StudyMed医師国家試験

右下腹部のザーッという音―bruitと拍動性腫瘤が示す動脈瘤のサイン

第106回医師国家試験 H問題 第2問

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第106回 H問題 第2問

腹部の聴診で右下腹部にbruitを認めた。  この所見に関連して,腹部診察で他に認める可能性があるのはどれか。

  1. a.臍周囲の静脈怒張
  2. b.右下腹部の金属性雑音
  3. c.腹部全体の鼓音
  4. d.右の側腹部の反跳痛
  5. e.右下腹部の拍動性腫瘤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腹部の聴診で聞こえたbruitから、どんな病変が隠れていて、ほかにどんな所見がみられるかを考える問題だ。ポイントは「bruitは何の異常を示す音なのか」と「右下腹部には何が走っているのか」の2つだね。まず、bruitとはどんな音だったかな。
医学生医学生
血管雑音ですよね。腸の音とは別物だと診断学の講義で習いました。
ドクタードクター
そう。bruitは動脈で生じる血管雑音で、血液が狭窄部を通ったり、拡張した動脈瘤の中に流れ込んだりして乱流が生じると、主に収縮期にザーッ、シューッという吹鳴様の音として聞こえる。腹部でbruitが聞こえる病態としては何が思いつく?
医学生医学生
腎動脈狭窄による腎血管性高血圧でしょうか。OSCEの腹部診察で、臍の横あたりを聴診するように練習しました。
ドクタードクター
いい例だね。ほかに腹部大動脈瘤や腸骨動脈瘤、腹腔動脈・上腸間膜動脈の狭窄、腸骨動脈の閉塞性動脈硬化症、動静脈瘻、血流の豊富な肝細胞癌なども原因になる。では右下腹部という場所に注目しよう。解剖学的にここには何がある?
医学生医学生
右下腹部というと、つい虫垂を考えてしまいます。でも血管でいえば、腹部大動脈が臍の高さあたりで左右の総腸骨動脈に分かれるので、右総腸骨動脈ですね。
ドクタードクター
その通り。虫垂が浮かぶのは自然だけど、bruitは血管の所見だから血管の解剖で考える。右下腹部のbruitは右腸骨動脈瘤や、腸骨動脈まで及ぶ腹部大動脈瘤を示唆するんだ。では、動脈瘤があるとしたら触診ではどうなると思う?
医学生医学生
拡張した動脈そのものを触れるはずなので、拍動する腫瘤として触知できそうです。
ドクタードクター
正解。右下腹部の拍動性腫瘤が答えだ。bruitも拍動性腫瘤も、どちらも動脈瘤という同じ病変を反映する所見だから、同時に認めうる。ほかの選択肢がなぜ違うかも確認しよう。臍周囲の静脈怒張はどうかな。
医学生医学生
メドゥーサの頭ですね。肝硬変の門脈圧亢進症で臍傍静脈の側副血行路が発達したものなので、静脈の異常です。
ドクタードクター
そう。門脈圧亢進症では臍周囲で連続性の静脈雑音、venous humが聞こえることはあるけれど、動脈性のbruitとは別物だ。下大静脈閉塞でも腹壁静脈怒張は出るが、やはり静脈系の話だね。次に金属性雑音と腹部全体の鼓音は?
医学生医学生
どちらも腸閉塞の所見だと思います。金属性雑音は閉塞して拡張した腸管でガスと液体が動く音で、鼓音はガスが溜まっていることを示します。
ドクタードクター
その理解で十分。鼓音の増強は消化管穿孔による遊離ガスでもみられるけれど、いずれにしても腸管の病変であり、血管雑音とは関係しない。最後に反跳痛は?
医学生医学生
Blumberg徴候で腹膜刺激症状ですね。消化器外科の実習で虫垂炎の患者さんを診察させてもらいました。でも、動脈瘤が破裂したら腹膜刺激症状も出ませんか。
ドクタードクター
いい疑問だ。確かに破裂すれば激しい腹痛が出るけれど、その場合はショックが前面に出る別の病態になる。今回はbruitという所見に関連するものを問うているので、腹膜の炎症を示す反跳痛は当てはまらない。
医学生医学生
bruitは動脈、静脈怒張は静脈、金属性雑音と鼓音は腸管、反跳痛は腹膜、と所見の出どころで分ければ迷わないですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の本質だ。発展知識も押さえておこう。腹部大動脈瘤や腸骨動脈瘤の主な原因は動脈硬化で、高齢男性、喫煙、高血圧が危険因子。多くは無症状で、健診や他疾患の画像検査で偶然見つかることが多い。診断は腹部超音波検査とCTで行う。
医学生医学生
治療はどのタイミングで考えるんですか。
ドクタードクター
瘤の径が大きくなるほど破裂のリスクが上がるので、腹部大動脈瘤では一般に最大短径5〜5.5 cm程度以上や急速に拡大する例が、人工血管置換術やステントグラフト内挿術の適応になる。臨床での注意点として、拍動性腫瘤を触れたら強く圧迫しないこと。破裂の危険を念頭に置いて、優しく触れて画像検査で評価するんだ。
医学生医学生
腹部の触診はつい深く押してしまいがちなので、気をつけます。聴診の部位によって疑う血管が変わるのも面白いです。
ドクタードクター
そうだね。心窩部から臍上部の正中なら腹部大動脈瘤や腹腔動脈・上腸間膜動脈の狭窄、臍の左右上方や背部なら腎動脈狭窄、下腹部から鼠径部なら腸骨動脈の病変を考える。腎動脈狭窄は若年女性なら線維筋性異形成、高齢者なら動脈硬化が多いことも覚えておこう。

