「胸やけ」と「呑酸」が語るもの―GERDの典型症状と見逃してはいけない警告サイン
第107回医師国家試験 D問題 第16問
国試問題にチャレンジ
成人の胃食道逆流症の典型的な症状はどれか。2つ選べ。
- a.呑酸
- b.胸やけ
- c.体重減少
- d.空腹時痛
- e.唾液分泌過多
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胃食道逆流症(GERD)は、下部食道括約筋の機能低下や食道裂孔ヘルニア、腹圧上昇などにより胃内容物が食道へ逆流して生じ、典型症状は胸骨裏の焼けるような不快感である「胸やけ」と、酸っぱい液体がこみ上げる「呑酸」です。空腹時痛は十二指腸潰瘍に特徴的であり、体重減少・嚥下困難・吐血・貧血などは悪性疾患を疑う警告症状として速やかな内視鏡検査の対象になります。GERDには慢性咳嗽、喘息悪化、嗄声、非心臓性胸痛といった食道外症状もあり、他科の症状として現れることがあります。治療は生活習慣の改善と酸分泌抑制薬が中心で、長期の逆流はバレット食道から食道腺癌のリスクにもつながります。典型症状と警告症状を見分ける力は、日常診療でよく出会う胸やけの訴えに適切に対応するための基本です。
解答・解説
正解はa, bです
胃食道逆流症(GERD: gastroesophageal reflux disease)は、胃の内容物(主に胃酸、ときに胆汁や膵液を含む十二指腸液)が食道へ逆流することで、不快な症状や食道粘膜の障害を生じる病態の総称である。内視鏡で食道粘膜にびらん・潰瘍(粘膜傷害)を認めるものを逆流性食道炎、症状はあるが粘膜傷害を認めないものを非びらん性胃食道逆流症(NERD)と呼ぶ。 逆流を防ぐしくみの中心は下部食道括約筋(LES)である。LESの一過性弛緩の増加や圧低下、食道裂孔ヘルニア、腹圧の上昇(肥満・妊娠・前かがみ姿勢)、胃酸分泌の増加などにより逆流が起こりやすくなる。 逆流した酸が食道粘膜の知覚神経を刺激すると、胸骨の裏側が焼けるような感覚(胸やけ)が生じ、酸っぱい液体が咽頭や口の中まで上がってくる感覚(呑酸)が生じる。この2つがGERDの典型症状として定義上も位置づけられている。本問は、この典型症状と、他の上部消化管疾患に特徴的な症状や警告症状とを区別できるかを問うている。
選択肢考察
- ○a. 呑酸
呑酸(どんさん)とは、逆流した胃酸などの酸っぱい、あるいは苦い液体が咽頭や口腔内までこみ上げてくる症状である。胃内容物が食道を越えて口側まで逆流していることを直接示す症状であり、胸やけと並ぶGERDの典型症状である。食後や前かがみ、臥位で出現・増悪しやすい。
- ○b. 胸やけ
胸やけは、胸骨の裏側(前胸部)に焼けるような、あるいはしみるような不快感が生じ、みぞおちから胸の上方へ広がるように感じる症状である。逆流した胃酸が食道粘膜の知覚神経を刺激することで生じると考えられている。脂肪の多い食事や過食の後、臥位や前屈位で悪化しやすく、GERDの最も代表的な症状である。
- ×c. 体重減少
体重減少はGERDの典型症状ではない。むしろ肥満は腹圧を高めて逆流を助長するため、減量はGERDの生活指導の一つである。上部消化管症状に原因不明の体重減少、嚥下困難、吐血・下血、貧血などが伴う場合は「警告症状(アラームサイン)」とみなし、食道癌や胃癌などの悪性疾患を除外するために速やかに内視鏡検査を行う必要がある。
- ×d. 空腹時痛
上腹部の空腹時痛や夜間痛は、十二指腸潰瘍に特徴的な症状である。十二指腸潰瘍では空腹時に胃酸が潰瘍面を刺激して痛み、食事を摂ると胃酸が中和されて軽快する傾向がある。これに対し胃潰瘍では食後に痛みが出やすい。GERDの症状はむしろ食後や臥位で出やすく、空腹時痛は典型症状に当たらない。
- ×e. 唾液分泌過多
唾液分泌過多(流涎)は、口内炎などの口腔内疾患、薬剤(コリン作動薬など)、パーキンソン病などの神経疾患、有機リン中毒のようなコリン作動性の亢進などでみられる症状である。酸の逆流に対する反射として唾液が急に増える現象(water brash)が知られてはいるが、GERDの典型症状として扱われるものではない。
GERDの症状の整理
1. 典型症状(食道症状): 胸やけ、呑酸 2. その他の食道症状: 胸痛(狭心症に似ることがあり、心疾患との鑑別が重要)、つかえ感、嚥下痛 3. 食道外症状: 逆流物が咽喉頭や気道に達することで生じる。咽喉頭の違和感・異物感、嗄声(声がれ)、慢性咳嗽(特に夜間の乾いた咳)、気管支喘息の誘発・悪化、中耳炎様の耳の症状、歯の酸蝕など
GERDの危険因子
肥満、食道裂孔ヘルニア、高脂肪食・過食、就寝前の食事、喫煙、飲酒、妊娠、前かがみの姿勢、高齢者の円背、LES圧を下げる薬剤(カルシウム拮抗薬、硝酸薬、抗コリン薬など)。ヘリコバクター・ピロリ除菌後に胃酸分泌が回復してGERDが顕在化することもある。
診断
典型症状があればGERDを強く疑う。問診票(Fスケールなど)が補助に用いられる。内視鏡検査では食道粘膜傷害の程度をロサンゼルス分類(グレードA〜D、傷害を認めないものはグレードN・M)で評価する。症状はあるのに粘膜傷害がない場合はNERDと診断する。プロトンポンプ阻害薬(PPI)を短期間投与して症状が改善するかをみるPPIテストも診断の参考になる。
治療
生活習慣の改善(減量、就寝前2〜3時間の食事を避ける、頭側を高くして寝る、禁煙、節酒、脂肪の多い食事を控えるなど)と、酸分泌抑制薬(PPIやカリウムイオン競合型アシッドブロッカー〈P-CAB〉であるボノプラザン)が中心である。内科治療に抵抗する例や大きな食道裂孔ヘルニアを伴う例では、腹腔鏡下噴門形成術(Nissen手術など)が検討される。
合併症
長期の逆流により、食道狭窄、出血、バレット食道(食道下部の扁平上皮が円柱上皮に置き換わった状態)を生じることがある。バレット食道は食道腺癌の発生母地となる。
POINT
・GERDの典型症状は「胸やけ」と「呑酸」である。 ・食道外症状として慢性咳嗽、喘息、嗄声、咽喉頭違和感、非心臓性胸痛がある。 ・体重減少、嚥下困難、吐血・下血、貧血は警告症状であり、悪性疾患除外のため内視鏡検査を行う。 ・空腹時痛・夜間痛は十二指腸潰瘍に特徴的である。 ・肥満は危険因子であり、減量は治療の一部となる。
