StudyMed医師国家試験

「びっくり目」の正体を探る―甲状腺眼症で開く瞼、閉じる瞼

第106回医師国家試験 A問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第20問

甲状腺眼症でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.眼球突出
  2. b.眼瞼下垂
  3. c.瞼裂開大
  4. d.眼瞼けいれん
  5. e.眼瞼部拍動性雑音

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は甲状腺眼症で実際にみられる眼の所見を選ぶ問題だ。ポイントは、眼窩の中で何が起きているかという病態から所見を導けるかどうか。丸暗記ではなく「なぜそうなるか」で考えていこう。まず、甲状腺眼症はどんな病気だと理解しているかな。
医学生医学生
バセドウ病に合併する眼の症状、という程度の理解です。甲状腺ホルモンが多いせいで目が飛び出す、と思っていました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。実は甲状腺眼症の本質はホルモン過剰ではなく、眼窩組織に起こる自己免疫性の炎症なんだ。甲状腺の細胞だけでなく眼窩の線維芽細胞にもTSH受容体が発現していて、TSH受容体抗体などを介した免疫反応が眼窩に及ぶと考えられている。だから甲状腺機能が正常な人や、眼の症状が先に出る人もいる。
医学生医学生
免疫学の講義で、自己抗原が複数の臓器に出ていると同じ抗体で両方やられる、と習ったのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその構図だ。眼窩では外眼筋が炎症で腫れ、脂肪組織も増える。眼窩は骨に囲まれた箱だから、中身が増えると逃げ場は前方しかない。
医学生医学生
それで眼球が前に押し出される、つまり眼球突出ですね。これは確実に正解だと思います。
ドクタードクター
その通り。臨床ではHertel眼球突出計で角膜頂点の位置を測って、日本人ならおおむね15mm以上や左右差2mm以上を異常の目安にすることが多い。では、もう一つの正解は何だろう。
医学生医学生
眼瞼下垂と瞼裂開大で迷いました。瞼が腫れるなら重くなって下がりそうな気もして……。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだ。甲状腺眼症ではむしろ上眼瞼が上に引き上げられる。これを上眼瞼後退といって、角膜の上に白目がのぞく「びっくりしたような目つき」になる。上下の瞼の開き、つまり瞼裂が大きくなるから瞼裂開大、人名でいうとDalrymple徴候だ。
医学生医学生
どうして瞼が引き上げられるんですか。
ドクタードクター
主に二つの機序が考えられている。一つは交感神経の緊張でMüller筋、つまり上瞼板筋の収縮が強まること。もう一つは上眼瞼挙筋そのものが炎症と線維化で短くなること。そこに眼球突出が加わるから、より目立つんだ。
医学生医学生
なるほど、だから眼瞼下垂は逆の所見なんですね。眼瞼下垂といえば、神経内科の実習で重症筋無力症の患者さんが夕方になると瞼が下がると話していたのを覚えています。
ドクタードクター
いい経験だね。眼瞼下垂は動眼神経麻痺、Horner症候群、重症筋無力症、加齢による腱膜性のものなどで起こる。実はバセドウ病には重症筋無力症が合併することがあるから、バセドウ病の患者で眼瞼下垂を見たら、むしろ合併を疑うきっかけにしてほしい。
医学生医学生
眼瞼けいれんはどうでしょう。甲状腺機能亢進症で瞼が震えると聞いた気がします。
ドクタードクター
鋭いね。甲状腺機能亢進症では閉じた瞼が細かく震えるRosenbach徴候があるけれど、眼瞼けいれんとは別物だ。眼瞼けいれんは眼輪筋が不随意に収縮して瞬目が増えたり目を開けにくくなったりする局所性ジストニアで、中高年の女性に多く、ボツリヌス毒素の注射で治療する。
医学生医学生
眼瞼部の拍動性雑音は、眼球突出つながりで何か別の病気を指していそうですね。
ドクタードクター
その読みは正しい。眼窩部で拍動性の雑音が聴こえたら内頸動脈海綿静脈洞瘻を考える。動脈血が海綿静脈洞に流れ込んで眼の静脈がうっ血するから、拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫、血管雑音が三徴になる。眼球突出は共通でも、甲状腺眼症では雑音は聴こえない。
医学生医学生
眼球突出を見たら、聴診器を眼に当てて鑑別するということですか。
ドクタードクター
そう、片側性の眼球突出なら特に、眼窩腫瘍や内頸動脈海綿静脈洞瘻を除外する意識が大切だ。最後に臨床の注意点をまとめよう。甲状腺眼症の最大の危険因子は喫煙で、禁煙指導は治療の一部といえる。放射性ヨウ素内用療法で眼症が悪化することもある。
医学生医学生
治療は甲状腺機能を整えるだけでは不十分なんですか。
ドクタードクター
機能の正常化は前提だけれど、MRIで外眼筋が炎症の活動期にある中等症以上ならステロイドパルス療法や眼窩部放射線照射を行い、近年はIGF-1受容体に対する抗体薬も使えるようになった。そして見逃してはいけないのが、腫大した外眼筋が眼窩の奥で視神経を圧迫する圧迫性視神経症だ。視力低下を訴えたら、失明を防ぐため緊急で対応する。
医学生医学生
「目が出ている」だけでなく、複視や視力の変化まで必ず聞くようにします。
ドクタードクター
それができれば十分だ。外眼筋では下直筋、次いで内直筋が侵されやすく、複視の原因になることも覚えておこう。

