インコが死んだ1週間後の高熱―鳥が教える肺炎の正体と「効く抗菌薬」の選び方
第106回医師国家試験 A問題 第51問
国試問題にチャレンジ
54歳の女性。咳嗽と発熱とを主訴に来院した。2日前から38.5℃の発熱と咳嗽とがあり,市販の総合感冒薬で様子をみていたが改善しなかった。高熱が持続し,咳嗽が増強してきたため受診した。喀痰を認めない。既往歴と家族歴とに特記すべきことはない。2年前から室内でインコを飼っていたが,1週前に死んだという。意識は清明。体温38.7℃。脈拍88/分,整。血圧122/76 mmHg。呼吸数20/分。SpO2 96%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。白血球7,300(桿状核好中球20%,分葉核好中球55%,好酸球2%,好塩基球1%,単球5%,リンパ球17%)。CRP 15 mg/dL。胸部エックス線写真を別に示す。 この疾患に有効な抗菌薬はどれか。

- a.セフェム系
- b.ペニシリン系
- c.マクロライド系
- d.アミノ配糖体系
- e.カルバペネム系
対話形式の解説
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医学生まとめ
鳥類との接触歴があり、高熱・乾性咳嗽・聴診所見に乏しい・白血球増多がないといった非定型肺炎の特徴をもつ肺炎では、Chlamydia psittaci によるオウム病を考えます。クラミジアは偏性細胞内寄生菌で典型的な細胞壁を持たないため、細胞壁合成阻害薬であるβ-ラクタム系(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)は無効で、細胞内移行性の乏しいアミノ配糖体系も効果がありません。治療の第一選択はテトラサイクリン系で、マクロライド系やニューキノロン系も有効です。オウム病は4類感染症として直ちに届け出が必要で、確定診断にはペア血清や PCR を用います。非定型肺炎では曝露歴の問診が原因推定の鍵となり、病原体の性質と抗菌薬の作用機序を結びつけて理解することが適切な抗菌薬選択の基盤になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・54歳女性、2日前から38.5℃以上の高熱と咳嗽があり、市販の総合感冒薬で改善しない。 ・喀痰はなく(乾性咳嗽)、聴診で呼吸音に異常を認めない。 ・室内でインコを2年間飼育しており、1週前にそのインコが死んでいる。 ・白血球7,300/μLと増加はないが(桿状核球がやや多い)、CRP 15 mg/dLと炎症反応は強い。 ・SpO2 96%で、呼吸不全はない。 ・胸部エックス線写真では左下肺野に浸潤影がみられ、左横隔膜や左心縁の輪郭が不明瞭となっている(胸水の合併も疑われる)。
診断へのプロセス
発熱・咳嗽に胸部エックス線の浸潤影があり、肺炎と診断できる。次に、細菌性肺炎か非定型肺炎かを考える。本例は、(1) 喀痰がほとんどない乾性咳嗽、(2) 画像の陰影に比べて聴診所見に乏しい、(3) 白血球数が増加していない、という非定型肺炎の特徴をそなえている。非定型肺炎の原因にはマイコプラズマ、クラミジア(オウム病クラミジア、肺炎クラミジア)、レジオネラ、リケッチア(Q熱の原因のコクシエラなど)がある。本例では「室内で飼っていたインコが最近死んだ」という鳥類との濃厚な接触歴があり、鳥が保菌・発症していた可能性が高いことから、オウム病(Chlamydia psittaci 感染症)が最も考えられる。
設問への考え方
オウム病の原因菌であるクラミジアは、宿主細胞の中でしか増殖できない偏性細胞内寄生菌で、一般の細菌のような典型的なペプチドグリカンの細胞壁を持たない。そのため、細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)は効かない。細胞内に移行しやすく、細菌のリボソームに作用して蛋白合成を阻害する抗菌薬が有効であり、第一選択はテトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)、代替としてマクロライド系やニューキノロン系が用いられる。選択肢の中ではマクロライド系が有効である。
選択肢考察
- ×a. セフェム系
セフェム系はβ-ラクタム系抗菌薬で、細菌の細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白に結合して細胞壁合成を阻害し、殺菌的に作用する。クラミジアは典型的なペプチドグリカン細胞壁を持たず、さらに細胞内に寄生するため、セフェム系は臨床的に無効である。市中肺炎で細菌性肺炎を想定してセフェム系を使い、効果がないことから非定型肺炎に気づかれることもある。
- ×b. ペニシリン系
ペニシリン系もβ-ラクタム系抗菌薬であり、細胞壁合成阻害が作用機序である。肺炎球菌性肺炎などの定型的な細菌性肺炎には有効だが、細胞壁を持たないマイコプラズマや、細胞内寄生菌であるクラミジア(オウム病の原因菌)には効果が期待できない。
