StudyMed医師国家試験

片目を閉じると消える感覚―立体視から学ぶ両眼視機能のしくみ

第106回医師国家試験 E問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第19問

両眼視機能はどれか。

  1. a.暗所視
  2. b.立体視
  3. c.中心視力
  4. d.調節近点
  5. e.視運動眼振

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、両眼視機能とは何かを問う問題だ。ポイントはシンプルで、「片眼だけでも成り立つ機能か、両眼がそろって初めて成り立つ機能か」を見分けること。選択肢をこの物差しで一つずつ当てていこう。
医学生医学生
両眼視機能というと、両目で見ること全般のような気がしてしまいます。視力も普段は両目で見ていますよね。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。両眼視機能とは、左右の網膜に別々に結ばれた像を脳で統合して、一つのまとまった像として知覚する働きのことだ。普段両目で見ているかどうかではなく、左右の情報を統合しないと成立しないかどうかで判断する。
医学生医学生
眼科の講義で、同時視・融像・立体視の3段階があると習いました。
ドクタードクター
そう、Worthの分類だね。左右の像を同時に認識する同時視、二つの像を一つに融合する融像、そして左右の網膜像のわずかなずれ、つまり両眼視差を手がかりに奥行きを感じる立体視。立体視が最も高次の段階だ。
医学生医学生
両眼視差を使うなら、立体視は片目では成立しないので、これが正解ですね。
ドクタードクター
その通り。左右の眼が少し離れた位置から対象を見ているからこそ像にずれが生じ、脳がそれを奥行きとして処理する。臨床ではTitmus stereo testなどで評価するよ。
医学生医学生
眼科を回ったとき、偏光眼鏡をかけてハエの羽をつまむ検査を見学しました。あれがTitmusですね。
ドクタードクター
そうそう、ハエの絵が浮き上がって見えるかを確かめるあれだ。では他の選択肢も確認しよう。中心視力はどうかな。
医学生医学生
視力検査は片目ずつ遮閉して測るので、単眼の機能ですね。OSCEの練習でも遮眼子を使いました。
ドクタードクター
正解。中心視力は黄斑部中心窩で固視したときの視力で、片眼で完結する。暗所視はどうだろう。
医学生医学生
暗い所では杆体が働く、と生理学で習いました。視細胞の機能なので片目でも成り立ちそうです。
ドクタードクター
その通り。暗所視は主に杆体、明所視は主に錐体が担う網膜の機能だから、両眼視機能には入らない。調節近点はどうかな。
医学生医学生
調節は水晶体の厚みを変える働きなので、左右それぞれで起こる気がします。でも近くを見るときは輻湊も起こるので、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭いところに気づいたね。近見時には調節と輻湊が連動するけれど、調節近点そのものは最大限に調節したときに明視できる最も近い点で、片眼ずつ測定できる単眼の機能だ。加齢で調節力が落ちて近点が遠ざかるのが老視だね。最後に視運動眼振はどう考える?
医学生医学生
縞模様のドラムを回すと出る眼振ですよね。目が二つ動くので両眼の機能のようにも見えます。
ドクタードクター
眼が動くことと両眼視機能は別物だよ。視運動眼振は動く対象を追う緩徐相と戻る急速相からなる生理的眼振で、片眼でも誘発される。乳幼児の視力の他覚的評価や心因性視力障害の鑑別にも使われるんだ。
医学生医学生
なるほど、片目を隠しても残る機能はすべて違う、と考えればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で大丈夫。発展として、両眼視機能の発達も押さえておこう。生後まもなく発達が始まり、1歳頃までにおおよそ得られ、5〜6歳頃に完成するとされる。この感受性期に斜視や強い不同視があると、弱視や立体視の欠如を来しうる。
医学生医学生
だから3歳児健診で視機能をチェックして、早期に見つけることが大切なんですね。
ドクタードクター
その通り。発達期を過ぎると回復が難しくなることがあるので、早期発見・早期治療が鍵になる。検査では、大型弱視鏡で同時視から立体視までを段階的に評価でき、Bagolini線条レンズ試験やWorth 4 dot testで融像や抑制の有無を調べる。小児の斜視診療では、見た目の眼位だけでなく両眼視機能を評価する視点を忘れないようにしよう。

