「ダウン症の疑い」と告げられた両親に、最初にかける言葉は?―説明より先に「聴く」新生児医療面接
第106回医師国家試験 D問題 第22問
国試問題にチャレンジ
生後3日の新生児。在胎39週,2,980 gで出生した。心拍数108/分,整。呼吸数42/分。心音と呼吸音とに異常を認めない。内眼角贅皮,瞼裂斜上,小さい鼻根および巨舌を認める。筋緊張が低下している。両親は「Down症候群の疑いがあります」とだけ説明を受けている。 まず行うべき対応として適切なのはどれか。
- a.合併症について説明する。
- b.患者会の連絡先を伝える。
- c.両親の染色体検査を行う。
- d.両親が何を心配しているかを聞く。
- e.次回の妊娠時に出生前診断を行うよう勧める。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
内眼角贅皮、瞼裂斜上、鼻根部平坦、巨舌、筋緊張低下はDown症候群を強く疑わせる所見ですが、確定には児本人の染色体検査が必要で、「疑い」と告げられたばかりの両親は強い不安と混乱の中にあります。このとき最初に行うべきは、合併症や将来の話を一方的に伝えることではなく、両親が何を理解し何を心配しているのかを開かれた質問で聴き取ることです。合併症の説明や心エコーなどの評価、患者会の紹介、遺伝カウンセリングは、診断の確定と家族の受け止めに合わせて段階的に進め、両親の染色体検査は児が転座型と判明した場合に検討します。疾患の知識と、家族中心のコミュニケーションの原則を結びつけて考える力は、小児科に限らずあらゆる告知の場面で求められる基本姿勢です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・生後3日、在胎39週・2,980gの正期産・適正体重の新生児 ・内眼角贅皮(目頭を覆う皮膚のひだ)、瞼裂斜上(目尻がつり上がる)、小さい鼻根(鼻の付け根が低い)、巨舌、筋緊張低下 ・心音・呼吸音に異常なし これらはDown症候群(21トリソミー)に特徴的な顔貌と筋緊張低下であり、臨床的にDown症候群が強く疑われる。ただし確定診断には児の染色体検査(G分染法による核型分析)が必要で、現時点ではあくまで「疑い」の段階である。
設問の考え方
両親は「Down症候群の疑いがあります」という短い説明だけを受けた状態にある。出産直後で心身ともに不安定な時期に、わが子の病気の可能性を突然告げられた両親は、強い衝撃や不安、混乱、場合によっては自責の念を抱いていると考えられる。何をどこまで理解しているのか、何が一番気がかりなのかは両親ごとに異なる。 このような場面で医師がまず行うべきことは、情報を一方的に伝えることではなく、両親の受け止め方や心配を聴き取ること(傾聴)である。両親の理解度や気持ちを把握してはじめて、その後の説明(染色体検査の意義、合併症の評価、療育や支援体制など)を、両親が受け入れられる順序と量で進めることができる。 選択肢のうち、両親の側から医師へ思いを伝える機会をつくるのは d のみで、ほかは医師からの一方的な情報提供、あるいは疑いの段階では時期尚早な対応である。
選択肢考察
- ×a. 合併症について説明する。
Down症候群には先天性心疾患(約40~50%、房室中隔欠損症や心室中隔欠損症など)、十二指腸閉鎖などの消化管奇形、甲状腺機能低下症、一過性骨髄異常増殖症・白血病、難聴・眼疾患などの合併症があり、いずれ説明は必要である。しかし現時点では診断は確定しておらず、両親の心理状態や理解度も把握できていない。その段階で多数の合併症を並べて説明すると、両親の不安をさらに強めるおそれがあり、「まず」行う対応としては適切でない。なお合併症の評価(心エコー検査など)自体は、両親の同意を得たうえで早期に進める必要がある。
- ×b. 患者会の連絡先を伝える。
患者会や家族会は、同じ立場の家族から経験や情報を得られる貴重な支援資源であり、診断が確定し、両親が障害を受け止め始めた段階で紹介するのが望ましい。疑いの段階で、両親の気持ちを聴く前に紹介するのは、診断を既成事実として突きつけることにもなりかねず、最初の対応としては適切でない。
