StudyMed医師国家試験

病院の外で健康をつくる―ヘルスプロモーションの本質は「行動変容」にあり

第107回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第6問

ヘルスプロモーションで重要な活動はどれか。

  1. a.救急医療機関への搬送体制の整備
  2. b.行動変容による生活習慣の改善
  3. c.検診による疾病の早期発見
  4. d.予防接種による免疫の付与
  5. e.医療保険制度の導入

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の基本概念、ヘルスプロモーションを問う問題だ。選択肢はどれも「健康に役立ちそう」に見えるけれど、カギはヘルスプロモーションの定義と、予防医学の段階のどこに位置づくかを正確に押さえているかどうか。まず、ヘルスプロモーションと聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
健康増進、という訳語は覚えています。でも正直、予防医学全般を指す言葉のように漠然と捉えていました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。定義の出どころは1986年にWHOがカナダで開いた第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択されたオタワ憲章。そこでは「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」とされている。主語が「人々」で、本人が主体的に健康を高めていく点が大事なんだ。
医学生医学生
医療者が何かをしてあげるというより、本人が自分で健康を良くしていけるように支える、という発想ですね。
ドクタードクター
その通り。次に予防医学の段階を確認しよう。リーベルとクラークの枠組みでは一次予防、二次予防、三次予防に分ける。それぞれ何だったかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習いました。一次予防が発病の防止、二次予防が早期発見・早期治療、三次予防がリハビリテーションや再発予防です。
ドクタードクター
完璧だ。さらに一次予防は「健康増進」と「特異的予防」の2つに分かれる。ヘルスプロモーションは前者で、特定の病気に限らず健康全体の水準を底上げする非特異的な取り組みなんだ。この整理で選択肢を見ていこう。まず検診による疾病の早期発見はどうだろう。
医学生医学生
症状が出る前の病気を見つけるものなので、二次予防ですね。すでに病気がある人を対象にしているから、発病前に健康を高めるヘルスプロモーションとは段階が違います。
ドクタードクター
正解。では予防接種による免疫の付与は?
医学生医学生
発病を防ぐので一次予防ですよね……。それならヘルスプロモーションに含まれる気もして、少し迷います。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。予防接種は確かに一次予防だけれど、麻疹やインフルエンザなど特定の病原体を狙った「特異的予防」に分類される。同じ一次予防でも、健康全般を高める「健康増進」とは区別されるんだ。
医学生医学生
なるほど、一次予防の中でさらに枝分かれしているんですね。救急搬送体制や医療保険制度は、病気やけがをした後の話なので外れると思います。
ドクタードクター
そうだね。救急搬送体制は急病や外傷が起きた人を治療につなぐ医療提供体制、医療保険制度は医療を受けるときの経済的負担を抑える社会保障の仕組みだ。どちらも大切だけれど、人々が自ら健康をコントロールする力を高めるという趣旨には直接当たらない。残るのが行動変容による生活習慣の改善だ。
医学生医学生
食事や運動、禁煙、節酒などを本人が主体的に見直していくことですね。病院実習の糖尿病教室で、管理栄養士さんが患者さんと一緒に目標を立てていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい例だね。健康教育を通じて知識や技能を身につけ、本人が行動を変えていく。これはオタワ憲章の活動領域の一つ「個人的スキルの開発」そのもので、ヘルスプロモーションの中心的な活動だ。特定の病気に限らず、生活習慣病をはじめ幅広い疾病の予防につながる。
医学生医学生
でも、個人の努力だけでは限界がありそうです。忙しい人に運動しなさいと言っても難しいですし。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。だからオタワ憲章は個人へのアプローチだけでなく、健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、ヘルスサービスの方向転換も含めた5つの活動領域を掲げている。基本戦略として唱道、能力の付与、調停の3つも挙げられているよ。たとえば受動喫煙を防ぐ法規制や、歩きやすい街づくりは環境側からの支援だ。
医学生医学生
個人の行動変容と、それを支える社会環境の整備がセットなんですね。似た用語でアルマ・アタ宣言もありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。1978年のアルマ・アタ宣言はプライマリヘルスケアを提唱し、「2000年までにすべての人に健康を」を目標とした。オタワ憲章と年代・キーワードを混同しないように対で覚えておこう。日本では健康日本21が、ヘルスプロモーションの理念に基づく国民健康づくり運動で、生活習慣の改善と社会環境の整備を柱にしている。臨床の場でも、外来での禁煙支援や食事指導は立派なヘルスプロモーションの実践なんだ。

まとめ

ヘルスプロモーションは、1986年のWHOオタワ憲章で「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義された概念で、健康教育を通じた行動変容による生活習慣の改善がその中心的な活動です。予防医学の段階では一次予防のうち、特定の疾患に限らない非特異的な「健康増進」に位置づけられ、同じ一次予防でも予防接種は「特異的予防」、検診による早期発見は二次予防として区別されます。救急医療体制や医療保険制度は、発病後の医療提供や経済的保障に関わる仕組みであり、ヘルスプロモーションの中核ではありません。オタワ憲章は個人のスキル開発に加え、健康的な公共政策や支援的環境づくりなど社会全体での取り組みを重視しており、アルマ・アタ宣言(プライマリヘルスケア)や健康日本21と関連づけて理解しておくと、公衆衛生の出題にも日常診療での生活指導にも活かせます。

解答・解説

正解はbです

問われていること

ヘルスプロモーション(health promotion、健康増進)とは何を目指す活動か、そしてそれが予防医学の段階(一次・二次・三次予防)のどこに位置づけられるかを理解しているかが問われている。

