肩が引っかかったその瞬間に―頭位分娩で傷つく「首の神経」を読み解く
第106回医師国家試験 I問題 第39問
国試問題にチャレンジ
頭位分娩時に新生児が損傷を受けやすいのはどれか。2つ選べ。
- a.三叉神経
- b.腕神経叢
- c.迷走神経
- d.横隔神経
- e.坐骨神経
対話形式の解説
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医学生まとめ
頭位分娩では、児頭娩出後に肩が恥骨結合に引っかかる肩甲難産の際、児頭の牽引や側屈によって頸部が過伸展され、頸部の神経根に由来する腕神経叢(C5〜Th1)と横隔神経(主にC4)が損傷されやすくなります。腕神経叢麻痺は分娩麻痺で最も多く、C5・C6のErb麻痺では把握反射が保たれてMoro反射が患側で消失し、C8・Th1のKlumpke麻痺では把握反射が消失してHorner症候群を伴うことがあります。Erb麻痺には横隔神経麻痺が合併しうるため、患側横隔膜の挙上や呼吸障害の有無を必ず評価します。頭位分娩で損傷されやすい脳神経は顔面神経であり、坐骨神経損傷は骨盤位分娩や臀部への筋注で問題となります。分娩のどの場面でどこに力が加わるかを解剖と結びつけて考えることが、分娩外傷全般を理解し、新生児診察で異常に気づく力につながります。
解答・解説
正解はb, dです
分娩の際、児の体に加わる牽引・圧迫・過伸展などの機械的外力によって末梢神経が損傷され、その支配領域に運動麻痺が生じることがある(分娩麻痺)。どの神経が傷つきやすいかは、分娩の経過でどの部位に強い力がかかるかを考えると理解しやすい。
頭位分娩で外力が集中する部位
頭位分娩では児頭が先に娩出され、続いて肩甲が娩出される。児の肩が母体の恥骨結合に引っかかって娩出が困難になる肩甲難産(巨大児、母体糖尿病、母体肥満などが危険因子)では、児頭を強く牽引したり側方へ屈曲させたりするため、頭部と肩の間の距離が引き伸ばされ、頸部から出る神経根(C3〜Th1)が過伸展を受ける。その結果、腕神経叢(C5〜Th1)が損傷され、さらに近接する上位頸髄神経根(C3〜C5)から起こる横隔神経も同時に損傷されることがある。 したがって本問では、頸部神経根に由来する腕神経叢と横隔神経が正解となる。一方、脳神経(三叉神経・迷走神経)は頭蓋内・頭蓋底を走行し頸部の伸展の影響を受けにくい。坐骨神経は骨盤位分娩や臀部への筋肉注射で問題となる神経である。なお頭位分娩で損傷されやすい脳神経としては、鉗子分娩や産道での圧迫による顔面神経麻痺が知られている。
選択肢考察
- ×a. 三叉神経
三叉神経は顔面の感覚と咀嚼筋の運動を担う脳神経で、主要な部分は頭蓋内および顔面の深部を走行するため、分娩時の外力で損傷されることはまれである。頭位分娩で分娩外傷として問題となる脳神経は、耳下腺付近で浅く走行する顔面神経であり、鉗子の圧迫や母体の仙骨岬角による圧迫で患側の閉眼不全・口角下垂などが生じる(多くは自然回復する)。三叉神経は損傷を受けやすい神経ではなく誤りである。
- ○b. 腕神経叢
腕神経叢はC5〜Th1の脊髄神経前枝から構成され、上肢の運動・感覚を支配する。頭位分娩で肩甲難産となった際に児頭を強く牽引・側屈すると、頸部と肩の間が引き伸ばされて神経根が過伸展・断裂し、分娩麻痺の中で最も頻度の高い腕神経叢麻痺を生じる。骨盤位分娩で後続児頭や挙上した上肢を娩出する際にも起こる。 ・上位型(Erb麻痺、Erb-Duchenne麻痺): C5・C6(C7を含むこともある)の障害で最も多い。肩は内転・内旋、肘は伸展、前腕は回内、手関節は屈曲する特有の肢位(ウェイターズチップ肢位)をとり、上肢の挙上や肘の屈曲ができない。患側のMoro反射は消失・減弱するが、手指の把握反射は保たれる。 ・下位型(Klumpke麻痺): C8・Th1の障害で、手関節・手指の運動が障害され把握反射が消失する。Th1から出る交感神経線維が障害されると同側のHorner症候群(縮瞳・眼瞼下垂)を伴う。 ・全型: C5〜Th1全体の障害で上肢全体が弛緩性麻痺となる。 頭位分娩で損傷を受けやすい神経として正しい。
