StudyMed医師国家試験

うるおいの主役は「死んだ細胞」の層―角質層が皮膚の水分を守るしくみ

第107回医師国家試験 B問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第12問

正常皮膚の保湿に最も重要なのはどれか。

  1. a.角質層
  2. b.顆粒層
  3. c.有棘層
  4. d.基底層
  5. e.乳頭層

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は皮膚の基本構造と、その中で保湿を担う層を問う問題だ。ポイントは「保湿」という言葉を、体の水分が外へ逃げるのを防ぐ働きと読み替えること。そうすると、どこが最前線になるかが見えてくるよ。まずは表皮の層構造を深い方から言えるかな。
医学生医学生
組織学の講義で習いました。基底層、有棘層、顆粒層、角質層の順で、手掌と足底には淡明層も加わりますね。
ドクタードクター
完璧だね。基底層で生まれた角化細胞が分化しながら上へ押し上げられ、最後は核を失った扁平な角質細胞になって角質層をつくり、垢として剥がれる。これが角化だ。では、保湿に最も重要なのはどの層だと思う?
医学生医学生
顆粒層で迷いました。ケラトヒアリン顆粒とか層板顆粒とか、保湿物質に関係しそうな構造があった気がして。
ドクタードクター
鋭い迷い方だね。確かに顆粒層は保湿物質の「材料工場」なんだ。ただ、完成した保湿の仕組みとして実際に水分をとどめているのは、その上の角質層。だから正解は角質層だよ。厚さは0.02mmほどしかないけれど、体の水分を守る最後の砦なんだ。
医学生医学生
核もない細胞の層が、そんなに大事な働きをしているんですね。具体的にはどうやって水分を保っているんですか。
ドクタードクター
3つの要素がある。1つ目は角質細胞間脂質で、主成分はセラミド。水と油が交互に重なるラメラ構造をつくって蒸発を防ぐ。2つ目は天然保湿因子、NMFと呼ばれるもので、角質細胞の中にあるフィラグリン由来のアミノ酸などが水分を抱え込む。3つ目は皮脂腺由来の皮脂が汗と混ざってできる皮脂膜だ。このうち最も寄与が大きいのは細胞間脂質とされている。
医学生医学生
角質細胞がレンガで、細胞間脂質がそれをつなぐモルタル、というイメージでしょうか。
ドクタードクター
その通り、ブリック・アンド・モルタル構造と呼ばれる。ここで顆粒層とのつながりも整理しよう。層板顆粒は細胞間脂質の前駆体を細胞外へ放出し、ケラトヒアリン顆粒にはフィラグリンの前駆体であるプロフィラグリンが含まれる。それらが角質層で完成品になるわけだ。さらに顆粒層にはタイトジャンクションもあって、バリアの一端は担っている。
医学生医学生
材料をつくるのが顆粒層、それを使って実際に保湿するのが角質層、という分担なんですね。有棘層はどうですか。
ドクタードクター
有棘層は表皮で最も厚い層で、細胞同士がデスモソームで強く結合していて、標本では棘のように見える。物理的な強度を保つのが主な役割で、抗原提示を担うランゲルハンス細胞も主にここにいる。保湿の中心ではないね。
医学生医学生
病理実習で見た尋常性天疱瘡は、デスモグレインに対する自己抗体で有棘層の接着が壊れる病気でしたね。基底層は細胞分裂の場でしたっけ。
ドクタードクター
よくつながったね。基底層は基底膜の上に1層に並び、新しい角化細胞を供給する増殖の場だ。メラニンをつくるメラノサイトや触覚に関わるメルケル細胞もいる。そして乳頭層は、そもそも表皮ではなく真皮の最上部。毛細血管や知覚神経終末が豊富で、血管のない表皮に栄養を送っている。
医学生医学生
真皮にはヒアルロン酸のような水を抱える物質もあると聞きましたが、それは保湿とは違うんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。真皮の基質も水分を保持しているけれど、皮膚表面からの水分の蒸発を防ぐという意味での保湿の主役ではない。外界との境界で水分を逃がさないのは、あくまで角質層なんだ。ここからは臨床とのつながりを見ておこう。フィラグリン遺伝子の機能喪失変異があると、何が起こると思う?
医学生医学生
天然保湿因子が減って、皮膚が乾燥しそうです。
ドクタードクター
そう。尋常性魚鱗癬はまさにその病態で、魚の鱗のような鱗屑が生じる。アトピー性皮膚炎でもフィラグリン変異をもつ患者が多く、セラミドの減少も加わって角質層のバリアが弱くなる。すると抗原が侵入しやすくなって感作が進み、かゆみも悪化しやすい。高齢者の老人性乾皮症も、皮脂や保湿因子の減少が背景にある。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、アトピーの患者さんにステロイド外用と一緒に保湿剤の塗り方を丁寧に指導していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそこが大事なところ。ヘパリン類似物質、尿素、白色ワセリンなどの保湿剤で角質層の水分を補い、バリアを補強する日常のスキンケアは治療の基本なんだ。構造の知識が、そのまま患者さんへの説明に生きてくるよ。

