「量」の不足か「質」の不良か―骨髄異形成症候群と再生不良性貧血の共通点を見抜く
第106回医師国家試験 I問題 第36問
国試問題にチャレンジ
骨髄異形成症候群と再生不良性貧血とに共通してみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.dry tap
- b.髄外造血
- c.汎血球減少
- d.芽球の増加
- e.血清エリスロポエチン高値
対話形式の解説
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ドクターまとめ
骨髄異形成症候群と再生不良性貧血はいずれも骨髄不全症候群で、機序は異なっても末梢血では汎血球減少をきたし得ます。また両者とも貧血の原因は骨髄側にあり腎臓のエリスロポエチン産生能は保たれるため、低酸素に反応して血清エリスロポエチンは代償的に高値となり、産生自体が落ちる腎性貧血とは対照的です。再生不良性貧血は造血幹細胞の減少による低形成骨髄(造血の「量」の不足)、骨髄異形成症候群はクローン性異常による無効造血(造血の「質」の不良)で、芽球増加・異形成・染色体異常は後者に特徴的です。dry tapや髄外造血は骨髄線維症に代表される所見で、両疾患の典型像ではありません。共通点と相違点を病態から整理しておくことは、汎血球減少の鑑別と治療方針の決定に直結します。
解答・解説
正解はc, eです
骨髄異形成症候群(MDS: myelodysplastic syndromes)と再生不良性貧血(AA: aplastic anemia)は、どちらも末梢血の血球が減る骨髄不全症候群であり、臨床像がよく似るため鑑別が問題になる。本問は両者の「共通点」と「相違点」を整理できているかを問う。
両者の病態の違い
・再生不良性貧血: 多くは自己免疫的機序(T細胞による造血幹細胞の傷害)により造血幹細胞そのものが減少し、骨髄は低形成(脂肪髄)となる。造血の「量」が足りない病態である。 ・骨髄異形成症候群: 造血幹細胞の遺伝子異常によるクローン性疾患で、骨髄は正〜過形成のことが多い。しかし産生された細胞は形態異常(異形成)を示し、成熟途中でアポトーシスに陥るため末梢に出てこない(無効造血)。造血の「質」が悪い病態であり、芽球が増えて急性骨髄性白血病へ移行することがある。
共通点を考える
機序は異なっても、結果として末梢血では赤血球・白血球・血小板がいずれも減少し得る(汎血球減少)。また両者とも貧血の原因は骨髄側(造血障害)にあり、腎臓のエリスロポエチン(EPO)産生能は保たれているため、貧血による組織低酸素に反応してEPOは代償的に高値となる。 一方、骨髄が線維化して穿刺液が引けない状態(dry tap)や、骨髄以外の臓器で造血が起こる状態(髄外造血)は骨髄線維症に代表される所見であり、両疾患の典型像ではない。芽球の増加はMDSを特徴づける所見で、再生不良性貧血ではみられない。
選択肢考察
- ×a. dry tap
dry tapは骨髄穿刺を行っても骨髄液がほとんど吸引できない状態を指す。骨髄の線維化や、腫瘍細胞が骨髄を密に占拠している状態で起こり、原発性骨髄線維症、慢性骨髄性白血病の急性転化、有毛細胞白血病、癌の骨髄転移などが代表的である。再生不良性貧血では骨髄が脂肪髄となるため、吸引自体は可能だが細胞成分に乏しい(hypocellular)検体となるのが典型であり、dry tapとは異なる。MDSでも線維化を伴う一部の病型(MDS with fibrosis)では吸引困難となることはあるが、一般的な所見ではない。両者に共通する所見とはいえず誤りである。
- ×b. 髄外造血
髄外造血とは、骨髄以外の臓器(主に脾臓・肝臓)で血球が産生される現象である。骨髄での造血の場が失われた場合(原発性骨髄線維症など)や、慢性溶血で造血需要が著しく高い場合(サラセミアなど)にみられ、脾腫・肝腫大の原因となる。再生不良性貧血は造血幹細胞そのものが減少している病態であり、髄外で造血を代償することはできず、脾腫も通常みられない。MDSでも髄外造血は典型的所見ではない。したがって誤りである。
