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MSSAの蜂巣炎に「最強の薬」は要らない―セファゾリンが第一選択になる理由

第107回医師国家試験 D問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第107回 D問題 第11問

メチシリン感受性黄色ブドウ球菌による蜂巣炎〈蜂窩織炎〉の第一選択薬はどれか。

  1. a.セファゾリン
  2. b.バンコマイシン
  3. c.アジスロマイシン
  4. d.クリンダマイシン
  5. e.テトラサイクリン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、原因菌がメチシリン感受性黄色ブドウ球菌、つまりMSSAと分かっている蜂巣炎に、どの抗菌薬を選ぶかという問題だ。ポイントは「効く薬」の中から「最もふさわしい薬」を選ぶという抗菌薬選択の原則。まず、蜂巣炎がどんな病気か確認しておこう。
医学生医学生
真皮の深いところから皮下脂肪織にかけての細菌感染で、境界のはっきりしない発赤や腫脹、熱感、痛みが出る病気だと皮膚科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。下腿に多くて、足白癬などで皮膚のバリアが壊れたところから菌が入ることが多い。原因菌は主に黄色ブドウ球菌と化膿レンサ球菌の2つだ。では、黄色ブドウ球菌を確実に倒すには何を使う?
医学生医学生
黄色ブドウ球菌といえばバンコマイシンのイメージが強いです。一番強力そうなので、それを選びたくなります。
ドクタードクター
多くの人が引っかかるところだね。バンコマイシンはMRSA、つまりメチシリン耐性株に対する第一選択薬だ。MSSAにも効くことは効くけれど、殺菌作用はβラクタム系薬より弱く、MSSA菌血症ではセファゾリンなどに比べて治療成績が劣ることが知られている。腎障害の副作用があって血中濃度モニタリングも必要だし、乱用すればバンコマイシン耐性腸球菌のような耐性菌を増やしてしまう。
医学生医学生
「強い薬」ほど良いわけではないんですね。では、MSSAには普通のペニシリンでいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこがもう一つの落とし穴。黄色ブドウ球菌の大部分はペニシリナーゼというβラクタマーゼを産生するから、ペニシリンGやアンピシリンは分解されて効かない。だから、ペニシリナーゼで分解されにくいβラクタム系薬を使う。海外ではナフシリンやオキサシリンなどの抗ブドウ球菌ペニシリンが使われるけれど、日本では単剤の注射薬がほとんど使えないので、第一世代セファロスポリンのセファゾリンが標準なんだ。
医学生医学生
セファゾリンなら、もう一つの原因菌のレンサ球菌にも効きますよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。セファゾリンはMSSAとレンサ球菌の両方に殺菌的に作用し、しかもグラム陰性桿菌や嫌気性菌へのスペクトラムは比較的狭い。耐性菌を選択しにくいという意味でも理想的だ。経口に切り替えるならセファレキシンが同じ立ち位置になる。
医学生医学生
微生物学の実習で、抗菌薬は「感受性があって、狭域で、殺菌的なものを選ぶ」と教わったのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の核心だよ。では残りの薬も見ていこう。クリンダマイシンはどう思う?
医学生医学生
グラム陽性球菌に効くので、ペニシリンアレルギーの人に使うと聞いたことがあります。
ドクタードクター
その理解で正しい。βラクタムにアレルギーがある場合の代替薬になり得るし、壊死性筋膜炎などでは毒素産生を抑える目的でβラクタムと併用もする。ただ静菌的で、誘導型耐性を含む耐性株が一定数あり、Clostridioides difficile感染症のリスクもあるから、第一選択ではないんだ。
医学生医学生
アジスロマイシンやテトラサイクリンは、マイコプラズマやクラミジアのような非定型病原体向けの薬という印象です。
ドクタードクター
その通り。どちらも静菌的で、ブドウ球菌やレンサ球菌では耐性株が多い。テトラサイクリン系は広域で、ブドウ球菌では耐性化も進んでいる。ちなみに同系統のドキシサイクリンやミノサイクリンは、市中感染型MRSAによる軽症の皮膚感染症で経口薬の選択肢に挙がることがある。
医学生医学生
MSSAなら第一世代セフェム、MRSAなら抗MRSA薬、という対応で整理すればいいんですね。
ドクタードクター
そう。背景も押さえておこう。MRSAはmecA遺伝子がコードする変異型ペニシリン結合蛋白、PBP2'をもつため、セフェムやカルバペネムを含むほぼすべてのβラクタムに耐性を示す。逆に言えば、感受性結果でMSSAと分かったら、初期に抗MRSA薬を使っていてもセファゾリンへ切り替えるde-escalationが原則だ。
医学生医学生
臨床実習の感染症カンファレンスで、培養結果が出た途端に指導医が抗菌薬を変えていたのはそういうことだったんですね。
ドクタードクター
その感覚は大事にしてほしい。もう一つ臨床で注意したいのは、急速に広がる、見た目に比べて痛みが激しい、紫斑や壊死がある、全身状態が悪いといった場合だ。そのときは壊死性筋膜炎を疑い、抗菌薬だけでなく緊急の外科的デブリドマンを検討する。膿瘍があれば切開排膿も必要になる。

