StudyMed医師国家試験

瞬きで患者会を率いる―ICFで読み解く「障害があっても参加できる」の意味

第106回医師国家試験 B問題 第62問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第62問

48歳の女性。28歳で筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉を発症し,35歳で人工呼吸器を装着した。眼瞼・眼球運動機能が残存しているため開閉眼で意思疎通を行うことができ,コンピュータやインターネットを駆使して地域の患者会の会長をしている。  国際生活機能分類〈ICF〉によるこの患者の評価で正しいのはどれか。 機能障害 活動制限 参加制約 a あり あり あり b あり あり なし c あり なし なし d なし あり なし e なし なし あり f なし なし なし

  1. a.ありありあり
  2. b.ありありなし
  3. c.ありなしなし
  4. d.なしありなし
  5. e.なしなしあり
  6. f.なしなしなし

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は国際生活機能分類、ICFの枠組みで患者さんを評価する問題だ。ポイントは「機能障害」「活動制限」「参加制約」の3つを混同せず、症例の記載に沿って一つずつ判定すること。まずICFの3つのレベルを確認しよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、心身機能・身体構造、活動、参加の3つと習いました。でも活動と参加の違いがいまいちはっきりしません。
ドクタードクター
そこが一番の山場だね。活動は個人が行う行為、たとえば歩く、食べる、話す、書くといったこと。参加は家庭や地域、職場など社会の中で役割を果たすこと。それぞれに問題が生じた状態が、活動制限、参加制約と呼ばれる。そして心身機能・身体構造の問題が機能障害だ。
医学生医学生
まず機能障害ですが、ALSで人工呼吸器を使っているので、これは「あり」ですよね。
ドクタードクター
その通り。ALSは上位・下位運動ニューロンが変性する病気で、この方は四肢麻痺、球麻痺による発話・嚥下障害、そして呼吸筋麻痺がある。眼球運動以外でほとんど意思表示ができないのだから、心身機能レベルの障害は明らかだ。
医学生医学生
神経内科の実習で、ALSは眼球運動が最後まで保たれやすいと教わりました。だから開閉眼で意思疎通できるんですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡が目立ちにくい、いわゆる陰性徴候だ。進行期には視線入力や瞬きを使った意思伝達装置が活躍する。では活動制限はどうだろう。
医学生医学生
コンピュータを駆使して活躍しているので、活動制限は「なし」と考えてもいい気がします。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。この方は自力で移動する、声で会話する、手で字を書く、食事をするといった個人レベルの行為ができない。機器で代わりに補えていることと、活動制限が存在しないことは別なんだ。むしろコンピュータがないと社会とつながれないこと自体が、個々の行為に制限があることを示している。
医学生医学生
なるほど、機器で代替しているから「制限がない」わけではないんですね。では、患者会の会長をしている点は参加の評価にどう効いてきますか。
ドクタードクター
地域の患者会の会長という社会的な役割を実際に担っているよね。社会の中で役割を果たしている以上、参加制約は「なし」と評価できる。だから正解は、機能障害あり、活動制限あり、参加制約なしの組み合わせだ。
医学生医学生
全部「あり」にしてしまうと、患者会での活躍を見落とすことになりますね。
ドクタードクター
そう。重い病気だから全部ありと決めつけるのも、機器を使えているから活動制限なしとするのも、どちらもICFの考え方からずれてしまう。もちろん機能障害を「なし」とする選択肢は論外だね。
医学生医学生
機能障害も活動制限もあるのに参加ができているのは、何がそれを可能にしているんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。それがICFの核心で、背景因子の一つである環境因子の働きなんだ。人工呼吸器、意思伝達装置、コンピュータ、インターネット、介護体制といった環境が、重い機能障害や活動制限があっても社会参加を可能にしている。ICFでは各要素が双方向に影響し合うと考えるんだ。
医学生医学生
前身の国際障害分類とはそこが違うんですよね。CBTの勉強で出てきました。
ドクタードクター
そう、1980年の国際障害分類、ICIDHは、機能障害から能力障害、社会的不利へと一方向に進むモデルで、マイナス面に注目していた。2001年に採択されたICFは、生活機能というプラス面も含めて人の全体像をとらえ、環境因子と個人因子を加えた相互作用モデルになった。
医学生医学生
車椅子の人でも、駅にエレベーターがあれば通勤できる、というのも同じ考え方ですね。
ドクタードクター
まさにその例が典型だ。臨床やリハビリの現場では、治らない機能障害があっても、環境を整えることで活動や参加を広げられる。医師としてはその視点を持って、制度やサービス、支援機器につなぐことが大切なんだ。

