寝たきりの仙骨部にできた黒い潰瘍―褥瘡をつくる「圧」と「もろさ」
第108回医師国家試験 H問題 第22問
国試問題にチャレンジ
75歳の女性。やせが目立ってきたことを主訴に来院した。30年前から高血圧症に対して,15年前から骨粗鬆症に対してそれぞれ治療中である。10年前に脳梗塞を発症し寝たきりとなった。自宅で家族が介護してきたが,四肢関節の拘縮が徐々に進行し,最近は体位変換も困難である。半年前から経口摂取が不良となり,やせが目立ってきた。身長140 cm,体重31 kg。皮膚は乾燥している。仙骨部の写真を別に示す。 この患者で仙骨部の病変のリスクファクターとなっているのはどれか。

- a.女性
- b.低身長
- c.低栄養
- d.高血圧
- e.皮膚の乾燥
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
褥瘡は骨突出部が骨と寝具の間で持続的に圧迫され、虚血性壊死に陥ることで生じ、仰臥位では仙骨部が最好発部位です。危険因子は、可動性・活動性の低下や関節拘縮など圧迫を強く長くする因子と、低栄養・やせ、皮膚の湿潤、摩擦・ずれなど組織の耐久性を下げる因子に分けて整理できます。低栄養は皮下組織の減少による圧の集中、皮膚の脆弱化、創傷治癒の遅延を通じて褥瘡の発生と難治化に深く関わり、ブレーデンスケールの評価項目にも含まれます。一方、性別・身長・高血圧は危険因子ではなく、皮膚の乾燥の影響は湿潤に比べて副次的です。除圧・スキンケア・栄養改善を一体として捉えることが、在宅や病棟での褥瘡予防と治療の基本になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・75歳女性、10年前の脳梗塞後から寝たきり ・四肢関節の拘縮が進み、最近は体位変換も困難 → 同じ部位に長時間圧がかかり続ける(可動性・活動性の低下) ・半年前から経口摂取不良でやせが進行。身長140 cm、体重31 kgで、BMI(体格指数)は31÷(1.4×1.4)≒15.8 kg/m²と著明な低体重 → 低栄養 ・骨が突出する仙骨部の写真では、中央に黒色の壊死組織(黒色痂皮)が付着した潰瘍があり、その周囲に発赤と表皮の剥離を伴う
診断
寝たきりで体位変換ができない患者の骨突出部(仙骨部)に生じた壊死を伴う潰瘍であり、仙骨部の褥瘡と診断できる。褥瘡は、骨と寝具の間で皮膚や皮下組織が持続的に圧迫されて血流が途絶え、組織が虚血・壊死に陥ることで生じる。
設問の考え方
褥瘡の危険因子は、圧迫を強く・長くする因子と、組織の耐久性を低下させる因子に大別できる。本例では、自力で体位を変えられないこと(可動性の低下)と関節拘縮が前者にあたる。やせによって骨突出部をクッションする皮下脂肪や筋肉が減っていること、低栄養によって皮膚・皮下組織が脆弱になり創傷治癒も遅れることが後者にあたる。選択肢の中で、確立された褥瘡の危険因子であり、本例に明らかに該当するのは低栄養である。
選択肢考察
- ×a. 女性
性別そのものは褥瘡の危険因子とされていない。褥瘡の発生を左右するのは、可動性・活動性の低下、栄養状態、皮膚の湿潤、摩擦・ずれ、骨突出の程度などであり、性別の違いではない。
- ×b. 低身長
身長が低いこと自体は褥瘡の危険因子ではない。問題となるのは身長に対する体重の少なさ(やせ)であり、骨突出部を覆う軟部組織が減ることで局所の圧が高まる。本例の身長は、やせの程度を評価するための情報として示されている。
- ○c. 低栄養
