検査はすべて正常、手と腕だけの紫斑―「何もしない」が正解になる老人性紫斑
第106回医師国家試験 I問題 第45問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。皮膚の出血斑を主訴に来院した。打撲した記憶がないにもかかわらず,数か月前から両側の手背と前腕とに出血斑が見られることが気になっていたという。鼻出血と歯肉出血とを認めない。口腔粘膜に点状出血を認めない。両側の手背と前腕とに径3~5 cmの紫斑を3個認める。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9 g/dL,Ht 42%,白血球6,300,血小板20万,PT 98%(基準80~120),APTT 33秒(基準対照32)。 対応として適切なのはどれか。
- a.経過観察
- b.骨髄穿刺
- c.血清免疫電気泳動
- d.血小板凝集能測定
- e.凝固因子活性測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者の手背・前腕など日光曝露部位に限局した紫斑で、粘膜出血がなく、血小板数・PT・APTTがすべて正常であれば、老人性紫斑(日光紫斑)を考えます。加齢と紫外線による真皮の膠原線維・弾性線維の減少で血管の支持組織が弱まり、わずかな外力で出血するもので、治療は不要で経過観察とします。出血傾向は「血小板(点状出血・粘膜出血)」「凝固因子(関節内・筋肉内出血)」「血管(検査はすべて正常)」に分けて整理すると、骨髄穿刺や凝集能測定など不要な精査を避けられます。ステロイドや抗血栓薬の内服は増悪因子となり、紫斑の分布の拡大や粘膜出血、検査異常が現れた場合には再評価が必要です。出血傾向の病態別整理は、日常診療で過不足のない検査を選ぶための基本となる考え方です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・68歳の女性。数か月前から、打撲の記憶がないのに両側の手背と前腕に出血斑が出る。 ・紫斑は径3~5 cmで3個、部位は両側の手背と前腕に限られる。 ・鼻出血、歯肉出血、口腔粘膜の点状出血はない。粘膜出血がないことから、全身性の出血傾向(血小板減少や血小板機能異常など)は考えにくい。 ・血算は正常で、血小板は20万/μLと保たれている。 ・PT(プロトロンビン時間:外因系・共通系の凝固能)98%、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間:内因系・共通系の凝固能)33秒(対照32秒)と、凝固系にも異常はない。 ・高齢になってから症状が出始めており、先天性の出血性疾患も考えにくい。
診断へのプロセス
出血傾向の評価では、まず「血小板の数と機能(一次止血)」「凝固因子(二次止血)」「血管壁」のどこに問題があるかを考える。本例は血小板数・PT・APTTがいずれも正常で、粘膜出血もなく、出血は日光に長年さらされてきた手背と前腕の皮膚に限られている。この組み合わせは、加齢と日光曝露による皮膚・血管支持組織の脆弱化によって起こる老人性紫斑(日光紫斑とも呼ばれる)に典型的である。
設問への考え方
老人性紫斑は加齢に伴う生理的変化の一つで、病的な出血性疾患ではない。紫斑は数週で自然に吸収され、場所を変えて繰り返し出現するが、治療は不要である。したがって、患者に良性の病態であることを説明し、追加の精密検査は行わずに経過観察とするのが適切である。
選択肢考察
- ○a. 経過観察
高齢者の手背と前腕に限局した紫斑で、粘膜出血がなく、血小板数・PT・APTTがすべて正常であることから、老人性紫斑と診断できる。老人性紫斑は加齢と長年の日光曝露によって真皮の膠原線維が減り、皮膚の小血管を支える組織が弱くなることで、わずかな外力でも血管が破れて生じる。紫斑は自然に消退し、全身的な出血の危険はないため、治療や精査は不要で、経過観察でよい。ただし、紫斑が手背・前腕以外にも広がる、粘膜出血が出る、血液検査で異常が出るなど経過が変化すれば、改めて精査を考える。
- ×b. 骨髄穿刺
