StudyMed医師国家試験

眼鏡をかけても0.6止まり―両眼の強い遠視が残した「見る力」の発達の遅れ

第105回医師国家試験 I問題 第51問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第51問

6歳の男児。就学時健康診断で両眼の視力不良を指摘されたため来院した。遮閉を含め既往に特記すべきことはない。視力は右0.5(0.6×+5.00 D),左0.4(0.6×+5.00 D)。調節麻痺薬点眼後の屈折検査は右+5.00 D,左+5.00 D。眼位は正位。固視の異常を認めない。細隙灯顕微鏡検査と眼底検査とに異常を認めない。  診断はどれか。

  1. a.不正乱視
  2. b.遠視性乱視
  3. c.屈折異常弱視
  4. d.調節性内斜視
  5. e.間欠性外斜視

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、就学時健診で見つかった両眼の視力不良から、小児の弱視を正しく診断できるかを問う問題だ。注目すべきは「裸眼視力」ではなく「矯正視力」。そして弱視の原因を一つずつ消していく過程がポイントになる。まず、視力の数値の読み方から確認しよう。括弧の中は何を表しているかな。
医学生医学生
括弧内は矯正視力です。凸レンズで矯正しても0.6までしか上がっていないということですね。
ドクタードクター
その通り。単なる屈折異常なら、適切な眼鏡をかければ6歳ならおおむね1.0程度の年齢相応の視力が出るはずだ。矯正しても視力が出ない場合は、眼の器質的な病気か、視力の発達そのものが妨げられた「弱視」を考える。
医学生医学生
でも細隙灯顕微鏡検査も眼底検査も異常なしなので、器質的疾患は否定的ですね。
ドクタードクター
そう。角膜、水晶体、網膜、視神経に異常がないから、残るのは弱視だ。では弱視の原因にはどんなものがあったか覚えているかな。
医学生医学生
眼科の講義で、斜視弱視、不同視弱視、屈折異常弱視、形態覚遮断弱視の4つを習いました。
ドクタードクター
完璧だね。この患者さんで一つずつ検討してみよう。眼位は正位で固視の異常もないから斜視はない。左右とも同じ+5.00 Dだから不同視もない。遮閉を含め既往に特記事項がないので、先天白内障や眼瞼下垂、長期の眼帯装用といった形態覚遮断もない。
医学生医学生
残るのは両眼の強い遠視ですね。だから屈折異常弱視、ということでしょうか。
ドクタードクター
正解。屈折異常弱視は、両眼に同程度の強い遠視や乱視があって、乳幼児期から網膜にピントの合った像が結ばれず、視力が十分に育たなかった状態だ。遠視ではおよそ+5 D以上が一つの目安とされている。ところで、なぜわざわざ調節麻痺薬を点眼してから屈折を測っているかわかるかな。
医学生医学生
子どもは調節力が強いので……遠視を自分でピント合わせして隠してしまうからですか。
ドクタードクター
その通り。小児は無意識に強く調節して遠視を隠してしまう。これを潜伏遠視という。アトロピンやシクロペントラートで毛様体筋の調節を止めて測らないと、遠視を小さく見積もってしまうんだ。この患者さんでは調節を止めても+5.00 Dあるから、本物の強い遠視といえる。
医学生医学生
選択肢の遠視性乱視とも少し迷いました。遠視があるのは確かなので。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。遠視性乱視は、遠視に方向によって屈折力が異なる円柱成分、つまり乱視が加わった状態だ。今回の屈折値は球面度数だけで乱視の記載はない。それに、遠視性乱視は屈折状態の名前にすぎないから、矯正しても視力が出ない理由の説明にはならないんだ。
医学生医学生
不正乱視も、角膜に異常がない以上は考えにくいですね。円錐角膜とかで起こるものだと習いました。
ドクタードクター
そうだね。不正乱視は円錐角膜や角膜の瘢痕、翼状片などで角膜表面が不規則にゆがみ、普通の眼鏡では矯正しきれない乱視だ。細隙灯で角膜が正常で、球面レンズで矯正できている今回は当てはまらない。
医学生医学生
強い遠視の子どもと聞くと、調節性内斜視も思い浮かびます。小児科の実習で、眼鏡をかけたら目の寄りが治った子を見ました。
ドクタードクター
良い経験をしているね。強い遠視の子がピントを合わせようと強く調節すると、それに連動する輻湊が過剰になって内斜視になる。それが調節性内斜視で、2〜3歳頃に発症することが多い。この患者さんにも発症の素地はあるけれど、眼位が正位だから内斜視はない。間欠性外斜視も同じ理由で否定できる。こちらは疲れたときや遠くをぼんやり見るときに片眼が外にずれる斜視で、正位の時間があるため弱視の原因になることは少ないとされる。
医学生医学生
矯正視力が出ないことで弱視を疑い、器質的疾患、斜視、不同視、形態覚遮断を順に除外していけば、屈折異常弱視にたどり着く、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。最後に治療と臨床での注意点だ。基本は、調節麻痺薬下の屈折値に基づいた完全矯正の眼鏡を常用させること。両眼性の弱視だから、片眼性の弱視で行う健眼遮閉、いわゆるアイパッチは通常は必要ない。
医学生医学生
治療はいつまでに始めればいいのでしょうか。
ドクタードクター
視覚の感受性期は生後から数歳が最も敏感で、8歳頃までに大きく低下するとされる。感受性期を過ぎると改善が乏しくなるから、早期発見・早期治療が何より大切なんだ。だからこそ3歳児健診での視力検査や、近年導入が進む屈折検査機器によるスクリーニングが重視されている。両眼とも同じように見えにくい子は、本人も周りも気づきにくいから、健診がとても重要な役割を果たすよ。

