ジストロフィンは心臓にもある―Duchenne型筋ジストロフィーの合併症を「欠損部位」から読み解く
第106回医師国家試験 I問題 第35問
国試問題にチャレンジ
Duchenne型筋ジストロフィーに合併するのはどれか。2つ選べ。
- a.白内障
- b.心筋症
- c.糖尿病
- d.性腺萎縮
- e.脊柱変形
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
Duchenne型筋ジストロフィーは、ジストロフィン遺伝子の変異によるX連鎖潜性遺伝の疾患で、男児に近位筋優位の筋力低下、腓腹筋の仮性肥大、Gowers徴候、血清CKの著明な高値をきたします。ジストロフィンは心筋にも存在するため拡張型心筋症様の心筋障害を合併し、呼吸管理が進歩した現在では心不全が主要な死因の一つです。また歩行不能となって車椅子生活になると側弯などの脊柱変形が進行し、胸郭変形を介して呼吸機能をさらに悪化させます。白内障、糖尿病、性腺萎縮、前頭部脱毛は常染色体顕性遺伝の筋強直性ジストロフィーの多臓器障害であり、両疾患を対比して整理することが重要です。合併症を病態から理解しておくことは、呼吸・心臓・整形外科的管理を組み合わせた集学的診療の理解にも直結します。
解答・解説
正解はb, eです
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は、X染色体上にあるジストロフィン遺伝子の変異によって、筋細胞膜を裏打ちする蛋白質ジストロフィンがほぼ完全に欠損する、X連鎖潜性(劣性)遺伝の疾患である。原則として男児に発症し、筋ジストロフィーの中で最も頻度が高い。ジストロフィンがないと、筋が収縮するたびに細胞膜が傷つき、筋線維の壊死と再生が繰り返され、次第に筋が脂肪組織や線維組織に置き換わっていく。 合併症を考えるうえでのポイントは、ジストロフィンが骨格筋だけでなく心筋にも存在することである。 ・心筋にもジストロフィン欠損による変性・線維化が起こり、拡張型心筋症様の心筋障害(心筋症)を生じる(b)。 ・体幹の筋力低下が進み、歩行ができなくなって車椅子生活になると、脊柱を支えられなくなり、側弯などの脊柱変形が進行する(e)。脊柱変形は胸郭の変形を招き、呼吸機能をさらに悪化させる。 一方、白内障、糖尿病(耐糖能異常)、性腺萎縮は、常染色体顕性(優性)遺伝の筋強直性ジストロフィーでみられる多臓器障害の代表であり、DMDの特徴ではない。二つの筋ジストロフィーの合併症を対比して覚えておくと、本問は容易に解ける。
選択肢考察
- ×a. 白内障
白内障は筋強直性ジストロフィー(とくに1型、DM1)に特徴的な合併症であり、細隙灯顕微鏡で虹色の点状混濁がみられることがある。DMDは骨格筋と心筋が主に障害される疾患で、眼の水晶体に異常を生じることは特徴的ではない。
- ○b. 心筋症
ジストロフィンは心筋細胞にも発現しているため、DMDでは心筋も変性・線維化し、拡張型心筋症と同様の左室拡大と収縮力低下をきたす。10歳前後から心筋障害が現れ始め、年齢とともに頻度が高まる。人工呼吸管理の普及によって呼吸不全による死亡が減った現在では、心不全が主要な死因の一つとなっている。したがって正しい。なお、心筋障害はDMDに限らず、Becker型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー(主に伝導障害・不整脈)、福山型先天性筋ジストロフィーなどでもみられる。
- ×c. 糖尿病
インスリン抵抗性による耐糖能異常・糖尿病は、筋強直性ジストロフィーの内分泌・代謝障害として知られる。DMDそのものの特徴的な合併症ではない。なお、DMDの治療で長期に副腎皮質ステロイドを使う場合には、副作用として体重増加や耐糖能異常に注意が必要であるが、これは病気自体の合併症とは区別される。