ヘルスプロモーションの定義

ヘルスプロモーションは、1986年にカナダのオタワで開かれたWHO(世界保健機関)第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択された「オタワ憲章」によって定義された概念である。そこでは「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」とされた(2005年のバンコク憲章では「健康とその決定要因をコントロールし」と、健康を左右する社会的要因まで視野に入れた表現に拡張されている)。つまり、病気になってから対処するのではなく、まだ健康な人々が自分の力で健康を保ち高めていけるよう、個人の知識・技能を育て、同時にそれを支える社会環境を整えていく考え方である。

予防医学の段階との関係

リーベル(Leavell)とクラーク(Clark)の予防医学の枠組みでは、 ・一次予防:発病そのものを防ぐ段階。「健康増進(ヘルスプロモーション)」と「特異的予防(予防接種など特定の疾患を狙った予防)」に分けられる ・二次予防:疾病の早期発見・早期治療(検診など) ・三次予防:発病後の機能障害の防止・リハビリテーション・再発予防 と整理される。ヘルスプロモーションは一次予防のうち、特定の病気に限定せず健康全体の水準を底上げする非特異的な取り組みにあたる。

解き方

選択肢のうち、「健康な人が主体的に生活習慣を改善していく」という、オタワ憲章の中心である個人の能力強化に直接結びつくものを選べばよい。すでに病気の人を対象とする活動(救急医療・医療保険)、二次予防(検診)、特異的予防(予防接種)は、いずれもヘルスプロモーションの中核ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  救急医療機関への搬送体制の整備

    救急搬送体制は、すでに急病や外傷が起きた人を迅速に治療へつなぐための医療提供体制である。病気の発生を防ぐ活動ではなく、健康な人が自らの健康をコントロールする力を高めるというヘルスプロモーションの趣旨とは異なる。予防の段階でいえば、発病後の救命・重症化防止に関わるものであり、一次予防には当たらない。

  2. ○b.  行動変容による生活習慣の改善

    食事・運動・喫煙・飲酒・睡眠などの生活習慣を、健康教育などを通じて本人が主体的に見直し、より健康的な行動に変えていくこと(行動変容)は、オタワ憲章が掲げる「個人的スキルの強化」そのものであり、ヘルスプロモーションの中心的な活動である。特定の疾患だけを対象とせず、生活習慣病をはじめ幅広い疾病の発生を防ぐ一次予防(健康増進)に位置づけられる。わが国の「健康日本21」も、このヘルスプロモーションの考え方に基づいて生活習慣の改善を柱としている。

  3. ×c.  検診による疾病の早期発見

    検診(がん検診、特定健康診査など)は、症状が出る前の段階の疾病を見つけ出し早期治療につなげるものであり、二次予防に分類される。すでに存在する病気を対象としている点で、発病前に健康水準そのものを高めるヘルスプロモーション(一次予防)とは段階が異なる。

  4. ×d.  予防接種による免疫の付与

    予防接種は発病を防ぐので一次予防ではあるが、麻疹や インフルエンザなど特定の病原体・疾患を標的とした「特異的予防」に分類される。ヘルスプロモーションは特定の疾患に限らず健康全般の維持・増進を図る非特異的な取り組みであり、同じ一次予防の中でも区別される。問題文が求める「ヘルスプロモーションで重要な活動」としては、より広い概念である生活習慣の改善のほうが適切である。

  5. ×e.  医療保険制度の導入

    医療保険制度は、病気やけがをしたときに必要な医療を経済的な負担を抑えて受けられるよう保障する仕組みであり、主な対象は医療を必要とする状態になった人である。医療へのアクセスを確保する社会保障制度としては重要だが、人々が自ら健康をコントロールし改善していくためのプロセスというヘルスプロモーションの概念には直接該当しない。

オタワ憲章(1986年)の概要

・3つの基本戦略  ①唱道(advocate):政治・経済・社会・文化・環境などの諸条件が健康に好ましいものとなるよう働きかける  ②能力の付与(enable):人々が自分の健康の可能性を最大限に発揮できるよう、機会や資源を確保し能力を高める  ③調停(mediate):保健医療部門だけでなく、行政・産業・メディア・地域団体などあらゆる部門の利害や活動を調整し協働させる ・5つの活動領域  ①健康的な公共政策づくり  ②健康を支援する環境づくり  ③地域活動の強化  ④個人的スキルの開発(健康教育など)  ⑤ヘルスサービスの方向転換(治療中心から予防・健康増進を含むものへ)

関連事項

・アルマ・アタ宣言(1978年):プライマリヘルスケアを提唱。「2000年までにすべての人に健康を」を目標とした。ヘルスプロモーションとあわせて出題されやすい。 ・バンコク憲章(2005年):グローバル化した社会においてオタワ憲章の考え方を再確認し、健康の決定要因への取り組みを強調した。 ・健康日本21(2000年開始、現在は第三次):ヘルスプロモーションの理念に基づく国民健康づくり運動で、生活習慣の改善と社会環境の整備を柱とする。

予防医学の段階(リーベルとクラーク)

・一次予防:健康増進(生活習慣改善、健康教育)、特異的予防(予防接種、事故防止、職業病対策など) ・二次予防:早期発見・早期治療(検診、スクリーニング) ・三次予防:機能障害の防止、リハビリテーション、社会復帰

POINT

・ヘルスプロモーション=「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」(オタワ憲章、1986年、WHO) ・一次予防のうち、非特異的な「健康増進」に当たる。予防接種は一次予防でも「特異的予防」 ・検診による早期発見は二次予防、リハビリテーションは三次予防 ・健康教育を通じた行動変容・生活習慣の改善が中心的活動であり、それを支える環境整備も含む

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。