その手技、何を調べるため?―Barré徴候から整理する身体診察の「目的」
第106回医師国家試験 F問題 第10問
国試問題にチャレンジ
身体診察所見と病態・疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.声音振盪の増強 ―― 反回神経麻痺
- b.踵下ろし試験〈heel-drop jarring test〉陽性 ―― 胸水貯留
- c.Barré徴候陽性 ―― 片麻痺
- d.Romberg試験陽性 ―― 感音性難聴
- e.Weber試験陽性 ―― 腹膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
身体診察の組合せ問題では、各手技が評価する系統と病態を正確に押さえることが鍵です。Barré徴候は軽度の錐体路障害を検出する手技で、上肢では回内しながら下降し、片麻痺を示唆します。声音振盪は肺炎などのコンソリデーションで増強し胸水・気胸・閉塞性無気肺で減弱、踵下ろし試験は腹膜刺激症状、Romberg試験は深部感覚障害による感覚性失調、Weber試験は難聴の鑑別(伝音難聴は患側、感音難聴は健側に偏倚)に用います。手技の目的を理解しておけば、打診・聴診やほかの神経所見と組み合わせて病態を絞り込む実際の診察にもそのまま応用できます。
解答・解説
正解はcです
本問は、代表的な身体診察手技について「何を調べるための手技か」を正しく理解しているかを問う組合せ問題である。各手技の対象臓器・系統を整理すると次のようになる。 ・声音振盪(せいおんしんとう):胸壁に伝わる声の振動を手で触れて評価する呼吸器の触診法 ・踵下ろし試験(heel-drop jarring test):腹膜刺激症状をみる腹部の診察法 ・Barré(バレー)徴候:軽度の運動麻痺(錐体路障害)を検出する神経学的診察法 ・Romberg(ロンベルグ)試験:深部感覚(位置覚)障害による失調をみる神経学的診察法 ・Weber(ウェーバー)試験:音叉を用いて一側性難聴が伝音性か感音性かを区別する聴覚の検査 このように手技の目的を押さえれば、組合せが成立しているのはBarré徴候と片麻痺だけであることがわかる。他の選択肢は、手技と疾患の領域がまったく異なるか(a、b、e)、別の手技の対象と入れ替えられている(dとeは互いに関連する検査の目的が入れ違ったような組合せ)ことに気づけるかがポイントである。
選択肢考察
- ×a. 声音振盪の増強 ―― 反回神経麻痺
声音振盪は、患者に低い声で「ひと〜つ」などと発声させ、背部や胸壁に当てた手掌で振動を感じ取る診察法である。振動は含気の多い正常肺ではある程度減衰して伝わり、肺実質が硬くなる病態(大葉性肺炎などの浸潤影・コンソリデーション)では伝わりやすくなって増強する。逆に胸水、気胸、無気肺(気管支閉塞を伴うもの)などでは振動が胸壁まで届きにくくなり減弱する。反回神経麻痺は声帯の運動障害で嗄声(させい、かすれ声)をきたし、喉頭鏡などで評価するものであって、声音振盪の増強とは結びつかない。
- ×b. 踵下ろし試験〈heel-drop jarring test〉陽性 ―― 胸水貯留
踵下ろし試験は、つま先立ちの姿勢から踵を勢いよく床に落とさせ、その衝撃で腹部に痛みが響くかどうかをみる検査である。炎症が壁側腹膜に及んでいる場合(腹膜刺激症状)に陽性となり、急性虫垂炎では右下腹部に痛みが響く。筋性防御やBlumberg徴候(反跳痛)と同様に腹膜炎を示唆する所見であり、胸水貯留の評価には用いない。
- ○c. Barré徴候陽性 ―― 片麻痺
Barré徴候は、明らかな麻痺としては捉えにくい軽度の片麻痺(錐体路障害)を検出するための手技である。上肢では手掌を上に向けて両腕を前方に水平に伸ばし、閉眼させて保持させると、患側の上肢が回内しながら下がってくる。下肢では腹臥位で両膝を約135°に曲げた位置で保持させると、患側の下腿が落ちてくる。いずれも患側で陽性となり、片麻痺を示唆するので組合せとして正しい。わが国で単にBarré徴候といえば通常は上肢のものを指す。
- ×d. Romberg試験陽性 ―― 感音性難聴
Romberg試験は、両足をそろえて立たせ、開眼では安定して立てるのに閉眼すると体が大きく揺れて倒れそうになる場合を陽性とする検査である。視覚で代償されていた深部感覚(位置覚)の障害が閉眼で顕在化するためで、脊髄後索障害(脊髄癆、亜急性連合性脊髄変性症など)や末梢神経障害による感覚性失調で陽性となる。前庭(内耳平衡器)障害でも閉眼時に動揺が増すことがある。一方、小脳性失調では開眼時から動揺するため陽性とは判定しない。聴覚障害である感音性難聴を評価する検査ではない。
- ×e. Weber試験陽性 ―― 腹膜炎
Weber試験は、振動させた音叉を前額部や頭頂部の正中に当て、音がどちら側で強く聞こえるか(偏倚)を尋ねる聴覚の検査である。一側の伝音難聴では患側に、一側の感音難聴では健側に偏って聞こえる。Rinne試験と組み合わせて難聴の種類を推定するもので、腹膜炎とは無関係である。
声音振盪の変化
・増強:肺炎(コンソリデーション)など肺実質の含気低下で気道が開存している状態 ・減弱:胸水、気胸、閉塞性無気肺、胸膜肥厚、高度の肺気腫 打診(濁音・鼓音)や聴診(呼吸音、声音聴診)の所見と組み合わせて判断する。
腹膜刺激症状
筋性防御、反跳痛(Blumberg徴候)、踵下ろし試験陽性、咳嗽やジャンプで痛みが響く、などがある。
軽微な麻痺の検出法
・上肢Barré徴候:上肢の回内・下降 ・Mingazzini(ミンガッツィーニ)試験:仰臥位で股関節・膝関節を約90°屈曲させて保持させると患側の下腿が下がる ・下肢Barré徴候:腹臥位・膝約135°屈曲位の保持で患側下腿が下降
音叉による聴覚検査
・Weber試験:伝音難聴→患側へ偏倚、感音難聴→健側へ偏倚 ・Rinne試験:気導と骨導の聞こえの長さを比べる。正常や感音難聴では気導>骨導(陽性)、伝音難聴では骨導≧気導(陰性)
Romberg試験
開眼で安定、閉眼で動揺増大が陽性。感覚性失調(脊髄後索・末梢神経障害)で陽性、小脳性失調は開眼でも不安定なため陽性とはしない。
POINT
・Barré徴候は軽度の片麻痺(錐体路障害)を検出する。上肢は回内・下降、下肢は腹臥位で下腿が下降。 ・声音振盪は肺炎で増強、胸水・気胸・無気肺で減弱。 ・踵下ろし試験は腹膜刺激症状をみる。 ・Romberg試験は深部感覚障害(脊髄後索など)で陽性。 ・Weber試験は難聴の鑑別:伝音難聴は患側、感音難聴は健側に偏倚。