- ×d. 性腺萎縮
精巣萎縮などの性腺萎縮は、筋強直性ジストロフィーでみられる内分泌障害の一つである。同疾患では前頭部脱毛(禿頭)、白内障、耐糖能異常、心伝導障害、知的障害なども伴い、多臓器が障害されるのが特徴である。DMDでは性腺萎縮は特徴的な合併症ではない。
- ○e. 脊柱変形
DMDでは体幹筋の筋力低下が進むため、歩行可能な時期には腰椎の前弯が強くなり、腹部を突き出した姿勢となる。歩行不能となって車椅子生活になると、姿勢を保てなくなり、側弯などの脊柱変形が急速に進行しやすい。脊柱変形は胸郭の変形を通じて拘束性の呼吸機能障害を悪化させ、座位保持も困難にする。重度の場合は脊椎固定術が検討される。四肢の関節拘縮(とくにアキレス腱の短縮による尖足)も合併しやすい。したがって正しい。
Duchenne型筋ジストロフィーの概要
・遺伝形式: X連鎖潜性遺伝。原則として男児に発症し、母親が保因者であることが多いが、約3分の1は新生突然変異による。女性保因者でも軽い筋力低下や心筋障害を示すことがある。 ・頻度: 出生男児約3,500人に1人とされ、小児期発症の筋ジストロフィーで最も多い。 ・病態: ジストロフィン遺伝子の変異(欠失が多い)で、ジストロフィンがほぼ完全に欠損する。ジストロフィンが少量ながら存在する軽症型がBecker型筋ジストロフィーである。
臨床経過
・2〜5歳ころ: 転びやすい、走れないなどで気付かれる。筋力低下は腰帯部(骨盤周囲)・近位筋から始まる。 ・特徴的な所見: 腓腹筋の仮性肥大(筋が脂肪・線維組織に置き換わって太く見える)、登攀性起立(Gowers徴候:床から立ち上がる際に手を膝や大腿について体を押し上げる)、動揺性歩行(腰を左右に振る歩き方)、腰椎前弯。 ・10歳前後: 歩行不能となり車椅子生活になる。以後、脊柱変形・関節拘縮が進む。 ・10歳代以降: 呼吸筋力低下による呼吸不全、心筋症による心不全が進行する。 ・知的障害を伴うことがある(患者の約3分の1)。脳にもジストロフィンのアイソフォームが存在するためと考えられている。
検査
・血清クレアチンキナーゼ(CK)が著しく高値(正常の数十〜数百倍)で、発症前の乳児期から高い。 ・遺伝子検査(MLPA法などで欠失・重複を検出)で確定する。筋生検ではジストロフィン染色の欠如を確認できる。
治療と予後
・副腎皮質ステロイドにより歩行可能期間の延長や脊柱変形の抑制が期待できる。 ・非侵襲的陽圧換気(NPPV)などの呼吸管理、ACE阻害薬・β遮断薬などによる心筋症の治療、リハビリテーション、脊柱変形に対する手術などの集学的管理が行われる。 ・特定のエクソン欠失をもつ患者には、エクソン・スキッピング治療薬(ビルトラルセン)が用いられる。 ・かつては20歳前後で死亡するとされたが、呼吸管理・心不全治療の進歩により、現在は平均寿命が30歳を超えるまで延びている。主な死因は呼吸不全と心不全である。
筋強直性ジストロフィーとの対比
・筋強直性ジストロフィー1型: 常染色体顕性遺伝(DMPK遺伝子のCTGリピート伸長)。筋強直(ミオトニア)、遠位筋優位の筋力低下、斧状顔貌、前頭部脱毛、白内障、耐糖能異常、性腺萎縮、心伝導障害、知的障害など多臓器にわたる症状を示す。 ・DMD: 近位筋優位の筋力低下、仮性肥大、心筋症、脊柱変形・関節拘縮、呼吸不全が中心。
POINT
・DMDはジストロフィン欠損によるX連鎖潜性遺伝の疾患で、男児に発症する。 ・ジストロフィンは心筋にもあるため、心筋症を合併し、心不全は主要な死因の一つである。 ・歩行不能になると側弯などの脊柱変形が進行し、呼吸機能の悪化につながる。 ・白内障、糖尿病、性腺萎縮、前頭部脱毛は筋強直性ジストロフィーの合併症である。 ・腓腹筋の仮性肥大、Gowers徴候、血清CKの著明な高値が診断の手がかりとなる。