まとめ

ICFでは生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3レベルでとらえ、それぞれの問題を「機能障害」「活動制限」「参加制約」と呼びます。人工呼吸器を要するALS患者では運動・呼吸機能が失われて機能障害があり、移動・発話・筆記など個人の行為ができないため活動制限もありますが、支援機器を活用して患者会の会長という社会的役割を担っているため参加制約はないと評価します。機器による代替は活動制限が消えたことを意味せず、環境因子が参加を可能にしているととらえるのがポイントです。一方向モデルだったICIDHに対し、ICFは環境因子・個人因子を含む双方向の相互作用モデルであり、この考え方は障害をもつ患者さんの生活支援やリハビリテーションを考えるうえでの基盤となります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

患者は28歳で筋萎縮性側索硬化症〈ALS:amyotrophic lateral sclerosis〉を発症し、発症から約20年が経過した48歳の女性である。35歳からは人工呼吸器を装着しており、残っている運動機能は眼瞼と眼球の動きのみで、開閉眼によって意思を伝えている。一方で、コンピュータやインターネットを使いこなし、地域の患者会の会長という社会的役割を果たしている。

ICFの3つの生活機能レベルに当てはめる

国際生活機能分類〈ICF〉では、生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3レベルでとらえ、それぞれに問題が生じた状態を「機能障害」「活動制限」「参加制約」と呼ぶ。本問は、この3つを症例の記載に沿って一つずつ判定させる問題である。 ・心身機能・身体構造(→機能障害):ALSにより上位・下位運動ニューロンが変性し、四肢の筋力低下、球麻痺による発話・嚥下の障害、呼吸筋麻痺が生じている。人工呼吸器なしでは呼吸を維持できず、眼球運動以外で意思表示ができないのだから、機能障害は明らかに「あり」である。 ・活動(→活動制限):活動とは個人が行う課題や行為(歩く、食べる、話す、書く、身の回りのことをする等)である。この患者は自力で移動・食事・会話・筆記などを行えず、日常生活の多くの行為に介助や機器を要する。コンピュータで補っているとはいえ、個人レベルの行為の遂行には明らかな困難があり、活動制限は「あり」と判断する。 ・参加(→参加制約):参加とは生活・人生場面への関わり(家庭・地域・職業・社会での役割)である。この患者は支援機器を用いて地域の患者会の会長という社会的役割を実際に担っており、社会参加は実現している。したがって参加制約は「なし」と判断する。

考え方のポイント

症例文の情報は限られており、厳密な評価には本人の生活全体の情報が必要であるが、試験では記載されている事実から判断する。ICFでは、機能障害や活動制限があっても、環境因子(コンピュータ、インターネット、人工呼吸器、介護者などの支援)によって参加が可能になりうるという相互作用の考え方が重要であり、本症例はまさにその典型である。よって「機能障害あり・活動制限あり・参加制約なし」の組合せが正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  ありありあり

    機能障害と活動制限が「あり」である点は正しいが、参加制約を「あり」とした点が誤りである。この患者はコンピュータとインターネットを活用して地域の患者会の会長を務めており、地域社会の中で役割を担っている。参加のレベルでは制約が克服されていると判断できる。

  2. ○b.  ありありなし

    ALSによる四肢・球・呼吸筋の麻痺があり、人工呼吸器と開閉眼による意思疎通に頼っていることから機能障害は存在する。自力での移動、食事、発話、筆記など個人の行為の多くが困難であるため活動制限も存在する。しかし、支援機器という環境因子を活用して患者会の会長という社会的役割を果たしており、参加制約はないと評価できる。3つの判定がすべて症例と合致する。

