カテーテルが入らない尿閉―尿道がダメなら「上から」膀胱へ
第106回医師国家試験 D問題 第39問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。胃癌に対する胃切除術のため入院中である。術後2日,深夜に尿道カテーテルを自己抜去し,尿道出血を認めた。意識は清明。身長163 cm,体重63 kg。脈拍96/分,整。血圧130/70 mmHg。下腹部は小児頭大に膨隆している。直腸指診で鶏卵大の前立腺を触知する。血液所見:赤血球377万,Hb 10.2 g/dL,Ht 33%,白血球10,200,血小板23万。血液生化学所見:尿素窒素22 mg/dL,クレアチニン1.4 mg/dL。腹部超音波検査では,膀胱は多量の尿で拡張し,前立腺は腫大していた。尿道カテーテルは再挿入できなかった。 対応として適切なのはどれか。
- a.輸液
- b.血液透析
- c.腎瘻造設
- d.膀胱瘻造設
- e.α1遮断薬の投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
尿閉を含む尿路閉塞では、原因にかかわらずまず閉塞を解除して尿を体外に出すことが最優先で、腎後性の腎機能障害は閉塞解除で改善が期待できるため、輸液や透析は優先されません。本例は前立腺肥大症を背景に、バルーンを膨らませたままのカテーテル自己抜去で尿道損傷をきたし、再挿入できない尿閉となっており、恥骨上から膀胱に直接管を入れる膀胱瘻造設が安全かつ確実な対応です。腎瘻は尿管など膀胱より上流の閉塞で尿が膀胱に届かない場合に用いる方法で、α1遮断薬は前立腺肥大症の薬物療法であって緊急処置にはなりません。損傷した尿道への無理な再挿入は偽尿道を作るため避け、抵抗があれば泌尿器科に相談します。「閉塞部位より上流から、最も低侵襲に尿を出す」という考え方は、尿路管理全般や術後管理で役立つ基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・78歳男性、胃癌で胃切除術後2日目。深夜に尿道カテーテルを自分で抜いてしまい、尿道から出血している。高齢者の全身麻酔後であり、術後せん妄による自己抜去と考えられる。 ・下腹部が小児頭大に膨らんでいる。超音波で膀胱は大量の尿で拡張しており、尿が出せない状態、すなわち尿閉である。 ・直腸指診で鶏卵大(正常はクルミ大、約20 mL)の前立腺を触れ、超音波でも前立腺が腫大している。前立腺肥大症が背景にある。 ・クレアチニン1.4 mg/dLと軽度上昇、尿素窒素22 mg/dLもやや高い。術前値は不明だが、尿閉による腎後性(閉塞性)の腎機能障害が始まっている可能性がある。 ・尿道カテーテルは再挿入できなかった。
診断と病態
尿道バルーンカテーテルは膀胱内でバルーン(カフ)を膨らませて固定しているため、膨らんだまま引き抜くと尿道、特に前立腺部尿道を傷つける。本例はこの尿道損傷に、もともとの前立腺肥大症による尿道の狭さが加わり、自排尿もカテーテル再挿入もできない尿閉となっている。
対応の考え方
尿路閉塞では、原因にかかわらずまず閉塞を解除して尿を体外に出すことが最優先である。通常は尿道カテーテルで対応するが、本例では挿入できない。損傷した尿道に無理に何度も挿入を試みると、正しい尿道から外れた偽尿道(false passage)を作り、損傷を悪化させて後の治療を難しくする。したがって、尿道を経由せず、下腹部(恥骨上)から直接膀胱に管を入れて尿を排出する経路を確保するのが、安全・確実・迅速な方法となる。膀胱が尿で十分に充満している本例は、恥骨上からの穿刺を安全に行いやすい条件でもある。
選択肢考察
- ×a. 輸液
腎臓では尿が作られており、問題は膀胱から尿を出す経路が閉じていることである(腎後性)。輸液で尿量を増やしても膀胱の拡張がさらに進むだけで、閉塞は解除されず腎機能低下も改善しない。脱水による腎前性の病態ではないため不適切である。
