StudyMed医師国家試験

消えた右心縁が教える病変の住所―シルエットサインで正面像とCTをつなぐ

第106回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第6問

胸部エックス線写真(A)と胸部単純CT(B)とを別に示す。  胸部エックス線写真上の異常陰影と一致した病変が認められる胸部単純CTはどれか。

第106回 B問題 第6問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸部エックス線の正面像で見えた異常陰影が、CTのどの断面の病変に当たるかを照合する読影問題だ。正面像は前後方向の情報がすべて重なった「影絵」だから、左右と高さだけでなく、前後のどこにあるかをどう推定するかがカギになる。まず、正面像の陰影はどこにあって、周囲の輪郭はどうなっているかな。
医学生医学生
右の中〜下肺野の縦隔寄り、心臓の右側に淡い陰影があります。心臓の右縁がなんとなくぼやけて見えます。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。その「心臓の右縁がぼやける」がこの問題の核心だ。正面像で心陰影の右縁の下の方をつくっているのは何だったか覚えているかな。
医学生医学生
右第2弓ですよね。解剖学の講義で、右第1弓が上大静脈、右第2弓が右心房と習いました。
ドクタードクター
その通り。では、なぜ右心房の輪郭が消えるのか。ここで使うのがシルエットサインだ。水と同じくらいの濃度、つまり軟部組織濃度の構造が2つ直接接すると、間に空気がなくなって境界線が見えなくなる。逆に、間に含気した肺があれば輪郭は保たれる。
医学生医学生
ということは、病変が右心房に直接くっついている、ということですか。
ドクタードクター
そう。そして右心房に接している肺は、右中葉の内側区、S5だ。つまりこの病変は、右肺の前方かつ縦隔側にあると推定できる。正面像1枚から前後方向の情報が引き出せるわけだね。
医学生医学生
なるほど。でも心臓に重なって見える陰影なら、背中側の下葉の病変でも同じように見えませんか。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。下葉の背側の病変は、正面像では心陰影に重なって見えることがある。でも心臓とは前後に離れていて間に肺があるから、心臓の輪郭は保たれる。これをシルエットサイン陰性という。重なっているのに輪郭が見えている、というのが背側病変のサインなんだ。
医学生医学生
重なり方ではなく、輪郭が消えているかどうかで前後を判断するんですね。
ドクタードクター
そういうこと。では、CTを選ぶ条件を整理しよう。右肺にあること、心陰影の右縁の高さに相当するスライスであること、そして右心房に直接接していること。この3つを満たすCTを探すんだ。その前に、CTの向きは大丈夫かな。
医学生医学生
CBTの前に何度も確認しました。足側から見上げた向きなので、画像の左側が患者の右、上側が腹側です。
ドクタードクター
完璧だ。スライスの高さは、気管が丸く見える肺尖部付近、気管分岐部から肺門、そして心臓という順に下がっていく。これを目安に各CTを見ていこう。まず、気管分岐部から肺門上部の高さで、右上葉の前方、胸壁寄りに腫瘤があるCTはどうかな。
医学生医学生
右肺ですけど、まだ心臓が写っていない高さですね。これだと正面像では右上〜中肺野に見えそうです。
ドクタードクター
その通り。前上葉区のS3付近の病変で、心陰影からは離れているから右第2弓は保たれるはずだ。次に、肺尖部付近の高さで右上葉の背側にスピキュラを伴う結節があるCT。これも高さが全く違うし、心臓にも接していないので合わない。
医学生医学生
左肺の背側、下行大動脈の近くに腫瘤があるCTは、そもそも左右が違うので外れますね。
ドクタードクター
そう。ちなみにあの位置の病変は、正面像では心陰影に重なっても左第4弓、つまり左心室の輪郭は消えない。一方で下行大動脈の輪郭や横隔膜の後部とはシルエットサインを起こしうる。さっきのシルエットサイン陰性の典型例だね。
医学生医学生
残るのは心臓の高さの2枚です。右肺の外側、胸壁寄りに腫瘤があるCTと、右前方の縦隔側で心臓の右縁に接しているCTがあります。同じ中葉なので迷いました。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだ。胸壁寄りの病変は中葉外側区S4付近で、心臓との間に含気した肺がある。だから正面像では右中肺野の外側の結節影になり、右第2弓は保たれる。同じ中葉でも、右心房に接するのは内側区S5だけなんだ。
医学生医学生
ということは、正解は心臓の右縁に直接接している腫瘤のCTですね。左右も高さも接する構造もすべて一致します。
ドクタードクター
正解。腫瘤も心臓も軟部組織濃度で、間に肺がないから右第2弓の輪郭が消える。正面像の所見とぴったり合うね。最後に発展として、他の輪郭とその消失が示す区域も押さえておこう。左第4弓、つまり左心室の輪郭が消えれば左上葉の舌区、横隔膜の輪郭が消えれば下葉の底区、右第1弓の上大静脈なら右上葉の縦隔側を考える。
医学生医学生
臨床実習で呼吸器内科を回ったとき、中葉の肺炎で右心縁が消えていると指導医の先生に教わりました。下葉の肺炎なら横隔膜が消えるんですね。
ドクタードクター
そうだね。実臨床では、正面像でまず輪郭の消失を探し、病変の葉や区域を推定してから側面像やCTで確認する、という流れが基本だ。シルエットサインを知っていると、正面像1枚から得られる情報量がぐっと増えるよ。