骨髄穿刺は、白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群など、骨髄で血球が正常に作られていない疾患を疑うときに行う。これらでは血小板減少をはじめとする血球の異常がみられる。本例は赤血球・白血球・血小板がいずれも正常であり、骨髄疾患を疑う根拠がない。骨髄穿刺は苦痛や合併症を伴う侵襲的な検査であり、適応はない。
- ×c. 血清免疫電気泳動
血清免疫電気泳動は、血清中の免疫グロブリンの種類と単クローン性(M蛋白)の有無を調べる検査で、多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症などの診断に用いられる。これらの疾患では、M蛋白による血小板機能障害や過粘稠度症候群、アミロイドーシスによる血管壁の脆弱化(眼瞼周囲の紫斑など)から出血症状が出ることがある。しかし本例では貧血もなく、骨髄腫を疑わせる所見はないため、必要ない。
- ×d. 血小板凝集能測定
血小板凝集能測定は、血小板数は正常でも出血時間が延長しているなど、血小板機能異常が疑われるときに行う。血小板無力症(Glanzmann病)ではADPなどによる凝集が起こらず、von Willebrand病やBernard-Soulier症候群ではリストセチンによる凝集が低下する。血小板機能異常では鼻出血・歯肉出血などの粘膜出血や点状出血が目立つが、本例にはそれらがない。また先天性の機能異常であれば幼少期から出血症状があるはずであり、適応はない。
- ×e. 凝固因子活性測定
凝固因子活性の測定は、PTやAPTTが延長し、どの凝固因子が不足しているかを特定する必要があるとき(血友病など)に行う。本例はPT・APTTとも正常であり、測定の必要はない。なお第XIII因子欠乏症はPT・APTTが正常でも出血を起こすが、先天性のものは新生児期の臍帯出血など若年から症状が出る。後天性の第XIII因子欠乏(自己抗体によるもの)は高齢者に起こりうるが、突然の広範な皮下出血や筋肉内出血などの重い出血を呈することが多く、手背・前腕に限った小さな紫斑が数か月続く本例の像とは異なる。
老人性紫斑(日光紫斑)
・高齢者の手背、前腕伸側など、長年日光にさらされてきた部位に好発する。 ・境界明瞭で不整形の、暗紫色~青紫色の斑である。打撲の記憶がない程度のわずかな外力で生じる。 ・数週かけて吸収されるが、跡に褐色の色素沈着を残すことがあり、場所を変えて繰り返し出現する。 ・機序:加齢と紫外線による真皮の膠原線維・弾性線維の変性や減少、皮下脂肪の減少によって、皮膚の小血管を支える組織が弱くなり、血管が破れやすくなる。 ・血小板数・凝固能はすべて正常である。副腎皮質ステロイドの長期使用や抗血小板薬・抗凝固薬の内服は増悪因子となる。 ・治療は不要で、外傷を避けるよう指導し、経過観察とする。
出血傾向の考え方
・一次止血(血小板)の異常:点状出血・小さな紫斑、鼻出血・歯肉出血などの粘膜出血が特徴。血小板数、出血時間、血小板凝集能で評価する。 ・二次止血(凝固因子)の異常:関節内出血、筋肉内出血、深部の大きな血腫が特徴。PT、APTT、凝固因子活性で評価する。 ・血管の異常:血小板・凝固検査はすべて正常。老人性紫斑、ステロイド紫斑、IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)、壊血病(ビタミンC欠乏)、遺伝性出血性毛細血管拡張症などがある。
PT・APTT正常でも出血を起こしうる病態
血管性の紫斑のほか、血小板機能異常症、von Willebrand病(APTTが延長しないこともある)、第XIII因子欠乏症、線溶系の異常(α2-プラスミンインヒビター欠乏症など)がある。
POINT
・高齢者の手背・前腕に限局する紫斑で、粘膜出血がなく、血小板数・PT・APTTが正常なら老人性紫斑を考える。 ・老人性紫斑は加齢と日光曝露による血管支持組織の脆弱化によるもので、治療不要であり経過観察でよい。 ・出血傾向は「血小板」「凝固因子」「血管」のどこに異常があるかで整理する。粘膜出血・点状出血は血小板の異常、関節内・筋肉内出血は凝固因子の異常を示唆する。 ・検査がすべて正常な紫斑では血管性の紫斑を考え、不要な侵襲的検査は行わない。
