StudyMed医師国家試験

照射野が「食べる道」をどれだけ通るか―頭頸部癌の放射線治療と栄養管理

第105回医師国家試験 I問題 第77問

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第105回 I問題 第77問

放射線治療中に静脈栄養・経管経腸栄養管理の必要性が最も低いのはどれか。

  1. a.上咽頭癌
  2. b.中咽頭癌
  3. c.舌癌
  4. d.歯肉癌
  5. e.口腔底癌
  6. f.下咽頭癌
  7. g.声門癌
  8. h.頸部食道癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭頸部癌の放射線治療中に、経口摂取が難しくなって栄養管理が必要になりやすいのはどの癌か、逆に最も必要性が低いのはどれかを考える問題だ。カギは「照射野に飲食物の通り道の粘膜がどれだけ含まれるか」。まず、放射線治療で食べられなくなるのはなぜだと思う?
医学生医学生
放射線は細胞分裂の盛んな組織に効きやすいので、粘膜が傷んで口内炎のようになるからでしょうか。
ドクタードクター
その通り。粘膜上皮は細胞の入れ替わりが速いから、治療開始から2〜3週ほどで放射線粘膜炎が起こる。口腔や咽頭、食道に強い粘膜炎が出れば、飲み込むたびに激しく痛んで食事がとれなくなる。さらに唾液腺に照射されると口腔乾燥や味覚障害も加わって、体重減少や脱水、低栄養に陥りやすいんだ。
医学生医学生
放射線治療学の講義で、粘膜炎は照射された範囲にしか起こらないと習いました。だから照射野の広さが重要なんですね。
ドクタードクター
そこがこの問題の本質だ。照射野の広さを決めるのは主に2つ。原発巣がどこにあるかと、頸部リンパ節転移がどれくらい起こりやすいか、つまり頸部まで予防的に照射する必要があるかどうかだ。選択肢を見渡して、照射野が小さく済みそうなものはどれかな。
医学生医学生
咽頭癌や口腔癌は、原発巣そのものが食べ物の通り道にありますよね。声門癌だけは気道側なので、違う気がします。
ドクタードクター
いい着眼点だね。正解は声門癌だ。声帯には粘膜下のリンパ管が乏しいので、声門癌は頸部リンパ節転移を起こしにくい。だから早期の声門癌では頸部への予防照射をせず、声門部を中心とした一辺5〜6cm程度の小さな照射野で治療するのが原則なんだ。口腔や咽頭、食道の粘膜はほとんど照射されないから、軽い咽頭痛は起こりうるものの、食べられなくなるほどの粘膜炎にはなりにくい。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の実習で、嗄声で受診した早期声門癌の方が放射線治療を受けながら外来に通っていたのを思い出しました。普通に食事もされていました。
ドクタードクター
まさにその典型だね。声門癌は早くから嗄声が出るから早期に見つかりやすく、予後も良好だ。では他の選択肢も確認しよう。上咽頭癌はどうだろう。
医学生医学生
上咽頭は手術が難しい部位なので、放射線治療が中心だったと思います。
ドクタードクター
その通り。上咽頭癌は放射線感受性が高く、化学放射線療法が中心になる。しかも頸部リンパ節転移の頻度が非常に高いので、両側頸部まで広く照射する。口腔や中咽頭の粘膜、唾液腺にも線量が及ぶため、粘膜炎や口腔乾燥で食べにくくなりやすいんだ。
医学生医学生
中咽頭癌や下咽頭癌は、食塊が通る場所そのものなので、もっと厳しそうです。
ドクタードクター
そうだね。中咽頭は口蓋扁桃や舌根、軟口蓋を含み、照射で強い咽頭粘膜炎と嚥下時痛が起こる。下咽頭癌は発見時にリンパ節転移を伴う例が多く、両側頸部を広く照射するうえ、食道入口部へ食塊を送る部位だから高度の嚥下障害をきたしやすい。化学放射線療法では治療前から胃瘻を造設しておくこともあるくらいだ。
医学生医学生
舌癌、歯肉癌、口腔底癌といった口腔癌も、咀嚼や食塊形成に直接関わるので同じですね。
ドクタードクター
そう。口腔癌では原発巣に加えて顎下リンパ節などの所属リンパ節も照射範囲に入り、口腔粘膜炎や唾液分泌の低下で摂食が大きく障害される。なお早期舌癌では小線源治療で照射範囲を絞れる場合もあるけれど、全体としては栄養管理が必要になる可能性が高い部位だ。頸部食道癌も、下咽頭から上縦隔までの広い範囲を照射し、もともと腫瘍による通過障害を伴うことが多い。
医学生医学生
同じ喉頭癌でも、声門上部癌だと話が変わりますか。
ドクタードクター
良い質問だ。声門上部はリンパ流が豊富で頸部リンパ節転移が多いから、頸部を含む広い照射野になる。同じ喉頭でも部位によってリンパ流が違う、という解剖学の知識がそのまま治療計画に結びつくわけだ。
医学生医学生
原発巣の部位とリンパ節転移の起こりやすさから照射野を想像すれば、栄養障害のリスクが推測できるんですね。
ドクタードクター
その考え方で十分に応用がきく。最後に臨床での注意点を整理しよう。腸管が使えるなら、静脈栄養よりも経腸栄養を優先するのが原則だ。経鼻胃管や胃瘻を使い分け、長期の経口摂取困難が予想されれば予防的に胃瘻を造設する。化学療法を併用すると粘膜炎は一層強くなるから、口腔ケアや疼痛管理も含めて、治療開始前から多職種で栄養状態を支える体制を整えることが大切だよ。

