朝礼で倒れた高校生―「よくある失神」に紛れ込む突然死のサイン
第106回医師国家試験 G問題 第58問
国試問題にチャレンジ
16歳の男子。全校集会で長時間立位でいた後,失神して倒れたため母親に伴われて校医を受診した。失神前に悪心と胸痛とを自覚したという。目撃者によると意識は1分以内に回復し,すぐに立ち上がることができた。2年前にもランニング中に失神したことがあった。母方の叔父が突然死しているという。身体診察所見で異常を認めない。校医は専門医療機関に紹介した。 校医が専門医療機関に紹介する根拠となった病歴はどれか。3つ選べ。
- a.長時間の立位後の失神
- b.失神前の胸痛
- c.失神の持続時間
- d.運動中の失神
- e.突然死の家族歴
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の失神の多くは長時間の立位などを誘因とし、悪心や冷汗などの前駆症状を伴って短時間で回復する反射性失神で、予後は良好です。一方、失神前の胸痛、運動中の失神、若年での突然死の家族歴は、冠動脈起始異常や閉塞性肥大型心筋症、QT延長症候群やBrugada症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍などの心原性失神を示唆する危険信号であり、身体所見が正常でも専門医療機関での精査が必要です。失神の持続時間は良悪性の鑑別には役立ちにくく、臥位での失神や前駆症状のない失神、動悸、心電図異常も同様に警戒すべきサインです。病歴から危険な失神を拾い上げる力は、学校心臓検診とともに若年者の心臓突然死を防ぐ実践的な基盤となります。
解答・解説
正解はb, d, eです
所見の整理
・16歳の男子(思春期は学校管理下の心臓突然死が問題となる年代である) ・全校集会で長時間立っていた後に失神した ・失神前に悪心と胸痛を自覚した ・意識は1分以内に回復し、すぐに立ち上がれた ・2年前にもランニング中に失神している ・母方の叔父に突然死がある ・身体診察では異常を認めない
失神の評価の考え方
失神とは、脳全体の一過性の血流低下により意識を失い、短時間で自然かつ完全に回復するものである。原因は大きく①反射性(神経調節性)失神(血管迷走神経反射など)、②起立性低血圧(起立性調節障害、脱水、自律神経障害、薬剤など)、③心原性失神(不整脈、器質的心疾患)に分けられる。若年者では反射性失神が最も多く予後良好だが、心原性失神は突然死に直結しうるため、病歴から「危険な失神」の手がかりを拾い上げることが最も重要である。
本例の読み取り
長時間の立位の後に悪心を伴って倒れ、短時間で回復したという点だけをみれば、血管迷走神経反射や起立性調節障害で説明できる典型的な経過である。しかし本例には次のような反射性失神には合わない、心原性失神を疑わせる情報が含まれている。 ・失神前の胸痛:心筋虚血(先天性冠動脈起始異常、川崎病後の冠動脈瘤・狭窄など)や閉塞性肥大型心筋症を示唆する ・運動中の失神:運動中は交感神経が優位で迷走神経反射は起こりにくく、運動中の失神は致死的不整脈や左室流出路狭窄などの器質的心疾患が原因であることが多い ・突然死の家族歴:QT延長症候群、Brugada症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍、肥大型心筋症、不整脈原性右室心筋症などの遺伝性心疾患を示唆する 身体所見に異常がなくても、これらの疾患は安静時の診察だけでは見逃されうる。したがって、心電図、心エコー、運動負荷試験、ホルター心電図などの精査のために専門医療機関へ紹介する必要がある。
設問の考え方
「紹介の根拠となった病歴」とは、良性の反射性失神では説明できず、突然死につながる心疾患を疑わせる情報のことである。典型的な反射性失神の特徴(誘因、前駆症状、短時間での回復)と、危険信号(レッドフラッグ)とを区別して選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 長時間の立位後の失神
長時間の立位は、下肢への血液貯留から静脈還流が減り、血管迷走神経反射や起立性調節障害による失神を起こす典型的な状況である。朝礼や集会で倒れるのは思春期にしばしばみられ、多くは予後良好で、専門医療機関でなくても対応できる。この病歴単独では紹介の根拠にならない。