まとめ

両眼視機能とは、左右の網膜像を脳で統合して一つの像として知覚する働きで、Worthの分類により同時視・融像・立体視の3段階に整理されます。最も高次の立体視は、左右の網膜像のずれ(両眼視差)を利用して奥行きを知覚する機能であり、両眼がそろわなければ成立しません。一方、中心視力、暗所視、調節近点、視運動眼振はいずれも片眼でも成立・評価できる単眼の機能です。両眼視機能は5〜6歳頃に完成し、その感受性期の斜視や不同視は弱視や立体視欠如の原因となるため、小児の視機能評価では早期発見が重要です。「片眼を隠しても残るか」という視点で整理すると、視機能検査全体の理解にもつながります。

解答・解説

正解はbです

両眼視機能(binocular vision)とは、左右の眼の網膜にそれぞれ結ばれた像を脳(主に大脳視覚野)で統合し、一つのまとまった像として知覚する働きである。片眼ずつでも成り立つ視機能と、左右両方の眼がそろって初めて成立する視機能とを区別することが、本問を解く鍵となる。 両眼視機能は、Worth(ワース)の分類に従って次の3段階に整理される。 1. 同時視:左右の眼に映る別々の像を同時に認識できる段階 2. 融像:左右の像を一つに融合する段階(運動性融像・感覚性融像) 3. 立体視:左右の網膜像のわずかなずれ(両眼視差)を手がかりに奥行きを知覚する段階(最も高次) 選択肢のうち、両眼がそろわなければ成立しないのは立体視だけである。他の選択肢はいずれも片眼ずつ評価でき、片眼を遮閉しても失われない機能である。

選択肢考察

  1. ×a.  暗所視

    暗所視は、暗い環境で主に杆体(桿体)細胞がはたらいて成り立つ視覚である。網膜視細胞の機能であり、片眼だけでも成立するため、両眼視機能には含まれない。なお明所視は錐体細胞が主に担う。

  2. ○b.  立体視

    立体視は、左右の眼が少し離れた位置から対象を見ることで生じる網膜像のずれ(両眼視差)を脳が処理し、奥行きや距離を知覚する機能である。両眼からの入力がそろわなければ成立せず、同時視・融像に続く両眼視機能の最高段階に位置づけられる。臨床ではTitmus stereo test(チトマスステレオテスト)などで評価する。

  3. ×c.  中心視力

    中心視力は、黄斑部中心窩で固視したときの視力であり、一般に「視力」と呼ばれるものである。視力検査は片眼ずつ遮閉して行うことからわかるように単眼の機能であり、両眼視機能ではない。

  4. ×d.  調節近点

    調節近点は、最大限に調節(毛様体筋の収縮による水晶体の厚みの増加)したときに明視できる最も近い点である。調節は各眼で独立に評価でき、片眼でも成立する単眼の機能であるため、両眼視機能ではない。加齢により調節力が低下すると近点は遠ざかり、これが老視である。

  5. ×e.  視運動眼振

    視運動眼振(optokinetic nystagmus:OKN)は、回転ドラムの縞模様など視野内を連続して動く対象を見たときに誘発される生理的な眼振である。動く対象を追う緩徐相と、元に戻る急速相からなる。片眼でも誘発されるため両眼視機能ではない。乳幼児の視力の他覚的評価や、心因性視力障害の鑑別などに利用される。

両眼視機能の発達

両眼視機能は生後まもなくから発達し始め、生後1歳頃までにおおよその機能が得られ、5〜6歳頃に完成するとされる。この感受性期に斜視や強い不同視(左右の屈折度の差)があると、両眼視機能の発達が妨げられ、弱視や立体視の欠如を来しうる。斜視は両眼視機能異常の原因にもなり、結果として生じることもある。

両眼視機能の検査

・大型弱視鏡(シノプトフォア):同時視・融像・立体視を段階的に評価できる ・Bagolini(バゴリーニ)線条レンズ試験、Worth 4 dot test:同時視・融像や抑制の有無を評価 ・Titmus stereo test、TNO test:立体視(視差の閾値)を評価

単眼で評価できる主な視機能

視力(中心視力)、視野、色覚、光覚(暗順応など)、調節など。

POINT

・両眼視機能は、同時視 → 融像 → 立体視の3段階に分類される(Worthの分類) ・立体視は両眼視差を利用して奥行きを知覚する、両眼視機能の最高段階である ・視力、暗所視、調節、視運動眼振は片眼でも成立する単眼機能である ・両眼視機能は5〜6歳頃に完成し、斜視・不同視はその発達を妨げる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。