水疱の「天井」に抗体が光る―食塩水剝離皮膚で見抜く水疱性類天疱瘡
第106回医師国家試験 D問題 第51問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。全身の皮疹を主訴に来院した。3か月前から,特に誘因なく全身に痒みを伴う紅斑と水疱とが多発するようになったという。体幹と四肢とに紅斑と水疱とを認める。粘膜疹を認めない。皮膚生検の病理組織では表皮下水疱を認め,蛍光抗体直接法で表皮基底膜部にIgGとC3との線状沈着を認める。食塩水処理皮膚を用いた蛍光抗体間接法で表皮側にIgGの陽性反応を認める。両前腕屈側の写真を別に示す。 診断として最も考えられるのはどれか。

- a.疱疹状皮膚炎
- b.尋常性天疱瘡
- c.水疱性類天疱瘡
- d.後天性表皮水疱症
- e.家族性良性慢性天疱瘡
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
高齢者に痒みの強い浮腫性紅斑と緊満性水疱が多発し、粘膜疹が乏しい場合は水疱性類天疱瘡を考えます。表皮下水疱で、蛍光抗体直接法で基底膜部にIgG・C3の線状沈着があれば水疱性類天疱瘡か後天性表皮水疱症に絞られ、食塩水剝離皮膚を用いた間接法で表皮側に結合すればBP180・BP230を抗原とする水疱性類天疱瘡、真皮側ならⅦ型コラーゲンを抗原とする後天性表皮水疱症と区別できます。表皮内水疱と表皮細胞間沈着なら尋常性天疱瘡、真皮乳頭のIgA顆粒状沈着なら疱疹状皮膚炎、蛍光抗体法陰性で間擦部に棘融解を示す遺伝性疾患なら家族性良性慢性天疱瘡です。水疱性類天疱瘡ではDPP-4阻害薬の内服歴や神経疾患の合併にも注意が必要で、治療はステロイドを中心に重症度に応じて選びます。水疱の深さと抗原の局在を基底膜の構造と結びつけて理解することが、自己免疫性水疱症の鑑別全体の土台になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・60歳女性、3か月前から誘因なく全身に瘙痒を伴う紅斑と水疱が多発している(高齢発症・慢性経過・強い痒み)。 ・皮疹は体幹と四肢に分布し、口腔などの粘膜疹はない。 ・病理組織:表皮下水疱(表皮と真皮の境界より下で表皮全体が剝がれている)。 ・蛍光抗体直接法(DIF:患者の皮膚組織に沈着している免疫グロブリンや補体を直接染める検査):表皮基底膜部にIgGとC3が線状に沈着。 ・食塩水処理皮膚を用いた蛍光抗体間接法(1 mol/L食塩水で正常皮膚を処理して基底膜部の透明帯で人工的に裂隙を作り、そこに患者血清を反応させる検査):IgGが表皮側(水疱の天井側)に結合。 ・写真:前腕屈側に浮腫性紅斑と、その上や周囲に張りのある(緊満性の)水疱、びらんがみられる。
診断へのプロセス
1.紅斑上に水疱が多発しており、自己免疫性水疱症をまず考える。 2.水疱の位置で大きく二分する。表皮内水疱(棘融解)なら天疱瘡群、表皮下水疱なら類天疱瘡群・後天性表皮水疱症・疱疹状皮膚炎などが候補となる。本例は表皮下水疱である。 3.DIFの沈着パターンで絞り込む。基底膜部のIgG・C3線状沈着は、水疱性類天疱瘡と後天性表皮水疱症のどちらでもみられ、DIFだけでは両者を区別できない。真皮乳頭のIgA顆粒状沈着であれば疱疹状皮膚炎、表皮細胞間の網目状沈着であれば天疱瘡となるが、本例はいずれにも該当しない。 4.そこで食塩水剝離皮膚を用いた間接法で自己抗体の結合部位を確認する。裂隙は透明帯(lamina lucida)に生じるため、透明帯より上方の抗原(BP180、BP230)に対する抗体は表皮側に、透明帯より下方の係留線維を構成するⅦ型コラーゲンに対する抗体は真皮側に結合する。表皮側陽性であることから水疱性類天疱瘡と診断できる。 5.高齢発症、強い瘙痒、粘膜疹が乏しい、緊満性水疱という臨床像も水疱性類天疱瘡に典型的であり、検査所見と矛盾しない。
選択肢考察
- ×a. 疱疹状皮膚炎
Duhring疱疹状皮膚炎とも呼ばれる。表皮下水疱を形成する点は共通するが、DIFでは真皮乳頭部にIgAが顆粒状に沈着するのが特徴で、IgGとC3の基底膜部線状沈着とは一致しない。臨床的には肘・膝・臀部などの伸側に、強い痒みを伴う小水疱が環状・集簇性(疱疹状)に出現する。欧米ではグルテン過敏性腸症(セリアック病)との関連が知られ、対応抗原は表皮トランスグルタミナーゼである。日本では非常にまれで、腸症の合併も少ない。
- ×b. 尋常性天疱瘡
表皮細胞同士の接着を担うデスモグレイン3(粘膜優位型)またはデスモグレイン1と3(粘膜皮膚型)に対するIgG自己抗体によって、表皮細胞間の接着がはずれる(棘融解)疾患である。病理は基底層直上の表皮内水疱であり、DIFでは表皮細胞間にIgG・C3が網目状に沈着する。水疱は薄く破れやすい弛緩性水疱で、Nikolsky現象が陽性となり、ほとんどの症例で口腔粘膜のびらんを伴う。本例は表皮下水疱・基底膜部線状沈着・粘膜疹なしであり、いずれも合致しない。
