StudyMed医師国家試験

誰もいない外来で泣く婚約中のSLE患者―医師がかけるべき「最初の一言」

第107回医師国家試験 C問題 第16問

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第107回 C問題 第16問

24歳の女性。全身性エリテマトーデス〈SLE〉再燃のため入院した。17歳の時にSLEと診断され,副腎皮質ステロイドの大量投与を受け寛解した。その後大学を卒業し,現在婚約中である。今回入院時は腎症を合併しており,免疫抑制薬による治療について婚約者同席で説明を受け,同意のもと治療が開始された。夕食後に部屋にいなかったため探すと,誰もいない外来で泣いているのを発見した。  心理状態を考慮した医師の対応として適切なのはどれか。

  1. a.必ず治ると保証する。
  2. b.泣いてはいけないと叱る。
  3. c.強い心で病気に勝つように励ます。
  4. d.共感的態度で共に現状を受け止める。
  5. e.後ろ向きな言葉があれば逐一否定する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病気の再燃に直面して一人で泣いている患者さんに、医師としてどう向き合うかを問う問題だ。医学的な知識よりも、患者さんの心理をどう読み取り、どんな態度で接するかがポイントになる。まず、この人がどんな気持ちでいるか想像してみよう。
医学生医学生
17歳で発症して、そこから寛解して大学も卒業して婚約までしたのに、また悪くなってしまった……というショックが大きいと思います。
ドクタードクター
そうだね。順調に人生が進んでいた時期の再燃で、しかも今回は腎症を合併していて、以前より治療も重くなる。免疫抑制薬には感染症などの副作用があり、薬によっては妊娠を避ける必要があったり、卵巣機能に影響したりするものもある。婚約者同席で説明を受けたということは、結婚や出産といった将来への不安も強く意識したはずだ。
医学生医学生
それで、病室ではなく誰もいない外来でこっそり泣いていたんですね。周りに気持ちを打ち明けられずにいるように見えます。
ドクタードクター
いい読み取りだ。つらい気持ちを一人で抱え込んでいる状態だね。では、こういう場面で医師に求められるのは何だろう。
医学生医学生
医療面接の講義で「共感的態度」が大事だと習いました。OSCEでも「それはおつらいですね」と言う練習をした記憶があります。
ドクタードクター
まさにそれが答えの軸だ。共感的態度で、患者さんと共に現状を受け止める対応が最も適切だよ。まず「おつらいですよね」「一人で考え込んでいたんですね」と声をかけて、気持ちを否定せずに受け止める。話したいことがあれば耳を傾け、「困っていることは何でも話してください」「一緒に治療を進めていきましょう」と、支え続ける意思を伝えるんだ。
医学生医学生
でも、正直なところ「必ず治りますよ」と言ってあげたほうが安心するんじゃないかとも思ってしまいます。
ドクタードクター
その気持ちはよくわかる。でもSLEは寛解と再燃を繰り返しうる慢性疾患で、ループス腎炎を合併した今回は腎予後も含めて確約できない。根拠のない保証は、経過が思わしくなかったときに信頼を大きく損なうし、何年も病気と付き合ってきた本人には空虚に響いて、かえって「わかってもらえていない」と孤立感を強めかねないんだ。
医学生医学生
泣いてはいけないと叱るのは論外として、「強い心で病気に勝とう」と励ますのもダメなんでしょうか。精神科の実習で、うつの人に「頑張れ」は禁句だと聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。気持ちを受け止める前に一方的に励ますと、「頑張れない自分が悪い」という自責感や孤立感を強めることがある。励ましそのものが常に悪いわけではないけれど、順序が大事。まず感情を受け止めて、信頼関係ができてから「一緒に取り組もう」と支援の姿勢を示すんだ。泣くことは自然な感情表出だから、叱って抑え込めば本音を話してもらえなくなる。
医学生医学生
後ろ向きな言葉を毎回否定するのも、前向きにさせようという善意からかもしれませんが……。
ドクタードクター
そこも落とし穴だね。「結婚できないかもしれない」といった言葉は不安の表れで、口にできること自体が気持ちの整理に役立つ。逐一否定されると、患者さんは悩みを言えなくなる。いったん受け止めて、その背後にある不安が何なのかを聴き取ることが大切なんだ。
医学生医学生
保証も叱責も激励も否定も、結局は患者さんの気持ちより医療者側の言いたいことが先に来ている、ということですね。
ドクタードクター
見事なまとめだ。共感的・受容的・支持的・理解的態度という医療面接の基本は、こういう場面でこそ生きる。気持ちが理解されたと感じれば、副作用や妊娠・出産、婚約者との関係といった具体的な不安も口に出しやすくなり、治療への主体的な参加にもつながる。
医学生医学生
臨床の場面で、ほかに気をつけておくことはありますか。
ドクタードクター
SLE患者さんの気分の変化には、心理的な反応だけでなく、SLEそのものによる中枢神経・精神症状、いわゆるNPSLEや、高用量ステロイドによる不眠・躁・抑うつなどの精神症状も鑑別に挙がる。だから寄り添いながらも経過をよく観察し、必要なら精神科や心療内科と連携することが大事だ。また、SLEは妊娠可能年齢の女性に多いから、寛解期なら計画的な妊娠も可能とされることを含め、薬剤選択と挙児希望について丁寧に情報提供し、意思決定を支えていく必要がある。
医学生医学生
悪い知らせを受けた後の否認や抑うつも自然な反応だと理解して、そこを否定せずに寄り添うということですね。SPIKESでも感情への共感的応答が一つの段階になっていました。
ドクタードクター
その通り。医学的に正しい治療を選ぶことと同じくらい、患者さんが一人で抱え込まないようにすることも医師の大切な仕事だと覚えておこう。