まとめ

bruitは動脈で生じる血管雑音で、動脈瘤や動脈狭窄による乱流を反映し、主に収縮期の吹鳴様雑音として聴取されます。右下腹部は右総腸骨動脈の走行部位であり、同部のbruitは腸骨動脈瘤や腸骨動脈に及ぶ腹部大動脈瘤を示唆するため、同じ動脈瘤を反映する拍動性腫瘤を触知しえます。臍周囲の静脈怒張は門脈圧亢進症(静脈)、金属性雑音や鼓音は腸閉塞(腸管)、反跳痛は腹膜刺激症状(腹膜)の所見であり、bruitとは由来が異なります。動脈瘤は高齢男性・喫煙・高血圧が危険因子で、超音波やCTで径を評価し、拍動性腫瘤を触れたら強い圧迫を避けることが大切です。腹部所見を「どの臓器・どの系統の異常を示すか」で整理する習慣は、身体診察から病変を推定する力の基礎になります。

解答・解説

正解はeです

bruitとは

bruit(ブルイ、ブリュイ。英語読みでブルートとも)は血管雑音、特に動脈で生じる雑音を指す。血液が狭窄部を通過したり、拡張した動脈瘤内に流れ込んだりして乱流が生じると、主に収縮期に「ザーッ」「シューッ」という吹鳴様の雑音として聴取される。

腹部でbruitを聴取する主な病態

・動脈瘤:腹部大動脈瘤、腸骨動脈瘤など ・動脈の狭窄:腎動脈狭窄(腎血管性高血圧)、腹腔動脈・上腸間膜動脈の狭窄、腸骨動脈の閉塞性動脈硬化症など ・動静脈瘻、血流の豊富な腫瘍(肝細胞癌など)

本問の考え方

設問は、bruitという「動脈の異常」を示す所見に関連して、ほかにどの腹部所見がみられうるかを問うている。右下腹部は右総腸骨動脈の走行部位にあたり、腸骨動脈瘤や、腸骨動脈まで及ぶ腹部大動脈瘤では、同じ部位に拍動性腫瘤を触れることがある。bruitと同じく動脈の病変を反映する所見は拍動性腫瘤であり、ほかの選択肢は静脈(門脈圧亢進)、腸管(イレウス)、腹膜(腹膜炎)の病変を示す所見で、bruitとは直接関連しない。

選択肢考察

  1. ×a.  臍周囲の静脈怒張

    臍を中心に放射状に広がる静脈怒張はメドゥーサの頭(caput medusae)と呼ばれ、肝硬変などによる門脈圧亢進症で、臍傍静脈を経由する側副血行路が発達した結果である。下大静脈閉塞でも腹壁静脈の怒張がみられる(血流方向が門脈圧亢進症とは異なる)。いずれも静脈系の異常であり、動脈性雑音であるbruitとは関連しない。なお門脈圧亢進症では臍周囲で連続性の静脈雑音(venous hum)を聴取することがあるが、これは動脈性のbruitとは別物である。

