消えた右心縁が教える病変の住所―シルエットサインで正面像とCTをつなぐ
第106回医師国家試験 B問題 第6問
国試問題にチャレンジ
胸部エックス線写真(A)と胸部単純CT(B)とを別に示す。 胸部エックス線写真上の異常陰影と一致した病変が認められる胸部単純CTはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胸部エックス線正面像は前後方向の情報が重なった画像ですが、シルエットサインを用いると病変の前後位置を推定できます。軟部組織濃度の病変が心臓・大血管・横隔膜に直接接するとその輪郭が消え、右第2弓(右心房)の消失は右中葉内側区(S5)の病変を示唆します。心陰影に重なっていても輪郭が保たれていれば、病変は下葉背側など心臓から離れた位置にあると考えられます。正面像とCTの対応は「左右」「高さ」「接している構造」の3点で照合し、同じ中葉でも外側区S4の病変は心縁を消さない点に注意が必要です。左第4弓消失なら舌区、横隔膜消失なら下葉底区といった対応を身につけることは、肺炎や無気肺、腫瘍の局在診断に日常的に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
胸部エックス線写真(正面像)で見えた異常陰影が、胸部CTのどの断面の病変に当たるかを判断する読影問題である。正面像は前後方向の情報が重なった「影絵」であるため、左右・上下の位置に加えて、シルエットサインを使って前後方向(どの構造に接しているか)を推定することが解答の鍵になる。
胸部エックス線写真(A)の読影
・異常陰影は右中〜下肺野の縦隔寄り、心臓の右縁のすぐ外側に淡い濃度上昇域として見える。 ・この部分では、右第2弓(右心房がつくる心陰影の右縁)の輪郭がぼやけて追えなくなっている。すなわちシルエットサイン陽性である。
シルエットサインからの位置推定
シルエットサインとは、水と同じくらいの濃度(軟部組織濃度)をもつ二つの構造が直接接していると、両者の間に空気がなくなるため境界線(輪郭)が消えてしまう現象である。心臓の右縁(右第2弓=右心房)に直接接している肺は、右中葉の内側区(S5)である。したがって、右第2弓が消えている本症例の病変は、右肺の前方・縦隔側にあって右心房に接していると考えられる。逆に、下葉(背側)の病変は心臓とは前後に離れているため、正面像で心陰影に重なって見えても心臓の輪郭は保たれる(シルエットサイン陰性)。
CTを選ぶ手順
①右肺にあること、②エックス線写真の高さ(心陰影の右縁の高さ)に相当するスライスであること、③右心房(心臓の右縁)に直接接していること、の3条件を満たすCTを探す。これらをすべて満たすのは②である。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。右肺の病変ではあるが、スライスは気管分岐部から肺門の上部にかけての高さで、心臓はまだ描出されていない。腫瘤は右上葉の前方寄り(前上葉区S3付近)で胸壁側にあり、心陰影には接していない。この病変であれば、正面像では右上〜中肺野に心陰影から離れた結節影として見え、右第2弓は保たれるはずであり、Aの所見と合わない。
- ○b. ②
正しい。心臓が大きく描出される高さのスライスで、右肺の前方・縦隔側(右中葉の内側区S5)に腫瘤があり、心臓の右縁(右心房)に直接接している。心臓と腫瘤がともに軟部組織濃度で、両者の間に含気した肺が介在しないため、正面像では右第2弓の輪郭が消える(シルエットサイン陽性)。病変の左右(右)、高さ(心陰影の右縁の高さ)、接する構造(右心房)がすべてAの異常陰影と一致する。
- ×c. ③
誤り。腫瘤は左肺の背側、下行大動脈の近くにある(左下葉の後方の区域、S9〜S10付近)。まず左右が異なるためAの右側の陰影とは一致しない。なお、このような左下葉背側の病変は正面像では心陰影に重なるが、心臓の左縁(左第4弓)とは前後に離れているため輪郭は消えない。一方、下行大動脈の輪郭や横隔膜の後部とはシルエットサインを起こしうる。
- ×d. ④
誤り。右肺の病変であるが、腫瘤は右肺の外側(胸壁寄り)にあり、心臓・縦隔とは含気した肺を隔てて離れている(右中葉の外側区S4付近)。正面像では右中肺野の外側に結節影として見え、心陰影の右縁(右第2弓)の輪郭は保たれるはずである。Aでは陰影が心臓の右縁に接して輪郭を消しているので一致しない。同じ中葉でも、心臓に接するのは内側区S5であり、外側区S4ではない点が鑑別のポイントである。
- ×e. ⑤
誤り。スライスは気管が円形に描出される高さ(大動脈弓より上方の肺尖部付近)であり、腫瘤は右上葉の背側(後上葉区S2)にある。辺縁に棘状の突起(スピキュラ)を伴う結節で、正面像では右上肺野に見えるはずである。高さが異なり、心陰影にも接していないため、Aの所見とは一致しない。
胸部エックス線正面像の縦隔・心陰影の輪郭
・右第1弓:上大静脈(高齢者では上行大動脈も関与) ・右第2弓:右心房 ・左第1弓:大動脈弓(大動脈球部) ・左第2弓:肺動脈幹 ・左第3弓:左心耳 ・左第4弓:左心室
シルエットサインと接する肺区域
・右第2弓(右心房)の消失:右中葉内側区(S5)の病変 ・右第1弓(上大静脈)の消失:右上葉前上葉区(S3)の縦隔側など ・左第4弓(左心室)の消失:左上葉舌区(S4、S5、特にS5)の病変 ・左第1弓(大動脈弓)の消失:左上葉肺尖後区(S1+2)の縦隔側など ・横隔膜の輪郭の消失:下葉底区の病変 ・下行大動脈の輪郭の消失:左下葉の後方(S6、S10など)の病変
シルエットサインの応用
正面像で心陰影に重なる陰影でも、心臓の輪郭が保たれていれば(シルエットサイン陰性)、病変は心臓とは前後に離れた位置(多くは下葉の背側)にあると判断できる。同様に、中葉の無気肺・肺炎では右第2弓が消え、下葉の肺炎では右横隔膜の輪郭が消える、といった形で、正面像1枚から病変の葉・区域をある程度推定できる。確定には側面像やCTが役立つ。
CTの見方の基本
胸部CTの横断像は、患者を足側から見上げた向きで表示される。画像の左側が患者の右、画像の上側が腹側(前方)である。スライスの高さは、気管(肺尖部付近)→気管分岐部・肺門→心臓の順に下がっていくことを目安に判断する。
POINT
・シルエットサイン:軟部組織濃度の病変が心臓・大血管・横隔膜に直接接すると、その輪郭が消える。 ・右第2弓は右心房であり、その輪郭が消えれば右中葉内側区(S5)の病変を考える。 ・左第4弓(左心室)の輪郭が消えれば左舌区の病変を考える。 ・心陰影に重なっても輪郭が保たれていれば(シルエットサイン陰性)、病変は心臓から離れた背側(下葉など)にある。 ・正面像とCTの対応は「左右」「高さ」「接している構造」の3点で照合する。