- ○b. 失神前の胸痛
反射性失神の前駆症状は悪心、冷汗、生あくび、顔面蒼白、眼前暗黒感などであり、胸痛は通常伴わない。失神の前に胸痛がある場合は、心筋虚血や器質的心疾患の存在が疑われる。若年者では、冠動脈の起始異常(先天性)や川崎病後の冠動脈病変、閉塞性肥大型心筋症による心筋虚血などを除外する必要があり、紹介の根拠となる。
- ×c. 失神の持続時間
意識消失が1分以内で、すぐに立ち上がれたという経過は、反射性失神の典型像と矛盾しない。また失神の持続時間そのものは原因の良悪性を見分ける指標にはなりにくく、心原性失神でも短時間で回復することは多い。本例の持続時間は紹介の根拠とはならない。なお、意識消失が長く続く、回復後にもうろう状態が続くといった場合は、てんかん発作など失神以外の病態を考える。
- ○d. 運動中の失神
運動中は交感神経が優位となり、迷走神経反射による失神は起こりにくい(運動直後の失神は反射性のことがあるが、運動中の失神は別に考える)。運動中の失神は、QT延長症候群やカテコラミン誘発多形性心室頻拍などの致死的不整脈、閉塞性肥大型心筋症や大動脈弁狭窄症による心拍出量の低下、冠動脈起始異常による虚血など、突然死の危険が高い疾患の代表的な徴候である。精査が必須であり、紹介の根拠となる。
- ○e. 突然死の家族歴
若年での突然死の家族歴は、遺伝性の心疾患を強く示唆する。QT延長症候群、Brugada症候群(男性に多い)、カテコラミン誘発多形性心室頻拍、肥大型心筋症、不整脈原性右室心筋症などは常染色体顕性(優性)遺伝を示すものが多く、失神を起こした血縁者は同じ疾患を持つ可能性がある。心電図や心エコーによる精査が必要であり、紹介の根拠となる。
失神の原因分類
・反射性(神経調節性)失神:血管迷走神経反射(長時間の立位、痛み、恐怖、人混みなど)、状況失神(排尿・排便・咳嗽)、頸動脈洞症候群。若年者で最多。 ・起立性低血圧:起立性調節障害(思春期に多い)、脱水・出血、自律神経障害、降圧薬などの薬剤。 ・心原性失神:不整脈(QT延長症候群、Brugada症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍、WPW症候群、房室ブロック、洞不全症候群など)、器質的心疾患(肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、冠動脈起始異常、肺高血圧症など)。予後不良で突然死の危険がある。
心原性失神を疑うべき危険信号
・運動中の失神 ・仰臥位(臥位)での失神 ・前駆症状のない突然の失神 ・失神前後の胸痛や動悸 ・若年での突然死の家族歴、遺伝性心疾患の家族歴 ・既知の器質的心疾患 ・心電図異常(QT延長、Brugada型ST上昇、デルタ波、高度房室ブロック、左室肥大所見など) ・大きな音や驚き、水泳中に誘発される失神(QT延長症候群で知られる誘因)
反射性失神を示唆する特徴
・長時間の立位、暑く混雑した場所、痛みや恐怖などの明らかな誘因 ・悪心、冷汗、顔面蒼白、生あくび、眼前暗黒感などの前駆症状 ・短時間での完全な回復 ・心疾患の既往や突然死の家族歴がない
若年者の心臓突然死と学校心臓検診
日本では学校保健安全法に基づき、小学1年・中学1年・高校1年時に心電図を含む心臓検診が行われ、QT延長症候群や肥大型心筋症などの早期発見に役立てられている。学校管理下の心停止に備えてAED(自動体外式除細動器)の設置も進められている。
POINT
・若年者の失神の多くは反射性で予後良好だが、心原性失神の見逃しは突然死につながる ・専門医への紹介を要する危険信号:運動中の失神、胸痛・動悸を伴う失神、前駆症状のない失神、臥位での失神、突然死の家族歴、心電図異常 ・長時間立位後、悪心などの前駆症状があり短時間で回復する失神は反射性失神の典型 ・考えるべき疾患:QT延長症候群、Brugada症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍、肥大型心筋症、冠動脈起始異常・川崎病後冠動脈病変
