膿は「出す」が鉄則―急性膿胸の初期治療は抗菌薬と胸腔ドレナージの二本柱
第107回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
急性膿胸に対する初期治療で適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.気管切開
- b.胸郭形成術
- c.肺葉切除術
- d.抗菌薬の投与
- e.胸腔ドレナージ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
膿胸は胸膜腔に膿性胸水が貯留した状態で、多くは肺炎随伴性胸水への細菌侵入により生じ、発症からおおむね3か月以内を急性膿胸と呼びます。膿は抗菌薬だけでは治りにくいため、急性膿胸の初期治療は嫌気性菌も考慮した抗菌薬の全身投与と、胸腔ドレナージによる排膿の2本柱です。多房化してドレナージが不十分なら線維素溶解薬の胸腔内注入や胸腔鏡下手術を追加し、胸郭形成術や肺剥皮術などの侵襲的手術は慢性化した例で検討されます。肺葉切除術は肺実質の病変に対する手術、気管切開は気道管理の手技であり、いずれも膿胸の初期治療には当たりません。「急性期の初期治療」と「慢性化後の外科治療」を区別し、早期排膿で慢性化を防ぐという考え方は、膿瘍性疾患全般に通じる臨床の基本です。
解答・解説
正解はd, eです
膿胸とは、胸膜腔(壁側胸膜と臓側胸膜の間のすき間)に膿性の胸水が貯留した状態である。多くは細菌性肺炎や肺膿瘍に伴う胸水(肺炎随伴性胸水)に細菌が侵入して生じるほか、胸部手術後、外傷、食道穿孔などが原因となる。発症からおおむね3か月以内のものを急性膿胸、それを超えて遷延したものを慢性膿胸と呼ぶ。 急性膿胸の治療の柱は「感染のコントロール」と「膿の排出」の2つである。胸腔内に溜まった膿は抗菌薬だけでは十分に治癒せず、閉鎖腔の膿瘍と同じく排膿が不可欠である。したがって、原因菌を想定した抗菌薬の全身投与と、胸腔ドレーンを挿入して膿を体外へ出す胸腔ドレナージを速やかに組み合わせることが初期治療の基本となる。 一方、胸郭形成術や肺葉切除術といった侵襲の大きな手術は、慢性化して肺が再膨張しなくなった場合や肺内に切除すべき病変がある場合に検討されるものであり、初期治療には該当しない。「急性期の初期治療」と「慢性化した後の外科治療」を区別して考えることが本問の要点である。
選択肢考察
- ×a. 気管切開
気管切開は、長期間の人工呼吸管理が必要な場合、上気道狭窄・閉塞がある場合、自力で痰を出せず頻回の吸引を要する場合、意識障害で気道確保が必要な場合などに行われる気道管理の手技である。膿胸は胸膜腔の感染症であり、気道の問題を解決する処置である気管切開は治療として意味をもたない。
- ×b. 胸郭形成術
胸郭形成術は、肋骨を切除して胸壁を陥没させ、膿胸腔(死腔)を物理的につぶして閉鎖する手術である。肺が厚い胸膜の皮(胸膜胼胝)に覆われて再膨張できない慢性膿胸や、気管支断端瘻を伴う難治例などが適応となる。胸郭の変形や呼吸機能の低下を伴う侵襲の大きな手術であり、急性膿胸の初期治療として選ぶものではない。
- ×c. 肺葉切除術
肺葉切除術は、肺癌などの悪性腫瘍、限局した気管支拡張症、保存的治療に反応しない肺膿瘍など、肺実質そのものに病変がある場合に行う手術である。膿胸の主病変は肺ではなく胸膜腔にあるため、肺葉を切除しても膿の貯留は解決しない。急性膿胸の初期治療としては不適切である。
- ○d. 抗菌薬の投与
膿胸は細菌感染症であり、抗菌薬の全身投与は初期治療として欠かせない。市中発症では肺炎球菌などの連鎖球菌、嫌気性菌、黄色ブドウ球菌などが原因となることが多く、嫌気性菌を含めてカバーする薬剤(例: βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬)を経験的に開始し、胸水の培養結果が得られたら感受性に合わせて調整する。投与期間は数週間に及ぶことが多い。ただし抗菌薬単独では膿の排出ができないため、胸腔ドレナージと併用する。
- ○e. 胸腔ドレナージ
胸腔内に溜まった膿は、閉鎖された膿瘍と同様に排膿しなければ治癒しにくい。胸腔ドレーンを挿入して膿を持続的に排出する胸腔ドレナージは、抗菌薬投与と並ぶ急性膿胸の初期治療の基本である。膿の排出により胸腔内の感染源が減り、肺の再膨張が促され、慢性化の予防にもつながる。膿が粘稠であったり隔壁で多房化してドレナージが不十分な場合は、胸腔内への線維素溶解薬(ウロキナーゼなど)の注入や、胸腔鏡下の掻爬(VATS: 胸腔鏡補助下手術)が追加される。
膿胸の定義と分類
胸膜腔に膿が貯留した状態を膿胸という。発症から約3か月以内を急性膿胸、3か月以上経過したものを慢性膿胸と区別する。瘻孔の有無により、気管支や皮膚との交通をもつ有瘻性膿胸と、交通のない無瘻性膿胸に分けることもある。
肺炎随伴性胸水から膿胸への進行
肺炎に伴う胸水は、次の3段階で進行すると整理される。 1. 滲出期: 炎症により胸膜の透過性が亢進し、比較的さらさらした無菌性の胸水が溜まる。 2. 線維素膿性期: 細菌が侵入し、フィブリンが析出して隔壁ができ、胸水が多房化する。胸水のpH低下、グルコース低下、LDH上昇がみられる。 3. 器質化期: 線維芽細胞が増殖して胸膜が厚くなり、肺を覆う硬い皮(胸膜胼胝)が形成されて肺の再膨張が妨げられる。これが慢性膿胸につながる。
胸腔ドレナージを要する胸水の目安
胸水が肉眼的に膿である場合、グラム染色や培養で細菌が検出される場合、胸水pHが7.2未満の場合、胸水グルコースが60 mg/dL未満の場合などは、ドレナージの適応と判断される(複雑性肺炎随伴性胸水・膿胸)。
急性膿胸の治療の流れ
1. 抗菌薬の全身投与と胸腔ドレナージ(初期治療) 2. 多房化してドレナージ不良であれば、胸腔内線維素溶解療法や胸腔鏡下手術(掻爬・剥皮) 3. 慢性化した場合は、肺剥皮術(胸膜胼胝を剥がして肺を再膨張させる)、胸郭形成術、有茎筋弁や大網による充填術、開窓術など
慢性膿胸の合併症
長期経過した慢性膿胸(特に結核性膿胸後)では、膿胸関連リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、EBウイルス関連)の発生に注意が必要である。
POINT
・急性膿胸の初期治療は「抗菌薬の全身投与」と「胸腔ドレナージ」の2本柱である。 ・膿は抗菌薬だけでは治りにくく、排膿が必須である。 ・ドレナージ不良(多房化)には線維素溶解薬の胸腔内注入や胸腔鏡下手術を追加する。 ・胸郭形成術や肺剥皮術は慢性膿胸で考慮する外科治療であり、初期治療ではない。 ・膿胸は胸膜腔の疾患であり、肺葉切除術の対象ではない。
