山歩きのあとに広がる赤い輪―マダニが運ぶライム病と「虫と病気」の対応表
第106回医師国家試験 G問題 第16問
国試問題にチャレンジ
主としてマダニが媒介する疾患はどれか。
- a.マラリア
- b.ライム病
- c.リーシュマニア感染症
- d.ペスト
- e.野兎病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ライム病はボレリア属のスピロヘータによる感染症で、主にIxodes属のマダニが媒介し、刺し口を中心に輪状に広がる遊走性紅斑が特徴です。マラリアはハマダラカ、リーシュマニア症はサシチョウバエ、ペストはノミ(保有動物は齧歯類)が媒介し、野兎病はマダニ刺咬でも感染しうるものの主な経路は感染した野ウサギなどとの直接接触です。マダニはほかに日本紅斑熱、SFTS、ダニ媒介性脳炎も媒介し、ツツガムシ病はツツガムシの幼虫が媒介する点も区別しておきましょう。病原体と媒介生物をセットで整理し、野外活動歴と刺し口の確認を診察に組み込むことが、ダニ媒介感染症を見逃さない臨床の基本となります。
解答・解説
正解はbです
本問は、節足動物が病原体を運ぶ「節足動物媒介感染症(ベクター媒介感染症)」について、疾患と媒介生物(ベクター)の組み合わせを問うものである。
考え方
疾患ごとに「病原体」と「何がヒトへ運ぶか」をセットで覚えておくことが鍵になる。マダニ(硬ダニ科。吸血前は数mmだが、吸血すると大きく膨らむ)は草むらや山林に生息し、皮膚に口器を刺し入れて数日以上吸血し続ける。この長い吸血の間に、唾液とともに細菌・リケッチア・ウイルスがヒトの体内に入る。 選択肢のうち、主な媒介者がマダニなのはライム病(病原体はボレリア属のスピロヘータ)だけである。マラリアはハマダラカ(蚊)、リーシュマニア症はサシチョウバエ、ペストはノミが主な媒介者である。野兎病はマダニに刺されて感染することもあるが、主な感染経路は感染した野ウサギなどの動物に直接触れることであり、「主として」の条件を満たすのはライム病となる。
選択肢考察
- ×a. マラリア
マラリアは原虫であるマラリア原虫(Plasmodium属:熱帯熱・三日熱・四日熱・卵形など)による感染症で、ハマダラカ(Anopheles属の蚊)の雌が吸血する際に、唾液腺にいるスポロゾイトがヒトの血液中に入って感染する。マダニは関与しない。輸血や母子(経胎盤)で感染することもあるが、ふつうは蚊を介して感染する。
- ○b. ライム病
ライム病はスピロヘータの一種であるボレリア(Borrelia burgdorferi など。日本では B. garinii、B. afzelii が主)による感染症で、マダニ(日本ではシュルツェマダニなど Ixodes 属)が吸血する際に感染する。刺されてから数日〜数週間後に、刺し口を中心として輪状に広がる遊走性紅斑(erythema migrans)が現れ、発熱・倦怠感・関節痛・リンパ節腫脹を伴う。治療しないと、数週〜数か月後に顔面神経麻痺や髄膜炎などの神経症状、房室ブロックなどの心症状、慢性関節炎へ進むことがある。日本では北海道や本州中部の山岳地帯に多い。マダニが主な媒介者であり、これが正解である。
- ×c. リーシュマニア感染症
リーシュマニア症は原虫(Leishmania属)による感染症で、サシチョウバエ(sandfly。体長数mmの小さな吸血性のハエ)に刺されて感染する。病型は、皮膚に潰瘍ができる皮膚型、鼻や口の粘膜を壊す粘膜皮膚型、発熱・肝脾腫・汎血球減少をきたす内臓型(カラアザール)に分かれる。熱帯・亜熱帯や地中海沿岸に分布し、日本では輸入例のみである。マダニは媒介しない。
- ×d. ペスト
