気管支鏡室に胃管はいらない―「麻酔・監視・急変対応・到達」で整理する検査準備
第106回医師国家試験 E問題 第6問
国試問題にチャレンジ
気管支鏡検査の際に必要でないのはどれか。
- a.胃管
- b.リドカイン
- c.救急カート
- d.エックス線透視
- e.パルスオキシメトリ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
気管支鏡検査は気道に直接スコープを入れる侵襲的な検査であり、準備物品は「苦痛と反射の抑制」「安全監視」「合併症への備え」「病変への到達」という目的から整理できます。リドカインによる局所麻酔、パルスオキシメトリによるSpO2の連続監視、出血・気胸・局所麻酔薬中毒・アナフィラキシーなどに備えた救急カート、末梢肺病変の生検時のエックス線透視はいずれも必要です。一方、胃管は消化管減圧や経管栄養のための器具であり、咽頭麻酔に伴う誤嚥は検査前後の絶飲食で予防するため不要です。リドカインは気道粘膜から速やかに吸収されるため総投与量に注意し、生検後は気胸や出血の確認を行います。検査で起こりうる事態から必要な準備を逆算する考え方は、あらゆる侵襲的手技の安全管理に通じる基本です。
解答・解説
正解はaです
気管支鏡検査は、細い軟性内視鏡(気管支ファイバースコープ・電子スコープ)を口または鼻から挿入し、声門を越えて気管・気管支の内腔を直接観察する検査である。観察に加え、病変の生検(経気管支肺生検 TBLB など)、擦過細胞診、気管支肺胞洗浄(BAL)といった診断手技や、痰・血液の吸引、異物除去、気道出血の止血などの治療手技にも用いられる。 本問では、この検査を安全かつ確実に行うために準備するものと、そうでないものを区別する。必要な準備は、次の観点から整理すると理解しやすい。 ・苦痛の軽減と反射の抑制: 咽頭・喉頭・気管への局所麻酔(リドカイン)。必要に応じて鎮静薬(ミダゾラムなど)を用いる。 ・検査中の安全監視: スコープが気道の一部を占めることや鎮静・麻酔の影響で低酸素血症を来しやすいため、パルスオキシメトリによる経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の連続測定、心電図・血圧のモニター、酸素投与の準備を行う。 ・合併症への備え: 大量出血、気胸、局所麻酔薬中毒(痙攣・不整脈)、アナフィラキシー、気管支攣縮、重症の低酸素血症などに対応できるよう、救急カート(蘇生用の薬剤・挿管器具・除細動器など)を準備する。 ・目標病変への到達: 気管支鏡で直接見えない末梢の肺病変を生検するときは、エックス線透視で鉗子の位置を確認しながら行う。 一方、胃管は消化管の減圧・胃内容の吸引や経管栄養に用いる器具であり、気管支鏡検査の準備には含まれない。誤嚥を防ぐ目的は、検査前の絶飲食で達成する。
選択肢考察
- ○a. 胃管
必要でない。胃管(経鼻胃管)は、腸閉塞などでの消化管減圧や胃内容の吸引、胃洗浄、経口摂取できない患者への経管栄養などに用いるものである。気管支鏡検査では、咽頭の麻酔により嚥下反射・咳反射が低下するため誤嚥のリスクがあるが、その対策は検査前数時間の絶飲食と、検査後もしばらく(麻酔が切れて嚥下機能が回復するまで、目安として 2 時間程度)飲食を控えることで行い、胃管を挿入する必要はない。
- ×b. リドカイン
必要である。リドカインは代表的な局所麻酔薬であり、検査前に咽頭へ噴霧(スプレー)やネブライザー吸入で投与し、さらに検査中はスコープを通して声門や気管・気管支に散布する。これにより、スコープ挿入時の咽頭反射(嘔吐反射)や咳反射を抑え、患者の苦痛を和らげて安全に観察・処置ができるようになる。ただし気道粘膜からの吸収は速く、使用量が多すぎると局所麻酔薬中毒(口周囲のしびれ、興奮、痙攣、不整脈など)を起こすため、総投与量を記録し過量とならないよう注意する。