- ○c. マクロライド系
マクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)は細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合して蛋白合成を阻害する。細胞内への移行性が良いため、クラミジアのような細胞内寄生菌にも効果を示す。オウム病の第一選択はテトラサイクリン系だが、マクロライド系も有効であり、テトラサイクリン系が使いにくい小児や妊婦では代替薬として選ばれる。選択肢の中で本症に有効なのはマクロライド系である。
- ×d. アミノ配糖体系
アミノ配糖体系(ゲンタマイシン、アミカシンなど)はリボソーム30Sサブユニットに作用して蛋白合成を阻害する点ではテトラサイクリン系と共通するが、細胞内への移行性が乏しいため、宿主細胞内で増殖するクラミジアには効果がない。主に好気性グラム陰性桿菌の治療に用いられ、腎毒性や聴器毒性(第8脳神経障害)に注意が必要である。
- ×e. カルバペネム系
カルバペネム系(メロペネム、イミペネムなど)はβ-ラクタム系の中で最も抗菌スペクトルが広い薬剤だが、作用機序は細胞壁合成阻害であり、クラミジアやマイコプラズマなど非定型肺炎の原因微生物には無効である。広域であることと、非定型病原体に効くことは別であることに注意する。
オウム病(psittacosis)
・病原体:Chlamydia psittaci(オウム病クラミジア。分類上 Chlamydophila psittaci と呼ばれた時期もある)。偏性細胞内寄生菌である。 ・感染経路:保菌しているオウム・インコ・ハトなどの鳥類の乾燥した排泄物や羽毛の粉塵を吸入して感染する人獣共通感染症(動物由来感染症)である。口移しでの餌やりなど濃厚な接触もリスクとなる。ヒトからヒトへの感染はまれである。感染症法では4類感染症に分類され、診断した医師は直ちに届け出る。 ・潜伏期:1〜2週間程度。 ・臨床像:突然の高熱、乾性咳嗽、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感。比較的徐脈を示すことがある。重症化すると呼吸不全、髄膜炎、心筋炎、肝障害などを起こし、死亡例もある。 ・検査:白血球数は正常〜軽度増加にとどまることが多く、CRPは上昇する。肝酵素上昇を伴うことがある。診断は鳥との接触歴が最も重要な手がかりで、血清抗体価の上昇(ペア血清)やPCR法による病原体遺伝子の検出で確定する。 ・治療:テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)が第一選択。マクロライド系、ニューキノロン系も有効。β-ラクタム系、アミノ配糖体系は無効。
細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別(日本呼吸器学会の市中肺炎ガイドラインで示された項目)
(1) 年齢60歳未満 (2) 基礎疾患がない、あるいは軽微 (3) 頑固な咳がある (4) 胸部聴診上所見が乏しい (5) 痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない (6) 末梢血白血球数が10,000/μL未満である 上記6項目中4項目以上を満たせば非定型肺炎が疑われる。本例は(1)〜(6)を概ね満たしている。
非定型肺炎の主な原因と手がかり
・マイコプラズマ:若年者、家族・集団内での流行、頑固な乾性咳嗽 ・オウム病クラミジア:鳥類との接触 ・肺炎クラミジア:高齢者にも多く、比較的軽症 ・レジオネラ:温泉・循環式浴槽・空調冷却塔などの水系曝露、重症化しやすく、低Na血症・肝障害・意識障害を伴う ・Q熱(コクシエラ):ネコ・ウシ・ヒツジなど家畜やペットとの接触、特に出産時の接触
抗菌薬の作用機序の整理
・細胞壁合成阻害:β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)、グリコペプチド系(バンコマイシン) ・蛋白合成阻害:マクロライド系(50S)、テトラサイクリン系(30S)、アミノ配糖体系(30S) ・核酸合成阻害:ニューキノロン系(DNAジャイレース・トポイソメラーゼⅣ阻害) 非定型病原体には、細胞内移行性の良い蛋白合成阻害薬(テトラサイクリン系・マクロライド系)とニューキノロン系が有効である。
POINT
・鳥(オウム・インコ・ハトなど)との接触歴+高熱・乾性咳嗽・白血球増多に乏しい肺炎 → オウム病を考える。 ・原因菌 Chlamydia psittaci は偏性細胞内寄生菌で、典型的な細胞壁を持たない。 ・治療の第一選択はテトラサイクリン系で、マクロライド系・ニューキノロン系も有効。 ・β-ラクタム系(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)とアミノ配糖体系は無効。 ・オウム病は感染症法の4類感染症で、診断後直ちに届け出る。