まとめ

甲状腺眼症は、眼窩の線維芽細胞に発現するTSH受容体を標的とした自己免疫性炎症で、外眼筋の腫大と眼窩脂肪の増生により眼球突出を、Müller筋の緊張亢進や上眼瞼挙筋の線維化による上眼瞼後退で瞼裂開大(Dalrymple徴候)をきたします。眼瞼下垂はむしろ逆の所見で、動眼神経麻痺やHorner症候群、バセドウ病に合併しうる重症筋無力症を考えます。眼瞼けいれんは局所性ジストニア、眼窩部の拍動性雑音は内頸動脈海綿静脈洞瘻を示唆する所見です。喫煙が最大の危険因子であること、圧迫性視神経症が視力を脅かす緊急病態であることも臨床上重要です。病態から所見を組み立てて理解することで、似た眼症状を呈する疾患の鑑別にも応用できるようになります。

解答・解説

正解はa, cです

甲状腺眼症(Graves眼症、バセドウ病眼症)は、主にバセドウ病に合併する眼窩組織の自己免疫性炎症である。甲状腺と眼窩の線維芽細胞にはともにTSH受容体が発現しており、TSH受容体抗体(TRAb)などを介した自己免疫反応が眼窩内の組織に及ぶと考えられている。その結果、①外眼筋の炎症・腫大、②眼窩脂肪組織の増生、③眼瞼組織の炎症・浮腫が起こる。甲状腺機能が正常な例や橋本病に伴う例、眼症状が甲状腺機能異常より先に出る例もある。

主な症状と機序

・眼球突出:眼窩という骨で囲まれた限られた空間の中で、外眼筋と脂肪組織の容積が増えるため、眼球が前方へ押し出される。 ・上眼瞼後退(瞼裂開大):上眼瞼が上方へ引き上げられ、角膜上縁の上に白目(強膜)が見える「びっくりしたような目つき」となる。 ・眼瞼腫脹、結膜充血・浮腫。 ・外眼筋の腫大・線維化による眼球運動障害と複視(下直筋、次いで内直筋が侵されやすい)。 ・重症例では腫大した外眼筋が眼窩の奥で視神経を圧迫する圧迫性視神経症(視力低下)、兎眼による角膜障害を来す。 本問では、これらの症状に該当する眼球突出と瞼裂開大を選ぶ。眼瞼下垂は逆に瞼裂が狭くなる所見であり、眼瞼けいれんや眼瞼部の拍動性雑音は別の疾患を示唆する所見である。

選択肢考察

  1. ○a.  眼球突出

    甲状腺眼症の代表的所見である。外眼筋の腫大と眼窩脂肪組織の増生・浮腫により眼窩内容の容積が増し、眼球が前方へ押し出される。Hertel眼球突出計で角膜頂点の位置を測定して評価し、日本人ではおおむね15mm以上、または左右差2mm以上を異常の目安とすることが多い。片側性の場合もあり、その際は眼窩腫瘍などとの鑑別が必要となる。