まとめ

病気の再燃や重い治療の説明を受けた患者が一人で泣いているときは、まず共感的態度で感情を受け止め、共に現状に向き合う姿勢を示すことが最も適切です。「必ず治る」という根拠のない保証、泣くことへの叱責、気持ちを受け止める前の一方的な激励、後ろ向きな発言の逐一の否定は、いずれも信頼関係を損ない、患者を孤立させるおそれがあります。共感的・受容的・支持的・理解的態度は医療面接の基本であり、患者が不安を言葉にできる関係づくりが治療への主体的参加にもつながります。SLE患者の気分変化では、心理的反応に加えてNPSLEやステロイドによる精神症状も念頭に置き、必要に応じて精神科と連携することが重要です。若年女性に多いSLEでは、妊娠・出産を含めた将来設計への配慮も欠かせない視点です。

解答・解説

正解はdです

患者の置かれた状況の整理

・24歳女性。17歳でSLE(全身性エリテマトーデス:自己抗体が全身の臓器を障害する膠原病)を発症し、副腎皮質ステロイド大量療法で寛解に至った。 ・その後、大学を卒業し婚約するなど、生活が順調に進んでいた時期に再燃した。 ・今回は腎症(ループス腎炎)を合併しており、ステロイドに加えて免疫抑制薬による治療が必要な、以前より重い状態である。 ・治療の説明は婚約者同席で行われた。免疫抑制薬には感染症などの副作用があり、薬剤によっては妊娠を避ける必要があったり(ミコフェノール酸モフェチルの催奇形性など)、卵巣機能障害を来したり(シクロホスファミド)するため、結婚や出産といった将来設計への不安も大きいと推測される。 ・夕食後に病室を離れ、誰もいない外来で一人泣いていた。つらい気持ちを周囲に打ち明けられず、一人で抱え込んでいる状態と読み取れる。

心理状態の推測

再燃という「病気が再び悪くなった」という事実、治療の副作用や予後への不安、婚約者との将来への心配が重なり、強い喪失感や悲嘆、抑うつ的な気分に陥っていると考えられる。加えて、SLE自体が中枢神経症状(精神症状を含むいわゆるNPSLE)を来しうること、ステロイドが気分障害などの精神症状(ステロイド精神病)を誘発しうることも念頭に置き、今後の精神状態の変化に注意を払う必要がある。

医師に求められる対応の考え方

この場面で必要なのは、医学的な情報を追加することでも、気持ちを切り替えさせることでもなく、患者の感情をそのまま受け止め、「あなたは一人ではない」と伝えることである。医療面接や患者対応の基本は、共感的・受容的・支持的な態度であり、患者の言葉や涙を否定せず、根拠のない保証や一方的な励ましをしないことが重要となる。

選択肢考察

  1. ×a.  必ず治ると保証する。

    SLEは寛解と再燃を繰り返しうる慢性疾患であり、ループス腎炎を合併した今回の再燃では、腎機能の予後も含めて先行きを確約することはできない。医学的根拠のない「必ず治る」という保証は、一時的に安心させても、経過が思わしくなかった場合に医師への信頼を大きく損なう。また、7年間SLEと付き合ってきた患者自身が病気の性質をよく知っているため、空虚な言葉として受け取られ、かえって「わかってもらえていない」という孤立感を強めるおそれがある。不適切である。