  2. ×b.  右下腹部の金属性雑音

    金属性雑音(metallic sound)は、閉塞により拡張した腸管内でガスと液体が動くときに生じる高調な腸雑音で、機械的(閉塞性)腸閉塞に特徴的な所見である。腸管の病変を示すもので、血管の異常を示すbruitとは関連しない。

  3. ×c.  腹部全体の鼓音

    打診での鼓音は、その下に空気(ガス)が多いことを示す。腹部全体の鼓音の増強は、腸閉塞や麻痺性イレウスによる腸管ガスの貯留、消化管穿孔による腹腔内遊離ガス(この場合は肝濁音界の消失を伴う)などで認める。bruitとは関連しない。

  4. ×d.  右の側腹部の反跳痛

    反跳痛(Blumberg徴候)は、腹壁をゆっくり圧迫して急に離したときに痛みが増強する所見で、壁側腹膜への炎症の波及(腹膜刺激症状)を示す。虫垂炎や憩室炎、消化管穿孔による腹膜炎などでみられ、血管雑音とは関連しない。なお動脈瘤が破裂すれば腹痛や腹膜刺激症状を来しうるが、その場合はショックなどが前面に出る別の病態であり、bruitに関連する所見としては不適切である。

  5. ○e.  右下腹部の拍動性腫瘤

    右下腹部は右総腸骨動脈が走行する部位であり、同部のbruitは腸骨動脈瘤(または腸骨動脈に及ぶ腹部大動脈瘤)の存在を示唆する。動脈瘤では瘤内の乱流によりbruitが生じ、瘤そのものは心拍に一致して拍動する腫瘤として触知される。bruitと拍動性腫瘤はいずれも動脈瘤の所見であり、同時に認めうる。拍動性腫瘤を触れた場合は、破裂の危険を考え強い圧迫を避け、超音波検査やCTで径を評価する。

腹部の聴診所見の整理

・腸雑音の亢進、金属性雑音:機械的(閉塞性)腸閉塞 ・腸雑音の減弱・消失:麻痺性イレウス、汎発性腹膜炎 ・振水音:胃内容の停滞(幽門狭窄など)、拡張腸管内の液体貯留 ・血管雑音(bruit):動脈瘤、動脈狭窄(腎動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、腸骨動脈)、動静脈瘻 ・静脈雑音(venous hum):門脈圧亢進症での臍傍静脈の側副血行

聴取部位と疑う病変

・心窩部〜臍上部の正中:腹部大動脈瘤、腹腔動脈・上腸間膜動脈狭窄 ・臍の左右やや上方〜側腹部、背部(肋骨脊柱角):腎動脈狭窄(若年女性では線維筋性異形成、高齢者では動脈硬化が多い) ・下腹部(左右)〜鼠径部:腸骨動脈瘤、腸骨・大腿動脈の狭窄(閉塞性動脈硬化症)

腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤

動脈硬化が主な原因で、高齢男性、喫煙、高血圧が危険因子である。大部分は腎動脈分岐部より末梢に生じ、腸骨動脈に及ぶこともある。多くは無症状で、健診や他疾患の画像検査で偶然見つかる。診察では臍周囲〜下腹部の拍動性腫瘤として触れる。診断は腹部超音波検査とCTで行い、径の拡大とともに破裂リスクが高まるため、一定の大きさ(腹部大動脈瘤では一般に最大短径5〜5.5 cm程度)以上や急速拡大例は、人工血管置換術またはステントグラフト内挿術の適応となる。破裂すると激しい腹痛・腰背部痛とショックを来し、致死率が高い。

POINT

・bruit=動脈性の血管雑音。動脈瘤や動脈狭窄で乱流が生じると聴取される ・動脈瘤の診察所見:bruit+拍動性腫瘤 ・右下腹部は右腸骨動脈の走行部位 ・臍周囲静脈怒張=門脈圧亢進症、金属性雑音・鼓音=腸閉塞、反跳痛=腹膜刺激症状

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。