  3. ×c.  ありなしなし

    活動制限を「なし」とした点が誤りである。この患者は会合の場へ自力で移動する、声で会話する、電話をかける、手で文字を書く、食事や身の回りのことを自分で行う、といった個人レベルの行為ができない。コンピュータやインターネットを使わなければ社会とつながれないこと自体が、個々の活動に制限があることを示している。機器で代替できることと、活動制限が存在しないことは別である。

  4. ×d.  なしありなし

    機能障害を「なし」とした点が誤りである。発症後約20年のALSで、呼吸筋麻痺のため人工呼吸器を必要とし、眼瞼・眼球運動以外の随意運動がほぼ失われている。これは心身機能レベルの重大な障害であり、機能障害は明らかに存在する。

  5. ×e.  なしなしあり

    3項目すべてで判定が逆になっている。ALSによる運動機能・呼吸機能の喪失があるため機能障害は「あり」、自力での移動や発話などができないため活動制限も「あり」である。一方、患者会の会長として社会的役割を担っているため参加制約は「なし」である。

  6. ×f.  なしなしなし

    機能障害と活動制限を「なし」とした点が誤りである。人工呼吸器を要する呼吸筋麻痺や四肢麻痺という機能障害があり、日常生活の多くの行為を自力で行えないという活動制限も存在する。参加制約が「なし」である点のみ正しい。

ICF(国際生活機能分類)の概要

ICF〈International Classification of Functioning, Disability and Health〉は、2001年にWHO(世界保健機関)総会で採択された分類である。前身は1980年にWHOが発表した国際障害分類〈ICIDH:International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps〉である。

ICIDHとICFの違い

・ICIDH:疾病・変調 → 機能障害〈impairment〉 → 能力障害〈disability〉 → 社会的不利〈handicap〉という一方向の因果関係で障害をとらえた。障害というマイナス面に着目した「医学モデル」寄りの分類であった。 ・ICF:人が生きることの全体像を「生活機能」としてとらえ、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3レベルに分けた。それぞれに問題が生じた状態が「機能障害」「活動制限」「参加制約」であり、これらを総称して「障害」とよぶ。各要素は双方向に影響し合うと考え、プラス面(できること)にも注目する。さらに背景因子として「環境因子」(物的環境、人的環境、制度・サービス、社会の意識など)と「個人因子」(年齢、性別、生活歴、価値観など)を加え、健康状態とも相互に作用するモデルとした。

3つのレベルの具体例

・心身機能・身体構造:筋力、関節可動域、呼吸機能、視覚、認知機能、臓器・四肢の構造など。 ・活動:歩行、食事、更衣、排泄、会話、読み書き、家事などの個人が行う行為。 ・参加:就労、家庭内の役割、地域活動、趣味・余暇活動、政治参加など社会の中での役割。

環境因子の重要性

例えば車椅子利用者でも、駅にエレベーターがあり駅員の手助けがあれば通勤・就労が可能になる。本症例でも、人工呼吸器、意思伝達装置、コンピュータ、インターネット、介護体制という環境因子が、重度の機能障害・活動制限があっても社会参加を可能にしている。

ALSについて

ALSは上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが選択的かつ進行性に変性する神経変性疾患である。四肢の筋萎縮・筋力低下、球麻痺(構音障害・嚥下障害)、呼吸筋麻痺が進行する。一般に感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡は目立ちにくく(陰性徴候)、眼球運動が比較的最後まで保たれることから、進行期には視線入力や瞬きを利用した意思伝達装置が用いられる。人工呼吸器を装着しない場合、発症から死亡または呼吸器装着までの期間はおおむね2〜5年とされるが、気管切開下陽圧換気により長期生存が可能となる。

POINT

・ICFの生活機能は「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3レベルで、それぞれの問題が「機能障害」「活動制限」「参加制約」。 ・活動=個人が行う行為(歩く・話す・書く・食べる)、参加=社会の中での役割(仕事・地域活動)と区別する。 ・ICFは要素間の相互作用と環境因子・個人因子を重視する。重い機能障害や活動制限があっても、環境の整備で参加制約が解消されうる。 ・前身のICIDH(1980年)は機能障害→能力障害→社会的不利の一方向モデル、ICF(2001年)は双方向モデル。 ・ALSでは眼球運動が比較的保たれ、意思伝達手段として活用される。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。