まとめ

6歳児で眼鏡による矯正視力が年齢相応に達せず、眼球に器質的異常がなければ、視覚の感受性期に視力の発達が妨げられた弱視を考えます。弱視の原因には斜視、不同視、両眼の強い屈折異常、形態覚遮断があり、眼位正位で固視正常、左右差のない+5 D程度の強い遠視で、形態覚遮断の既往もなければ屈折異常弱視と診断できます。小児は調節力が強く遠視を隠してしまうため、屈折検査は調節麻痺薬点眼下で行うことが重要です。治療は完全矯正眼鏡の常用が基本で、両眼性のため健眼遮閉は通常不要ですが、片眼性の斜視弱視や不同視弱視では遮閉を併用します。感受性期を過ぎると改善が乏しくなるため、3歳児健診などでの早期発見と早期治療が子どもの一生の視機能を左右します。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・6歳男児。就学時健康診断で両眼の視力不良を指摘された。 ・遮閉(眼帯装用など)を含めて既往に特記事項はない。つまり、先天白内障や眼瞼下垂、長期の眼帯装用など、乳幼児期に視覚刺激を妨げる原因は見当たらない。 ・視力は右0.5(0.6×+5.00 D)、左0.4(0.6×+5.00 D)。括弧内が矯正視力であり、両眼とも+5.00 D(ジオプトリー)の凸レンズで矯正しても0.6までしか上がらない。 ・調節麻痺薬(アトロピンやシクロペントラートなど、毛様体筋の調節を一時的に止める点眼薬)を用いた屈折検査でも両眼+5.00 Dで、左右差のない強い遠視である。乱視成分の記載はない。 ・眼位は正位、固視の異常なし → 斜視はない。 ・細隙灯顕微鏡検査・眼底検査で異常なし → 角膜・水晶体・網膜・視神経などに器質的疾患はない。

診断へのプロセス

6歳児で両眼の「矯正視力」が不良であることが最大のポイントである。単なる屈折異常であれば、適切な眼鏡で矯正すれば年齢相応の視力(6歳ではおおむね1.0程度)が得られるはずである。矯正しても視力が上がらず、しかも眼球に器質的異常がない場合は、視覚の発達が妨げられた「弱視」を考える。 弱視の原因は、斜視、不同視(左右の屈折度数の大きな差)、両眼の強い屈折異常、形態覚遮断(先天白内障、眼瞼下垂、眼帯など)に大別される。本例では、斜視はなく(眼位正位・固視正常)、左右の屈折度は同じで不同視もなく、形態覚遮断の既往もない。残るのは両眼の強い遠視であり、乳幼児期から網膜にピントの合った像が結ばれない状態が続いたために視力が十分に発達しなかった「屈折異常弱視」と診断できる。

設問への考え方

裸眼視力の低下だけなら単なる屈折異常でも起こるが、矯正視力の低下は弱視(または器質的疾患)を示す。器質的疾患が否定され、斜視も不同視もなく、両眼同程度の強い遠視があることから、屈折異常弱視が導かれる。

選択肢考察

  1. ×a.  不正乱視

    不正乱視は、円錐角膜、角膜の瘢痕・混濁、翼状片などにより角膜表面が不規則にゆがみ、通常の円柱レンズ(眼鏡)では矯正しきれない乱視である。本例では細隙灯顕微鏡検査で角膜に異常がなく、屈折検査でも乱視成分の記載はない。視力低下は球面の凸レンズ(+5.00 D)で矯正されている。

