羊水に浮かぶ腸管ループ―胎児MRIで「どこが壊れているか」を見抜く
第106回医師国家試験 G問題 第41問
国試問題にチャレンジ
32歳の初産婦。妊娠33週。胎児超音波検査で異常を指摘されたため来院した。胎児MRIのT2強調像を別に示す。 この胎児で異常があると考えられる部位はどれか。

- a.肺
- b.心臓
- c.横隔膜
- d.腹壁
- e.脊椎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児MRIのT2強調像では羊水や液体を含む腸管が高信号となり、胎児の輪郭と臓器の位置関係を把握しやすくなります。腹部前面から腸管ループが羊水中に脱出していれば腹壁の形成異常であり、腸管が胸腔内に入る先天性横隔膜ヘルニアや、背部に嚢胞状突出をつくる脊髄髄膜瘤とは区別できます。腹壁の異常には、臍の横に欠損があり被膜を欠き合併奇形の少ない腹壁破裂と、臍帯付着部に欠損があり被膜に覆われ染色体異常や合併奇形の多い臍帯ヘルニアがあります。出生後は脱出臓器の保温・保湿と感染予防を行い、新生児外科での一期的または多期的な腹壁閉鎖が必要となるため、新生児外科のある施設での計画分娩が重要です。画像を部位ごとに系統的にチェックする読影の習慣は、胎児診断に限らずあらゆる画像診断の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・32歳の初産婦、妊娠33週。胎児超音波検査で異常を指摘され、精査目的で胎児MRIが撮影された。 ・T2強調像では水が高信号(白)に描出されるため、羊水は白く、その中に浮かぶ胎児の輪郭や、液体を含む消化管が明瞭にみえる。胎児MRIは妊娠後期でも胎児全体を一画面に描出でき、異常部位と正常構造を比較しやすいという利点がある。
画像の読み方
画像は胎児の矢状断に近い断面で、左側が胎児の背側、上が尾側、下が頭側である。 ・背側(画像左)には脊柱が頭側から尾側まで連続して描出されており、脊椎・脊髄の形態に明らかな異常はない。 ・胸部には肺・心臓が収まっており、胸腔内に腸管が入り込んでいる所見(横隔膜ヘルニアを示す所見)はない。 ・一方、胎児の腹部前面(画像右側)では、羊水の中に多数の小さな管腔構造(腸管のループ)が胎児の体外へ飛び出して浮遊している。これらを包む膜は明らかでなく、腸管が直接羊水にさらされているようにみえる。
診断へのプロセス
胎児の腹壁から腹腔内臓器(腸管)が体外に脱出している所見であり、腹壁の形成異常と判断できる。腸管を覆う膜がみられないことから腹壁破裂がまず考えられるが、画像1枚で膜の有無を確定するのは難しく、臍帯ヘルニアとの厳密な区別は超音波検査などで臍帯付着部との位置関係を確認して行う。いずれにしても、異常のある部位は「腹壁」である。
設問の考え方
本問は疾患名ではなく「異常がある部位」を問うている。胸部(肺・心臓)、横隔膜、脊椎、腹壁を順にチェックし、構造の異常がどこにあるかを見極めればよい。
選択肢考察
- ×a. 肺
胸腔内に肺が描出されており、胸腔を占拠する腫瘤や、腸管などによる圧排を示す所見はない。肺の異常としては先天性肺気道奇形(CPAM)や肺分画症、横隔膜ヘルニアに伴う肺低形成などが胎児期に問題となるが、本例の画像ではいずれも示唆されない。
- ×b. 心臓
心臓は胸腔内の正常な位置にあり、心臓の位置異常や心嚢液貯留などの所見は認めない。心臓の構造異常(先天性心疾患)の評価は主に胎児心エコーで行うもので、本画像から心臓の異常を指摘する根拠はない。
- ×c. 横隔膜
先天性横隔膜ヘルニアでは、横隔膜の欠損部から腸管・胃・肝臓などが胸腔内へ入り込み、心臓の偏位や肺の圧排(肺低形成)をきたす。本例では腸管は胸腔ではなく腹壁の外(羊水中)に出ており、胸腔内に腹部臓器は認められないため、横隔膜の異常は考えにくい。
- ○d. 腹壁
胎児の腹部前面から多数の腸管ループが体外の羊水中へ脱出している。これは腹壁の形成不全によって腹腔内臓器が体外に出ている状態であり、異常部位は腹壁である。脱出腸管を覆う膜がはっきりしないことから腹壁破裂(gastroschisis)が最も考えやすく、鑑別として臍帯ヘルニア(omphalocele)が挙がる。
- ×e. 脊椎
背側に脊柱が頭側から尾側まで途切れなく描出されており、椎体の配列や脊髄の形態に異常はない。脊椎の異常として代表的な二分脊椎(脊髄髄膜瘤)では背部に嚢胞状の突出がみられるが、本例ではそのような所見はない。
腹壁破裂と臍帯ヘルニアの比較
・腹壁破裂(gastroschisis) 欠損部位:臍帯付着部のすぐ横(多くは右側)の腹壁。 被膜(ヘルニア嚢):なし。脱出した腸管が直接羊水にさらされるため、腸管壁の肥厚・癒着(漿膜炎)を起こしやすい。 脱出臓器:主に腸管。肝臓の脱出はまれ。 合併奇形・染色体異常:少ない(腸閉鎖などの腸管合併症はある)。 背景:若年の母体に多い。母体血清α-フェトプロテイン(AFP)が高値となりやすい。 ・臍帯ヘルニア(omphalocele) 欠損部位:臍帯付着部そのもの(臍輪)。 被膜:あり(羊膜と腹膜からなる膜に覆われ、その表面に臍帯が付着する)。 脱出臓器:腸管のほか肝臓が含まれることも多い。 合併奇形・染色体異常:多い(13・18トリソミー、Beckwith-Wiedemann症候群、心奇形など)。そのため染色体検査や胎児心エコーによる精査が重要である。
周産期管理
・出生直後から腸管の乾燥・低体温・感染・脱水を防ぐため、脱出臓器を清潔なバッグやラップで覆って保温・保湿し、新生児外科のある施設で早期に手術(腹壁閉鎖)を行う。一期的に閉鎖できない場合は、サイロ(シリコン製の袋)で臓器を覆い、数日かけて徐々に腹腔内に還納してから閉鎖する(多期的手術)。 ・分娩は新生児外科対応が可能な施設で計画的に行う。
胎児MRIの位置づけ
・超音波検査で異常が疑われたときの精査として用いる。羊水量や母体の体型に影響されにくく、胎児全体を広く描出できる。 ・T2強調像では羊水・脳脊髄液・尿・液体を含む消化管が高信号となり、臓器の同定がしやすい。 ・スクリーニングとして全妊婦に行う検査ではない。
POINT
・胎児の腹部前面から腸管が羊水中に脱出 → 腹壁の異常(腹壁破裂または臍帯ヘルニア)。 ・腹壁破裂:臍の横(多くは右側)の欠損、被膜なし、合併奇形は少ない。 ・臍帯ヘルニア:臍帯付着部の欠損、被膜あり、肝臓も脱出しうる、染色体異常・合併奇形が多い。 ・先天性横隔膜ヘルニアでは腹部臓器は胸腔内に入る(体外には出ない)。 ・胎児MRIのT2強調像では羊水や液体を含む腸管が高信号となる。
