StudyMed医師国家試験

意識清明でも油断禁物―飛ばされた外傷患者を迎える10分間の準備

第106回医師国家試験 I問題 第67問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第67問

22歳の男性。オートバイに乗って40 km/時で走行中に,交差点で乗用車と衝突したため搬送中である。救急隊からの報告によると,意識は清明だが,衝突場所から10 m離れた場所まで飛ばされており,右の側胸部から右上腹部にかけて強い疼痛を訴えているという。10分後に到着予定である。  初期診療に必要でないのはどれか。

  1. a.酸素
  2. b.MRI
  3. c.超音波診断装置
  4. d.心電図モニター
  5. e.エックス線撮影装置

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、救急隊からの第一報を受けて、到着までに何を準備するかを考える問題だ。ポイントは2つ。受傷機転からどれくらい重症を想定すべきか、そして外傷初期診療の最初の段階で何を使い、何を使わないか、という点だよ。
医学生医学生
意識がはっきりしていて会話もできているようなので、そこまで重症ではないのかなと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だね。オートバイから投げ出されて10 mも飛ばされたということは、体にとても大きな運動エネルギーが加わったということ。こうした高エネルギー外傷では、到着時に話せていても、生命に関わる損傷が隠れている前提で準備するんだ。
医学生医学生
受傷機転そのものを危険因子として扱う、ということですね。痛みの場所からは何を疑えばいいでしょうか。
ドクタードクター
右側胸部から右上腹部だから、まず右の肋骨骨折と、それに伴う気胸・血胸、肺挫傷。そして右上腹部には肝臓があるから、肝損傷による腹腔内出血が心配だ。どれも急にショックへ進みうる病態だよ。
医学生医学生
救急科の臨床実習で、JATECの流れに沿って初療をしているのを見学しました。ABCDEの順に評価していましたね。
ドクタードクター
その通り。わが国の外傷初期診療はJATECに沿って、まずprimary surveyで気道、呼吸、循環、中枢神経、脱衣と体温管理の順に、命を脅かす異常を見つけてその場で蘇生する。全身を詳しく調べるsecondary surveyは、生理学的に安定してからだ。では、primary surveyで使うものを考えよう。まず酸素はどうかな。
医学生医学生
胸を強く打っているので、呼吸が浅くなったり、気胸や肺挫傷で低酸素になったりしそうです。必要だと思います。
ドクタードクター
正解。重症外傷では原則として全例に、リザーバー付きマスクで高流量の酸素を投与する。出血性ショックになれば組織への酸素供給も落ちるから、なおさら大事だ。心電図モニターはどうだろう。
医学生医学生
頻脈はショックの早い徴候なので、連続して見ておく必要がありますね。胸部打撲だと心挫傷で不整脈が出ることもあると習いました。
ドクタードクター
よく押さえているね。搬入と同時に心電図、血圧、経皮的酸素飽和度のモニターを付ける。次に超音波診断装置。これは何に使う?
医学生医学生
FASTですね。OSCEの練習で、プローブを当てる部位を順番に覚えました。心囊、モリソン窩、脾周囲、膀胱直腸窩です。
ドクタードクター
完璧だ。FASTは循環の評価の一部として、ベッドサイドで短時間に心囊液、血胸、腹腔内出血の有無を調べる。今回は肝損傷や右血胸が疑われるから、モリソン窩と右胸腔は特に注意して見たいね。循環の状態が変わったら繰り返し行うのもポイントだ。
医学生医学生
エックス線撮影装置も、処置室で撮るポータブルなら使いますよね。
ドクタードクター
そう。primary surveyでは胸部と骨盤の正面像をポータブルで撮る。胸部で気胸・血胸・多発肋骨骨折・縦隔拡大を、骨盤で大量出血の原因になる骨盤骨折を短時間で確認できるんだ。
医学生医学生
残るのはMRIですね。詳しく見られる検査ですが、初療室の外に移動しないといけないので、初期診療では使わない、ということでしょうか。
ドクタードクター
その理解で合っている。MRIは撮影に時間がかかり、検査室も離れていることが多い。しかも強い磁場のせいで、モニターや人工呼吸器、酸素ボンベといった金属製の機器を持ち込めない。その間は観察も急変時の処置も十分にできないから、不安定になりうる外傷患者の初期評価には向かないんだ。だから今回、初期診療に必要でないのはMRIだ。
医学生医学生
では、詳しい画像評価はどうするんですか。
ドクタードクター
状態が落ち着いてからのsecondary surveyで、主にCTを使う。MRIは脊髄損傷やびまん性軸索損傷の詳しい評価などで、安定した後に必要に応じて行う検査という位置づけだね。
医学生医学生
「ベッドサイドで、すぐに、繰り返せる」検査がprimary surveyの補助検査、と覚えておけばよさそうです。
ドクタードクター
いいまとめ方だ。最後に到着前の準備について。救急隊の情報をもとに人員を集め、感染防御具を着け、酸素・モニター・超音波・ポータブル撮影装置をそろえ、加温した輸液を用意しておく。出血が多そうなら輸血や手術室、血管造影室への連絡も早めにしておく。10分という時間は、こうした段取りのためにあるんだよ。
医学生医学生
受傷直後は元気そうに見えても急変しうるからこそ、先回りして準備するんですね。
ドクタードクター
その通り。「意識清明だから大丈夫」ではなく、「受傷機転が重いから重症を想定する」。この発想が外傷診療の基本だよ。