まとめ

皮膚の保湿とは体内の水分が皮膚表面から失われるのを防ぐ働きであり、その中心を担うのは表皮最外層の角質層です。角質層では、セラミドを主成分とする角質細胞間脂質のラメラ構造、フィラグリン由来の天然保湿因子、皮脂膜の3要素が水分を保持し、なかでも細胞間脂質の寄与が最も大きいとされます。顆粒層は層板顆粒やケラトヒアリン顆粒によって保湿物質の前駆体をつくる層であり、有棘層は物理的強度、基底層は細胞増殖を担い、乳頭層は真皮に属します。フィラグリン遺伝子変異は尋常性魚鱗癬やアトピー性皮膚炎のバリア障害に関与し、保湿剤による角質層のケアが治療の基本となります。表皮各層の役割を整理しておくことは、乾燥性皮膚疾患の病態理解と日常のスキンケア指導の土台になります。

解答・解説

正解はaです

テーマ

皮膚は外側から表皮・真皮・皮下組織の3層からなり、表皮はさらに深部から基底層→有棘層→顆粒層→角質層(角層)の4層に分けられる(手掌・足底ではこれに淡明層が加わる)。基底層で生まれた角化細胞(ケラチノサイト)は、分化しながら上へ押し上げられ、最終的に核を失った扁平な角質細胞となって角質層を形成し、やがて垢として剥がれ落ちる。この過程を角化という。

保湿を担う構造

皮膚の保湿とは、体内の水分が蒸発して失われるのを防ぎ(経表皮水分喪失の抑制)、皮膚表面に適度な水分を保つ働きである。これを実際に担っているのは、皮膚の最外層である角質層である。角質層は厚さわずか0.02mm程度だが、次の3つの要素によって水分を保持している。 ・角質細胞間脂質:角質細胞のすき間を埋める脂質で、セラミドが主成分。水と油が交互に重なる層状構造(ラメラ構造)をつくり、水分の蒸発を防ぐ。 ・天然保湿因子(NMF:natural moisturizing factor):角質細胞の中にある水溶性の物質で、主成分はフィラグリンが分解されてできるアミノ酸。水分を抱え込む。 ・皮脂膜:皮脂腺から分泌される皮脂が汗と混ざって皮膚表面を覆い、蒸発を抑える。 このうち最も大きく寄与するのは角質細胞間脂質とされる。

考え方

顆粒層などの下層は、保湿に必要な物質の「材料」をつくる場ではあるが、完成した保湿・バリアの構造として機能するのは角質層である。したがって、正常皮膚の保湿に最も重要なのは角質層である。

選択肢考察

  1. ○a.  角質層

    表皮の最外層で、核を失った角質細胞がレンガのように積み重なり、その間をセラミドなどの細胞間脂質がモルタルのように埋めている(ブリック・アンド・モルタル構造)。細胞間脂質のラメラ構造が水分の蒸発を防ぎ、角質細胞内の天然保湿因子が水分を保持することで、皮膚の保湿機能の中心を担う。同時に、外界からの刺激物質や微生物の侵入を防ぐバリア機能も果たしている。角質層の水分量が低下すると、乾燥してかさつき、ひび割れやかゆみを生じる(ドライスキン)。