ペストはペスト菌(Yersinia pestis)による感染症である。菌はネズミなどの齧歯類の間で広がっており、その血を吸ったノミ(ケオプスネズミノミなど)がヒトを刺すと感染する。つまり、菌の保有動物(リザーバー)は齧歯類、媒介者(ベクター)はノミである。刺された部位の近くのリンパ節が腫れる腺ペストが多く、菌血症になると敗血症ペスト、肺に及ぶと肺ペストとなる。肺ペストは飛沫で人から人へうつる。マダニは主な媒介者ではない。
- ×e. 野兎病
野兎病は野兎病菌(Francisella tularensis)による人獣共通感染症である。菌は野ウサギや齧歯類などの野生動物の間で、マダニなどの吸血性節足動物を介して広がっている。ヒトは主に、感染した野ウサギの皮をはいだり肉を調理したりする際に、皮膚や粘膜から直接感染する。ほかに、汚染された水・食物の摂取、粉じんの吸入、マダニやアブなどに刺されることでも感染する。このようにマダニ刺咬による感染もあり得るが、主な経路は動物との接触であり、「主としてマダニが媒介する」疾患とはいえない。臨床的には発熱と、侵入部位の潰瘍および所属リンパ節の腫脹(潰瘍リンパ節型)が典型的である。
主な節足動物と媒介する感染症
・マダニ:ライム病(ボレリア)、日本紅斑熱(Rickettsia japonica)、重症熱性血小板減少症候群(SFTS。SFTSウイルス)、ダニ媒介性脳炎(フラビウイルス属)、回帰熱の一部(ボレリア)、Q熱(主な感染経路は動物からの吸入) ・ツツガムシ(ダニの一種。幼虫が吸着):ツツガムシ病(Orientia tsutsugamushi) ・コロモジラミ:発疹チフス、塹壕熱、シラミ媒介性回帰熱 ・ノミ:ペスト、発疹熱(Rickettsia typhi) ・ハマダラカ:マラリア ・ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ:デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、黄熱 ・コガタアカイエカ:日本脳炎 ・イエカ:ウエストナイル熱 ・サシチョウバエ:リーシュマニア症 ・ツェツェバエ:アフリカトリパノソーマ症(睡眠病) ・サシガメ:シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)
日本で重要なマダニ媒介感染症
・日本紅斑熱:刺されてから2〜8日ほどで高熱・頭痛・悪寒戦慄が出る。続いて手足や顔面に米粒〜小豆大の紅斑が出て全身に広がる。刺し口(黒色の痂皮)がみられる。西日本の太平洋側に多い。治療の第一選択はテトラサイクリン系(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)。 ・SFTS:発熱、消化器症状(嘔吐・下痢)、血小板減少・白血球減少が特徴で、致命率が高い。西日本に多い。感染したネコやイヌからヒトへうつった例もある。2024年に日本で抗ウイルス薬ファビピラビルが承認された。 ・ダニ媒介性脳炎:フラビウイルス属(日本脳炎ウイルスと同じ属)による。ヨーロッパ・ロシアに多く、日本では北海道で報告がある。感染したヤギ・ヒツジの生乳を飲んで感染することもある。 ・ライム病:遊走性紅斑が特徴。治療はドキシサイクリン、アモキシシリンなど。
マダニ予防と刺されたとき
山林や草むらに入るときは長袖・長ズボンで肌の露出を減らし、虫よけ剤を使う。マダニが吸着していたら、無理に引き抜くと口器が皮膚に残るため、医療機関で除去(必要なら皮膚ごと切除)してもらうのが望ましい。刺されてから数週間は発熱や発疹の出現に注意する。
POINT
・マダニが主に媒介する:ライム病、日本紅斑熱、SFTS、ダニ媒介性脳炎 ・マラリア=ハマダラカ、リーシュマニア症=サシチョウバエ、ペスト=ノミ(保有動物は齧歯類) ・野兎病は主に感染した野ウサギなどとの直接接触で感染する(マダニ刺咬による感染もある) ・ライム病の特徴的な皮膚所見は遊走性紅斑