  2. ×b.  眼瞼下垂

    甲状腺眼症では上眼瞼はむしろ引き上げられ(上眼瞼後退)、眼瞼下垂は典型的所見ではない。眼瞼下垂は、動眼神経麻痺(上眼瞼挙筋の麻痺)、Horner症候群(交感神経支配のMüller筋の麻痺)、重症筋無力症、加齢による腱膜性眼瞼下垂などでみられる。なお、バセドウ病には重症筋無力症が合併することがあり、眼瞼下垂がみられた場合にはその合併を疑う必要がある。

  3. ○c.  瞼裂開大

    甲状腺眼症では上眼瞼後退により瞼裂(上下の眼瞼の間の開き)が大きくなる。これをDalrymple徴候という。交感神経の緊張によるMüller筋(上瞼板筋)の収縮亢進や、上眼瞼挙筋の炎症・線維化による短縮が主な原因と考えられており、眼球突出もこれを目立たせる。関連する所見として、下方視の際に上眼瞼が眼球の動きに遅れて十分に下がらず上方の強膜が見えるGraefe徴候(lid lag)がある。

  4. ×d.  眼瞼けいれん

    眼瞼けいれんは、眼輪筋が不随意に収縮して瞬目が増えたり開瞼しにくくなったりする局所性ジストニアの一種で、中高年の女性に多い。治療にはボツリヌス毒素の局所注射が用いられる。甲状腺機能亢進症では閉じた眼瞼が細かく震えるRosenbach徴候がみられることがあるが、これは眼瞼けいれんとは別の所見である。

  5. ×e.  眼瞼部拍動性雑音

    眼瞼部(眼窩部)で聴取される拍動性雑音は、内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF:carotid-cavernous fistula)の特徴的所見である。動脈血が海綿静脈洞へ短絡して上眼静脈がうっ血・拡張するため、拍動性眼球突出、結膜の充血・浮腫、眼窩部の血管雑音を三徴とする。眼球突出がある点で甲状腺眼症と紛らわしいが、甲状腺眼症では血管雑音は聴取されない。

甲状腺眼症の眼徴候(人名のついた徴候)

・Dalrymple徴候:上眼瞼後退による瞼裂開大。 ・Graefe徴候:下方視時に上眼瞼が眼球の動きに遅れ、上方の強膜が露出する(lid lag)。 ・Stellwag徴候:瞬目の減少。 ・Möbius徴候:輻輳(寄り目)が弱い。 ・Rosenbach徴候:閉瞼時の眼瞼の細かい振戦。

検査

・血液検査:TRAb(TSH受容体抗体)、TSAb(甲状腺刺激抗体)、甲状腺機能(FT4、FT3、TSH)。 ・画像検査:CTやMRIで外眼筋の腫大(筋腹が太く、腱付着部は保たれる紡錘状腫大が特徴)、眼窩脂肪の増加を確認する。MRIのT2強調像やSTIR像で高信号を示す外眼筋は炎症の活動期と判断され、治療方針の決定に役立つ。

増悪因子と治療

・喫煙は発症・重症化の最大の危険因子であり、禁煙指導が重要である。放射性ヨウ素内用療法は眼症を悪化させることがある。 ・甲状腺機能を正常化したうえで、活動期の中等症以上ではステロイドパルス療法、眼窩部放射線照射を行う。近年、IGF-1受容体に対する抗体薬(テプロツムマブ)も使用可能となった。 ・非活動期の眼球突出や斜視・眼瞼後退の残存には、眼窩減圧術、斜視手術、眼瞼手術を行う。 ・圧迫性視神経症は視力を失うおそれのある緊急病態で、ステロイドパルス療法や眼窩減圧術を急ぐ。

POINT

・甲状腺眼症の主症状:眼球突出、上眼瞼後退(瞼裂開大=Dalrymple徴候)、Graefe徴候(lid lag)、眼瞼腫脹、外眼筋腫大による複視(下直筋・内直筋が多い)。 ・眼瞼下垂は動眼神経麻痺・Horner症候群・重症筋無力症を考える。 ・眼瞼けいれん=局所性ジストニア。 ・眼窩部の拍動性雑音+拍動性眼球突出+結膜充血=内頸動脈海綿静脈洞瘻。 ・喫煙は甲状腺眼症の最大の危険因子。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。