流行地がなくても診断される―輸入感染症マラリアと「国内発生ゼロ」の感染症たち
第106回医師国家試験 E問題 第7問
国試問題にチャレンジ
2007年の報告において,国内で診断された症例があるのはどれか。
- a.SARS
- b.天然痘
- c.ペスト
- d.マラリア
- e.エボラ出血熱
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
日本にはマラリアの土着の流行はありませんが、流行地で感染し帰国後に発症する輸入感染症として毎年数十例が報告されており、感染症法では4類感染症として直ちに届け出ます。これに対し、天然痘は1980年にWHOが世界根絶を宣言し、ペストは日本では1926年を最後に国内発生がなく、SARSとエボラ出血熱は国内で確定診断された患者がいません。「国内に流行がない=国内で診断されない」ではなく、輸入例も国内の診断例として報告される点が判断の鍵です。マラリアの潜伏期は病型により数か月以上に及ぶこともあるため、発熱患者では渡航歴を必ず確認し、疑えばギムザ染色の血液塗抹で速やかに診断します。毎年報告がある感染症と国内発生のない感染症を区別しておくことは、公衆衛生の知識としてだけでなく、外来で重篤な輸入感染症を見逃さないための土台になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づく届出で、2007年に日本国内で実際に診断・報告された症例があった疾患を選ぶ問題である。
考え方
選択肢はいずれも重篤で有名な感染症だが、日本国内で日常的に診断されているかどうかで大きく二つに分かれる。 ・SARS、天然痘、ペスト、エボラ出血熱:国内での確定例が近年(あるいは数十年以上)存在しない疾患である。天然痘は世界的に根絶され、ペストは国内で約80年間発生がなく、SARSとエボラ出血熱は国内で確定診断された患者がいない。 ・マラリア:日本国内に流行地はないが、熱帯・亜熱帯の流行地(アフリカ、アジア、中南米など)へ渡航した人が現地で感染し、帰国後に発症して診断される「輸入感染症」として毎年報告がある。2007年も数十例(50例前後)が届け出られている。 したがって、国内で診断された症例があるのはマラリアである。「国内に流行がない=国内で診断されない」ではなく、海外からの持ち込み(輸入例)も国内診断例として報告される点がポイントである。 なお、本問は特定年の統計を問う設問であり、現在の国試対策としての有用性は高くない。ただし「毎年報告がある感染症」と「国内発生がない感染症」を区別する知識は現在でも役立つ。
選択肢考察
- ×a. SARS
SARS(severe acute respiratory syndrome:重症急性呼吸器症候群)はSARSコロナウイルスによる呼吸器感染症で、2002〜2003年に中国南部を起点として世界的に流行した。感染症法では2類感染症に分類される。日本でも流行当時に疑い例の調査は行われたが、確定診断された患者は出ておらず、2007年にも報告はない。2004年以降は世界的にも新たな流行は確認されていない。
- ×b. 天然痘
天然痘(痘瘡)は痘瘡ウイルスによる感染症で、1類感染症に分類される。種痘(ワクチン接種)の普及により、1977年のソマリアの症例を最後に自然発生はなく、1980年にWHO(世界保健機関)が世界根絶を宣言した。日本国内でも数十年来発生はなく、2007年に症例が診断されることはあり得ない。
- ×c. ペスト
ペストはペスト菌(Yersinia pestis)による感染症で、ノミやげっ歯類を介して感染し、1類感染症に分類される。日本では1926年(昭和初期)を最後に国内発生はなく、約80年間報告がない。世界的にはマダガスカルやコンゴ民主共和国など一部の地域で現在も発生しているが、2007年の国内報告例はない。
- ○d. マラリア
マラリアはマラリア原虫(Plasmodium属)がハマダラカに媒介されて起こる感染症で、4類感染症に分類され、診断した医師は直ちに届け出る。日本国内に土着の流行はないが、流行地への旅行者・出張者・帰国者などが現地で感染し、帰国後に発熱などで受診して診断される輸入例が毎年数十例報告されており、2007年も50例前後の届出があった。病型は三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア、熱帯熱マラリアに分けられ、国内報告例の大部分は熱帯熱と三日熱である。熱帯熱マラリアは重症化・死亡の危険が高く、渡航歴のある発熱患者では必ず鑑別に挙げる。
- ×e. エボラ出血熱
エボラ出血熱(エボラウイルス病)はエボラウイルスによるウイルス性出血熱で、1類感染症に分類される。流行はアフリカ中部・西部に限られており、日本では輸入例を含め確定診断された患者はいない(2014〜2016年の西アフリカ流行時にも疑い例はあったが、いずれも陰性であった)。2007年の国内報告例もない。
感染症法の類型と国内の発生状況(概略)
・1類感染症:エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘瘡(天然痘)、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱。いずれも国内では近年発生がない(ラッサ熱は1987年に輸入例が1例あるのみ)。 ・2類感染症:急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、SARS、MERS(中東呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)。このうち結核は毎年多数報告される。 ・3類感染症:コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス。いずれも毎年報告があり、特に腸管出血性大腸菌感染症は数千例規模である。 ・4類感染症:A型肝炎、E型肝炎、エキノコックス症、オウム病、つつが虫病、デング熱、日本紅斑熱、日本脳炎、マラリア、レジオネラ症、レプトスピラ症など。動物や蚊・ダニなどを介するものが中心で、多くは毎年報告がある。 ・5類感染症:アメーバ赤痢、ウイルス性肝炎(A型・E型を除く)、Creutzfeldt-Jakob病、後天性免疫不全症候群(AIDS)、梅毒、破傷風、風疹、麻疹など。
輸入感染症としてのマラリア
・潜伏期は熱帯熱で約1〜2週間、三日熱・卵形では数か月〜1年以上経ってから発症することもある。 ・診断はギムザ染色の血液塗抹標本で原虫を確認するのが基本で、迅速診断キットも補助的に用いられる。 ・熱帯熱マラリアは意識障害、腎不全、重症貧血などを来し得るため、渡航歴のある発熱患者では早期に検査・治療を行う。 ・予防には防蚊対策と、渡航先に応じた予防内服がある。
POINT
・マラリアは国内に流行はないが、海外で感染した輸入例として毎年数十例が報告される(4類感染症)。 ・天然痘は1980年に世界根絶宣言、ペストは国内で約80年間発生なし。 ・SARS、エボラ出血熱は国内で確定診断された症例がない。 ・1類感染症は近年国内発生がない。一方、結核、腸管出血性大腸菌感染症、デング熱、マラリアなどは毎年報告がある。 ・渡航歴のある発熱患者ではマラリアを必ず鑑別に挙げる。