- ○c. 汎血球減少
汎血球減少は赤血球・白血球・血小板の3系統がいずれも減少した状態である。再生不良性貧血では造血幹細胞が減少し骨髄が低形成となるため、3系統すべての産生が低下する。MDSでは骨髄は細胞に富むことが多いが、異形成を示す細胞が成熟途中で死滅する無効造血のため、末梢血では血球減少をきたす(1系統のみの減少から汎血球減少までさまざまである)。機序は異なるが結果として両疾患に共通してみられるため正しい。なお汎血球減少をきたす疾患には、ほかに発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、巨赤芽球性貧血、急性白血病、脾機能亢進症、全身性エリテマトーデスなどがある。
- ×d. 芽球の増加
芽球の増加は腫瘍性(クローン性)の造血を示す所見であり、MDSの病型分類や予後判定(IPSS-Rなど)で重要な指標となる。骨髄芽球が20%以上に達すれば急性骨髄性白血病と診断される。一方、再生不良性貧血は造血幹細胞の減少による低形成骨髄であり、芽球の増加は認めない。骨髄で芽球が増えている場合は再生不良性貧血を否定し、MDSや白血病を考える根拠となる。MDSのみの所見であり誤りである。
- ○e. 血清エリスロポエチン高値
エリスロポエチン(EPO)は主に腎臓の尿細管周囲間質細胞が産生する造血因子で、組織の低酸素を感知して産生が増える。再生不良性貧血でもMDSでも、貧血の原因は骨髄の造血障害であって腎臓のEPO産生能は保たれているため、貧血による低酸素に反応してEPOは代償的に高値となる(再生不良性貧血では著明な高値を示すことが多い)。したがって両者に共通してみられ正しい。これに対し、腎性貧血ではEPO産生そのものが障害されるため、貧血の程度に比してEPOが低値となる点が対照的である。なおMDSではEPO値が比較的低い例(目安として500 mU/mL未満)でEPO製剤(赤血球造血刺激因子製剤)への反応が期待できるとされる。
再生不良性貧血と骨髄異形成症候群の比較
・病態: 再生不良性貧血は造血幹細胞の減少(多くは免疫学的機序)、MDSは造血幹細胞のクローン性異常による無効造血。 ・骨髄細胞密度: 再生不良性貧血は低形成(脂肪髄)、MDSは正〜過形成が多い(低形成MDSもあり、再生不良性貧血との鑑別が難しいことがある)。 ・血球の形態異常: 再生不良性貧血ではみられない。MDSでは偽Pelger核異常、低分葉・脱顆粒好中球、環状鉄芽球、微小巨核球などの異形成を認める。 ・芽球: 再生不良性貧血では増加しない。MDSでは増加することがあり、20%以上で急性骨髄性白血病。 ・染色体異常: MDSでは約半数に認める(5q欠失、7番染色体異常、+8など)。 ・網赤血球: 再生不良性貧血では絶対数が減少する。 ・治療: 再生不良性貧血は免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン+シクロスポリン)、トロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)、造血幹細胞移植。MDSはリスクに応じて輸血・EPO製剤・レナリドミド(5q欠失例)・アザシチジン・造血幹細胞移植など。
関連用語の整理
・dry tap: 骨髄線維症、慢性骨髄性白血病の急性転化、有毛細胞白血病、癌の骨髄転移。 ・髄外造血: 原発性骨髄線維症(巨脾、涙滴赤血球、白赤芽球症を伴う)、サラセミアなどの慢性溶血。 ・EPO低値: 腎性貧血、真性多血症(EPO非依存的に赤血球が増えるため)。 ・EPO高値: 腎以外の原因による貧血全般、低酸素による二次性多血症、EPO産生腫瘍(腎細胞癌、肝細胞癌、小脳血管芽腫など)。
POINT
・MDSと再生不良性貧血はいずれも汎血球減少をきたし、腎のEPO産生能は保たれるため血清EPOは代償的に高値となる。 ・芽球増加・血球の異形成・染色体異常はMDSの特徴で、再生不良性貧血ではみられない。 ・骨髄はMDSで正〜過形成、再生不良性貧血で低形成(脂肪髄)。 ・dry tapと髄外造血は骨髄線維症の代表的所見である。