まとめ

胸部エックス線正面像は前後方向の情報が重なった画像ですが、シルエットサインを用いると病変の前後位置を推定できます。軟部組織濃度の病変が心臓・大血管・横隔膜に直接接するとその輪郭が消え、右第2弓(右心房)の消失は右中葉内側区(S5)の病変を示唆します。心陰影に重なっていても輪郭が保たれていれば、病変は下葉背側など心臓から離れた位置にあると考えられます。正面像とCTの対応は「左右」「高さ」「接している構造」の3点で照合し、同じ中葉でも外側区S4の病変は心縁を消さない点に注意が必要です。左第4弓消失なら舌区、横隔膜消失なら下葉底区といった対応を身につけることは、肺炎や無気肺、腫瘍の局在診断に日常的に役立ちます。

解答・解説

正解はbです

胸部エックス線写真(正面像)で見えた異常陰影が、胸部CTのどの断面の病変に当たるかを判断する読影問題である。正面像は前後方向の情報が重なった「影絵」であるため、左右・上下の位置に加えて、シルエットサインを使って前後方向(どの構造に接しているか)を推定することが解答の鍵になる。

胸部エックス線写真(A)の読影

・異常陰影は右中〜下肺野の縦隔寄り、心臓の右縁のすぐ外側に淡い濃度上昇域として見える。 ・この部分では、右第2弓(右心房がつくる心陰影の右縁)の輪郭がぼやけて追えなくなっている。すなわちシルエットサイン陽性である。

シルエットサインからの位置推定

シルエットサインとは、水と同じくらいの濃度(軟部組織濃度)をもつ二つの構造が直接接していると、両者の間に空気がなくなるため境界線(輪郭)が消えてしまう現象である。心臓の右縁(右第2弓=右心房)に直接接している肺は、右中葉の内側区(S5)である。したがって、右第2弓が消えている本症例の病変は、右肺の前方・縦隔側にあって右心房に接していると考えられる。逆に、下葉(背側)の病変は心臓とは前後に離れているため、正面像で心陰影に重なって見えても心臓の輪郭は保たれる(シルエットサイン陰性)。

CTを選ぶ手順

①右肺にあること、②エックス線写真の高さ(心陰影の右縁の高さ)に相当するスライスであること、③右心房(心臓の右縁)に直接接していること、の3条件を満たすCTを探す。これらをすべて満たすのは②である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    誤り。右肺の病変ではあるが、スライスは気管分岐部から肺門の上部にかけての高さで、心臓はまだ描出されていない。腫瘤は右上葉の前方寄り(前上葉区S3付近)で胸壁側にあり、心陰影には接していない。この病変であれば、正面像では右上〜中肺野に心陰影から離れた結節影として見え、右第2弓は保たれるはずであり、Aの所見と合わない。

