StudyMed医師国家試験

肺炎は治った、では誰が支える?―経管栄養で退院する91歳のケア計画は「家族の意向」から

第106回医師国家試験 H問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第106回 H問題 第27問

91歳の女性。肺炎で入院中である。脳梗塞の後遺症で3年前から要介護4となり,長男(68歳)とその妻(64歳)の居宅で介護サービスを利用していた。肺炎はほぼ治癒したが,著しい嚥下障害を認めたため,7日前から経管経腸栄養を開始した。現在,意識レベルはJCS Ⅰ-1であり,栄養状態は良好である。皮膚に褥瘡や深部静脈血栓症を疑う所見を認めない。退院に向けた準備を進めることとなった。  退院後のケア計画に関連する要素のうち,現時点で最も重要性が高いのはどれか。

  1. a.特定健康診査・特定保健指導
  2. b.介護に関する長男夫婦の意向
  3. c.患者が加入している健康保険の種類
  4. d.再び脳梗塞を発症した場合の診療計画
  5. e.在宅酸素療法に対応できる近隣の医療機関

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性期の治療がひと段落した高齢患者さんの退院支援がテーマだ。医学的な問題がほぼ解決した今、ケア計画の出発点として何を最初に確認すべきか、という視点で考えてみよう。
医学生医学生
肺炎は治っていて、褥瘡も血栓もなく、栄養状態も良いので、医学的にはもう落ち着いているということですね。
ドクタードクター
そう。だから焦点は「退院後、どこで、誰が、どうやって介護するか」という生活の問題に移っている。入院前と比べて大きく変わった点は何だろう。
医学生医学生
経管栄養が始まったことです。入院前は口から食べていたはずなので、家族の負担が増えそうです。
ドクタードクター
その通り。要介護4で、もともと日常生活のほぼ全般に介助が必要だったところに、チューブの管理、注入の手技、誤嚥への注意という医療的ケアが加わる。しかも主に介護を担う長男夫婦はどちらも60歳代だ。
医学生医学生
高齢者が高齢者を介護する、老老介護に近い状況ですね。公衆衛生の講義で、増えている社会問題として習いました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。そうなると、在宅介護を続けたいのか、続けられるのか、それとも施設入所を考えたいのかによって、退院先も、必要なサービスも、家族への指導内容もまったく変わってくる。だから最も重要なのは、介護に関する長男夫婦の意向なんだ。もちろん本人の意向を尊重するのは前提だよ。
医学生医学生
では、特定健康診査・特定保健指導はどうですか。退院後の健康管理という意味では関係しそうにも思えましたが。
ドクタードクター
これはメタボリックシンドロームに着目した生活習慣病予防の健診と保健指導で、医療保険者が40〜74歳の加入者を対象に行うものだ。91歳の方は対象外だし、経管栄養中の要介護者の在宅ケアとは結びつかない。
医学生医学生
健康保険の種類は、サービスの使い方に関わる気がしますが。
ドクタードクター
75歳以上は原則として後期高齢者医療制度に加入するから、91歳なら確認するまでもない。介護サービスは介護保険から給付され、65歳以上の第1号被保険者としてすでに要介護認定も受けている。医療保険の種類でケア計画の中身が変わるわけではないんだ。
医学生医学生
脳梗塞の再発時の計画も大事そうに見えます。CBTの勉強では再発予防が重要と繰り返し出てきました。
ドクタードクター
再発リスクがあるのは確かだし、急変時の方針を家族と話し合っておく意味はある。ただ、いま求められているのは退院後の日常をどう支えるかという現実的な計画だ。仮定の事態への詳細な診療計画は最優先ではない。
医学生医学生
在宅酸素療法に対応できる医療機関は、肺炎の後だから必要なのかと一瞬思いました。
ドクタードクター
問題文には低酸素血症を示す所見がなく、在宅酸素を想定する根拠はないね。在宅療養を選ぶなら、むしろ経管栄養の管理や訪問診療に対応できる医療機関、訪問看護ステーションを確保するほうが大切だ。
医学生医学生
医学的な問題が落ち着いたら、生活の枠組みを決める介護者の意向と介護力をまず確認する、という順番ですね。
ドクタードクター
その通り。実際の退院支援では、入院早期から医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、リハビリ職、ケアマネジャーが連携し、退院前カンファレンスで本人・家族と方針を詰めていく。検討の軸は本人の意向、家族の意向と介護力、必要な医療的ケア、住環境、利用できる社会資源だ。
医学生医学生
総合診療科の実習で退院前カンファレンスに参加したとき、ケアマネジャーさんが家族の生活リズムまで細かく聞いていたのが印象的でした。
ドクタードクター
まさにそこが大切なんだ。経管栄養が長期になるなら胃瘻を検討することもあるし、家族が手技を担うなら入院中から指導が必要になる。状態が大きく変わったときは要介護度の区分変更申請もできる。医学的に正しい治療をしても、退院後の生活が破綻すれば再入院につながる。治療の先にある生活まで見通す視点を持ってほしいね。