- ○c. 水疱性類天疱瘡
基底膜部のヘミデスモソーム構成蛋白であるBP180(ⅩⅦ型コラーゲン)やBP230に対するIgG自己抗体が原因となる表皮下水疱症である。本例では、①表皮下水疱、②DIFで基底膜部にIgG・C3線状沈着、③食塩水剝離皮膚の間接法で表皮側にIgGが結合、という所見がそろい、抗原が透明帯より上方にある類天疱瘡群であることが示される。加えて、高齢発症、強い瘙痒、浮腫性紅斑上の緊満性水疱、粘膜疹が乏しいという臨床像も典型的である。確定には血清の抗BP180抗体(NC16a領域に対するELISA/CLEIA)の測定が有用である。
- ×d. 後天性表皮水疱症
基底膜の下(基底板直下)で係留線維を構成するⅦ型コラーゲンに対するIgG自己抗体による表皮下水疱症である。病理とDIF所見(表皮下水疱、基底膜部のIgG・C3線状沈着)は水疱性類天疱瘡と区別できないが、抗原が透明帯より下方に存在するため、食塩水剝離皮膚を用いた間接法では真皮側(水疱底側)にIgGが結合する。本例は表皮側陽性であり否定される。臨床的には外力を受けやすい手背・肘・膝などに水疱が生じ、瘢痕や稗粒腫を残しやすい点も特徴である。
- ×e. 家族性良性慢性天疱瘡
Hailey-Hailey病とも呼ばれ、ATP2C1遺伝子(ゴルジ体のカルシウムポンプをコードする)の異常による常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である。自己免疫性疾患ではないため、DIF・間接法ともに陰性である。腋窩・鼠径部・頸部などの間擦部に、水疱・びらん・痂皮が反復して生じ、夏季や摩擦で増悪する。病理では表皮内の広範な棘融解が「崩れかけたレンガ塀」様にみられる。発症は思春期以降が多く、本例のような表皮下水疱や基底膜部沈着はみられない。
自己免疫性水疱症の鑑別:DIFと食塩水剝離皮膚間接法
・尋常性天疱瘡/落葉状天疱瘡:表皮内水疱。DIFで表皮細胞間にIgG・C3(網目状)。抗原は尋常性がデスモグレイン3(±1)、落葉状がデスモグレイン1。 ・水疱性類天疱瘡:表皮下水疱。DIFで基底膜部にIgG・C3(線状)。食塩水剝離皮膚では表皮側。抗原BP180・BP230。 ・粘膜類天疱瘡:表皮下水疱。粘膜優位で瘢痕を残す。抗原BP180、ラミニン332など。 ・後天性表皮水疱症:表皮下水疱。DIFは水疱性類天疱瘡と同じだが、食塩水剝離皮膚では真皮側。抗原Ⅶ型コラーゲン。 ・線状IgA水疱性皮膚症:基底膜部にIgA(線状)。 ・疱疹状皮膚炎:真皮乳頭にIgA(顆粒状)。抗原は表皮トランスグルタミナーゼ。
水疱性類天疱瘡の概要
・自己免疫性水疱症の中で最も多く、主に70歳以上の高齢者に発症する。 ・浮腫性紅斑と緊満性水疱が体幹・四肢に多発し、痒みが強い。水疱は破れにくく、Nikolsky現象は通常陰性である。粘膜疹は少ない(1〜2割程度)。 ・病理では表皮下水疱と、水疱内や真皮に好酸球浸潤がみられる。血中好酸球増多や血清IgE上昇を伴うこともある。 ・DPP-4阻害薬(糖尿病治療薬)の内服に関連した発症が知られ、薬歴の確認が重要である。神経疾患(認知症、Parkinson病、脳血管障害など)の合併も多い。 ・治療:軽症では強力なステロイド外用やテトラサイクリン系抗菌薬とニコチン酸アミドの併用、中等症以上では副腎皮質ステロイドの内服が基本となる。難治例では免疫抑制薬、免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換療法などを用いる。
食塩水剝離皮膚の原理
正常ヒト皮膚を1 mol/L NaClで処理すると、基底膜の透明帯で表皮と真皮が分離する。BP180・BP230は透明帯より上方(ヘミデスモソーム)にあるため表皮側に、Ⅶ型コラーゲンは基底板より下方(係留線維)にあるため真皮側に抗体が結合する。
POINT
・表皮内水疱+表皮細胞間IgG沈着→天疱瘡、表皮下水疱+基底膜部IgG・C3線状沈着→水疱性類天疱瘡または後天性表皮水疱症。 ・両者の区別は食塩水剝離皮膚を用いた間接法で行う:表皮側陽性→水疱性類天疱瘡(BP180/BP230)、真皮側陽性→後天性表皮水疱症(Ⅶ型コラーゲン)。 ・真皮乳頭のIgA顆粒状沈着→疱疹状皮膚炎、基底膜部IgA線状沈着→線状IgA水疱性皮膚症。 ・水疱性類天疱瘡:高齢者、強い瘙痒、浮腫性紅斑上の緊満性水疱、粘膜疹は少ない、Nikolsky現象陰性、DPP-4阻害薬との関連。 ・家族性良性慢性天疱瘡(Hailey-Hailey病)は遺伝性疾患で、蛍光抗体法は陰性。