- ×c. 救急カート
必要である。気管支鏡検査は侵襲的な検査であり、局所麻酔薬や鎮静薬によるアナフィラキシー・呼吸抑制・局所麻酔薬中毒、生検後の大量出血、経気管支肺生検による気胸、気管支攣縮、重篤な低酸素血症や不整脈など、緊急対応を要する合併症が起こりうる。これらにすぐ対処できるよう、アドレナリンなどの救急薬品、酸素、バッグバルブマスク、気管挿管器具、除細動器を備えた救急カートを検査室に準備しておくことが必須である。
- ×d. エックス線透視
必要である。気管支鏡で直接観察できる範囲は区域気管支〜亜区域気管支程度までであり、それより末梢にある肺の結節影や浸潤影を生検する場合には、エックス線透視で鉗子やブラシの先端が病変に達しているかを確認しながら検体を採取する。これによって診断率が上がるとともに、胸膜まで鉗子を進めすぎて気胸を起こすことを防ぐことにもつながる。中枢の気道病変の観察のみであれば透視は必須ではないが、胸部異常影の精査を目的とする検査では重要な設備である。近年は気管支腔内超音波(EBUS)やナビゲーションシステムを併用することも多い。
- ×e. パルスオキシメトリ
必要である。パルスオキシメトリは指先などに装着したプローブで SpO2 と脈拍数を非侵襲的・連続的に測定する方法である。気管支鏡検査中はスコープによる気道の部分的な閉塞、吸引による肺胞内の酸素の除去、気管支肺胞洗浄、鎮静薬による呼吸抑制などで低酸素血症を来しやすい。そのため全例で装着して SpO2 を常に監視し、低下した場合は酸素投与量を増やす、いったんスコープを抜いたり操作を中断したりして回復を待つなどの対応をとる。
気管支鏡検査の主な適応
・診断: 胸部エックス線・CT での異常影(肺癌の疑いなど)、原因不明の血痰・喀血、遷延する咳嗽、肺結核や非結核性抗酸菌症・肺炎などの起炎菌の同定、びまん性肺疾患(間質性肺炎、サルコイドーシスなど)の評価 ・治療: 喀痰・分泌物の吸引(無気肺の解除など)、気道異物の除去、気道出血に対する止血、気道狭窄に対するステント留置など
主な検査手技
・経気管支肺生検(TBLB): 末梢肺組織を鉗子で採取する。気胸・出血に注意。 ・擦過細胞診・気管支洗浄: 細胞や微生物を採取する。 ・気管支肺胞洗浄(BAL): 生理食塩水を注入・回収し、回収液中の細胞分画や微生物を調べる。 ・超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA): 縦隔・肺門リンパ節を穿刺吸引する。肺癌の病期診断などに用いる。
検査前後の管理
・検査前: 絶飲食、同意取得、抗血栓薬の内服状況の確認(生検予定時)、血液凝固能・感染症の確認、静脈路確保。 ・検査中: SpO2・心電図・血圧のモニター、必要に応じ酸素投与。 ・検査後: 麻酔が切れるまで飲食禁止(誤嚥予防)。生検後は気胸の有無を胸部エックス線で確認することがある。鎮静薬を使用した場合は当日の自動車運転を控えるよう指導する。
主な合併症
出血、気胸、低酸素血症、局所麻酔薬中毒、鎮静薬による呼吸抑制、気管支攣縮、不整脈、発熱・肺炎など。重篤な合併症への備えとして救急カートを常備する。
POINT
・気管支鏡検査の準備: 局所麻酔(リドカイン)、SpO2 モニター(パルスオキシメトリ)、救急カート、必要に応じてエックス線透視・鎮静薬。 ・誤嚥予防は検査前後の絶飲食で行い、胃管は不要である。 ・リドカインは過量投与で局所麻酔薬中毒(痙攣・不整脈)を起こすため総量に注意する。 ・末梢肺病変の生検は透視下で行い、TBLB 後は気胸・出血に注意する。