まとめ

蜂巣炎は真皮深層から皮下脂肪織に及ぶ細菌感染症で、主な原因菌は黄色ブドウ球菌と化膿レンサ球菌です。原因菌がMSSAと判明している場合、ペニシリナーゼで分解されにくく殺菌的で比較的狭域、かつレンサ球菌もカバーする第一世代セファロスポリンのセファゾリンが第一選択となります。バンコマイシンはMRSA用の薬でMSSAにはβラクタムより効果が劣り、クリンダマイシンはβラクタムアレルギー時の代替薬、マクロライド系やテトラサイクリン系は耐性株が多く第一選択になりません。感受性が判明したら有効かつ狭域の薬へ切り替えるde-escalationの考え方は、耐性菌を増やさない適正な抗菌薬使用の基本であり、あらゆる感染症診療に通じます。

解答・解説

正解はaです

蜂巣炎〈蜂窩織炎〉は真皮深層から皮下脂肪組織に及ぶ急性の細菌感染症で、境界が不明瞭な発赤・腫脹・熱感・疼痛を示す。主な原因菌は黄色ブドウ球菌と化膿レンサ球菌(A群β溶血性レンサ球菌)である。 本問では原因菌がメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA:methicillin-susceptible Staphylococcus aureus)と特定されている。抗菌薬選択の原則は「感受性があり、できるだけスペクトラム(効く菌の範囲)が狭く、殺菌的で、臨床的有効性の実績が十分な薬」を選ぶことである。黄色ブドウ球菌の多くはペニシリナーゼ(ペニシリンを分解するβラクタマーゼ)を産生するため、ペニシリンGやアンピシリンは通常効かない。そこで、ペニシリナーゼで分解されにくいβラクタム系薬が第一選択となる。海外ではナフシリン、オキサシリン、クロキサシリンなどの抗ブドウ球菌ペニシリンも用いられるが、日本では単剤として使える注射薬がほとんどなく、第一世代セファロスポリンであるセファゾリン(経口ならセファレキシン)が標準である。 つまり「MSSAなら第一世代セフェム(または抗ブドウ球菌ペニシリン)、MRSAならバンコマイシンなどの抗MRSA薬」という対応関係を押さえれば、正解を導ける。

選択肢考察

  1. ○a.  セファゾリン

    第一世代セファロスポリン系の注射薬である。ブドウ球菌の産生するペニシリナーゼで分解されにくく、MSSAに対して殺菌的に強く作用する。一方でグラム陰性桿菌や嫌気性菌へのスペクトラムは比較的狭く、耐性菌を選択しにくい点でも望ましい。さらに蜂巣炎のもう一つの主要原因菌であるレンサ球菌にも有効であるため、両者を同時にカバーできる。MSSA感染症(皮膚軟部組織感染症、菌血症、骨髄炎など)の第一選択薬であり、正しい。

