも感染し、妊娠・出産期の動物の胎盤で著しく増殖する。出産時に胎盤や羊水、分娩時の排出物とともに大量の菌が環境中に放出され、それを含む塵埃やエアロゾルを吸入してヒトが感染する。そのため、出産直後(産褥期)のネコとの接触はQ熱の重要な曝露歴となる。急性Q熱はインフルエンザ様症状、肺炎、肝炎などを示し、慢性化すると心内膜炎を起こすことがある。

肺炎の原因推定に役立つ病歴のまとめ

・鳥類(インコ、オウム、ハト等)の飼育・接触: オウム病(Chlamydia psittaci)。鳥の糞の吸入では、真菌のクリプトコックスや、鳥関連過敏性肺炎(鳥飼病)も鑑別に入る。 ・温泉、循環式浴槽、加湿器、冷却塔、腐葉土: レジオネラ症。高熱、比較的徐脈、意識障害、下痢、低ナトリウム血症、肝機能障害、CK上昇などを伴いやすい。尿中抗原検査が迅速診断に有用である。βラクタム系は無効で、ニューキノロン系やマクロライド系を用いる。 ・出産前後の動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ、ネコ): Q熱(Coxiella burnetii) ・野ウサギの処理: 野兎病(Francisella tularensis) ・ネズミの排泄物: ハンタウイルス感染症 ・アルコール依存: 肺炎桿菌、誤嚥による嫌気性菌、結核 ・HIV感染のリスクのある性的接触歴: ニューモシスチス肺炎、結核、サイトメガロウイルス肺炎など ・インフルエンザ罹患後: 黄色ブドウ球菌、肺炎球菌による二次性細菌性肺炎 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD): インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎球菌 ・人工呼吸器管理・長期入院: 緑膿菌、MRSAなど院内感染の起因菌

ニューモシスチス肺炎の要点

原因はPneumocystis jirovecii(真菌に分類される)。HIV感染者ではCD4数200/μL未満で発症リスクが高まるほか、ステロイドや免疫抑制薬の使用者、臓器移植後、血液悪性腫瘍などの免疫不全者にも発症する。乾性咳嗽、発熱、労作時の息切れで始まり、胸部CTで両側びまん性のすりガラス影を示す。血清β-D-グルカン上昇、LDH上昇、低酸素血症がみられる。診断は気管支肺胞洗浄液や喀痰(誘発痰)での菌体の証明(Grocott染色など)やPCRで行う。治療・予防の第一選択はST合剤であり、重症の低酸素血症を伴うHIV患者では副腎皮質ステロイドを併用する。

Q熱の要点

病原体Coxiella burnetiiは偏性細胞内寄生性のグラム陰性小桿菌で、環境中で長期間生存できる。少量の吸入でも感染が成立する。日本では感染症法の4類感染症に指定されている。治療にはドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬を用いる。

POINT

・病歴から原因微生物を推定する典型的な組合せを覚える。 ・HIV感染リスクのある性的接触歴 → AIDS → ニューモシスチス肺炎(CD4<200/μL) ・温泉・循環式浴槽 → レジオネラ肺炎 ・鳥類の飼育 → オウム病(Chlamydia psittaci) ・アルコール依存 → 肺炎桿菌(クレブシエラ)肺炎、誤嚥性肺炎 ・出産前後のネコ・家畜との接触 → Q熱(Coxiella burnetii) ・これらの多くはβラクタム系抗菌薬が無効な非定型病原体であり、病歴聴取が治療選択に直結する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。