まとめ

車体から投げ出されて遠くへ飛ばされるような事故は高エネルギー外傷であり、到着時に意識清明でも、胸腔内出血や肝損傷などの重症損傷を想定して準備します。JATECに基づく外傷初期診療では、primary surveyでABCDEを評価しながら、高流量酸素投与、心電図などのモニター装着、静脈路確保を行い、補助検査としてFASTと胸部・骨盤のポータブルエックス線撮影を用います。MRIは撮影に時間がかかり、金属機器を持ち込めず監視や処置が難しいため、初期診療には用いず、詳しい画像評価は状態が安定した後のsecondary surveyで主にCTを用いて行います。「受傷機転から重症度を見積もる」「ベッドサイドで迅速に繰り返せる検査を優先する」という考え方は、救急外来で外傷患者を受け入れる際の基本となります。

解答・解説

正解はbです

状況の整理

・22歳男性。オートバイで時速40 kmで走行中に乗用車と衝突し、衝突地点から10 m先まで飛ばされた。 ・意識は清明。右側胸部から右上腹部の強い痛みを訴えている。 ・10分後に到着予定で、受け入れ準備の段階である。

受傷機転からの評価

車体から投げ出されて遠くまで飛ばされるような事故は、体に大きな運動エネルギーが加わったことを示す高エネルギー外傷であり、到着時に意識清明で会話ができていても、生命に関わる損傷が隠れている前提で準備する。痛みの部位からは、右の肋骨骨折とそれに伴う気胸・血胸、肺挫傷、さらに右上腹部にある肝臓の損傷による腹腔内出血が特に疑われ、急速にショックへ進むおそれがある。

初期診療の流れ(JATEC)

わが国の外傷初期診療は、JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care:外傷初期診療ガイドライン)に沿って行われる。まずprimary survey(PS:一次評価)で、A(気道)、B(呼吸)、C(循環)、D(中枢神経の機能障害)、E(脱衣と体温管理)の順に生命を脅かす異常を見つけ、その場で蘇生処置を行う。この段階では、酸素投与、モニター装着(心電図・血圧・経皮的酸素飽和度)、静脈路確保と輸液に加え、ベッドサイドで短時間に行える補助検査としてFAST(超音波検査)と、胸部・骨盤のポータブルエックス線撮影を行う。生理学的に安定してから、secondary survey(SS:二次評価)で頭から足先まで全身を詳しく調べ、必要に応じてCTなどの詳細な画像検査を行う。

設問の考え方

搬入直後の初期診療で使う物品・装置を選び、使わないものを除く。撮影に時間がかかり、救急処置室から離れた場所で監視や処置が難しくなる検査は、初期診療の段階では用いない。

選択肢考察

  1. ×a.  酸素

    必要である。JATECのprimary surveyでは、重症外傷患者には原則として全例に高流量酸素(リザーバー付きマスクで10 L/分程度)を投与する。本例は右胸部を強打しており、肋骨骨折による痛みで呼吸が浅くなることや、気胸・血胸・肺挫傷による低酸素血症が起こりうる。出血性ショックに陥れば組織への酸素供給も落ちるため、酸素の準備は欠かせない。

