「びっくり目」の正体を探る―甲状腺眼症で開く瞼、閉じる瞼
第106回医師国家試験 A問題 第20問
国試問題にチャレンジ
甲状腺眼症でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.眼球突出
- b.眼瞼下垂
- c.瞼裂開大
- d.眼瞼けいれん
- e.眼瞼部拍動性雑音
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
甲状腺眼症は、眼窩の線維芽細胞に発現するTSH受容体を標的とした自己免疫性炎症で、外眼筋の腫大と眼窩脂肪の増生により眼球突出を、Müller筋の緊張亢進や上眼瞼挙筋の線維化による上眼瞼後退で瞼裂開大(Dalrymple徴候)をきたします。眼瞼下垂はむしろ逆の所見で、動眼神経麻痺やHorner症候群、バセドウ病に合併しうる重症筋無力症を考えます。眼瞼けいれんは局所性ジストニア、眼窩部の拍動性雑音は内頸動脈海綿静脈洞瘻を示唆する所見です。喫煙が最大の危険因子であること、圧迫性視神経症が視力を脅かす緊急病態であることも臨床上重要です。病態から所見を組み立てて理解することで、似た眼症状を呈する疾患の鑑別にも応用できるようになります。
解答・解説
正解はa, cです
甲状腺眼症(Graves眼症、バセドウ病眼症)は、主にバセドウ病に合併する眼窩組織の自己免疫性炎症である。甲状腺と眼窩の線維芽細胞にはともにTSH受容体が発現しており、TSH受容体抗体(TRAb)などを介した自己免疫反応が眼窩内の組織に及ぶと考えられている。その結果、①外眼筋の炎症・腫大、②眼窩脂肪組織の増生、③眼瞼組織の炎症・浮腫が起こる。甲状腺機能が正常な例や橋本病に伴う例、眼症状が甲状腺機能異常より先に出る例もある。
主な症状と機序
・眼球突出:眼窩という骨で囲まれた限られた空間の中で、外眼筋と脂肪組織の容積が増えるため、眼球が前方へ押し出される。 ・上眼瞼後退(瞼裂開大):上眼瞼が上方へ引き上げられ、角膜上縁の上に白目(強膜)が見える「びっくりしたような目つき」となる。 ・眼瞼腫脹、結膜充血・浮腫。 ・外眼筋の腫大・線維化による眼球運動障害と複視(下直筋、次いで内直筋が侵されやすい)。 ・重症例では腫大した外眼筋が眼窩の奥で視神経を圧迫する圧迫性視神経症(視力低下)、兎眼による角膜障害を来す。 本問では、これらの症状に該当する眼球突出と瞼裂開大を選ぶ。眼瞼下垂は逆に瞼裂が狭くなる所見であり、眼瞼けいれんや眼瞼部の拍動性雑音は別の疾患を示唆する所見である。
選択肢考察
- ○a. 眼球突出
甲状腺眼症の代表的所見である。外眼筋の腫大と眼窩脂肪組織の増生・浮腫により眼窩内容の容積が増し、眼球が前方へ押し出される。Hertel眼球突出計で角膜頂点の位置を測定して評価し、日本人ではおおむね15mm以上、または左右差2mm以上を異常の目安とすることが多い。片側性の場合もあり、その際は眼窩腫瘍などとの鑑別が必要となる。
- ×b. 眼瞼下垂
甲状腺眼症では上眼瞼はむしろ引き上げられ(上眼瞼後退)、眼瞼下垂は典型的所見ではない。眼瞼下垂は、動眼神経麻痺(上眼瞼挙筋の麻痺)、Horner症候群(交感神経支配のMüller筋の麻痺)、重症筋無力症、加齢による腱膜性眼瞼下垂などでみられる。なお、バセドウ病には重症筋無力症が合併することがあり、眼瞼下垂がみられた場合にはその合併を疑う必要がある。
- ○c. 瞼裂開大
甲状腺眼症では上眼瞼後退により瞼裂(上下の眼瞼の間の開き)が大きくなる。これをDalrymple徴候という。交感神経の緊張によるMüller筋(上瞼板筋)の収縮亢進や、上眼瞼挙筋の炎症・線維化による短縮が主な原因と考えられており、眼球突出もこれを目立たせる。関連する所見として、下方視の際に上眼瞼が眼球の動きに遅れて十分に下がらず上方の強膜が見えるGraefe徴候(lid lag)がある。
- ×d. 眼瞼けいれん
眼瞼けいれんは、眼輪筋が不随意に収縮して瞬目が増えたり開瞼しにくくなったりする局所性ジストニアの一種で、中高年の女性に多い。治療にはボツリヌス毒素の局所注射が用いられる。甲状腺機能亢進症では閉じた眼瞼が細かく震えるRosenbach徴候がみられることがあるが、これは眼瞼けいれんとは別の所見である。
- ×e. 眼瞼部拍動性雑音
眼瞼部(眼窩部)で聴取される拍動性雑音は、内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF:carotid-cavernous fistula)の特徴的所見である。動脈血が海綿静脈洞へ短絡して上眼静脈がうっ血・拡張するため、拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫、眼窩部の血管雑音を三徴とする。眼球突出がある点で甲状腺眼症と紛らわしいが、甲状腺眼症では血管雑音は聴取されない。
甲状腺眼症の眼徴候(人名のついた徴候)
・Dalrymple徴候:上眼瞼後退による瞼裂開大。 ・Graefe徴候:下方視時に上眼瞼が眼球の動きに遅れ、上方の強膜が露出する(lid lag)。 ・Stellwag徴候:瞬目の減少。 ・Möbius徴候:輻輳(寄り目)が弱い。 ・Rosenbach徴候:閉瞼時の眼瞼の細かい振戦。
検査
・血液検査:TRAb(TSH受容体抗体)、TSAb(甲状腺刺激抗体)、甲状腺機能(FT4、FT3、TSH)。 ・画像検査:CTやMRIで外眼筋の腫大(筋腹が太く、腱付着部は保たれる紡錘状腫大が特徴)、眼窩脂肪の増加を確認する。MRIのT2強調像やSTIR像で高信号を示す外眼筋は炎症の活動期と判断され、治療方針の決定に役立つ。
増悪因子と治療
・喫煙は発症・重症化の最大の危険因子であり、禁煙指導が重要である。放射性ヨウ素内用療法は眼症を悪化させることがある。 ・甲状腺機能を正常化したうえで、活動期の中等症以上ではステロイドパルス療法、眼窩部放射線照射を行う。近年、IGF-1受容体に対する抗体薬(テプロツムマブ)も使用可能となった。 ・非活動期の眼球突出や斜視・眼瞼後退の残存には、眼窩減圧術、斜視手術、眼瞼手術を行う。 ・圧迫性視神経症は視力を失うおそれのある緊急病態で、ステロイドパルス療法や眼窩減圧術を急ぐ。
POINT
・甲状腺眼症の主症状:眼球突出、上眼瞼後退(瞼裂開大=Dalrymple徴候)、Graefe徴候(lid lag)、眼瞼腫脹、外眼筋腫大による複視(下直筋・内直筋が多い)。 ・眼瞼下垂は動眼神経麻痺・Horner症候群・重症筋無力症を考える。 ・眼瞼けいれん=局所性ジストニア。 ・眼窩部の拍動性雑音+拍動性眼球突出+結膜充血=内頸動脈海綿静脈洞瘻。 ・喫煙は甲状腺眼症の最大の危険因子。