経口摂取不良が半年続き、BMIは約15.8 kg/m²と著明なやせを示しており、低栄養状態にある。低栄養では皮下脂肪や筋肉が減少して骨突出が目立ち、骨突出部に圧が集中しやすくなる。また、蛋白質やエネルギーの不足により、皮膚・皮下組織が脆くなり、浮腫も起こりやすくなるため、圧迫やずれに対する組織の耐久性が低下する。さらに、創傷治癒に必要な材料が不足するため、いったんできた褥瘡も治りにくい。ブレーデンスケールにも「栄養状態」が評価項目として含まれており、代表的な危険因子である。
- ×d. 高血圧
高血圧は褥瘡の危険因子とはされていない。循環に関連して褥瘡を悪化させる要因としては、閉塞性動脈硬化症などの末梢循環障害や、低血圧・ショックによる組織への血流低下が挙げられる。高血圧そのものが褥瘡を起こしやすくするわけではない。
- ×e. 皮膚の乾燥
高齢者の乾燥した皮膚(ドライスキン)は、皮膚のバリア機能が低下して摩擦やずれで傷つきやすく、褥瘡の局所因子の一つとして挙げられることがある。しかし、褥瘡の発生・悪化に強く関わるのはむしろ失禁や発汗による皮膚の湿潤(浸軟)であり、乾燥の影響は副次的である。本例では、体位変換困難に加えて著明な低栄養が存在し、選択肢の中で本例の褥瘡の危険因子として最も明確なのは低栄養である。したがって、本問の解答としては選ばない。
褥瘡の発生機序
骨突出部で皮膚・皮下組織が骨と寝具の間に挟まれ、毛細血管の血流を途絶えさせる程度の圧が一定時間以上続くと、組織は虚血に陥り壊死する。皮膚表面に並行する力(ずれ・摩擦)が加わると、深部の血管が引き伸ばされて虚血がさらに進む。好発部位は仰臥位での仙骨部・踵部・後頭部・肩甲骨部、側臥位での大転子部・腸骨稜部・外果部などである。
主な危険因子
・全身因子:可動性・活動性の低下(寝たきり、麻痺、関節拘縮、鎮静)、低栄養・やせ、高齢、知覚の低下、糖尿病や末梢循環障害などの基礎疾患、ステロイドなどの薬剤 ・局所因子:骨突出、失禁・発汗による皮膚の湿潤、摩擦・ずれ、皮膚の脆弱化(高齢者のドライスキンや皮膚の菲薄化を含む) ・社会的因子:介護力の不足、適切な体圧分散寝具の不使用
リスクアセスメントスケール
・ブレーデンスケール:知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれの6項目で評価する。合計点が低いほど危険が高い(6〜23点)。 ・OHスケール:日本で開発され、自力体位変換能力、病的骨突出、浮腫、関節拘縮の4項目で評価する。
重症度・経過の評価
・NPUAP/EPUAP分類で深達度をステージ分類する。黒色の壊死組織に覆われて深さが判定できないものは「判定不能」とされる。 ・日本褥瘡学会のDESIGN-R(最新版はDESIGN-R 2020)は、深さ(Depth)、滲出液(Exudate)、大きさ(Size)、炎症/感染(Inflammation/Infection)、肉芽組織(Granulation)、壊死組織(Necrotic tissue)、ポケット(Pocket)の各項目で評価し、治癒過程の経過観察に用いる。
予防と治療の原則
体位変換(原則2時間ごと、体圧分散寝具の使用時は間隔を延ばせる場合がある)、体圧分散寝具の使用、スキンケア(失禁への対応、保湿)、栄養状態の改善が柱となる。本例のような黒色壊死組織を伴う褥瘡では、壊死組織の除去(デブリードマン)を行い、感染の制御と肉芽形成の促進を図る。
POINT
・褥瘡は骨突出部への持続的な圧迫による虚血性壊死であり、仙骨部が最好発部位である。 ・主な危険因子:可動性・活動性の低下(体位変換困難、関節拘縮)、低栄養・やせ、皮膚の湿潤、摩擦・ずれ、知覚の低下。 ・性別、身長、高血圧は危険因子ではない。 ・評価にはブレーデンスケール(栄養状態を含む6項目)、OHスケール、DESIGN-Rを用いる。 ・予防・治療には、除圧(体位変換・体圧分散寝具)とあわせて栄養状態の改善が不可欠である。