まとめ

急性期の医学的問題が解決した高齢患者の退院支援では、「退院後にどこで、誰が、どのように介護するか」が焦点となり、実際に介護を担う家族の意向と介護力の確認がケア計画の出発点になります。本例は要介護4に経管経腸栄養という医療的ケアが加わり、主介護者の長男夫婦も高齢で老老介護に近いため、在宅継続か施設入所かを左右する家族の意向が最も重要です。特定健康診査・特定保健指導は40〜74歳が対象、75歳以上は原則として後期高齢者医療制度の対象であり、再発時の診療計画や根拠のない在宅酸素療法の準備も現時点での優先度は低いと判断できます。退院支援は多職種と本人・家族による退院前カンファレンスなどを通じて進められ、治療の先にある生活まで見通す視点は、高齢化が進む日本の臨床で欠かせない力です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・91歳の女性。脳梗塞後遺症のため3年前から要介護4(日常生活のほぼ全般に介助を要する状態)で、長男(68歳)とその妻(64歳)の家で介護サービスを利用しながら暮らしていた。 ・今回の肺炎はほぼ治癒したが、著しい嚥下障害があり、7日前から経管経腸栄養(チューブを通して胃や腸へ栄養剤を注入する方法)が始まった。 ・意識レベルはJCS(Japan Coma Scale)Ⅰ-1で、刺激しなくても覚醒しているが、いまひとつはっきりしない程度の軽い意識の曇りにとどまる。 ・栄養状態は良好で、褥瘡や深部静脈血栓症を疑う所見もなく、全身状態は安定している。

どう考えるか

急性期の医学的問題はほぼ解決しており、今後の焦点は「退院後にどこで、誰が、どのように介護するか」という生活の場の問題に移っている。入院前と比べると、経管栄養という新たな医療的ケアが加わり、介護の負担は明らかに増える。経管栄養の手技、誤嚥への注意、チューブの管理などを家族が担えるのか、在宅介護を続けたいのか、それとも施設入所などを考えたいのかによって、退院先、必要な介護・医療サービス、家族への指導内容が大きく変わる。 しかも主介護者である長男夫婦自身も60歳代後半・60歳代半ばと高齢であり、高齢者が高齢者を介護する、いわゆる「老老介護」に近い状況である。本人の意向を尊重することは当然として、実際に介護を担う家族の意向・介護力を確認することが、ケア計画を立てる出発点となる。

設問への考え方

「現時点で最も重要性が高い」要素を問われている。制度上の確認事項や、将来起こるかもしれない事態への備えよりも、退院後の生活の枠組みそのものを決める「介護者の意向」を優先して確認すべきである。

選択肢考察

  1. ×a.  特定健康診査・特定保健指導

    特定健康診査・特定保健指導は、メタボリックシンドロームに着目した生活習慣病予防のための健診と保健指導で、医療保険者が40~74歳の加入者を対象に実施するものである。91歳の本例は対象年齢外であり、要介護4で経管栄養中の患者の退院後ケアとも関係がない。

