痰が出ないなら胃液を採れ―「感染」と「発病」を見分ける結核検査の考え方
第107回医師国家試験 C問題 第11問
国試問題にチャレンジ
結核の検査について適切なのはどれか。
- a.痰が出ないときは胃液を採取し検体とする。
- b.末梢血で白血球増多が著明な場合は結核の可能性が低い。
- c.ツベルクリン反応が陽性であれば直ちに治療を開始する。
- d.隔離の必要性を決めるため気管支ファイバースコープで痰を採取する。
- e.結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉が陽性であれば直ちに治療を開始する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
結核の確定診断は検体から結核菌を証明することでなされ、喀痰が得られない場合は、酸に強い抗酸菌の性質を利用して早朝空腹時の胃液を検体とします。誘発喀痰も有用です。ツベルクリン反応やIGRAは感染の有無をみる検査で、IGRAはBCGの影響を受けず特異度が高いものの、いずれも活動性結核と潜在性感染を区別できないため、陽性だけで治療は開始しません。隔離の要否は喀痰塗抹検査(通常3回)で判断し、気管支鏡は飛沫核拡散のリスクがあるため隔離判断の目的では行わず、白血球数も結核の否定には使えません。検査ごとの「何がわかり、何がわからないか」を整理することは、診断の確定から感染対策、潜在性結核感染症の管理まで、結核診療全体の土台となります。
解答・解説
正解はaです
結核の診断は、症状(2週間以上続く咳・痰、微熱、寝汗、体重減少など)や胸部エックス線写真(上肺野の浸潤影や空洞など)から疑うことに始まり、最終的には検体から結核菌を証明することで確定する。結核菌の証明には、塗抹検査(抗酸菌染色で菌を顕微鏡で見る)、培養検査、核酸増幅法(PCRなど)が用いられる。 一方、ツベルクリン反応やIGRA(インターフェロンγ遊離試験)は、結核菌に対する細胞性免疫があるかどうか、すなわち「結核菌に感染したことがあるか」をみる検査である。感染していても発病しているとは限らないため、これらが陽性というだけでは活動性結核とは診断できず、治療開始の根拠にもならない。 また、周囲への感染性(隔離が必要かどうか)は、主に喀痰の塗抹検査の結果で判断する。 本問では、これらの検査の位置づけを理解しているかが問われている。喀痰が得られない場合に胃液を検体とするのは、結核菌の性質(酸に強い)を利用した標準的な方法である。
選択肢考察
- ○a. 痰が出ないときは胃液を採取し検体とする。
肺病巣から気道に排出された結核菌を含む分泌物は、特に就寝中に無意識のうちに飲み込まれて胃に入る。結核菌は抗酸菌であり酸に抵抗性があるため、胃酸の中でもある程度生存できる。そこで、喀痰を出せない患者(小児、高齢者、意識障害のある患者など)では、早朝空腹時に胃管から胃液を吸引して採取し、喀痰と同様に塗抹・培養・核酸増幅検査を行う。ただし、胃酸に長く曝露されると菌が減少するため、採取後は速やかに検査室へ提出する(必要に応じて中和する)。喀痰が出ない場合には、高張食塩水の吸入で痰を誘発する誘発喀痰も用いられる。
- ×b. 末梢血で白血球増多が著明な場合は結核の可能性が低い。
結核では末梢血白血球数は正常か軽度上昇にとどまることが多いが、病変が広範な場合や重症例、細菌感染の合併例では白血球増多を示すこともある。白血球数は結核に特異的な指標ではなく、白血球増多があっても結核を否定する根拠にはならない。結核を疑ったら、白血球数にかかわらず喀痰の抗酸菌検査を行う。
- ×c. ツベルクリン反応が陽性であれば直ちに治療を開始する。
