StudyMed医師国家試験

その雑音、収縮期?拡張期?―「血液の流れる向き」で解く心音・心雑音の組合せ

第106回医師国家試験 G問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第23問

疾患と聴診所見の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.肺高血圧症 ―― Ⅱ音の亢進
  2. b.大動脈弁閉鎖不全症 ―― 全収縮期雑音
  3. c.心房中隔欠損症 ―― 拡張期ランブル
  4. d.拡張型心筋症 ―― 奔馬調律
  5. e.僧帽弁閉鎖不全症 ―― Ⅲ 音

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代表的な心疾患と聴診所見の対応を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、病態からは起こりえない所見を探すことになる。暗記した対応表に頼るより、「心周期のどの時相に、どこからどこへ、血液が異常に流れるか」を考えると迷わなくなるよ。
医学生医学生
正直、心雑音は語呂合わせで覚えていて、理屈はあいまいです。CBTのときも雰囲気で解いていました。
ドクタードクター
多くの人がそうだよ。まず基本を整理しよう。Ⅰ音からⅡ音までが収縮期で、心室が血液を送り出す時相。Ⅱ音から次のⅠ音までが拡張期で、心室が血液を受け入れる時相だ。収縮期に房室弁(僧帽弁・三尖弁)から逆流したり、心室中隔欠損で右室へ短絡したりすると、収縮期の最初から最後まで漏れ続けるので全収縮期雑音になる。
医学生医学生
一方で、大動脈弁や肺動脈弁が狭いときは、駆出に合わせて強くなって弱まるダイヤモンド型の駆出性雑音、でしたね。
ドクタードクター
その通り。拡張期では、半月弁の逆流ならⅡ音の直後から始まる高調な漸減性雑音、房室弁の狭窄や房室弁を通る血流の増加なら低調なランブルになる。この枠組みで大動脈弁閉鎖不全症を考えるとどうなるかな。
医学生医学生
大動脈弁が閉じきらないので、心室が弛緩する拡張期に大動脈から左室へ血液が戻ってきます。ということは拡張期雑音で、全収縮期雑音ではないですね。
ドクタードクター
正解。これが誤った組合せだ。大動脈弁閉鎖不全症の主な雑音は、胸骨左縁第3肋間、いわゆるErb領域で聞こえる高調な拡張早期漸減性雑音で、前傾座位で息を吐いて止めてもらうと聴きやすい。全収縮期雑音の代表は僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症の3つと覚えておこう。
医学生医学生
でも、大動脈弁閉鎖不全症で収縮期雑音が聞こえることもあると循環器の講義で聞いた気がします。
ドクタードクター
鋭いね。左室の1回拍出量が増えるので、大動脈弁を通る血流が増えて駆出性収縮期雑音を伴うことはある。ただしそれは全収縮期雑音ではない。さらに重症になると、逆流血が僧帽弁前尖の開放を邪魔して心尖部に拡張中期ランブルが聞こえる。これがAustin Flint雑音だ。では残りも確認しよう。肺高血圧症でⅡ音が亢進するのはなぜだと思う?
医学生医学生
Ⅱ音は大動脈弁と肺動脈弁が閉じる音なので、肺動脈圧が高いと肺動脈弁が強く閉じて、肺動脈成分が大きくなるからでしょうか。
ドクタードクター
そう。胸骨左縁第2肋間でⅡ音の肺動脈成分が強く聞こえる。体循環の高血圧なら大動脈成分が強くなる、と対比しておくといい。次は心房中隔欠損症とランブルの組合せ。ここは引っかかりやすいところだ。
医学生医学生
心房中隔欠損症といえばⅡ音の固定性分裂ですよね。ランブルは僧帽弁狭窄症のイメージなので、こちらが誤りかと一瞬思いました。
ドクタードクター
そう考える人は多い。心房中隔欠損症では左房から右房へ短絡して右心系に血液が多く流れる。短絡量が多いと、拡張期に三尖弁を通る血流が大きく増え、弁自体は正常でも相対的な三尖弁狭窄の状態になって、胸骨左縁下部で低調な拡張中期ランブルが聞こえるんだ。同じ理屈で、肺動脈弁を通る血流も増えて駆出性収縮期雑音が出る。心房間は圧較差が小さいので、短絡そのものの雑音はほとんど聞こえないのもポイントだ。
医学生医学生
弁が狭くなくても、流れる量が多すぎれば狭窄と同じ音がするということですね。
ドクタードクター
その発想が大事だ。拡張型心筋症の奔馬調律と、僧帽弁閉鎖不全症のⅢ音はどう説明できる?
医学生医学生
Ⅲ音は拡張早期に心室へ血液が急速に流れ込むときの音なので、拡張して機能が落ちた心室や、逆流した分まで左房から戻ってくる容量負荷の状態で出る、ということでしょうか。
ドクタードクター
完璧だ。拡張型心筋症ではⅢ音が加わって馬の駆け足のような3拍子、つまり奔馬調律になる。頻脈でⅢ音とⅣ音が重なると重合奔馬調律と呼ぶ。僧帽弁閉鎖不全症では、心尖部から腋窩へ放散する全収縮期雑音とⅠ音減弱に加えて、逆流量が多いとⅢ音を伴う。どちらも組合せとして正しい。
医学生医学生
Ⅳ音はどう違うんでしたっけ。臨床実習で聴かせてもらったときは、Ⅲ音との区別がつきませんでした。
ドクタードクター
Ⅳ音は拡張末期、心房が収縮して硬い心室に血液を押し込むときの音で、高血圧性心疾患、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症などで聞こえる。心房細動では心房収縮がないので生じない。Ⅲ音もⅣ音も低調なので、心尖部でベル型を軽く当てて聴くのがコツだ。また、Ⅲ音は若年者では生理的に聞こえることもあるけれど、中高年で聞こえたら心不全や容量負荷を疑う。聴診は数秒でできて、心エコーを撮る前に病態を推測できる大切な技術だから、OSCEのためだけでなく臨床で使えるようにしておこう。
医学生医学生
雑音の時相と部位から、どの弁でどんな血流異常が起きているかを考える習慣をつけます。