  2. ○b.  ②

    正しい。心臓が大きく描出される高さのスライスで、右肺の前方・縦隔側(右中葉の内側区S5)に腫瘤があり、心臓の右縁(右心房)に直接接している。心臓と腫瘤がともに軟部組織濃度で、両者の間に含気した肺が介在しないため、正面像では右第2弓の輪郭が消える(シルエットサイン陽性)。病変の左右(右)、高さ(心陰影の右縁の高さ)、接する構造(右心房)がすべてAの異常陰影と一致する。

  3. ×c.  ③

    誤り。腫瘤は左肺の背側、下行大動脈の近くにある(左下葉の後方の区域、S9〜S10付近)。まず左右が異なるためAの右側の陰影とは一致しない。なお、このような左下葉背側の病変は正面像では心陰影に重なるが、心臓の左縁(左第4弓)とは前後に離れているため輪郭は消えない。一方、下行大動脈の輪郭や横隔膜の後部とはシルエットサインを起こしうる。

  4. ×d.  ④

    誤り。右肺の病変であるが、腫瘤は右肺の外側(胸壁寄り)にあり、心臓・縦隔とは含気した肺を隔てて離れている(右中葉の外側区S4付近)。正面像では右中肺野の外側に結節影として見え、心陰影の右縁(右第2弓)の輪郭は保たれるはずである。Aでは陰影が心臓の右縁に接して輪郭を消しているので一致しない。同じ中葉でも、心臓に接するのは内側区S5であり、外側区S4ではない点が鑑別のポイントである。

  5. ×e.  ⑤

    誤り。スライスは気管が円形に描出される高さ(大動脈弓より上方の肺尖部付近)であり、腫瘤は右上葉の背側(後上葉区S2)にある。辺縁に棘状の突起(スピキュラ)を伴う結節で、正面像では右上肺野に見えるはずである。高さが異なり、心陰影にも接していないため、Aの所見とは一致しない。

胸部エックス線正面像の縦隔・心陰影の輪郭

・右第1弓:上大静脈(高齢者では上行大動脈も関与) ・右第2弓:右心房 ・左第1弓:大動脈弓(大動脈球部) ・左第2弓:肺動脈幹 ・左第3弓:左心耳 ・左第4弓:左心室

シルエットサインと接する肺区域

・右第2弓(右心房)の消失:右中葉内側区(S5)の病変 ・右第1弓(上大静脈)の消失:右上葉前上葉区(S3)の縦隔側など ・左第4弓(左心室)の消失:左上葉舌区(S4、S5、特にS5)の病変 ・左第1弓(大動脈弓)の消失:左上葉肺尖後区(S1+2)の縦隔側など ・横隔膜の輪郭の消失:下葉底区の病変 ・下行大動脈の輪郭の消失:左下葉の後方(S6、S10など)の病変

シルエットサインの応用

正面像で心陰影に重なる陰影でも、心臓の輪郭が保たれていれば(シルエットサイン陰性)、病変は心臓とは前後に離れた位置(多くは下葉の背側)にあると判断できる。同様に、中葉の無気肺・肺炎では右第2弓が消え、下葉の肺炎では右横隔膜の輪郭が消える、といった形で、正面像1枚から病変の葉・区域をある程度推定できる。確定には側面像やCTが役立つ。

CTの見方の基本

胸部CTの横断像は、患者を足側から見上げた向きで表示される。画像の左側が患者の右、画像の上側が腹側(前方)である。スライスの高さは、気管(肺尖部付近)→気管分岐部・肺門→心臓の順に下がっていくことを目安に判断する。

POINT

・シルエットサイン:軟部組織濃度の病変が心臓・大血管・横隔膜に直接接すると、その輪郭が消える。 ・右第2弓は右心房であり、その輪郭が消えれば右中葉内側区(S5)の病変を考える。 ・左第4弓(左心室)の輪郭が消えれば左舌区の病変を考える。 ・心陰影に重なっても輪郭が保たれていれば(シルエットサイン陰性)、病変は心臓から離れた背側(下葉など)にある。 ・正面像とCTの対応は「左右」「高さ」「接している構造」の3点で照合する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。