まとめ

頭頸部癌の放射線治療では、照射野に含まれた口腔・咽頭・食道の粘膜に治療開始後2〜3週ほどで粘膜炎が生じ、嚥下時痛や口腔乾燥のため経口摂取が難しくなります。照射野の広さは原発巣の部位と頸部リンパ節転移の起こりやすさで決まり、上・中・下咽頭癌、口腔癌、頸部食道癌は飲食物の通り道に原発巣があるうえ頸部まで広く照射するため、経管栄養や静脈栄養が必要になりやすい疾患です。一方、声門癌は声帯のリンパ管が乏しくリンパ節転移が少ないため、早期例では声門部に限局した小照射野で治療でき、栄養管理の必要性が最も低くなります。栄養管理では腸管が使えれば経腸栄養を優先し、必要に応じて予防的胃瘻造設も検討します。解剖学的なリンパ流の知識から照射野と有害事象を予測する視点は、放射線治療を受ける患者のケアを計画するうえで欠かせません。

解答・解説

正解はgです

頭頸部癌の放射線治療では、照射範囲に口腔・咽頭・食道の粘膜が含まれると、治療開始から2〜3週ほどで放射線粘膜炎(口内炎・咽頭炎・食道炎)が生じ、強い嚥下時痛や嚥下困難のために経口摂取が難しくなる。さらに唾液腺が照射されると口腔乾燥や味覚障害も加わり、体重減少・脱水・低栄養に陥りやすい。このため、照射野が広い症例(特に化学療法を併用する化学放射線療法)では、治療中に経鼻胃管や胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術)による経管経腸栄養、あるいは静脈栄養による栄養管理が必要になることが多い。 栄養管理の必要性を左右する最大の要因は「照射野に含まれる咽頭・口腔・食道粘膜の範囲」である。照射野の広さは主に、原発巣の部位と、頸部リンパ節転移の起こりやすさ(頸部リンパ節領域まで予防的に照射するか否か)で決まる。 選択肢のうち、上咽頭・中咽頭・下咽頭・口腔(舌・歯肉・口腔底)・頸部食道の癌は、いずれも原発巣自体が飲食物の通り道にあるうえ、頸部リンパ節転移が多いため頸部リンパ節領域を含めた広い照射野となる。一方、声門癌はリンパ管の分布が乏しい声帯に発生するためリンパ節転移が少なく、早期例では声帯周囲に限った小さな照射野で治療できる。したがって、照射野に含まれる嚥下経路の粘膜が最も少ない声門癌が、栄養管理の必要性が最も低い。

選択肢考察

  1. ×a.  上咽頭癌

    上咽頭癌は放射線感受性が高く、手術が難しい部位でもあるため放射線治療(多くは化学放射線療法)が治療の中心となる。頸部リンパ節転移の頻度が非常に高く、両側の頸部リンパ節領域まで含めた広い範囲を照射する。口腔・中咽頭の粘膜や唾液腺にも線量が及ぶため、粘膜炎や口腔乾燥による経口摂取困難をきたしやすく、栄養管理が必要となることが多い。

  2. ×b.  中咽頭癌

    中咽頭(口蓋扁桃、舌根、軟口蓋など)は食塊が通過する部位そのものであり、照射によって強い咽頭粘膜炎と嚥下時痛が起こる。原発巣に加えて頸部リンパ節への予防照射を行うことが多く、照射野は広い。経口摂取の低下を見込み、治療前から胃瘻を造設しておくこともある。