まとめ

心雑音は「心周期のどの時相に、どこからどこへ血液が異常に流れるか」で理解すると整理しやすくなります。大動脈弁閉鎖不全症は拡張期に大動脈から左室へ逆流する疾患で、主な雑音はErb領域の高調な拡張早期漸減性雑音であり、全収縮期雑音の代表は僧帽弁閉鎖不全症・三尖弁閉鎖不全症・心室中隔欠損症です。肺高血圧症ではⅡ音の肺動脈成分が亢進し、心房中隔欠損症ではⅡ音の固定性分裂に加え、血流増加による相対的三尖弁狭窄で拡張中期ランブルを生じます。拡張型心筋症のⅢ音による奔馬調律や、僧帽弁閉鎖不全症の容量負荷によるⅢ音も、拡張早期の急速流入という同じ原理で説明できます。病態から聴診所見を導く考え方を身につけておくと、ベッドサイドで心エコー前に病態を推測する力にもつながります。

解答・解説

正解はbです

代表的な心疾患と聴診所見の対応を問う基本問題である。「誤っているのはどれか」を選ぶ形式なので、病態から考えて生じるはずのない所見を探す。 心雑音を理解するには、「心周期のどの時相に」「どこを」「どちら向きに」血液が異常に流れるかを考えるとよい。 ・収縮期(Ⅰ音〜Ⅱ音):心室が収縮して血液を送り出す時相である。房室弁(僧帽弁・三尖弁)の逆流や心室中隔欠損による短絡では、心室圧が心房圧・右室圧を上回る収縮期の全体にわたり血液が漏れるため、全収縮期雑音(汎収縮期雑音)となる。半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の狭窄や駆出血流の増加では、駆出性(ダイヤモンド型)の収縮期雑音となる。 ・拡張期(Ⅱ音〜次のⅠ音):心室が弛緩して血液を受け入れる時相である。半月弁の逆流では拡張早期から高調な漸減性雑音が生じる。房室弁の狭窄や房室弁を通る血流の増加では、拡張中期に低調なランブル(ゴロゴロした雑音)が生じる。 ・過剰心音:Ⅲ音は拡張早期に心房から心室へ血液が急速に流入する際の振動で、容量負荷や心室の拡張・機能低下で生じる。Ⅳ音は拡張末期の心房収縮に伴う音で、心室壁が硬い(コンプライアンス低下)ときに生じる。これらが加わって馬の駆け足のような3拍子に聞こえる状態を奔馬調律(ギャロップリズム)という。 大動脈弁閉鎖不全症は、拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流する疾患であり、その主な雑音は拡張期雑音である。全収縮期雑音と組み合わせるのは誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  肺高血圧症 ―― Ⅱ音の亢進

    正しい組合せである。Ⅱ音は大動脈弁の閉鎖音(ⅡA)と肺動脈弁の閉鎖音(ⅡP)からなる。肺動脈圧が上昇すると肺動脈弁が強い圧で閉じるため、ⅡPが亢進し、胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁領域)で大きく聴取される。これに対し、体循環の高血圧ではⅡAが亢進する。肺高血圧症では、ほかに肺動脈弁閉鎖不全による拡張期雑音(Graham Steell雑音)や、三尖弁閉鎖不全による全収縮期雑音を伴うことがある。

  2. ○b.  大動脈弁閉鎖不全症 ―― 全収縮期雑音

    誤った組合せであり、これが正解である。大動脈弁閉鎖不全症(AR)では、拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流するため、Ⅱ音の直後から始まる高調で漸減性の拡張早期雑音を、胸骨左縁第3肋間(Erb領域)を中心に聴取する。前傾座位で呼気を止めると聴きやすい。逆流量が多いと、逆流血が僧帽弁前尖の開放を妨げて相対的僧帽弁狭窄となり、心尖部で拡張中期ランブル(Austin Flint雑音)を聴取することがある。また、左室の1回拍出量が増えるため、大動脈弁を通過する血流の増加による駆出性収縮期雑音を伴うこともあるが、これは全収縮期雑音ではない。全収縮期雑音をきたす代表的な疾患は、僧帽弁閉鎖不全症(MR)、三尖弁閉鎖不全症(TR)、心室中隔欠損症(VSD)である。