  2. ×b.  遠視性乱視

    遠視性乱視は、遠視に円柱度数(方向によって屈折力が異なる成分)が加わった状態である。本例の屈折検査は両眼とも+5.00 Dの球面度数のみで、乱視(cyl)の記載はないため、遠視性乱視とは判断できない。また、遠視性乱視は屈折状態の名称であり、矯正しても視力が出ないことの説明(弱視)にはならない。

  3. ○c.  屈折異常弱視

    屈折異常弱視は、両眼に同程度の強い遠視や乱視があり、乳幼児期から網膜に鮮明な像が結ばれないことで視力の発達が妨げられた弱視である。一般に遠視ではおよそ+5 D以上が目安とされる。本例は、両眼+5.00 Dと左右差のない強い遠視で、矯正視力が0.6と年齢相応に達しておらず、斜視・不同視・器質的疾患・形態覚遮断の既往がいずれも否定されるため、この診断に合致する。治療は調節麻痺薬下の屈折値に基づいて完全矯正の眼鏡を常用させることであり、両眼性であるため健眼遮閉(アイパッチ)は通常不要である。視覚の感受性期内に治療を始めれば視力改善が期待できる。

  4. ×d.  調節性内斜視

    調節性内斜視は、強い遠視の小児がピントを合わせようと強く調節すると、調節と連動する輻湊(寄り目)が過剰に起こって内斜視となる病態で、2~3歳頃に発症することが多い。本例も強い遠視をもち発症の素地はあるが、眼位は正位で固視の異常もないため内斜視はない。

  5. ×e.  間欠性外斜視

    間欠性外斜視は、普段は両眼の視線がそろっているが、疲労時や遠くをぼんやり見るとき、明るい屋外などで片眼が外側へずれる斜視で、小児の斜視として頻度が高い。本例は眼位正位で斜視を示唆する所見がない。また、間欠性外斜視では眼位が正位の時間があり両眼視の機会が保たれるため、弱視の原因になることは少ない。遠視よりもむしろ近視との関連が指摘される。

弱視とは

視覚の感受性期(生後から数歳が最も敏感で、8歳頃までに大きく低下するとされる)に、網膜に鮮明な像が結ばれない状態が続いたために視機能の発達が妨げられ、眼鏡で矯正しても視力が十分に出ない状態をいう(医学的弱視)。眼球に器質的な異常がないことが前提である。

弱視の分類

・斜視弱視:斜視眼の像が抑制されて生じる。主に片眼性。 ・不同視弱視:左右の屈折度の差(一般に2 D以上)が大きく、屈折異常の強い側の眼に生じる。片眼性で、外見上の異常がなく発見が遅れやすい。 ・屈折異常弱視:両眼の強い遠視・乱視による。両眼性。 ・形態覚遮断弱視:先天白内障、眼瞼下垂、角膜混濁、長期の眼帯装用などで視覚入力が遮られて生じる。重症化しやすい。

治療

・基本は、調節麻痺薬点眼下の屈折検査に基づく眼鏡による完全矯正と、その常用である。 ・片眼性の弱視(斜視弱視・不同視弱視)では、健眼をアイパッチで遮閉したり、健眼にアトロピンを点眼してぼかしたりして弱視眼の使用を促す(健眼遮閉・ペナリゼーション)。 ・感受性期を過ぎると改善が乏しくなるため、早期発見・早期治療が重要である。3歳児健康診断での視力検査(近年は屈折検査機器の導入も進む)が早期発見の場として重視されている。

小児の屈折検査に調節麻痺薬を用いる理由

小児は調節力が非常に強く、無意識に調節して遠視を隠してしまう(潜伏遠視)。調節麻痺薬で調節を止めて測定しないと、遠視を過小評価してしまうため、アトロピンやシクロペントラートの点眼後に屈折検査を行う。

遠視と小児

新生児・乳児は眼軸長が短く多くが遠視であり、成長とともに眼軸が伸びて正視に近づく(正視化)。本例のように6歳で+5 Dの遠視が残る場合は、乳幼児期にはより強い遠視であった可能性が高い。

POINT

・矯正しても視力が出ず、器質的疾患がなければ弱視を考える ・弱視の原因:斜視、不同視、両眼の強い屈折異常(遠視・乱視)、形態覚遮断 ・両眼の強い遠視(左右差なし)+斜視なし → 屈折異常弱視 ・小児の屈折検査は調節麻痺薬点眼下で行う ・治療は完全矯正眼鏡の常用。片眼性弱視では健眼遮閉を併用 ・感受性期内の早期発見・早期治療が重要

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。