  2. ×b.  バンコマイシン

    グリコペプチド系抗菌薬で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の第一選択薬である。MSSAにも効果はあるが、殺菌作用はβラクタム系薬より弱く、MSSA菌血症ではセファゾリンや抗ブドウ球菌ペニシリンに比べ治療成績が劣ることが知られている。また腎障害などの副作用があり血中濃度モニタリング(TDM)が必要で、不必要な使用は耐性菌(バンコマイシン耐性腸球菌など)を増やす。したがってMSSAに対しては第一選択とならない。

  3. ×c.  アジスロマイシン

    マクロライド系抗菌薬で、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラなどの非定型病原体による感染症に主に用いられる。静菌的に作用し、黄色ブドウ球菌やレンサ球菌ではマクロライド耐性株が多いため、MSSAによる蜂巣炎の第一選択にはならない。

  4. ×d.  クリンダマイシン

    リンコマイシン系抗菌薬で、グラム陽性球菌や嫌気性菌に抗菌活性をもつ。毒素産生抑制作用があり、壊死性筋膜炎やトキシックショック症候群などではβラクタム系薬と併用される。βラクタム系薬にアレルギーがある患者の代替薬としてMSSAの皮膚軟部組織感染症に使われることもあるが、静菌的であること、耐性株(誘導型耐性を含む)が一定数あること、偽膜性腸炎(Clostridioides difficile感染症)のリスクがあることから、第一選択薬ではない。

  5. ×e.  テトラサイクリン

    テトラサイクリン系抗菌薬で、リケッチア、クラミジア、マイコプラズマなどの非定型病原体に広く用いられる、スペクトラムの広い静菌的な薬である。黄色ブドウ球菌では耐性化が進んでおり、MSSAに対する第一選択薬にはならない。なお同系統のドキシサイクリンやミノサイクリンは、市中感染型MRSAによる軽症皮膚感染症の経口薬の選択肢として挙げられることがある。

黄色ブドウ球菌と耐性化の歴史

ペニシリンGの普及後まもなく、ペニシリナーゼを産生してペニシリンを分解する黄色ブドウ球菌が増え、現在では大部分の株がペニシリンGに耐性である。これに対抗して、ペニシリナーゼで分解されないメチシリンなどのペニシリン系薬や、第一世代セファロスポリン(セファゾリンなど)が開発された。その後、βラクタム系薬との親和性が低い変異型ペニシリン結合蛋白(PBP2'、PBP2a、mecA遺伝子がコード)をもつ株が出現し、これがMRSAである。MRSAはセフェム系・カルバペネム系を含むほぼすべてのβラクタム系薬に耐性を示す。

MSSAとMRSAの治療薬

MSSA:セファゾリン(注射)、セファレキシン(経口)、抗ブドウ球菌ペニシリン(ナフシリン、オキサシリン、クロキサシリン。日本では単剤の注射薬は事実上使えない)。 MRSA:バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン、リネゾリド、テジゾリドなど。軽症の皮膚感染症ではST合剤、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、クリンダマイシンなどの経口薬が用いられることもある。

蜂巣炎の概要

下腿に好発し、足白癬などの皮膚バリア破綻が侵入門戸となることが多い。発熱や所属リンパ節腫脹を伴うことがある。原因菌はβ溶血性レンサ球菌と黄色ブドウ球菌が大半で、治療は両者に有効なセファゾリンやセファレキシンが中心となる。膿瘍形成があれば切開排膿を行う。急速な進行、激しい疼痛、皮膚の紫斑・壊死、全身状態の悪化がみられる場合は壊死性筋膜炎を疑い、緊急の外科的デブリドマンを検討する。

POINT

・MSSAの第一選択薬は第一世代セフェム(セファゾリン)または抗ブドウ球菌ペニシリンである。 ・MRSAの第一選択はバンコマイシンなどの抗MRSA薬であり、MSSAには用いない(βラクタム系薬より効果が劣る)。 ・蜂巣炎の主な原因菌は黄色ブドウ球菌とレンサ球菌で、セファゾリンは両者をカバーする。 ・マクロライド系・テトラサイクリン系は非定型病原体向けで、ブドウ球菌には耐性株が多い。 ・感受性が判明したら、有効かつ狭域の薬へ切り替える(de-escalation)のが原則である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。