ツベルクリン反応は、結核菌由来の精製ツベルクリン(PPD)を皮内注射し、48時間後の発赤・硬結を判定する検査である。PPDはBCGや多くの非結核性抗酸菌と共通の抗原を含むため、BCG接種を受けた人(日本では乳児期に定期接種)でも陽性となる。また、陽性であっても感染を示すにすぎず、発病(活動性結核)を意味するものではない。陽性というだけで直ちに治療を始めることはなく、胸部画像や菌検査で活動性結核の有無を評価する。
- ×d. 隔離の必要性を決めるため気管支ファイバースコープで痰を採取する。
隔離(結核病床への入院など)の必要性は、主に自然に喀出された喀痰(必要に応じて誘発喀痰)の塗抹検査で判断する。塗抹陽性は排菌量が多く感染性が高いことを示す。喀痰検査は、1回だけでは見逃しがあるため通常3回(3日間)行う。気管支鏡検査は侵襲的であるうえ、咳を誘発して周囲に飛沫核(エアロゾル)を拡散させる危険があり、隔離の判断のために喀痰を採取する目的で行うものではない。気管支鏡による気管支洗浄液の採取は、喀痰や胃液で菌が証明できず、ほかの疾患との鑑別が必要な場合などに、診断目的で空気感染対策をとったうえで行われる。
- ×e. 結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉が陽性であれば直ちに治療を開始する。
IGRAは、患者の血液を結核菌に特異的な抗原(ESAT-6、CFP-10など)で刺激し、リンパ球から放出されるインターフェロンγを測定する検査である(QuantiFERONやT-SPOTなど)。これらの抗原はBCGやほとんどの非結核性抗酸菌には含まれないため、BCG接種の影響を受けない点でツベルクリン反応より特異度が高い。しかし、IGRAも結核菌に感染したことを示すだけで、過去の感染(既往)、潜在性結核感染症、活動性結核を区別できない。陽性であれば、胸部画像や菌検査で活動性結核を評価し、活動性結核が否定されれば、年齢や接触状況、免疫抑制の有無などを考慮して潜在性結核感染症の治療を検討する。陽性だけで直ちに治療を開始するわけではない。
結核の検査の整理
1. 菌を直接証明する検査(確定診断・感染性の評価) ・塗抹検査: Ziehl-Neelsen染色や蛍光染色で抗酸菌を確認する。迅速だが、結核菌と非結核性抗酸菌を区別できない。排菌量の目安となり、感染性の評価に用いる。 ・培養検査: 最も確実な診断法で、菌種同定と薬剤感受性検査が可能。液体培地でも数週間を要する。 ・核酸増幅法(PCR、LAMP法など): 結核菌と非結核性抗酸菌を迅速に区別できる。リファンピシン耐性遺伝子の検出が可能な方法もある。死菌でも陽性となるため、治療効果の判定には用いない。 2. 感染の有無をみる検査(免疫学的検査) ・ツベルクリン反応: BCG接種や非結核性抗酸菌感染でも陽性となる。 ・IGRA: BCGの影響を受けず特異度が高い。潜在性結核感染症の診断や接触者健診に用いられる。いずれも活動性結核と潜在性感染を区別できず、免疫不全状態では偽陰性になりうる。
検体の種類
喀痰(第一選択。3回採取)、誘発喀痰、胃液(喀痰が得られない場合。特に小児)、気管支洗浄液・気管支肺胞洗浄液、胸水・髄液・尿・組織など(肺外結核)。
潜在性結核感染症(LTBI)
結核菌に感染しているが発病していない状態。発病リスクの高い人(最近の接触者、HIV感染者、生物学的製剤や副腎皮質ステロイドの使用者、透析患者など)では、活動性結核を除外したうえで、イソニアジドなどによる治療を行う。
感染対策
結核は空気感染(飛沫核感染)するため、排菌患者は陰圧個室などで管理し、医療従事者はN95マスクを着用する。患者にはサージカルマスクを着用させる。
POINT
・喀痰が採取できないときは、早朝空腹時の胃液を検体とする(結核菌は酸に強い)。誘発喀痰も有用。 ・隔離の要否は喀痰塗抹検査(通常3回)で判断する。 ・ツベルクリン反応・IGRAは感染の有無をみる検査であり、陽性だけで活動性結核と診断・治療開始はしない。 ・ツベルクリン反応はBCGで陽性になるが、IGRAはBCGの影響を受けない。 ・白血球数は結核の有無の判断に役立たない。
