StudyMed医師国家試験

慢性膵炎の3分の2はお酒から―急性膵炎と取り違えない成因の序列

第106回医師国家試験 I問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第1問

慢性膵炎の成因のうち最も頻度が高いのはどれか。

  1. a.肥満
  2. b.胆石
  3. c.アルコール
  4. d.Vater乳頭炎
  5. e.過敏性腸症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は慢性膵炎の成因を問う一問一答だ。シンプルだけれど、急性膵炎の成因と混同しやすいのが落とし穴。まず、慢性膵炎がどんな病気か、イメージできるかな。
医学生医学生
膵臓の炎症が繰り返されて、だんだん硬くなっていく病気というイメージです。
ドクタードクター
いいね。持続的・反復的な炎症で膵実質が脱落して線維化し、消化酵素を出す外分泌機能と、インスリンなどを出す内分泌機能が徐々に失われていく。進行すると膵石ができたり、膵管が不整に拡張したりする。では、その原因で一番多いのは何だと思う?
医学生医学生
膵炎といえばアルコールと胆石の2つが有名なので、どちらかで迷います。
ドクタードクター
その迷いがまさにこの問題の狙いなんだ。急性膵炎ではアルコールと胆石が二大成因として並ぶ。でも慢性膵炎では話が違って、わが国の全国調査ではアルコール性がおよそ3分の2を占めて圧倒的に多い。次いで原因がはっきりしない特発性、その次が胆石性という順だ。
医学生医学生
胆石は慢性膵炎では意外と少ないんですね。
ドクタードクター
胆石性膵炎は、胆石を取り除けば再発を防げることが多いから、慢性化しにくいと考えられている。一方で飲酒は何年も続くから、膵臓は傷害を受け続けるわけだ。
医学生医学生
アルコールで膵臓が壊れていく仕組みは、どうなっているんでしょうか。
ドクタードクター
いくつかの機序が考えられている。膵液中の蛋白が沈殿して膵管内に蛋白栓や膵石ができること、アルコールやその代謝産物が腺房細胞を直接傷つけること、膵星細胞が活性化されて線維化が進むこと、などだね。それと、喫煙は飲酒とは独立した危険因子で、進行を早めるとされている。
医学生医学生
肥満はどうですか。生活習慣病つながりで関係ありそうに思えました。
ドクタードクター
肥満そのものは慢性膵炎の主な原因ではない。急性膵炎を起こしたときに重症化しやすい因子とはされるけれどね。代謝異常で膵炎の原因になるのは、著しい高トリグリセリド血症のほうだ。
医学生医学生
Vater乳頭炎は、膵液の出口が詰まるので原因になりそうな気もします。
ドクタードクター
理屈としては、乳頭の炎症や狭窄で膵液の流れが妨げられれば膵炎は起こりうる。でも慢性膵炎の成因としてはまれで、最多にはならない。過敏性腸症候群は器質的異常のない機能性の腸疾患だから、膵臓に炎症を起こすことはない。ただ、腹痛や下痢が似ることがあるので、鑑別には挙がるね。
医学生医学生
消化器内科の実習で、膵石のある男性の患者さんを担当しました。毎日日本酒を何合も飲んでいたと聞いて、まさに典型例だったんだと思います。
ドクタードクター
そう、男性ではアルコール性の割合が特に高い。女性では特発性の割合が相対的に高くなる。その患者さんの症状の経過はどうだった?
医学生医学生
以前は飲酒後のひどい腹痛で何度も入院していたのに、最近は痛みが減って、代わりに下痢と体重減少、糖尿病が問題になっていました。
ドクタードクター
それは病期の進行をよく表しているね。代償期には上腹部痛や背部痛を繰り返すけれど、膵実質の破壊が進んだ非代償期には痛みはむしろ軽くなり、外分泌不全による脂肪便・下痢・体重減少と、内分泌不全による膵性糖尿病が前面に出てくる。「痛みが減った=良くなった」ではない点に注意が必要だ。
医学生医学生
治療はやはり断酒が中心ですか。
ドクタードクター
断酒と禁煙が最も重要だ。そのうえで、痛みには鎮痛薬、外分泌不全には高力価の消化酵素薬、膵性糖尿病にはインスリンを使う。膵石には内視鏡治療や体外衝撃波結石破砕術を行うこともある。それから、慢性膵炎は膵癌の危険因子でもあるから、長期のフォローが欠かせないよ。なお、自己免疫性膵炎は画像所見やステロイドへの反応が異なるので、慢性膵炎とは別に扱われることも覚えておこう。
医学生医学生
急性はアルコールと胆石、慢性はアルコールが断トツ、と分けて覚えます。

まとめ

慢性膵炎は持続的・反復的な炎症により膵実質の脱落と線維化が進み、外分泌・内分泌機能が徐々に失われる疾患で、わが国の成因はアルコール性がおよそ3分の2を占めて最多、次いで特発性、胆石性の順です。急性膵炎ではアルコールと胆石が二大成因ですが、胆石性は胆石除去で再発を防ぎやすく慢性化しにくいため、慢性膵炎では割合が小さくなります。肥満、Vater乳頭炎、過敏性腸症候群は慢性膵炎の主要な成因ではなく、喫煙は飲酒とは独立した危険因子です。病期が進むと腹痛はむしろ軽減し、脂肪便や膵性糖尿病が前面に出るため、断酒・禁煙を基本に消化酵素薬やインスリンで補い、膵癌の発生にも注意して経過をみます。急性と慢性で成因の比率が異なることを押さえておくと、問診で飲酒歴を重視する意味や長期管理の考え方まで一貫して理解できます。