- ×b. 血液透析
クレアチニン1.4 mg/dLは軽度の上昇にとどまり、高カリウム血症・溢水・尿毒症症状など緊急透析の適応を示す所見はない。そもそも本例の腎機能障害は閉塞による腎後性のもので、閉塞を解除すれば改善が期待できる。まず行うべきは尿の排出であり、透析の適応はない。
- ×c. 腎瘻造設
腎瘻は、腎盂に背部から管を入れて尿を出す方法で、尿管結石や悪性腫瘍による尿管閉塞など、膀胱より上流(腎~尿管)の閉塞で尿が膀胱に届かない場合に用いる(尿管ステント留置が選ばれることもある)。本例では尿は膀胱まで達しており、閉塞部位は膀胱より下流の尿道である。膀胱から排出すれば足りるため腎瘻は不要であり、手技としても膀胱瘻より難しく侵襲が大きい。
- ○d. 膀胱瘻造設
膀胱瘻は恥骨のすぐ上から拡張した膀胱に直接カテーテルを刺入し、尿道を通らずに尿を排出する方法である。閉塞部位(尿道)より上流で尿を出せるうえ、損傷した尿道に器具を通さないので損傷を悪化させない。膀胱が尿で充満している本例では、超音波で確認のうえ正中恥骨上から穿刺すれば腸管損傷の危険も小さく、最も安全・確実・迅速に尿閉を解除できる。尿道損傷が治癒するまでの一時的な尿路確保としても有用である。
- ×e. α1遮断薬の投与
α1遮断薬(タムスロシン、シロドシン、ナフトピジルなど)は前立腺や膀胱頸部の平滑筋を緩めて尿の通過を良くする、前立腺肥大症の第一選択薬である。しかし効果発現には時間がかかり、すでに大量の尿がたまり、尿道損傷も伴う本例の緊急処置にはならない。尿道損傷が治って自排尿を目指す段階で試みる薬剤である。
尿閉と尿路変向
尿閉は膀胱に尿がたまっているのに排出できない状態で、急性尿閉では下腹部膨隆と強い尿意・痛みを伴う(せん妄や術後鎮痛下では訴えが乏しいこともある)。原因は前立腺肥大症、尿道狭窄、薬剤(抗コリン薬、感冒薬など)、神経因性膀胱、術後などである。対応はまず導尿・尿道カテーテル留置で、挿入できなければ膀胱穿刺・膀胱瘻造設を行う。 閉塞部位ごとの尿路確保の方法: ・尿道の閉塞(尿道損傷、前立腺肥大症、尿道狭窄)→ 尿道カテーテル、困難なら膀胱瘻 ・尿管の閉塞(結石、腫瘍、後腹膜線維症など)→ 尿管ステント、困難なら腎瘻
膀胱瘻・膀胱穿刺の要点
膀胱が十分に充満していることを超音波で確認し、恥骨上縁のすぐ上の正中から穿刺する。穿刺点が頭側に寄りすぎると腹膜や腸管を損傷する恐れがある。下腹部手術の既往があると腸管の癒着があり得るため特に注意する。緊急時の一時的な膀胱穿刺は救急処置として身につけておくべき手技である。大量の尿を一気に抜いた後の閉塞後利尿(多尿)や血尿にも注意する。
カテーテル自己抜去と尿道損傷
バルーンを膨らませたままの抜去では前立腺部尿道が裂け、出血する。再挿入は抵抗があれば無理をせず、泌尿器科医に相談する。泌尿器科では軟性膀胱尿道鏡で損傷部位と真の尿道を確認し、ガイドワイヤーを用いてカテーテルを留置する方法が推奨される。また、留置時にはカテーテル内への尿の流出を確認してからバルーンを膨らませ、尿道内でバルーンを膨らませる医原性損傷を防ぐ。
術後せん妄
高齢者の全身麻酔後は、夜間に意識障害(せん妄)を生じやすく、カテーテル・ドレーン・点滴の自己抜去の原因となる。身体抑制は安易に行わず、リスクとベネフィットを評価して対策する。
POINT
・尿路閉塞ではまず閉塞を解除して尿を出すことが最優先。輸液や透析ではない。 ・尿道カテーテルが入らない尿閉(尿道損傷、高度の前立腺肥大症など)→ 恥骨上から膀胱瘻(膀胱穿刺)。 ・腎瘻は膀胱より上流(尿管)の閉塞で尿が膀胱に届かないときに用いる。 ・損傷した尿道への無理な再挿入は偽尿道を作るため避ける。 ・α1遮断薬は前立腺肥大症の薬物療法であり、急性尿閉の緊急処置にはならない。