  2. ×b.  顆粒層

    角質層の直下にある2~3層の細胞層である。細胞内にケラトヒアリン顆粒(天然保湿因子の原料となるフィラグリンの前駆体であるプロフィラグリンを含む)と層板顆粒(細胞間脂質の前駆体を含み、細胞外へ放出される)をもつ。また、細胞同士をつなぐタイトジャンクションもあり、バリアの一端を担う。ただし、これらは角質層での保湿構造を準備する役割であり、保湿を直接担う最も重要な層ではない。

  3. ×c.  有棘層

    表皮で最も厚い層で、細胞同士がデスモソーム(細胞間接着装置)で強く結合しており、標本上で棘のようにみえることから名付けられた。表皮の物理的な強度を保つ役割をもち、ランゲルハンス細胞(抗原提示細胞)も主にこの層に存在する。保湿の中心的な役割はもたない。

  4. ×d.  基底層

    表皮の最下層で、基底膜の上に1層に並ぶ。細胞分裂によって新しい角化細胞を供給する増殖の場であり、紫外線から皮膚を守るメラニンをつくるメラノサイトや、触覚に関わるメルケル細胞も存在する。保湿を直接担う層ではない。

  5. ×e.  乳頭層

    表皮ではなく真皮の最上部にあり、表皮側へ突出して表皮と噛み合う部分である。毛細血管や知覚神経終末(マイスナー小体など)が豊富で、血管のない表皮に栄養を供給する。真皮にはヒアルロン酸などの水分を保持する基質も存在するが、皮膚表面からの水分蒸発を防ぐ保湿機能の主役ではない。

皮膚の構造(表層から)

・表皮:角質層、(淡明層:手掌・足底のみ)、顆粒層、有棘層、基底層 ・真皮:乳頭層、乳頭下層、網状層(膠原線維・弾性線維が豊富) ・皮下組織:主に脂肪組織

表皮のターンオーバー

基底層で生じた細胞が角質層に達するまで約2週間、角質層にとどまって剥がれ落ちるまで約2週間で、合計約4週間(約45日とする記載もある)かかる。

保湿に関わる3要素

・角質細胞間脂質(セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸など):顆粒層の層板顆粒に由来し、角質細胞の間でラメラ構造をつくる。 ・天然保湿因子(NMF):顆粒層のケラトヒアリン顆粒に含まれるプロフィラグリンがフィラグリンとなり、角質層で分解されてアミノ酸・ピロリドンカルボン酸などになる。尿素や乳酸塩なども含まれる。 ・皮脂膜:皮脂腺由来の脂質が汗と混ざってできる。

保湿・バリア障害と疾患

・尋常性魚鱗癬:フィラグリン遺伝子(FLG)の機能喪失変異により天然保湿因子が減少し、皮膚が乾燥して魚の鱗のような鱗屑を生じる。 ・アトピー性皮膚炎:フィラグリン遺伝子変異をもつ患者が多く、角質層のバリア障害とセラミドの減少がみられる。バリア障害により抗原が侵入しやすくなり、感作やかゆみの悪化を招く。 ・老人性乾皮症(皮脂欠乏症):加齢による皮脂分泌や角質層の保湿因子の減少による。 治療・予防では、保湿剤(ヘパリン類似物質、尿素、白色ワセリンなど)を用いた日常的なスキンケアで角質層の水分を補い、バリア機能を補強することが基本となる。

POINT

・皮膚の保湿とバリア機能の中心は表皮最外層の角質層である。 ・保湿の3要素:角質細胞間脂質(セラミド)>天然保湿因子(フィラグリン分解産物のアミノ酸)、皮脂膜。 ・顆粒層は保湿物質の前駆体(ケラトヒアリン顆粒、層板顆粒)をつくる層。 ・フィラグリン遺伝子変異は尋常性魚鱗癬やアトピー性皮膚炎の乾燥・バリア障害に関与する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。