  2. ○b.  MRI

    初期診療には必要でない。MRIは撮影に長い時間がかかり、検査室が救急処置室から離れていることが多く、強い磁場のため金属製の医療機器(モニター、人工呼吸器、ボンベなど)を持ち込めない。その間は患者の観察や急変時の処置が十分に行えず、不安定になりうる外傷患者の初期評価には適さない。外傷の詳しい画像評価は、全身状態が落ち着いた後のsecondary surveyで主にCTを用いて行う。MRIは脊髄損傷やびまん性軸索損傷の詳細評価などで、状態が安定した後に必要に応じて行う検査である。

  3. ×c.  超音波診断装置

    必要である。primary surveyのC(循環)の評価で、FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)を行う。ベッドサイドで短時間に、心囊液の貯留、左右の胸腔内の液体(血胸)、腹腔内の液体(モリソン窩・脾周囲・膀胱直腸窩)の有無を調べ、出血源を探す。本例では肝損傷による腹腔内出血や右血胸が疑われ、特に重要である。循環が変化した場合には繰り返し行う。

  4. ×d.  心電図モニター

    必要である。重症外傷患者では搬入と同時に心電図、血圧、経皮的酸素飽和度などのモニターを装着し、心拍数やリズムの変化を連続して観察する。頻脈はショックの早期徴候であり、胸部の強打では心挫傷による不整脈が起こることもあるため、心電図モニターは欠かせない。

  5. ×e.  エックス線撮影装置

    必要である。primary surveyでは、処置室でポータブル装置を用いて胸部正面と骨盤正面のエックス線撮影を行う。胸部撮影で気胸・血胸・多発肋骨骨折・縦隔の拡大などを、骨盤撮影で大量出血の原因となる骨盤骨折を短時間で確認できる。secondary surveyでも損傷が疑われる部位の撮影に用いる。

高エネルギー外傷を疑う受傷機転の例

・車外への放出、車の横転、車体の高度な変形 ・同乗者の死亡 ・歩行者や自転車が自動車にはねられた ・オートバイ事故で車体から投げ出された・飛ばされた ・高所からの墜落 ・機械への巻き込まれ、体幹部の挟まれ 受傷直後は意識清明で痛みも軽く見えることがあるため、受傷機転そのものを重症化の危険因子として扱い、重症例を想定して準備する。

primary survey(ABCDE)で行うこと

・A(気道):発語の確認、気道確保。頸椎は保護する。 ・B(呼吸):呼吸数・胸郭の動き・呼吸音、酸素投与。緊張性気胸には胸腔穿刺・ドレナージ。 ・C(循環):脈拍・血圧・皮膚所見、静脈路確保と輸液、FAST、胸部・骨盤のポータブルエックス線撮影、外出血の圧迫止血。 ・D(中枢神経):意識レベル(GCS)、瞳孔、片麻痺。 ・E(脱衣と体温管理):全身の観察と低体温の予防。

FASTで観察する部位

心囊、右上腹部(モリソン窩=肝臓と右腎の間、右胸腔)、左上腹部(脾周囲、左胸腔)、膀胱直腸窩(女性ではDouglas窩)。

到着前の準備

救急隊からの情報をもとに、人員の招集、感染防御具の着用、酸素・モニター・超音波診断装置・ポータブルエックス線撮影装置の準備、加温した輸液の用意、輸血や手術室・血管造影室への連絡などを行っておく。

POINT

・車体から投げ出され遠くへ飛ばされた受傷機転は高エネルギー外傷であり、意識清明でも重症を想定して準備する。 ・primary surveyではABCDEを評価し、酸素投与・モニター装着・静脈路確保を行う。 ・PSの補助検査はFASTと、胸部・骨盤のポータブルエックス線撮影。 ・CTなどの詳細な画像検査は、状態が安定した後のsecondary surveyで行う。 ・MRIは時間がかかり、金属機器を持ち込めず監視・処置が難しいため、外傷の初期診療には用いない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。