  3. ×c.  心房中隔欠損症 ―― 拡張期ランブル

    正しい組合せである。心房中隔欠損症(ASD)では、左房から右房への短絡により右心系に容量負荷がかかる。短絡量が多い(肺体血流比がおおむね2以上)と、拡張期に三尖弁を通過する血流が大きく増加し、弁自体に異常がなくても相対的三尖弁狭窄の状態となって、胸骨左縁下部で低調な拡張中期ランブルを聴取する。ASDの代表的な聴診所見は、Ⅱ音の固定性分裂(呼吸で分裂幅が変わらない)と、肺動脈弁を通過する血流増加による胸骨左縁第2肋間の駆出性収縮期雑音(相対的肺動脈弁狭窄)である。心房間の短絡は圧較差が小さいため、短絡血流そのものによる雑音はほとんど聴取されない。

  4. ×d.  拡張型心筋症 ―― 奔馬調律

    正しい組合せである。拡張型心筋症(DCM)は、左室の拡大と収縮力の低下を特徴とし、心不全をきたす疾患である。拡張した心室に拡張早期の血液が急速に流入することでⅢ音が生じ、これが加わって奔馬調律(Ⅲ音ギャロップ、protodiastolic gallop)を呈する。心房収縮によるⅣ音を伴うこともあり、頻脈でⅢ音とⅣ音が重なると重合奔馬調律(summation gallop)となる。また、左室拡大に伴う僧帽弁輪の拡大により、機能性の僧帽弁閉鎖不全による全収縮期雑音を伴うこともある。

  5. ×e.  僧帽弁閉鎖不全症 ―― Ⅲ 音

    正しい組合せである。僧帽弁閉鎖不全症(MR)では、収縮期に左室から左房へ逆流した血液が、拡張期に正常な流入血とともに左室へ戻る。そのため拡張早期の左房から左室への流入量が増え(左室の容量負荷)、Ⅲ音を生じる。MRの主な聴診所見は、心尖部で聴取され腋窩へ放散する全収縮期雑音と、Ⅰ音の減弱である。中等度以上のMRではⅢ音を伴うことが多く、Ⅲ音の存在は逆流量が多いことを示唆する。

主な心雑音の整理

・全収縮期雑音:僧帽弁閉鎖不全症(心尖部、腋窩へ放散)、三尖弁閉鎖不全症(胸骨左縁下部、吸気で増強=Rivero-Carvallo徴候)、心室中隔欠損症(胸骨左縁第3〜4肋間、粗く大きい)。 ・駆出性収縮期雑音:大動脈弁狭窄症(胸骨右縁第2肋間、頸部へ放散)、肺動脈弁狭窄症、心房中隔欠損症(相対的肺動脈弁狭窄)、閉塞性肥大型心筋症(胸骨左縁、Valsalva手技や立位で増強)。 ・拡張早期雑音(高調・漸減性):大動脈弁閉鎖不全症(Erb領域)、肺動脈弁閉鎖不全症(Graham Steell雑音)。 ・拡張中期ランブル(低調):僧帽弁狭窄症(心尖部、開放音に続く、前収縮期増強)、Austin Flint雑音(重症AR)、Carey Coombs雑音(急性リウマチ熱)、ASDや大きなVSD・PDAにおける相対的房室弁狭窄。 ・連続性雑音:動脈管開存症(胸骨左縁第2肋間)、冠動静脈瘻、Valsalva洞動脈瘤破裂など。

Ⅱ音の分裂

・生理的分裂:吸気時に静脈還流が増えて肺動脈弁の閉鎖が遅れ、分裂が広がる。 ・固定性分裂:心房中隔欠損症。 ・幅広い分裂:右脚ブロック、肺動脈弁狭窄症。 ・奇異性分裂(呼気時に分裂):左脚ブロック、大動脈弁狭窄症など、大動脈弁の閉鎖が遅れる病態。

Ⅲ音とⅣ音

・Ⅲ音:拡張早期、急速流入期の音。小児や若年者(おおむね30〜40歳未満)では生理的に聴取されることがあるが、中高年では心不全、容量負荷(MR、VSD、PDAなど)を示唆する。 ・Ⅳ音:拡張末期、心房収縮期の音。健常者では通常聴取されず、高血圧性心疾患、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、急性心筋梗塞など心室が硬くなる病態で聴取される。心房細動では心房収縮がないためⅣ音は生じない。 ・いずれも低調な音であり、心尖部で聴診器のベル型を軽く当てて聴く。

POINT

・大動脈弁閉鎖不全症の主な雑音は、Erb領域の高調な拡張早期漸減性雑音である(重症ではAustin Flint雑音)。 ・全収縮期雑音はMR、TR、VSDの3つが代表。 ・ASD:Ⅱ音の固定性分裂、相対的肺動脈弁狭窄による駆出性収縮期雑音、相対的三尖弁狭窄による拡張期ランブル。 ・肺高血圧症ではⅡP亢進、DCMではⅢ音による奔馬調律、MRでは容量負荷によるⅢ音。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。