  2. ×b.  泣いてはいけないと叱る。

    泣くことは、つらい現実に直面した人の自然な感情表出である。それを叱って抑え込むと、患者は感情を表に出せなくなり、医療者に本音を話さなくなる。患者の感情を否定する対応は、受容的態度に真っ向から反し、信頼関係を壊すだけである。不適切である。

  3. ×c.  強い心で病気に勝つように励ます。

    悲嘆や抑うつ的な状態にある人に対し、気持ちを受け止める前に「強い心で頑張れ」と一方的に励ますと、「頑張れない自分が悪い」という自責感や、「気持ちをわかってもらえない」という孤立感を強めることがある。特にうつ状態が疑われる場合、安易な激励は避けるべきとされている。励ましそのものが常に悪いわけではないが、まず感情を受け止め、信頼関係ができてから「一緒に治療に取り組もう」と支援の姿勢を示すのが順序である。不適切である。

  4. ○d.  共感的態度で共に現状を受け止める。

    まず「おつらいですよね」「一人で考え込んでいたのですね」などと声をかけ、患者の気持ちを否定せずに受け止める(共感的・受容的態度)。そのうえで、患者が話したいことがあれば傾聴し、「困っていることがあれば何でも話してください」「一緒に治療を進めていきましょう」と、医療者が支え続ける意思を伝える(支持的態度)。患者は自分の気持ちが理解されたと感じることで孤立感が和らぎ、不安や疑問(副作用、妊娠・出産、婚約者との関係など)を言葉にしやすくなる。それが今後の治療への主体的な参加にもつながるため、最も適切な対応である。

  5. ×e.  後ろ向きな言葉があれば逐一否定する。

    「もう駄目だ」「結婚できないかもしれない」といった後ろ向きの言葉は、患者が抱える不安の表れであり、それを口にできること自体が気持ちの整理に役立つ。いちいち否定されると、患者は本音を言えなくなり、悩みを一人で抱え込むことになる。否定せずにいったん受け止め、その背後にある不安が何かを聴き取ることが大切である。不適切である。

医療面接・患者対応で求められる基本的態度

・共感的態度:患者の感情を理解し、理解したことを言葉や態度で伝える(例:「それはおつらいですね」)。 ・受容的態度:患者の感情や考えを、善悪の判断をせずにそのまま受け入れる。 ・支持的態度:患者を支え続ける意思を示し、協力して問題に取り組む姿勢を伝える。 ・理解的態度:患者の話を丁寧に聴き、その人の立場から状況を理解しようとする。

避けるべき対応

・根拠のない保証(「絶対に大丈夫」「必ず治る」) ・感情の否定や叱責(「泣いても仕方ない」「泣いてはいけない」) ・時期尚早な一方的激励(「頑張れ」「気の持ちようだ」) ・患者の発言の逐一の否定や説得

悪い知らせを受けた後の心理

重い病気の診断や再燃を知らされた患者は、否認、怒り、抑うつなど様々な反応を示す(キューブラー・ロスの死の受容過程に代表される心理段階が知られている)。これらは自然な反応であり、医療者はその段階を否定せず寄り添うことが求められる。悪い知らせの伝え方の手法(SPIKESなど)でも、患者の感情に共感的に応答すること(Emotions with empathy)が重要な段階として位置づけられている。

SLE患者で精神状態の変化をみたときの注意点

・心理的反応としての抑うつ・不安 ・NPSLE(neuropsychiatric SLE:SLEによる中枢神経・精神症状):うつ病、精神病症状、けいれん、意識障害など ・ステロイドによる精神症状:不眠、多幸、躁状態、抑うつ、精神病症状など。高用量で起こりやすい これらを区別するために経過観察を続け、必要に応じて精神科・心療内科と連携する。

若年女性SLE患者と妊娠

SLEは妊娠可能年齢の女性に多い。病勢が安定した寛解期であれば計画的な妊娠・出産は可能とされるが、活動期の妊娠は母体・胎児のリスクが高い。また、シクロホスファミドは卵巣機能障害、ミコフェノール酸モフェチルは催奇形性があるなど、治療薬の選択が挙児希望に影響するため、結婚・出産の希望を含めた丁寧な情報提供と意思決定支援が重要である。

POINT

・つらい状況で泣いている患者には、まず共感的態度で感情を受け止め、共に現状に向き合う姿勢を示す。 ・「必ず治る」などの根拠のない保証は信頼関係を損なうため行わない。 ・叱責、感情の否定、一方的な激励、後ろ向きな発言の逐一の否定は不適切。 ・医療面接のキーワード:共感的・受容的・支持的・理解的態度。 ・SLE患者の抑うつでは、心理的反応に加え、NPSLEやステロイドによる精神症状も鑑別に置く。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。