- ×c. 迷走神経
迷走神経は延髄から出て頸静脈孔を通り、頸動脈鞘内を内頸静脈・総頸動脈とともに下行して胸腹部臓器に分布する脳神経である。頸部を通るものの深部で血管とともに保護されて走行しており、分娩時の頸部の過伸展によって損傷されることはまれである。分娩外傷として注意すべき神経ではないため誤りである。
- ○d. 横隔神経
横隔神経は主にC4(C3〜C5)の神経根から起こり、前斜角筋の前面を下行して横隔膜の運動を支配する。腕神経叢のすぐ上位の神経根から出るため、肩甲難産などで頸部が強く過伸展されると、腕神経叢麻痺(特に上位型のErb麻痺)に合併して横隔神経麻痺が起こることがある。患側の横隔膜が挙上して動かなくなり、新生児では多呼吸・陥没呼吸・チアノーゼなどの呼吸障害や反復する肺炎を生じる。診断は胸部X線写真での患側横隔膜挙上や、透視・超音波での奇異性運動の確認による。Erb麻痺の児では呼吸状態を必ず評価する必要があり、頭位分娩で損傷されやすい神経として正しい。
- ×e. 坐骨神経
坐骨神経はL4〜S3から起こり、臀部から大腿後面を下行して下肢の運動・感覚を支配する。頭位分娩では骨盤・下肢は最後に娩出されるため強い外力を受けにくく、坐骨神経を損傷することはまれである。新生児の坐骨神経損傷は、骨盤位分娩で臀部・下肢に外力が加わる場合や、臀部への筋肉注射による医原性損傷で問題となる。頭位分娩で損傷されやすい神経ではなく誤りである。
主な分娩外傷の整理
・頭部: 産瘤(皮下の浮腫、骨縫合を越える、数日で消失)、頭血腫(骨膜下出血、骨縫合を越えない、黄疸の増悪要因、数週〜数か月で吸収)、帽状腱膜下血腫(骨縫合を越えて広がり、出血性ショックの危険がある。吸引分娩で起こりやすい)、頭蓋内出血。 ・骨折: 鎖骨骨折が最も多く、肩甲難産や巨大児で起こりやすい。患側のMoro反射の減弱・消失や、骨折部の轢音で気づかれる。上腕骨骨折・大腿骨骨折は骨盤位分娩で起こりやすい。 ・末梢神経: 腕神経叢麻痺(最多)、横隔神経麻痺(腕神経叢麻痺に合併しやすい)、顔面神経麻痺(鉗子分娩など)。
腕神経叢麻痺の経過と治療
多くは神経の伸展による一過性の障害で、数週〜数か月で自然回復する。初期は患肢の安静と拘縮予防のための関節可動域訓練を行う。生後3〜6か月程度を経ても上腕二頭筋の回復がみられない場合は、神経移植などの外科的治療が検討される。
横隔神経麻痺の治療
軽症では経過観察・呼吸管理で自然回復を待つ。呼吸障害が持続する場合は横隔膜縫縮術が行われる。
危険因子
巨大児(出生体重4,000 g以上)、母体糖尿病、母体肥満、過期妊娠、遷延分娩、吸引・鉗子分娩、肩甲難産の既往、骨盤位。
POINT
・頭位分娩では肩甲難産で頸部が過伸展され、腕神経叢(C5〜Th1)と横隔神経(主にC4)が損傷されやすい。 ・Erb麻痺(C5・C6)は最多で、把握反射は保たれMoro反射が患側で消失する。Klumpke麻痺(C8・Th1)は把握反射が消失し、Horner症候群を伴うことがある。 ・Erb麻痺では横隔神経麻痺の合併(患側横隔膜挙上・呼吸障害)に注意する。 ・頭位分娩で損傷されやすい脳神経は顔面神経。坐骨神経損傷は骨盤位分娩や臀部への筋注で起こる。