解答・解説

正解はcです

テーマ

慢性膵炎とは、膵臓に持続的・反復的な炎症が起こり、膵実質の脱落と線維化が進んで、膵臓の働き(消化酵素を分泌する外分泌機能と、インスリンなどを分泌する内分泌機能)が徐々に失われていく疾患である。進行すると膵石(膵管内の石灰化)や膵管の不整な拡張を伴う。

成因の頻度

わが国の全国調査では、成因は多い順に「アルコール性」「特発性(原因を特定できないもの)」「胆石性」となり、アルコール性がおよそ3分の2を占めて圧倒的に多い。特に男性ではアルコール性の割合が高く、女性では特発性の割合が相対的に高い。したがって、選択肢の中で最も頻度が高い成因はアルコールである。

考え方

急性膵炎ではアルコールと胆石が二大成因として並ぶのに対し、慢性膵炎では胆石の占める割合は小さい。急性膵炎と慢性膵炎の成因の違いを区別して覚えておくことが、正答への近道である。

選択肢考察

  1. ×a.  肥満

    肥満は慢性膵炎の成因として挙げられていない。膵炎の成因となる代謝異常は著しい高トリグリセリド血症(主に急性膵炎の原因)であり、肥満そのものではない。なお肥満は急性膵炎を発症した場合に重症化しやすい因子とはされるが、慢性膵炎を引き起こす主要な原因ではない。

  2. ×b.  胆石

    胆石は急性膵炎ではアルコールと並ぶ主要な成因であるが、慢性膵炎の成因としてはアルコール性、特発性に次ぐもので、占める割合は小さい。胆石性膵炎は胆石の除去により再発を防げることが多く、慢性化しにくいためと考えられる。

  3. ○c.  アルコール

    わが国の慢性膵炎の成因で最も多いのはアルコールで、全体のおよそ3分の2を占め、特に男性に多い。長期にわたる大量飲酒により、膵液中の蛋白が沈殿して膵管内に蛋白栓や膵石が形成されること、アルコールやその代謝産物が膵腺房細胞を直接傷害すること、膵星細胞が活性化されて線維化が進むことなどが機序として考えられている。喫煙は飲酒とは独立した危険因子であり、進行を早める。

  4. ×d.  Vater乳頭炎

    Vater乳頭(十二指腸乳頭)の炎症や狭窄により膵液の流出が妨げられれば膵炎の原因となりうるが、慢性膵炎の成因としてはまれであり、最多ではない。

  5. ×e.  過敏性腸症候群

    過敏性腸症候群は、器質的な異常がないにもかかわらず腹痛と便通異常(下痢や便秘)が慢性的に続く機能性の腸疾患である。膵臓に炎症を起こす疾患ではなく、慢性膵炎の成因とはならない。ただし慢性膵炎の腹痛や下痢と症状が似ることがあり、鑑別の対象にはなる。

慢性膵炎の成因

・アルコール性:最多。男性に多い。 ・非アルコール性:特発性(アルコール性に次いで多い)、胆石性、遺伝性(PRSS1〈カチオニックトリプシノーゲン遺伝子〉、SPINK1などの遺伝子変異)、膵管の形態異常(膵管癒合不全など)、高トリグリセリド血症、副甲状腺機能亢進症(高カルシウム血症)など。 ・自己免疫性膵炎は画像や治療反応性が異なるため、慢性膵炎とは別に扱われる。 ・喫煙は独立した危険因子である。

急性膵炎との比較

・急性膵炎の成因:アルコールと胆石が二大成因(男性はアルコール、女性は胆石が多い)。そのほか内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)後、高トリグリセリド血症、薬剤など。 ・慢性膵炎の成因:アルコールが圧倒的に多く、胆石性は少ない。

病期と症状

・代償期:上腹部痛や背部痛を反復する。飲酒や脂肪の多い食事で誘発されやすい。 ・移行期を経て、非代償期:膵実質の破壊が進むと、腹痛はむしろ軽くなる一方で、外分泌機能不全による脂肪便・下痢・体重減少、内分泌機能不全による糖尿病(膵性糖尿病)が前面に出る。

診断のポイント

膵石(腹部CTやX線での膵の石灰化)や主膵管の不整な拡張などの画像所見、反復する上腹部痛、血中・尿中膵酵素の異常、膵外分泌機能障害などを組み合わせて診断する。

治療の基本

断酒と禁煙が最も重要である。疼痛には鎮痛薬を用い、外分泌不全には消化酵素薬(高力価パンクレアチン製剤)の補充、膵性糖尿病にはインスリン療法を行う。膵石には内視鏡治療や体外衝撃波結石破砕術(ESWL)が行われる。慢性膵炎は膵癌の危険因子でもある。

POINT

・慢性膵炎の成因はアルコール性が最多(約3分の2)、次いで特発性、胆石性の順。 ・急性膵炎はアルコールと胆石が二大成因であり、慢性膵炎とは成因の比率が異なる。 ・喫煙は独立した危険因子。治療の基本は断酒・禁煙。 ・非代償期には腹痛が軽減し、脂肪便・糖尿病が目立つようになる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。