- ×c. 両親の染色体検査を行う。
まず必要なのは児本人の染色体検査による確定診断であり、それも両親への十分な説明と同意を得てから行う。Down症候群の約95%は標準型21トリソミー(主に卵子形成時の減数分裂での染色体不分離による突然変異)で、両親の染色体は通常正常である。両親の染色体検査が検討されるのは、児の核型が転座型(数%)と判明し、親が均衡型転座の保因者である可能性がある場合に限られる。児の診断もついていない段階で両親の検査を行うのは順序が逆である。
- ○d. 両親が何を心配しているかを聞く。
「Down症候群の疑い」とだけ告げられた両親は、強い不安や混乱の中にいると考えられる。まず両親が現状をどう理解し、何を一番心配しているのか(子どもの命にかかわるのか、発達や将来はどうなるのか、自分たちのせいではないか、など)を開かれた質問で聴き取ることで、両親の気持ちを受け止め、信頼関係を築くことができる。そのうえで、両親の理解度と心情に合わせて、確定診断のための染色体検査の意義、今後の見通しや支援について段階的に説明していくのが望ましい。医療面接の原則である「患者(家族)中心の対応」に沿った、最初に行うべき対応である。
- ×e. 次回の妊娠時に出生前診断を行うよう勧める。
児の診断が確定していない段階で、次の妊娠や出生前診断に言及するのは明らかに時期尚早である。目の前のわが子を受け入れようとしている両親に対し、生まれた児を否定するような印象を与えかねず、配慮を欠く。出生前診断は、本来、両親が希望した場合に遺伝カウンセリングの中で、再発率(標準型トリソミーでは母体年齢相応の再発率はおおむね1%程度とされ、親が転座保因者であれば高くなる)などの情報とともに検討されるべき事項であり、医師が一方的に勧めるものではない。
Down症候群(21トリソミー)の概要
・頻度:出生約600~700人に1人程度とされ、母体年齢の上昇とともに頻度が増加する。 ・核型:標準型トリソミー(約95%)、転座型(数%、ロバートソン転座が多い)、モザイク型(数%)。転座型では親が均衡型転座の保因者のことがあり、親の染色体検査と遺伝カウンセリングの対象となる。 ・新生児期の特徴:筋緊張低下、特徴的顔貌(内眼角贅皮、瞼裂斜上、鼻根部平坦、巨舌・舌の突出、小さな耳)、短頸と項部の皮膚のたるみ、手掌単一屈曲線(猿線)、第5指の短縮・内彎、第1・2趾間の開大(サンダルギャップ)。 ・主な合併症:先天性心疾患(房室中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症など)、消化管奇形(十二指腸閉鎖・狭窄、Hirschsprung病、鎖肛)、甲状腺機能低下症、一過性骨髄異常増殖症(TAM)・急性白血病、環軸椎不安定、難聴・中耳炎、白内障・屈折異常、成人期以降の早期のAlzheimer型認知症。 ・心音に異常がなくても心疾患は否定できないため、新生児期に心エコー検査を行う。
先天異常の告知と家族への対応の原則
・両親そろっての面談を、プライバシーの保たれた落ち着いた環境で、できるだけ早期に行う。 ・専門用語を避けて分かりやすく伝え、一度に多くを伝えすぎない。 ・まず両親の理解と気持ち、心配事を聴き、共感的に受け止める(傾聴)。 ・疑いの段階と確定診断とを区別し、確定には検査が必要であることを説明し同意を得る。 ・児の良い面や、医療・療育・福祉による支援があることも伝え、継続的に支える姿勢を示す。 ・診断確定後は、合併症の評価と管理、遺伝カウンセリング、療育、患者会・家族会など社会資源の紹介へと段階的に進める。
POINT
・内眼角贅皮、瞼裂斜上、鼻根部平坦、巨舌、筋緊張低下 → Down症候群を疑い、確定は児の染色体検査で行う。 ・病気の可能性を告げられた家族への最初の対応は、一方的な説明ではなく、家族の心配・理解を聴くこと(傾聴)。 ・合併症の説明、患者会の紹介、遺伝カウンセリング・出生前診断の話題は、家族の受け止めと診断確定の段階に応じて進める。 ・両親の染色体検査が必要になるのは、児が転座型と判明した場合。