  2. ○b.  介護に関する長男夫婦の意向

    退院後の療養の場を在宅にするか施設にするかは、介護を実際に担う家族の意向と介護力に大きく左右される。本例は要介護4に加えて経管経腸栄養という医療的ケアが新たに必要となり、入院前よりも介護負担が増す。しかも長男夫婦自身が高齢である。在宅で介護を続ける意思があるのか、あるならどのような訪問診療・訪問看護・訪問介護・短期入所などの支援があれば可能か、あるいは施設入所を希望するのかを確認しなければ、具体的なケア計画は立てられない。したがって現時点で最も重要性が高い。

  3. ×c.  患者が加入している健康保険の種類

    75歳以上の者は原則として後期高齢者医療制度に加入するため、91歳の本例の加入制度は確認するまでもなく明らかである。また介護サービスは介護保険から給付され、本例は65歳以上の第1号被保険者として既に要介護認定を受けている。医療保険の種類によってケア計画の内容が変わるわけではなく、優先度は低い。

  4. ×d.  再び脳梗塞を発症した場合の診療計画

    高齢で脳梗塞の既往があり再発の危険はあるが、いま求められているのは退院後の日常生活をどう支えるかという現実的なケア計画である。仮定の事態に対する診療計画を今の段階で詳細に立てる必要性は低い。再発時の対応は急変時の方針として家族と話し合っておく意味はあるが、最優先事項ではない。

  5. ×e.  在宅酸素療法に対応できる近隣の医療機関

    本例は肺炎がほぼ治癒しており、低酸素血症や在宅酸素療法を必要とする所見は示されていない。現時点で在宅酸素療法を想定する根拠がなく、優先度は低い。むしろ在宅療養を選ぶなら、経管栄養の管理や訪問診療に対応できる医療機関・訪問看護ステーションを確保することのほうが重要となる。

退院支援・退院調整

入院早期から退院後の生活を見据え、医師・看護師・医療ソーシャルワーカー・リハビリテーション職・ケアマネジャー(介護支援専門員)などが連携して、療養の場の決定と必要なサービスの調整を行う。退院前には多職種と本人・家族が集まる退院前カンファレンスを開くことが多い。検討の軸となるのは、本人の意向、家族の意向と介護力、必要な医療的ケア(経管栄養、吸引など)、住環境、利用可能な社会資源である。

介護保険の要点

・第1号被保険者:65歳以上。原因を問わず要介護・要支援状態となれば給付を受けられる。 ・第2号被保険者:40~64歳の医療保険加入者。加齢に伴う特定疾病(脳血管疾患など16疾病)による場合に給付される。 ・要介護度は要支援1・2、要介護1~5に区分され、要介護4は日常生活全般にわたり介助が必要で、問題行動や理解力低下がみられることもある状態である。 ・状態が大きく変化した場合は区分変更の申請ができる。 ・居宅サービス計画(ケアプラン)はケアマネジャーが本人・家族の意向を踏まえて作成する。

在宅での経管栄養

経鼻胃管のほか、長期になる場合は胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術で作る)が選ばれることもある。家族が注入手技や管理を担う場合には入院中から指導が必要であり、訪問看護などによる支援体制も整える。

特定健康診査・特定保健指導

2008年に開始された制度で、40~74歳の医療保険加入者を対象に、腹囲などを基準としてメタボリックシンドロームのリスクを評価し、リスクに応じて動機付け支援・積極的支援の保健指導を行う。

JCS Ⅰ桁の区分

Ⅰ-1:だいたい意識清明だが、いまひとつはっきりしない。Ⅰ-2:見当識障害がある。Ⅰ-3:自分の名前・生年月日が言えない。

POINT

・退院後のケア計画では、本人の意向とともに、実際に介護を担う家族の意向・介護力の確認が出発点となる。 ・要介護4+経管栄養で介護負担が増し、主介護者も高齢(老老介護)である点に注目する。 ・特定健康診査・特定保健指導の対象は40~74歳である。 ・75歳以上は原則として後期高齢者医療制度の対象となる。 ・介護保険の第1号被保険者は65歳以上、第2号被保険者は40~64歳の医療保険加入者である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。