  3. ×c.  舌癌

    舌癌を外部照射で治療する場合、原発巣と所属リンパ節(顎下・上内深頸リンパ節など)が照射範囲に入る。舌は咀嚼・食塊形成・送り込みを担う器官であり、口腔粘膜炎が生じると食事摂取が大きく障害される。なお早期舌癌では小線源治療(組織内照射)で照射範囲を限局できる場合もあるが、全体としては栄養管理が必要になる可能性が高い部位である。

  4. ×d.  歯肉癌

    歯肉癌を根治的に照射する場合、原発巣のある顎骨周囲だけでなく口腔内が広く照射野に含まれ、所属リンパ節も対象となる。口腔粘膜炎・口腔乾燥により咀嚼や嚥下が困難となり、経口摂取が低下しやすい。

  5. ×e.  口腔底癌

    口腔底癌では原発巣と所属リンパ節(顎下リンパ節など)が照射される。口腔底は舌や顎下腺に接しており、照射により口腔粘膜炎や唾液分泌低下が起こるため、摂食・嚥下障害を生じやすく、栄養管理が必要となることが多い。

  6. ×f.  下咽頭癌

    下咽頭癌は発見時に頸部リンパ節転移を伴う例が多く、原発巣に加えて両側頸部を広く照射する。下咽頭は食道入口部へ食塊を送る部位であり、粘膜炎により高度の嚥下障害をきたしやすい。化学放射線療法として行われることが多く、治療中の経管栄養や静脈栄養が必要となる代表的な疾患である。

  7. ○g.  声門癌

    声門(声帯)は粘膜下のリンパ管が乏しいため、声門癌は頸部リンパ節転移をきたしにくい。そのため早期声門癌(T1〜T2N0)の放射線治療では頸部リンパ節への予防照射を行わず、喉頭の声門部を中心とした一辺5〜6cm程度の小さな照射野で治療するのが原則である。口腔・中咽頭・下咽頭・食道の粘膜はほとんど照射されないため、咽頭痛や軽度の嚥下時痛は起こりうるものの、経口摂取が困難になるほどの粘膜炎は起こりにくい。したがって、静脈栄養や経管経腸栄養管理の必要性が最も低い。

  8. ×h.  頸部食道癌

    頸部食道癌では、原発巣の上下への進展と頸部・上縦隔リンパ節転移を考慮し、下咽頭から上縦隔にかけての広い範囲を照射することが多い。照射により食道炎・咽頭炎が起こり、嚥下時痛や通過障害が強くなる。もともと腫瘍による通過障害を伴うことも多く、栄養管理が必要となる可能性が高い。

放射線治療の有害事象と栄養障害

放射線による有害事象は、治療中〜終了後おおむね3か月以内に起こる急性(早期)反応と、それ以降に起こる晩期反応に分けられる。頭頸部では、急性反応として粘膜炎、皮膚炎、味覚障害、口腔乾燥が、晩期反応として口腔乾燥症の持続、嚥下機能低下、顎骨壊死、甲状腺機能低下症などがある。粘膜炎は細胞分裂の盛んな粘膜上皮が障害されることで起こり、照射範囲内の粘膜にのみ生じる。したがって、どの部位の粘膜が照射野に含まれるかが、摂食障害の程度を決める。

照射野を広くする因子

・原発巣が口腔・咽頭・食道など飲食物の通り道にある ・頸部リンパ節転移が多く、両側頸部への予防照射が必要 ・化学療法の併用(粘膜炎がより強くなる)

声門癌の特徴

喉頭癌は声門上部癌・声門癌・声門下部癌に分けられ、日本では声門癌が最も多い。声門癌は早期から嗄声が出現するため早期発見されやすく、リンパ節転移も少ないため予後は良好である。早期声門癌では喉頭を温存し発声機能を保てる放射線治療が標準治療の一つであり、T1声門癌の局所制御率は約90%と高い。一方、声門上部癌はリンパ流が豊富で頸部リンパ節転移が多いため、頸部を含む照射野となる。

栄養管理の方法

腸管が使える場合は、静脈栄養よりも経腸栄養が優先される。頭頸部癌の化学放射線療法では、長期の経口摂取困難が予想されれば、治療前に予防的に胃瘻を造設することもある。

POINT

・頭頸部癌の放射線治療では、照射野に入った口腔・咽頭・食道粘膜に粘膜炎が起こり、嚥下時痛・嚥下困難から栄養障害をきたす。 ・照射野の広さは原発巣の部位と頸部リンパ節転移の起こりやすさで決まる。 ・声門癌はリンパ節転移が少なく、早期例では声門部に限局した小照射野で治療できるため、経口摂取への影響が最も小さい。 ・咽頭癌(上・中・下)、口腔癌、頸部食道癌は照射野が広く、経管栄養・静脈栄養が必要になりやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。